転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
死霊の楽園で探索して、万が一俺や天城が死ぬと最奥の敵の数が増える可能性があるから俺と天城は翌日以降も相変わらず『亜人の頭開樹海』を探索していた。
内容はかなり順調だ。
この『亜人の頭開樹海』に来て二週間、俺たちは二十階層まで到達した。
そこには『オークの城』が次の階層への通路を塞ぐように建てられていたが、攻略のやり方は十階層のゴブリンの時と変わらない。
正面から入って、俺が全員の目を引き付ける。
その間に三人が確実に間引いて行く。
【
オークはランク2のモンスターで、その動きはたしかにゴブリンより速くて重い。
けど、俺にはまったく及んでいない。
やはり脅威は数だけ。
しかしそれも天城や極美の殲滅力の前には、それほど長い時間を稼ぐには至らない。
剣にも慣れてきた。
オーク相手なら受けるダメージ量すらコントロールしながら戦える。
戦闘時間は小一時間ほど。
「二人とも助かった。
今は天城との連携力を高めたいから、難易度の高い戦闘以外は爺ちゃんと極美は基本出さずに戦闘している。
「本当は忍び込んで通り過ぎるってのが正攻法の階層なんだけどね」
「それじゃあ練習にならないだろ」
「そうだね。死霊の楽園であなたの模造品数百体と戦うことを考えると、こんなのよりよっぽどめんどくさいのは明らかだし」
天城には死霊の楽園での俺の状況は説明してある。
「めんどくさい男で悪かったな」
「なに拗ねてるの? 頭でも撫でてあげようか?」
「女子高生に撫でられる状況に事案の気配しか感じないから却下」
「四つか五つくらいしか変わらないでしょ。まぁいいけど」
城から出てきたオークを全滅させ、誰もいなくなった中庭を進む。
「ねぇ知ってる? 最初のダンジョン攻略者アダム・エースはこう言ったわ。『ダンジョンは人間が攻略できるように造られていない』。それにダンジョン攻略数最多で知られるマロン・リーは『ダンジョンの攻略に必要なのは実力や努力ではなく、類まれなる幸運である』と言ったそうよ」
「へぇ」
「あなたの状況を考えると、彼らがどういう意味でそう言ったのか少しはわかるよね」
死霊の楽園には極めて単純な攻略方法がある。
一度も死なずに最奥まで辿り着く。
もしくは複製された人数を大きく超える仲間と共に挑む、だ。
ただ、後者は確実性にやや欠ける。
ダンジョンのボスエリアには『人数制限』がある場合が多いらしい。
俺は一人で活動していたから引っかかったことはないが、もし死霊の楽園の最奥がそういうエリアなら後者の選択肢は不可能ってことになる。
それに、おそらくは複数人で挑む場合、挑んだ全員の複製が出てくると思われる。
天城も死霊の楽園で二度死んでるから、次に挑む時はその対策もしておく必要がある。
だったら前者の『一度も死なずに最奥まで到達する』が正攻法になるわけだが、あのダンジョンを一度も死なずにクリアするというのは相当に難易度の高い話だ。
初見殺しみたいな技も幾つかあったし、事前情報は必要不可欠。
つまり正攻法での攻略には『捨て石となる誰か』と『ランク4のモンスター相手に通用する強さ』、あとは『高度な精神防壁』なんかも必要になる。
それを揃えた状態で挑むことが最低条件ってなると……まぁ、たしかに『運』って言われても納得できるな。
実際にあのガキも俺に「このダンジョンを攻略する権利はない」とか言ってたし。
「つーか、また俺に探索者辞めろみたいなことを言いたいのか?」
「違うよ。ていうか私がいるんだから攻略できるに決まってるし」
「そうだな。頼りにしてる」
「え、そう……なんだ……」
「それに、俺にもできる正攻法はあるしな」
「なに?」
「最後に死んだ時より三百倍強くなる、だ」
「ふっ、たしかにそうかもね」
実際レベルは上がってる。
【
今は三次職の【陰陽師】のレベルを上げている。
魔法系っぽいクラスを選んだのは殲滅力が欲しかったからだ。
「ていうか、お前ずっと配信休んでるけどいいの?」
「いいよ別に、そもそも学校とか受験とかあって元々そこまで気合入れてやってるわけでもないし」
「は、受験生なのお前? こんなことしてる場合か?」
「ご心配なく、もう探索者の専門学校に特待生で行くの決まってるから」
「特待生?」
「そりゃそうよね。配信見れば一発で実力分かるわけだし、委員会辞めてすぐに打診が三十個くらい来たわ」
元ダンジョン管理委員会所属、有名ダンジョン配信者、探索者専門学校の特待生か……
こいつの実績って何気にかなりヤバいよな。
「ドヤ顔はムカつくけど、さすがに認めるしかないな。おめでとう」
「……ありがとう。まぁあなたと出会ったのも打診が来た理由にちょっと関係あるかもしれないし、それもありがと」
「え、俺なんかしたか?」
「あ~た~せい~私が~れ~け変~っ~か……」
「え?」
「なんでもない。それより、もうそろそろ私も高校生じゃなくなるわけなんだけど、なにか感想は?」
「あぁ、おめでとう?」
「他にはなんかないの?」
他に……?
なんかあるか……?
「成人年齢は十八だけど、酒飲めるのは二十歳からだからな?」
「それくらい知ってる!」
「痛って……」
バシっと天城が俺の背中を叩いて、スタスタと歩いていく。
なんなんだよあいつ……
あいつが高校卒業するってことは、俺も大学を卒業してそろそろ一年が経つわけか……
けど、振り返るにはまだ早い。色々あるのはこっからだ。
「待てって、俺が前衛なんだから」
「あなたが遅いのが悪いんでしょ」
「なんで怒ってんだよ」
「じゃあ、焼肉奢ってよ。そしたら許す」
焼肉か……
そういや最近はあんまり高い飯は食わないようにしてたな。
金なかったし……
でも今は、それなりに貯金もある。
「わかった。奢ってやるよ」
「え、いいの!? やったー!」
現金なヤツ……
まぁ機嫌が直ったならいいか。
話している間に俺たちは第二十一階層へ到達した。
【
「きゃぁあ!」
と、森の中から緊迫感のある悲鳴が響く。
「他の探索者か? 大丈夫かな?」
けど、なんかどっかで聞いたことあるような声な気もする。
「この声は……はぁ……無視よ無視。あれに関わるとロクなことないんだか――ってもう行ってる!?」
どうせ森には入るんだ。
ついでに死にかけてるヤツ助けるなんて、そこまで手間でもない。
緊急性が高そうだから、天城を置いて俺だけ走った。
木々を抜け、少し開けた場所で女性が一人、『オーガ』と呼ばれる鬼のようなモンスターを前に腰を抜かしていた。
「大丈夫……っすか?」
そう声をかけながら、倒れた女性に視線を向ければそこには――
「え……
配信サイトのフォロワー数二百万人越えの大人気配信者が、涙目で怯えていた。
けど……なんか、なにとは言えないけど変だ。
姿勢? 倒れ方? なんかわからんけど、不自然に感じる。
そもそも普段から探索してる人間が、逃げることもせず腰なんか抜かすか?
傷を負ってる様子もないし……どういう状況だ?
「あぁ、なるほど! 画角を気にしながら倒れてるのか」
「はいっ?」
あ、ヤベっ!
つい口に出しちまった。