転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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4「死霊の長」

 

 

 ――【盗賊(シーフ)】が選択されました。

 ――クラススキル【俊足(ステップ)】を獲得しました。

 

 ――【盗賊(シーフ)】が選択されました。

 ――クラススキル【俊足(ステップ)】を獲得しました。

 

 連続で同様の『セカイの声』が二度響く。

 俺と極美の両方が同じクラスに就いたからだ。

 

 今回【盗賊(シーフ)】を選んだのはそのスキル【俊足(ステップ)】が距離を詰めるのに適していたからだ。このスキルは一瞬だけ移動速度を上げてくれる。蹴りにも応用できるらしいが要練習だ。

 

 極美も同じクラスにしたのは【氷槍(アイスランス)】の角度を通すために極美も移動することが多く、【俊足(ステップ)】があれば俺を攻撃しない射角に到達するのが早くなって攻撃速度が上がると思った。

 

 極美は【魔士(マギ)】のレベル10で【魔力回復速度向上】というマナ効率を上げるスキルを覚えたから、【俊足(ステップ)】分のマナ消費もなんとかなるだろう。

 

 いつも通り『死霊の楽園』の第二階層に転移し上位種に挑んでいると、【俊足(ステップ)】の強さを実感できた。

 

 距離を詰められるというのはかなり有用な戦闘術だ。そもそもスケルトンソルジャーやスケルトンランサーがきつかったのは間合いが相手の方が広いからだった。

 速度に分があれば、その間合いの不利にも少しは対応できるようになるだろう。

 それにスケルトンウィザードみたいに逃げるヤツにも対応できる。

 

 【闘気(バトルオーラ)】にもかなり慣れてきて、強化状態でも平時と同じように動けるようになってきた。

 マナも増えたお陰で、すべての戦闘にスキルを使ってもそこまでへばらなくなってきた。

 あと、バイトとダンジョン探索で筋肉や体力が付いて来たような気がする。

 

「一匹なら問題なく仕留められるな。けど二匹以上になるとやっぱちょっとキツイか……」

「カカカ」

 

 俺の言葉に同意するように極美も頷いている。

 そんな会話をしながら倒したソルジャーの魔石を回収しようと、消失を終えた場所に近付くと、そこには白い剣が落ちていた。

 

「なんだこれ?」

 

 その問いに答えるように『セカイの声』が頭に響く。

 

 

 ――アイテム『白骨の剣』。

 

 

 簡易的な口調で俺が拾った剣の名前だけが告げられる。

 ダンジョンで得られた道具の詳細な情報は【鑑定士(アナライザー)】のクラスを持つヤツにしか視られないらしい。

 セカイの声で教えてもらえるのは名称だけだ。

 

 それにしても剣か。材質が骨だからそんなに耐久力はなさそうだし、スケルトンソルジャーが使ってたヤツと同じものなら特別な効果も別になさそうだ。

 けど、ないよりはマシか。

 

 そういや転職可能一覧に【剣士(ソードマン)】も増えてたな。

 俺は剣なんて習ったこともないけど、爺ちゃんは剣道をやってた。もしかしたら俺にも才能があるかもしれない。

 

 

 なんて思っていたが剣ってのは結構扱うのが難しい。

 正直俺の使い方じゃ棒でぶん殴ってるのと大差はない。ただ間合いは伸びたから、敵を倒すのはちょっとは楽だ。

 なんて思って振り回していると、三回目の戦闘でブチ折れた。

 

 よし、剣は諦めよう。

 それか、もっとまともな剣を手に入れてからにしよう。

 

「けどなぁ、ロスト怖すぎて装備とか買えないんだよな……世の中世知辛いよな。なぁ極美、お前金とか稼げないよな?」

 

 そう言いながら俺はぐてーっと極美にもたれかかる。

 我ながらカツアゲ中のヤンキーのようだ。

 

 だが極美の反応はカツアゲされてるオタクやサラリーマンとは全然違って、まるで「まかせろ」とでも言いたげに胸を叩いている。

 

「え、お前なんか当てあんの?」

 

 極美はそのまま俺のズボンのポケットに手を入れ、スマホを抜き取る。

 俺の指を持ってスマホのロックを解除して、そのまま俺の指を使って検索画面を開いて打ち込んでいく。

 

