転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

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49「他人」

 

 油断していたわけじゃない。

 

 彩人のスキルは全部暗記してたし。

 なにより、斑鳩彩人という人間を私は理解していると思っていた。

 

 でも違ったらしい。

 私はなにも知らなかった。

 

 あいつが独りだった時のこと。

 あいつが一番辛かった時のこと。

 私は一秒だって知らないのに、思い上がってたんだと思う。

 

 だからこうなった。

 

 黒い短剣が這いつくばる私の背中から伸びている。

 

 それを突き立てた時のあいつの顔は、私の知っているあいつのどんな表情ともまるで違った……

 

 

 

 ◆ 数分前。

 

 

 

 アルソーヴァで敵の数を減らす。

 それが今回の私の役割だ。

 

 身を隠せるスキルもある。こういう混戦でも私はそれなりに活躍できる。

 さすがに極美には勝てないだろうけど、倒した数で競うなら私は二番目だろう。

 

 まぁ、強いヤツがほとんど彩人とお爺さんに集中してるっていうのも理由の一つだけど……

 

 私は目についた順に銃口を向けていく。

 斑鳩彩人の歩んできた歴史を過去へ戻すために、引き金を引き続ける。

 

 でも、その複製体は他の複製体とは少し違った。

 私が銃口を向けても構えない。

 ただ、寂しそうな瞳で私を見つめてくるだけだ。

 

『あんた、名前は?』

「名前を聞くってことは、私と出会う前のあんたってことよね?」

『あぁ、オレはこのダンジョンで一度しか死んでない』

 

 つまり、最初に死んだ彩人ってことか……

 きっと、この中で一番不遇なのはこの彩人だろう。

 

「天城代鳴(あまぎよな)よ、初めまして」

『天城……なんで俺と一緒にいる?』

「あなたが私を救ってくれたから」

 

 オリジナルのあいつには言い辛いことでも、今から殺すと決めている相手になら素直に言えた。

 

『そうか。俺はお前の役に立てたのか?』

「別に。でも、感謝してる」

 

 能力の足りなさ。

 知性の足りなさ。

 

 自分は特別ではない。

 あの時の私はそう思えるだけの失敗を経験していた。

 そこから引き上げてくれたのは間違いなくあいつだった。

 

『そうか。羨ましいよ。未来(いま)の俺にはお前みたいな理解者がいてくれるんだな』

「理解……できてるといいんだけどね」

『理解しようとしてくれているだけで十分だよ。俺にはきっとそういう人間が必要だったんだ。ありがとう、天城代鳴』

 

 こいつの態度はまるで最初から諦めているようだ。

 いや、最初に死んだ彩人なら戦闘能力はほとんどないはず。

 固有スキルも直接的に戦闘で役に立つものじゃない大器晩成型だし。

 

 私への対抗策なんて持ちうるわけがない。

 諦めて当然か……

 

「どういたしまして……で、いいのかな」

 

 私がそう言うと、彩人の最初の複製体は小さく笑みを浮かべた。

 

『でも、やっぱり嫉妬するよ。オレはここで終わるのに、オリジナルの俺だけがあんたみたいな良い女と巡り会って幸せになるとか、ちょっと羨ましすぎる』

「んなっ!?」

 

 ヤバ、ビックリして変な声出ちゃった。

 でも、こいつこんなこと言うヤツだったっけ?

 

 いや、このダンジョンに来る少し前までは彼女がいたってことは、もしかしてそれなりにモテるヤツだったんだろうか。

 ダンジョンに初めて踏み入れた直後のこいつには、まだその時の雰囲気がちょっと残ってたりするんだろうか。

 

 いやでも、私のことを良い女とか、巡り合えて幸せとか、あいつがそんなチャラいこと言う?

 

『どうかしたか?』

「い、いや、なんでもないよ……別に……」

 

 自分の髪を撫でながらそう言う私に、そいつは一歩歩み寄る。

 

『そうか。あのさ、一個だけ頼みがあるんだけど言ってもいいか?』

「な、なによ?」

『……あ、いや、やっぱり今の忘れてくれ。我ながら、さすがにキモすぎた』

「? なに? 言ってみてよ」

 

 最初の複製体は少し俯いて、上目遣いで私を見る。

 

 照れてるような、困ったような顔。

 それは、今のあいつは浮かべたこともないような表情だった。

 だから、新しい一面を見られたような気がして少し嬉しかったんだと思う。

 

『ハグ……したい』

「はい?」

『あ、いやごめん。キモいよな、わかってるごめん』

「……いや、理由は?」

『理由……そうだな。今、オレの頭の中には過去が渦巻いてる。自分の情けなさとか、不甲斐なさとか、弱さとか、そういうのがグルグルしてる』

「それで?」

『気を紛らわしたい。多分、そんな都合のいい考えだ』

 

 彩人はこのダンジョンで死に続けていた。

 それは到底常人に耐えられるストレスじゃない。

 

