転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
「ふぅ……」
過去一で俺の身体は人間から遠ざかった位置にいた。
深呼吸と共に、スキルを一つずつ解除していく。
「どういう意味だよ?」
そして、天城の言葉を問い直す。
「俺のどこが探索者に向いてないって?」
俺は今、回答を得た。
爺ちゃんに言われ続けていた技術の不足。
不格好かもしれないが、それを克服する兆しを得た。
今のを見て「探索者に向いてない」と言われるのは、意味がわからなかった。
「だって、そもそもあなたは自分を変えたくて
「あぁ、俺は頼りなくて怯えてばかりでなにもできない自分を変えたくて……だからダンジョンに訪れて、探索者になった」
「もうなってるじゃん」
もう、なってる……
「あなたは頼りになるよ。あなたはどんな化物相手でも怯えないじゃん。あなたができることは全探索者の中でもかなり多い。これは私の色眼鏡じゃないよ。ただの事実として、あなたはもう探索者の中でもかなり上位の腕を持っている」
一年前の俺と今の俺……まぁ、たしかにあの時の俺じゃ考えられないくらいに俺は変化していると自分でも思う。
それに、俺の固有スキルはアタリだったから、あの時よりはずっと強い。
「なのにどうして、あなたはダンジョンを『攻略』しようとするの? 今のままでも、あなたは十分立派に生きているのに。どうして自分からもっと苦しい場所に行こうとするの? 大富豪にでもなりたいの? 世界最強にでもなりたいの? 元カノが戻ってくるくらいモテモテにでもなりたいの?」
「俺は俺を強くしてくれたダンジョンと死霊たちに感謝してる。けど、あそこにいるアンデッドの中には人間の魂の複製が入ってて、無理矢理戦わされてる。ダンジョンを攻略する理由は、恩を返すためだ」
「そっ……」
天城は小さく呟きながら視線を落とす。
いつも自信に溢れた表情で上を向いていたから、その時とのギャップもあってどこか悲しそうに見えた。
天城が数歩俺に近付いて、ゆっくりと俺の目を見上げる。
「わかってると思うけど、目的がすげ変わってるけど、それでいいの?」
「あぁ、これでいい」
「意味わかんない。死人助けたって死ぬだけじゃない」
天城は小さくため息を吐く。
「はぁ、そんなことしても誰もあなたをいい人だなんて認識しない。ボランティア活動したり、ナンパとか痴漢から女の人護ってる方がよっぽど感謝されるし満たされるんじゃない? そーゆーさ、日常にある理不尽からちょっと誰かを護ってあげるだけじゃダメなの?」
「俺は助けてもらった礼をしたいだけだ。見ず知らずの人間から感謝されたいわけじゃない」
「ムカツク……」
天城が俺の胸を叩いた。
「あなたばっかり不幸な役回りをさせられてるじゃない。私はあなたには幸せになって欲しいよ」
意味がわからない。
俺の目的は『死霊の楽園の攻略』だ。
その達成こそが俺の幸せだ。
俺は俺の幸せを目指してる。
「普通に生きてよ。普通に生きられるでしょ。クラススキルがあれば外でも人より簡単に生きられるでしょ」
「……知ってたのか」
「……うん。だってあなた、極美とかお爺ちゃんの『普段』の話を無意識にしてるから。あ、外でも召喚できるんだって」
「なるほどね。今後は気を付けるよ」
「その力をバレないようにうまく使えば、
たしかに、俺にはもう当初の目的として定めたダンジョンに行く理由ってヤツは残ってない。
生活力はあるつもりだ。金にももう困ってない。例えば探索者や格闘家に絡まれたとしても、まぁ逃げるくらいは簡単だろう。
後悔はかなり前からボヤけてる。
「なぁ天城、俺ってそんなに辛そうに見えたか?」
「見えた。っていうか想像できた。あなたがやってることと同じことをもし私がやれって言われたら、私はきっと簡単に潰れる。あなたはそういうことをしてる。それは性格とか体質で堪えられる量を超えてる」
「そうか。ありがとな、心配してくれて。でもまぁ、やっぱり俺は死霊の楽園を攻略しないと納得できない。今度は人生に後悔が残らないようにしたい」
「バカ」
ポンと、天城がまだ俺の胸を叩く。
ポンポンポンと何度も叩く。
「まぁ、そう言うんだろうなって思ってたけどね」
十数発叩いた後、鼻水を啜りながら天城は顔を上げる。
「じゃあ、探索者に向いてない理由言っていい?」
「今のじゃねぇの?」
「今のもだけど、それ以前に思ってたこと」
「なんだよ?」
「誰かを助けたいとか思ってるクセに、誰かに助けられるのは嫌みたいな態度だよ。迷宮攻略とか一人でやることなわけないでしょうが! なんで私に声掛けないのよ!?」
「は? お前配信者だろうが? 忙しいだろうが! つーか完全に俺の用事なのにお前巻き込めるわけねぇだろ!」
「じゃあ、私より仲よくて頼りになる知り合いとかいるの!?」
「いねぇけど、だから元々一人で……」
「それが無茶って言ってんのよ! ソロでダンジョン攻略なんて歴史上に片手で数えられるくらいしか達成してる人いないから。しかも最初の攻略でソロ攻略とかもっといないから!」
くっ、現実的な数字を持って来られるとさすがに分が悪い。
「で、でも俺には爺ちゃんとか極美もいるし……」
「召喚獣でしょそれ」
「だからなんだよ?」
「召喚獣と探索者には明確な違いがあるでしょ。生き返らないってこと。あの二人のこと大切にしてるのは見たらわかるし、だったら本気で背中なんて預けられるわけないわよね?」
ぐぅ……
言い返せねぇ……
「ってことで私も行くからよろしく」
「めちゃくちゃ勝手じゃんお前」
「そうだけど? 知らなかったの?」
「いや、知ってた……」
へん、と天城はしたり顔で俺を見てくる。
この野郎……
けど、言ってることは要するに『心配だから手伝ってくれる』っていう百パー善意の内容だ。
実際、俺を殺すのに天城の能力は有用なんてモノじゃない。
雑魚は一撃。強いヤツも銃弾を避けるのはそう簡単じゃないはずだ。
アルソーヴァは死霊の楽園にいる『俺たち』に対して特攻とも呼べる力だ。
「お兄様と天城さんは仲良しなのですね」
「まぁ、ほどほどにしておくがよい。見せられる方も少々照れくさい」
話が終わったのを見計らって近寄って来た爺ちゃんと極美の言葉を受けて、俺と天城は自分たちの距離の近さに気が付いた。
俺の胸倉を掴んだ天城の顔は、俺の顔に触れそうなほど近くにある。
「ばっっ、別にこれは、ちょっとムカついたからシメとこうと思っただけよ」
「昭和のヤンキーかなんかなのお前」
頬を赤らめた天城は勢いよく距離を取る。
「お前って言うな」
「ごめんごめん。じゃあお詫びに、人気配信者の代鳴ちゃんにダンジョン攻略者って箔を付けてやるか」
「な、名前……で、呼ぶな……」
「え、そっちは俺のこと名前で呼んでんじゃん」
「……うっさい」
にしても、見ようと思えば色々と見えてくるモンだな。
俺の弱点……誰かを頼れない、か。
まぁ、天城のお陰でそれも解消できた。
昨日今日だけで俺の弱点を沢山知れたし、少しは解消もできた。
天城との連携力の向上は必須としても、死霊の楽園に戻るのはそう遠くはなさそうだ。