 内職募集、と。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 翌日の朝、俺はアパートの自室で「【召喚(サモン)】」と呟く。

 するとその場に極美が姿を現す。

 

 【召喚(サモン)】はマナがほとんど必要ない。使用した際に消費するだけで、持続的に減り続けるわけでもない。

 かなりコスパのいいスキルだ。

 

「カカ」

 

 極美は昨日俺が車で運んできた段ボールの山を開封していく。

 中身は色んな商品とシールの束。

 シールを対応する商品に貼っていく仕事らしい。因みに二つで一円。

 

 スケルトンは食事も睡眠も排泄も必要ない。

 極美は黙々と作業を進めていく。

 

「じゃあ俺もバイト行ってくるから」

「カカ!」

 

 くっ、なんて良い奴なんだ極美……

 変な名前付けてごめんな。

 

 そう思いながら俺は家を出た。

 昼に戻ってくると極美はかなりのペースで仕事を終えていた。

 出来上がった分を先方に運び、今日の分の仕事は俺も極美も終わりだ。

 

 一度カード化した後、一緒に『死霊の楽園』に向かう。

 

 

 そんな生活を始めて三日、戦力がかなり増えたことで俺と極美の【盗賊(シーフ)】のレベルが10になった。

 

 レベル10で覚えたスキルは【ドロップ率増加】。これは【魔獣落札(モンスターカード)】や【魔力回復速度向上】と同じで常に発動しているタイプのスキルだ。

 落ちる魔石の数が増えたり、骨の剣みたいなレアドロップが出る確率が上がったりするらしい。

 

 モンスターカードのドロップに影響するかは、召喚士と盗賊の両方になったヤツがいないからネットに情報がなかった。

 まぁ、浅く期待しておこう。

 

 転職可能一覧には俺も極美も二次職の【斥候(スカウト)】が増えていただけで、他は変わっていなかった。

 

 俺はこれで一次職を四つ修めたことになる。

 今までは経験値効率を理由に一次職ばかり上げていたが、スケルトンの上位種なら経験値は通常種よりずっと多い。

 それに、今転職可能な一次職のどれになったとしても、スケルトンの上位種相手との戦いが楽になるようなイメージは湧かない。

 

「そろそろ二次職になるか。極美は【氷魔導士(アイスマギ)】と【斥候(スカウト)】どっちがいい?」

 

 そう聞くと、極美は自分の右手に小さな氷を浮かべて頷く。

 

「【氷魔導士(アイスマギ)】ね。おっけ。じゃあ俺は【死霊術士(ネクロマンサー)】にでもするかな」

 

 別に適当に決めてるわけじゃない。

 ただ、二次職以降は圧倒的に情報が少ないのだ。

 

 一次職は誰でもなれる。

 けど戦いに向いてない性格や体格だとか、稼げないとか、いろいろな理由で一次職をレベル10に上げる前に引退するヤツがほとんどだ。

 

 だから二次職以降は一次職に比べて数が圧倒的に少ないし、希少だから能力を隠すヤツも増えていく。

 

 俺が【死霊術士(ネクロマンサー)】はネットに情報がまったくなかったから直観で選んだ。ここが『死霊の楽園』というアンデッドが沢山出てくるダンジョンだからなにか利点があるかもしれないとも思っている。

 

 

 ――【死霊術士(ネクロマンサー)】が選択されました。

 ――クラススキル【召喚(サモン)】がレベルアップしました。

 ――召喚可能モンスターの最大数が二体になります。

 ――クラススキル【死霊能力向上(アンデッドブースト)】を獲得しました。

 ――死霊(アンデッド)タイプの召喚物の身体能力およびスキル威力が向上します。

 

 

 ――【氷魔導士(アイスマギ)】が選択されました。

 ――クラススキル【地昇氷結(アイスロック)】を獲得しました。

 

 

 召喚できる数が増えた。

 しかもアンデッドの能力向上。今の俺にはかなり相性のいいクラスだ。

 

