転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
極美嬢が第六階層の
これで残る敵の数は約二百体。
はぁ……こんな数の孫を造った憶えはないのじゃがな……
「先陣は儂が切る。よいな?」
「あぁ、その予定だったしな」
そう言った彩人の視線は、極美嬢が造り出した氷の城の方へ向く。
「心配か? お主も納得したことであろう」
「極美の能力なら多分勝てると思う」
うちの召喚獣はどいつも主人なんか相手にならねぇくらい強いから困っちまう、といつか彩人は自虐的に言っていたことを思い出した。
「けど、だからってまったく心配しないわけにはいかねぇらしい」
「それは極美嬢が手間暇を掛けて育てた召喚獣であるからか?」
「違ぇよ。もう言い訳はしない。俺にとって極美は大切な家族だからだ」
「然様か。ならば目の前の敵をさっさと片付けて極美嬢をあの氷の中から呼び戻せばよかろう」
「そうだな……そうするよ。爺ちゃん、手伝ってくれ」
「承知した。行ってくる」
刀を足に添うように降ろし、儂は敵の群れに突撃する。
四次職たる【剣聖】のクラスを得たことによって習得したスキルは三つ。
どれも複雑な能力は持たぬ、単純明快なスキルだ。
『ッチ、いきなり俺のトコかよ……【
ヤツは予想通りに拳を振り上げ、迎撃の構えを取ってくれた。儂を囲むように他の複製体どもも強化系のスキルを起動する。
儂は目の前の
「【
下から上へ縦に斬撃を放つと共に発動したこのスキルは、『縦方向の斬撃』にのみ発動できる。
発動時間はゼロコンマ一秒。その間だけ、刀身に宿る魔力量を激増させ、魔力の性質も『斬撃』に変質させる。
右腰から入った儂の刀は、左肩から抜けていく。
肉も骨もすべてを断ち斬る両断のスキルにして、刹那的な斬撃速度を求められる技量ありきのスキル。
儂にとっては、この上なく有用なスキルだ。
「【
二体目の
効果は同じ。ゼロコンマ一秒間の刀身に宿る魔力増大。
このスキルは『横向きの斬撃』にのみ使用できる。
「【
三体目の
同じく、このスキルは『斜めの斬撃』に対して発動できる。
これが、この一カ月で儂が会得したスキルのすべてだ。
『なんじゃそりゃ……どんな名刀だよ……!?』
驚くような声を上げた
頭蓋すらもいとも容易く割断する圧倒的な切れ味。
疑いようもない。確信できる。
間違いなく、今が儂の全盛期――
『なんだその面、俺を殺した後は毎回そんな顔してたのかよ?』
「ほう? 儂はどんな顔をしておるのだ?」
『心底嬉しそうだぜ。ガキみてぇだよ、クソジジイ……』
「悪態を吐く必要はない。そんなことをせずとも、お主らを斬り飛ばすことに対して、儂に躊躇は一欠けらもないのだから」
『気を遣ってんじゃねぇよ。ただ俺を殺すあんたに文句を言ってんのさ』
「最後であるのなら、引導は儂がくれてやる。それが祖父としての儂の役目であると考えておる」
儂の言葉を呑み込んで、奴らもまた笑みを浮かべる。
子供が虫を千切って浮かべるような、無垢で残忍な笑み……
まったく……誰に似たのやら……
『祖父としてね……ハハッ』
「ヒヒヒ」
釣られるように儂の口からも自然と声が漏れ出た。
『アハハハハ』
「ヒヒヒヒヒヒ」
『アッハハハハハハハハハハハハハハ!!』
「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」
あぁ、楽しいのう。
八つの時、初めて剣を握った時も……
十五の時、剣道の全国大会で準優勝した時も……
それからすぐに剣道を辞め剣術を始めた時も……
二十歳で道場破りを始めた時も……
輩に絡まれていた妻と出会った時も……
その輩の後ろにいたヤクザに銃を抜かれた時も……
結婚した時も、子供ができた時も、一度剣を置いた時も、ダンジョンの発生に伴って道場破りの時の知名度のせいで探索者として政府からスカウトされた時も、魔物との戦いを始めた時も……
悉くの記憶が走馬灯のように蘇り、そして無意味に消えていく。
きっと儂の脳は無意識に比較しているのだろう。
今この瞬間は、儂の生涯に訪れた愉悦のすべてを超えるほどの感情を呼び起こしている。
「あぁ、殺してやるから早よう儂の
『あの世にってか? それとも戦闘技術の話か?』
「両方だ」
『この悪霊が……!』
苦い笑みを浮かべながら、それでも貴様は臆さないことを儂は知っている。
さぁ、拳を振り上げろ、剣を抜け、魔法を放て……
『【
『【
『【
「【
儂は、その一切を斬り伏せて参ろう。
◆
マジで相手にしたくない類の
俺自身があっち側だったらって考えるだけで苦笑いが零れてくる。
「もうあの人だけで全員倒せるんじゃないの?」
「いや、それは無理だな。俺と爺ちゃんじゃ身体能力に差がありすぎる。それに……」
【
これが俺が爺ちゃんと戦う場合の
それに加えて【
「今爺ちゃんが無双してるように見えてるのは、一撃必殺を意識してやってるからってのと、雑魚を狙ってるからだ」
爺ちゃんほどの技量があれば、それに相手が俺ってことも相まって、見るだけで相手の強さを把握できるだろう。
その鑑識眼を使って一瞬で殺せる弱いヤツを狙ってるだけ。
「一撃で
「本当にめんどうくさい男」
「……悪かったな。あともう一つ、爺ちゃんじゃ勝ち切れない根拠がある」
「なに?」
「【
このスキルが爺ちゃんとの真剣勝負の修行で一番効果が高かった。
「どんなスキルなの?」
「対象から受けたダメージによって発生した『痛み』を強制的に対象にも与えるスキルだ。実際にダメージがあるわけじゃないし、モンスター相手にはほとんど使ったことのないスキルだが……このスキルは爺ちゃんの固有スキルに対するカウンターだった」
人間の身体というものは思ったよりもしぶといもので、たとえ首が上下に分かれたとしても数秒は意識を保っていることができる。
それはつまりその間であればスキルは発動できるということ。
そして、その首を刎ねた痛みの感覚……実際には『錯覚』だが……これに対して、爺ちゃんの固有スキル【危機察知】が自動的に反応する。
爺ちゃんの圧倒的な回避能力はその固有スキルがあってこそのものだ。
そこに誤情報が混ざり封じられるということは、回避力の低下のみならず爺ちゃんの感覚そのものを狂わせる要因となる。
「それでも一対一なら爺ちゃんの方が圧倒的に強い。けど今は、無数の敵に囲まれて一手の遅れが致命傷になる場面。一瞬の感覚の狂いが致命傷を呼び込む可能性がある」
「……そういうことね」
天城が白い拳銃を構え、爺ちゃんを後ろから襲おうとしていた
弾丸はそいつの背中に吸着し、一撃で消滅させた。
「じゃあガンガン減らしていくわよ」
「オーケーだ」
俺と天城はこの一カ月で『連携』を磨いた。
けれど、それでもたかが一カ月だ。
完璧に息を合わせるなんて不可能だなんてやる前からわかっていた。
だから俺たちがこの一カ月で身につけた連携とは――『相手の邪魔をしないこと』。
「俺に当てんなよ?」
「私の射線に被んないでね?」