転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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45「じゃあな」「うん。ばいばい」

 

 

 あいつは、私に背を向けて駆けていく。

 

 あの時と、首無し騎兵(デュラハーン)と戦った時と同じように。

 

 

 まったく、どれだけ私を甘やかせば気が済むの?

 そうやって自分だけが前を走って私は安全な後ろで見ているだけでいいって?

 それで全部を解決してくれる。私の代わりに頑張ってくれる。

 

 そんなに要領のいい人間でもないでしょあなた。

 目算なんて誤って当然だし、失敗だってたくさんするでしょ。

 そういう普通の人間でしょ。

 

 そんなんだから都合よく使われるのよ。

 そんなんだから勝手に期待されて、それに応えようとして失敗して、それでなにもしてないヤツから勝手に失望されたんじゃないの。

 

 あなたを振った彼女の気持ち、私もちょっとわかってきたよ。

 甘えたくなる。全部やって欲しいって思っちゃう。

 それで、失敗の責任もあなたに全部押し付けられたら、どれだけ気持ちのいい人生を送れるだろう。

 

 なんてね。私はなんにも知らないけど。

 

 でも、私はあなたに全部を預けたりしないよ。

 

 最初は他人に望まれて特別な自分で在ろうとしていた。

 けど今は、自分が自分を認めるために特別になりたい。

 

 私が認められる私になるために、私はあなたがいなくても成立する強さを証明したい。

 

『驚いたぜ。お前が俺と一緒に来るなんてな』

 

 そう言いながら加速のスキルを使いながら突っ込んでくる偽物の眉間を、アルソーヴァで撃ち抜いた。

 

「そう? まぁそうよね。途中までの記憶しかないんだから」

 

 アルソーヴァの消失現象に身を包まれながら、偽物は笑みを浮かべていた。

 

「なんで笑ってるの?」

『笑ってる? そうなのか……なんでだろうな、やっと終われるからかもな』

 

 そっか。

 

「だったらよかった。ばいばい」

 

 優しそうな笑みのまま偽物は消えていく。

 

 斑鳩彩人という人間は他者に対して期待をしない。

 

 最近は少し緩和気味ではあるけれど、それでもやっぱり根っこの部分にあるそれは金輪際変わらないのだろう。

 

 それに、傷つきながらも頑張っているあいつにそれを止めろなんて言ったところで意味はない。それは探索者に向いてないという話をした時にわかった。

 

 でも、この人たちくらいは……偽物のあなたくらいは私が救ってあげたいと思う。

 

 上から目線だよね。わかってる。でも許して。私ってそういう人間だからさ。

 

「私を受け入れてくれる?」

『そりゃお前次第だな』

「はは、そうだね。あなたに似合う女になる努力なんてする気はまったくないけれど、あなたの信念を撃ち砕くのが私で良かったと、そう思わせられる自信はあるよ」

 

 終わりの決まったあなたたちは、今を生きている本物の彩人とはやっぱり違う。

 

 生きているからこそ人は変われる。変われるという可能性がある限り、あなたは絶対に諦めない。でもその可能性が完全に潰えた偽物(あなた)なら、きっとそれを受け入れてくれるだろう。

 

『オレの信念か……そんなモン、要らなかったんだけどな……』

「……やっぱりそうなんだね」

 

 あなたはきっと……ずっと自分以外に期待するべきではないと思いながらも、誰かに助けて欲しいと思っている。

 

 人間らしいその矛盾があなたを苦しめている。

 

 その苦しみから解放するためなら、私は引き金を引くことを躊躇しない。

 

『まぁ、こんな話してたって意味はねぇし、なにも解決しやしねぇ。どうせ戦(や)るしかねぇんだから』

「そうだね。じゃあ、おいで?」

『ハハ、ハハハハ!!』

 

 彩人が、群がって来る。

 

「【炎身瞬臨(フリッカーフォース)】」

 

 炎属性の身体強化スキル。

 体温を上げ、運動量を増加させる。

 

『ぶっ殺してやるよ!』

「ぶっ殺してあげる!」

 

 アルソーヴァの銃弾を放つ。卓越した回避能力を持ち周囲の運動を見切ることができる今の彩人なら、私のアルソーヴァの弾丸をパリィすることは可能。

 だけど、ここにいる複製体(あやと)はまだその感覚を手に入れる前の彩人。

 

 私の弾丸を退けるほどの反応速度と読みの力は持ってない。

 

 とか、思ったら負ける。

 

『閃いたぜ。必殺――セルフ【傷至戦蛮(ダメイジングパワー)】』

 

 向かってくる複製体(あやと)が自分の腕を引き千切り、前方に投げた。

 

 私の放った弾丸はそれに吸着し、腕を爆破する。私のアルソーヴァの魔力吸収範囲は物理的に接触している肉体のみ。切り離された腕に当てても本体は倒せない。

 それに、白い魔力の粒子が煙幕になってて狙いが定まらない。

 

 来る! 【傷至戦蛮(ダメイジングパワー)】によって身体能力をブーストした、あいつが……!