 極美の覚えた【地昇氷結(アイスロック)】は地面を対象に発動するスキルで、発動地点の上にある物を氷漬けにする。

 【氷槍(アイスランス)】と違って質量的な攻撃力はないが、相手を氷漬けにして動きを止められるし、回避猶予は【氷槍(アイスランス)】より短い。

 それに、もし避けられても足先くらいは凍らせられて、相手のスピードを削ぐことができる

 

 極美の【地昇氷結(アイスロック)】は想像以上の強力なスキルで、この階層の敵にはほぼ必中するし、完全に氷結すればその時点で戦闘不能だし、避けられたとしても両足が氷結状態のスケルトンたちはすぐに転ぶ。

 そこに【俊足(ステップ)】で詰めて、【闘気(バトルオーラ)】を込めて殴り殺すだけ。

 

 第二階層に入って二週間ほどが経ち、一日に倒せる上位種の数は二十体くらいまで増えていた。

 全ての魔石を持ち帰れれば二万円の収益だが、死にまくってロストしまくってるから収益は平均七千円くらいだ。

 

 この二週間で、二次職である【死霊術士(ネクロマンサー)】のレベルが9まで上がった。

 ネット知識だが、二次職をこのペースでレベルアップさせられるのはかなり早いらしい。

 

 そもそも探索者のランクというのは『一次職はビギナー』『二次職はプロの中では底辺』『三次職は中堅で食うにはあまり困らない』『四次職は一流』『五次職は神』『六次職はあるのかも謎』という感じらしい。

 四次職以降はランクアップするのにレベル以外の上限があるらしく、それ以上の探索者は日本には数百人しかいないらしい。

 

 あとは『ユニーククラス』というレベル上限の存在しないレア職も存在するとか。

 

「まだまだ先は長いな。って、俺って結構探索者のやる気あるな……」

 

 始めた時はただのストレス発散だった。ビビらない度胸が欲しかった。

 時間が経つにつれてダンジョン探索が楽しくなってきた。

 もう百回以上死んでるけど、その熱は冷めやらない。

 

 今は、本業にしてもいいんじゃないかって、ちょっと思ってる。

 

「こんなモンまで出ちまったしな……」

 

 そして、俺の手には今、一枚のカードが握られている。極美の、スケルトンウィザードのカードじゃない。それは『スケルトンソルジャー』のモンスターカード。

 

「上位種のモンスターカードか……」

 

 ソルジャーってことは剣を持ってるヤツだよな。

 こいつに弟子入りしたら剣術できるようになったりしないかな。

 

「どうすっかな。こいつを出して一緒に戦わせてもいいけど、それじゃあ俺の戦える数が減る」

 

 まぁ、帰ってから考えるか。

 

「【回魔(ヒール)】」

 

 多分【死霊術士(ネクロマンサー)】のレベルが上がったことでマナの量が一気に増えている。

 一次職のスキルなら百回以上使える感覚がある。

 

 いつもは【回魔(ヒール)】は節約して使ってたけど、今日は頻繁に使っている。

 そのお陰ですでに今日の討伐数は二十五体を超えていた。

 

 今までで一番奥まで来ている感覚がある。

 

「お、二つ目の【女神像(セーブポイント)】か……」

 

 それを証明するようにその場には石像があった。

 俺はそれに触れることで、新しい転移先『死霊の楽園:第三階層』を手に入れた。

 

 その【女神像(セーブポイント)】の先に進むこと数分。不思議なことに、スケルトンとは一体も遭遇しなかった。

 

 このダンジョンは人気がないということもあって、ネットにもほとんど情報がない。

 第三階層にもなると写真の一枚もなかった。

 

 完全な初見。だけど……

 

「こんな風になってるとは思ってなかったな……」

 

 目の前に広がるのは向こう岸まで数十メートルありそうな、巨大な渓谷だ。

 行く先を阻むように断崖絶壁が左右の彼方まで広がっている。

 

 その渓谷を繋ぐように一つ、巨大な『橋』が見える。

 鳥居に似た巨大な門をもつその橋の中央に、モンスターが鎮座していた。

 

「弁慶かなんかかよ……」

 

 二メートル以上ありそうな大柄な体躯のスケルトンは戦国武将のような赤い甲冑を纏い、その周囲には刀や薙刀や棍など様々な武器が散らばっている。

 

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