転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
冬も終わり季節は春に差し掛かる三月上旬。俺が『亜人の頭開樹海』に入り始めて一カ月、ダンジョンに入り始めて一年が経った。
俺と天城は今『亜人の頭開樹海』の四十階層にある城の中で向き合っている。ここにいた十五体のトロルとその上位種らしきボスはすでにすべて片付けた。
城はすでにもぬけの空で、いるのは俺と天城の二人だけ。四十階層ともなると探索者の姿もほとんどなく完全に二人きりの空間だ。
「天凛銃アルソーヴァ」
天城の手には固有スキルによって召喚された銃が握られ、その銃口が俺に向く。
「いくわよ?」
「来い」
火薬によって弾丸が射出されているわけではないのだから、その銃に発砲音はない。
通常の拳銃に比べれば弾速は多少低下するらしいが、見た目じゃほとんどわからない差だ。撃たれた弾丸を見てから避けるなんて不可能。
視るべきは天城の動き……いや、呼吸そのものだ。
リズムを完璧に把握し、発射角を完全に予測し――
「【
弾く。
アルソーヴァの銃弾は相手に吸着しその魔力を利用して爆発する。
しかし、俺の【
「まだまだいくわよ!」
「来い!」
左右の手より構えられた二丁拳銃が連射を開始する。
俺は強化系のスキルを発動させて迎撃する。
必要なタイミングで必要最低限の時間だけ、必要な部位を選んで起動する。
身体操作の
「【
弾く。際限なく打ち放たれる白い輝きは、俺の手の甲に集まった魔力によって軌道を逸らされ周囲を囲む壁に激突し、壁と天井を破壊していく。
叩き落され、弾き飛ばされ、あるいは掻き消えていく光の弾丸は数分で百を優に超える。
だがその射角もタイミングも、全部見えてる。
身体はイメージ通りには動く。制御できてる。
このまま全部弾き返してや――
「っ!?」
数百発目の受け流し、突然【
弾き切れなかったアルソーヴァの弾が俺の腕に吸収され、「キュイィィンン!」と音を立てて肥大化……「バコン!」と音を出して破裂する。
「ちょっ、大丈夫!?」
アルソーヴァの連撃を止めた天城が近寄って来て、白い煙を出す俺の手を覗き込む。
「心配すんな、手首から先が吹っ飛んでなくなっただけだ」
「心配しなくていい理由が一つもなかったんだけど」
「【
「治るかじゃなくて、痛くないのかって心配なんだけど……」
「痛かったらなんかしてくれるのか?」
「んー、ふーふーしてあげようか?」
「うわーーうれしーー」
「棒読みやめろ」
死霊の楽園の第六階層に天城を連れて行く場合、十中八九天城のコピーも出てくるだろう。
敵が固有スキルを使えるかはわからないが、雑に特攻もできない以上アルソーヴァへの対策はしておいて損はない。
それにこの練習は俺の修行としてもかなり役立っている。
秒速五百メートル以上の速度で飛来する無数の弾丸に対して手の甲を宛がい、タイミングよく【
それには『動体視力』『事象の先読み』『スキルの精密操作』なんかの技量を複合的に求められる。
俺が覚醒した動きは戦術を一気に拡張するものだったが、弱点と呼ぶべきものはいくつかある。
その最たる例が『集中力の消耗』だ。
頭をフル回転させ続けてるんだから当然だが、今みたいに連続使用時間が長くなるにつれて精度が落ちていく。
「で、まだ続けるの? 正直連続射撃を三分も弾き続けられるなら防御力としては十分だと思うけど?」
「そうだな」
この『亜人の頭開樹海』での探索で大量の経験値を得た。
数多のスキルを使いこなす術を知った。
天城という仲間も加わった。
けど、俺の固有スキルがあればレベルアップなんて無限にできる。
あの感覚だってまだまだ修めたと言うにはほど遠い。
天城との連携だってもっと上手くなる余地はあるだろう。
けど、そんなこと言ってたら一生挑まない気がする。
準備ってのは万端になることはない。
「そろそろ行くか」
「そうね。じゃあ最後に防御だけじゃなくて攻撃の練習もしよっか」
天城はそう言って静かに微笑む。
なんとなくわかる。こいつのこの顔は俺を想ってくれている時の表情なんだと。
「一応聞くけど、どういう意味だよ?」
「私を殺す方法を考える。それも死霊の楽園の攻略には必要なことでしょ?」
「俺にもう一度お前を殺せって?」
「うん。でも、これは私にとっても必要なことだよ。あなたの……彩人の殺し方を私に教えて?」
ヤルにしても、さすがにこの腕じゃ不足が過ぎるか。
「【
「お呼びでしょうか、お兄様」
「俺の腕を治してくれ」
「かしこまりました」
極美はそう言って淡々と【
「極美、今から天城と手合わせするんだけど極美も見ていくか? もしかしたら死霊の楽園で俺と戦う時のヒントになるかもしれないし」
「はい、拝見させていただきたいです」
「おっけ」
そう言って極美は俺たちから少し距離を取る。
なんか、いつにも増して無口だ。それに視線はずっと俺より天城に多く向けられている。
「じゃあ始めるか」
「いつでもいいよ」
アルソーヴァを構えた天城と俺の距離は二十メートルほど。
俺の全速力ならインファイトの距離に入るのに二秒とかからない。
「いいのかよ? こんなに近くて」
「いいよ、私が勝つから」
今にして思い返せば、過去の俺は随分人畜無害な人間だったと思う。
他人との争いは基本的に避けて生きてきた。歳をとるほどその性質は顕著になっていった。
けど、ダンジョンに来て学んだ。
害意と敵意を持って相手と接する方法。
その選択肢を持っている人間と持っていない人間の間には明確な強さの差が存在する。
「あなたに謝りたいことがあるの」
「なんだ?」
「私を殺させてしまったこと。私はあの時自分が楽になりたいばかりにあなたの中に残るものなんてなにも考えられなかった」
「気にすんな」
「するよ。だって、もし死霊の楽園に出てきた私があなたに本気で命乞いしたとしたら、あなたは私をちゃんと殺せるの?」
下ろしていた銃口が持ち上げられて、俺の眉間を定める。
迷いなく、天城はその引き金を引いた。
首を横に逸らしたことで、銃弾は俺の頬数センチのところを抜けていった。
「ごめんなさい。お願いします。許してください。助けてください。殺さないでください。痛いからやめてください。怖いよ。辛いよ。嫌だよ。また殺すの? 私がそう言って涙を流したとしたら、あなたはそれでもちゃんと殺せる?」
「……」
「ごめんね、責任は取るよ。私のことが嫌いになるくらい、ボコボコにしてあげる」
律儀なヤツだ。そんで、難儀なヤツだ。
仮にこの勝負で俺が負けたら、負かしたお前を恨むとでも?
仮にこの勝負で俺が勝ったら、お前を殺すことに慣れるとでも?
どっちにしても、俺はお前を殺せる精神性を獲得できる。
それがお前の責任か。
ウゼェんだよ……
「ガキが調子にノってんじゃねぇ、お前が俺に勝てるわけねぇだろ」