 

『案外アッサリだったなァ! 【鉄拳(アイアンフィスト)】ォ!』

 

 拳を硬質化するスキル。

 その発動と同時に側面から現れた彩人は、私の頭に拳を叩き込――

 

『あ?』

 

 まれることはなく、彩人の腕は私の顔をすり抜ける。同時に私の身体は煙に巻かれたように消える。

 

 そんな様子を少し後方より見ながら、私は彩人のこめかみに銃弾を捻じ込む。

 

 発砲音はしない。着弾音はしない。

 静かな白い輝きが彼の身体を包んでいく。

 

『なんだこのスキル……』

「【自影鏡(ミラーファントム)】。幻影の分身を造るスキルだよ」

『なるほどな……次、はねぇんだよな……もっとお前と戦いたかったよ』

「……」

 

 自然と、アルソーヴァを握る手の力が強くなる。

 少し、お腹が痛くなった。

 

『そんな顔すんなよ。ちゃんと感謝してるから。オレを終わらせるのがお前でよかった』

「そうやってあのお爺さんとか極美とかにも同じようなことを言うんでしょ」

『そうかもな。けどそれはオレじゃない。オレ以外のオレの話だ。ここにいるオレが感謝してるのはお前だけだよ』

「……そう」

 

 どうしてアルソーヴァの弾丸が着弾してから爆発するまでの猶予にはムラがあるんだろう。

 もしかして私の意志がアルソーヴァの起爆のタイミングに干渉しているのだろうか。

 

『じゃあな』

 

 そう言って偽物(あなた)は、この世から消えていく。

 

「うん。ばいばい」

 

 私たちを迎撃するためだけに造られて、役目が終われば当たり前のように消えていく。

 ダンジョンを攻略するまで彼らは復活し続けるのだとしたら、今回失敗すればまた私は彼らを終わらせることになる。

 

 このダンジョンを造ったヤツは最低で最悪の感性の持ち主だ。

 

 終わりを定められたあなたたちを救う方法を、少なくとも私は知らない。でも、それを知る誰かが偶然ここを訪れるまで放置するなんてこと、私にはできない。

 

 だから……

 

「一秒でも早く、全員終わらせてあげる」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 行ける、勝てる!

 爺ちゃんの剣戟は複製体をどんどん屠っていく。

 天城の銃弾は半分以上のヤツらは一撃で倒せる。

 極美の結界も壊れる様子はない。

 

 それに俺の力量面に関しても、今のこいつらに比べればかなりの差がある。

 俺はヤツらの攻撃を避けられるが、ヤツらは俺の攻撃を避けられない。

 

 魔力にも余裕がある。

 天城の銃も魔力効率は極めていいし、爺ちゃんの剣技も魔力の消耗はそれほどじゃない。

 事前の話し合いで極美は結界を三十分なら維持できると言っていた。

 

 三十分で二百体。

 このペースなら余裕だ。

 

『強いね。あの時よりずっと強い。今のあなたなら首無し騎兵(デュラハーン)にも簡単に勝てそう。それで、また私を殺すの?』

 

 天城の複製が俺に話しかけてくる。

 その両手にはアルソーヴァはない。

 

 天城はこの階層に来るのは初めてだ。

 この階層の複製が第六階層にその人物が訪れた瞬間に発生するのだとすれば、この天城は死んだ直後の天城ってことになる。

 

「あぁ殺す。謝りもしない。お前を助ける方法を見つける努力を俺はしていない。する気もない」

『酷いよ。なんでそんなことするの? 怖いよ。ねぇ、怖くてたまらないの。助けてよ、お願いだから』

「……」

『偽物だから殺すの? このダンジョンのボスに操られてるから殺すの? 私は複製で、モンスターで、人権とかたしかになにもないけどさ、それでもここに生きているんだよ? なのに殺すの? 自分がこの奥の階層に行くためだけに?』

「……そうだ」

『私の命より、その方が価値が高いって言うの? そんなにダンジョンを攻略したってトロフィーが大事?』

「あぁ、このダンジョンの攻略は俺にとって重要なことだ」

 

 わかっていた。

 アンデッドのすべてが極美のように消滅を望んでいるとは限らない。

 

 捕らわれて長い年月を過ごした連中や、俺みたいな終わってる人間なら諦めも付くのかもしれない。でも、今しがた生き返ったような天城の複製体(アンデッド)が消滅を受け入れるのは難しいことだろう。

 

 けど、ここで手をこまねいていてもなにも解決はしない。

 この複製体(あまぎ)もここから出られるわけじゃないし、一生……無限の時間をこのダンジョンのモンスターとして過ごすことになる。

 

 解決はできない。

 納得させる方法はない。

 

 色々と考えても、結局俺にできることはこのダンジョンの最奥に到達し、アンデッドというサイクルを打ち砕くことだけ。

 

『もしかしたら、誰かが全部を解決してくれるアイデアと方法を持って来てくれるかもしれないじゃん。それまで放置していればいいじゃん』

「それは限りなくゼロに近い可能性だ。そんなのに期待……いや、縋って、俺自身がなにもしないことに俺は納得できない」

 

 いつか誰かが解決してくれることに期待して、自分はなんにもしないなんて、ただの逃避でしかない。

 

「俺は先に行く」

『最低。呪ってやる』

「あぁ、そうしてくれ。なにがあっても忘れないから」

 

 俺が近付けば天城は純白の拳銃を両手に握り、銃口を俺へ向ける。

 発射される弾丸を手の甲で弾きながら、俺は天城へ近付いて行く。

 

「じゃあな」

『……うん。ばいばい』

 

 俺は【亜空鞘(ソードインベントリ)】から取り出した『首無し騎兵(デュラハーン)の魔石の直剣』を使って、涙を流す複製体(あまぎ)の首を斬り飛ばした。

 

『ごめんね……』

 

 宙を飛んだ首がそう口をうごかしていた。

 けれど、それがどういう意味なのか俺には理解できなかったし、それを都合よく解釈する権利は俺にはない。

 

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