転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
『召喚……か? モンスターカードから出て来んのとはなんか違うな』
そう言いながら、お兄様たちは私が呼び出した四体の氷像を眺めている。
どうやらあちらから仕掛けてくる気はないらしい。
というより、私のスキルに見覚えがなさ過ぎてどういうものか把握するのに務めている段階なのだろう。
「えぇ、これは氷の魔術を人型に押し込めたものです。生物ではなく現象としての召喚物。俗に、精霊などと呼ばれているものです」
『魔術に精霊? 随分と魔法使い染みた言動になってきたじゃねぇか』
そう言えば、私が自分の経歴を明かしたのは『
だとすれば、私が魔術師の末席に連ねる者であることはここにいるお兄様の大半は知らないことだ。
「実は私、生前は魔術師をしておりました。まぁ初仕事で死んだ身なので、プロというにはかなり力不足ですが」
『へぇ』
『初耳だな』
『つーか魔術とかあったのかこの世界……』
あまり驚いてはいない。
もしかすれば、どこか予感でもあったのだろうか。
それともただ単に、私に興味がないのだろうか?
ゆっくりと私が手を前に出せば、それに従うように氷像が動き始める。
剣と盾を持った戦士。杖を持った魔術師。本を持った神官。弓矢を持った狙撃手。
四体の氷像にはそれぞれ役割が存在する。
その役割に習った方法で、私の命令を実行する精霊召喚術。
まぁ、心なんて呼べるほどの複雑な思考回路は存在しないコンピューターのような存在だけれど……だからこそ恐怖もなく、痛みに足を止めることもない。
『【
『【
『【
強化術式がお兄様の身体に重ねられていく。
オリジナルに比べればその強化量はそれほどでもない。
しかし、【
それになによりも問題なのはやはり敵の数だ。
この【
私の四体の氷像で相手をし切れる量ではない。
それに……そろそろ限界だ……
『正直、喋ってくれてた方が良かったんだけどな』
『それで終わりだったしな』
「やはり、気が付いておられたのですね」
『まあな』
私は今、【
その維持によって消費される魔力は尋常な量ではない。
特に、『魔術系・氷結系』の全スキルの威力を数倍に跳ね上げるという破格の効力を持った【精霊化:氷】は維持するだけでとんでもない魔力を消費し続けている。
すべてのスキルを維持できる時間は残り数分。
それ以降、私の魔力は枯渇し、一切のスキルは使用できなくなる。
「しかし、お兄様がたには同情いたします」
『どういう意味だ?』
「おそらく、この階層にいるあらゆる存在よりも私は強い」
『……そういう大層なことを言うヤツは大抵噛ませ犬役にされんだぜ?』
「では、これを退ける方法をあなたは有しておられますか? 【
私の指先から飛び出る青い魔力の弾。
それは小さく、弱々しく、野球のピッチング程度の速度しかなく、おそらく命中しても投石程度のダメージにしかならない。
『こんなモンがなんの役に立つ?』
お兄様の一人が【
パシッ、と音を立て、弾かれた魔力の弾は氷の壁に命中し、消滅する。
この
「あなたたちと同じです。数こそが力」
一つなら投石程度のダメージしかない――
けれど、このスキルは私の処理能力の限り同時に複数生成できる。
さらに、このスキルは私の処理能力の限り自在に軌道制御できる。
矢の雨という形容は正しくない。魔力であるが故に重力の影響をほぼ受けない【
「火縄銃ではありませんが、原理は三段撃ちと同じです」
三百ほどの魔力弾を頭上に待機させ、三分の一ずつ発射する。
一段目を発射している間に三段目を生成し頭上に待機させる。
これを繰り返すことによって絶え間なく、隙間のない弾幕を生み出せる。
「このスキルは、私と相性が良すぎる」
『なるほどな、これがお前がこれだけの数を任された理由か』
「えぇ、そうです。 魔術師たる私は、幼少の頃よりその制御だけを磨いてきました。この
『ハッ、嘘だろ……』
「いいえ、嘘ではございません。故に、これで終わりです」
『終わり? そりゃどうかね、お前にはマナの問題が残ってるだろ?』
弾丸を受けながら、お兄様たちが前に出る。
『オレがこれを掻い潜った時が、お前の終わりだ』
連射される弾丸を【
もしくは【
痛みなどどうでもいいと、恐怖なんて必要ないと……
そんな顔で、いつものように……
でも、いつもと違ってお兄様たちは
私を取り囲むように展開していく。
私に突撃してくることを想定して侍らせていた【
私の魔力がなくなるまで待っていようという算段か……
「お兄様にしては消極的な戦法ですね」
『合理的って言ってくれよ』
「まさか、私如きに日和っているのですか?」
『……かもな』
違う……
私の知るお兄様なら、煽られれば頭に血を昇らせて突っ込んでくるはずだ。私を見るその静かな表情にはどんな意図があるのだろう。
やっぱり……
「私など、相手にする価値もないのですか?」
『あ? なに言って……』
「もういいです」
私の放った【
仕留めたお兄様の中には致命傷ではないものも、立っていられない程度の傷を負ったお兄様もいて、私はその一人へ近付く。
『トドメでも刺しに来たか?』
「いえ、むしろ逆です」
放置していれば回復系のスキルで復帰される。
それを防ぐ必要もあり……それに……
私は倒れたお兄様のお手に触れ、二つの
「【
触れた相手を氷結させる
十秒も触れていれば完全に凍結し、生命活動を静止させる。けれど、氷結という状態は『死』とは違う。
解凍と共に動き出す以上、ダンジョンモンスターの消失現象の対象とはならない。
これは他のダンジョンで確認したことだ。
そして……
「【
触れた相手の魔力を奪い取る。
数多のクラスを転々とし、合算し、拡張し続けてきたお兄様の魔力は極めて膨大だ。
吸収によって発生するロスを含めても【
殺さずに凍らせ、定期的にそれに触れることで魔力を永続させる。
お兄様は魔力の回復力も強化されているから、三十人も捕まえれば私の魔力はお兄様の魔力によって補完できる。
そして、冷気を発し続ける【
「ここにいるすべてのお兄様は私にとって魔力の貯蔵庫です。故に、私の魔力はなくならない」
精霊化の影響によって魔力が冷気に変換され、周囲へ溢れる。
『なるほどね、えげつねぇこと考えるじゃん』
「これは悪いことですか? 私はモンスターで、死霊で、怪物で、魔術師で、およそまともな人間の感性を育む体験をしたことがないのでよくわからないのです」
私に『普通』を教えてくれたのはあなただけ。
あなたに教えてもらった以上の『普通』を私は知らない。
「もっと教えてくださいませ。私の傍で……ずっと……」
私は知りたいと願ってしまったのです。
自由の先にある『幸福』を……