 けれど、そのストレスの前にもっと重度のストレスがあって、そもそもそれがダンジョンに踏み入る理由となっているのならその限りではないのだろう。

 

 死の恐怖以上の『自分を認められない』という強い劣等感。

 それが、斑鳩彩人の異常性。

 ダンジョンで死んでも病まない理由。

 

 人によってどんな事柄で精神的なダメージをどれだけ負うかは違う。

 

 少なくとも、彩人にとってはフラれたことは相当なストレスだったんだろう。

 もしかしたらそれ以外にもなにかあったのかもしれない。

 

『嫌なことを忘れるためにダンジョンに来たのに……オリジナルと違って複製のオレはなんにも忘れられちゃいないんだよ。オリジナルが、あんたと出会って変われたって言うなら、オレもこの辛さを忘れて逝きたい』

 

 そう考えれば、この複製体がそう願うのは当然のことなのかもしれない。

 少なくとも、この彩人はダンジョンでの死など物ともしないほどに苦しんでいる。

 

 極美ともお爺さんとも、誰とも出会うことはできず、ここに閉じ込められている。

 

 可哀想……

 

『我儘だよな。わかってる。あんたには関係ないことだし、嫌で当然だし、全然断ってくれ。その時はまぁちょっと恨み言も残るかもしれないが、もう死んでんだし、もう一回化けて出るってことは……多分ないだろ』

 

 と、冗談めかして彩人は辛そうに笑う。

 

 自己満足だ。わかってる。

 でも、偽物の複製体だとしても、あなたを救えるなら、それは私にとって嬉しいことだった。

 

「そっか、いいよ」

『本当か?』

「うん」

 

 この彩人の戦闘能力は成人男性の平均程度。

 一応私には身体強化のスキルもあるし、これが罠だったとしてもどうとでもなる。

 

 それに……斑鳩彩人はたとえ目的を植え付けられているとしても、そういう下衆な方法を選ぶ人間じゃない。

 

「でも」

 

 万が一ってこともあるか……

 

「先に撃つよ」

『あぁ、それで構わない』

 

 やけに静かだった。

 この複製体と話している間、他の複製体が攻撃を仕掛けてくることはなかったから。

 それに違和感はたしかにあった。

 

 だから、私はアルソーヴァで先に複製体を撃ち抜いた。

 

 弾丸は白い魔力の塊となり、複製体の腹部に吸着した。

 これで、長くとも十数秒でこの複製体は消える。

 最初の彩人なら魔力量で抗うことは不可能だ。

 

『悪い』

「ううん、大丈夫」

 

 私は複製体(あやと)に近付いて、その身体を抱き締める。

 複製体(あやと)の手が私の背に回される。

 

 その動きは手慣れていて、少し不快だった。

 

『あぁ』

 

 耳元で複製体(あやと)が呟く。

 

『やっぱり、全然萎えねぇし、納得もできやしねぇな……』

「え……?」

 

 背中に痛みが走った。

 異物が、私の中に入り込んで来る。

 背中を見ると、そこには短剣が突き刺さっていた。

 

 それと同時に、全身に違和感が走る。

 なにか、感覚の一つを失ったような……

 でも痛覚もあるし、目も見えるし、匂いも感じる。

 

 毒? いや、違う。なに……?

 

『お前のお陰で確信できたよ。やっぱり俺は、【独り】だ』

 

 まぁいい。

 取り敢えずわかったことは、こいつが彩人じゃないってこと!

 

「誰よお前!」

 

 そいつを突き飛ばしながら、着弾していたアルソーヴァの弾丸に向けて強く願う。

 

 こいつを殺せ!

 

 その念が通じたのか、着弾していた弾丸はすぐに爆発した。

 

「は?」

 

 そう……爆発したのだ。消滅じゃない。

 それは、対象の魔力量がアルソーヴァの弾丸では吸収しきれないほど膨大であることを示す反応。

 

『痛っつぅうううううううう!!!』

 

 そう言いながら、腹が爆発したそいつは吹き飛ぶ。

 しかし、すぐに立ち上がり、こっちに視線を向けた。

 腹は……無傷ということはないが致命傷にはほど遠い。

 

『クソ、すでに発動してるスキルまでは無効化できないのか。まぁ初めて使う能力だし仕方ねぇ』

「なに言ってんの?」

 

 いつの間にか、私の両手からアルソーヴァが消えていた。

 消した記憶はない。

 

 そして、出そうとしても出てこない。

 

『その顔、わかってんだろ? 俺が突き刺したのは【封魔の短刀】ってスキルで召喚された武器だ。そいつに刺された人間は、刺されている間のマナ操作ができなくなる。つまり、スキルを使えなくなるってこと』

 

 そんなスキル、彩人は持っていなかった。

 

「あなた、誰なの?」

『オレはオレだ。他の誰かと一緒にするんじゃねぇよ』

 

 違う。性格が全然違う。

 でも同じだ。仕草や表情、クセも。

 

「いや、けど、あいつは……彩人はそんなスキル持ってないし、別人のコピーなんでしょ?」

『あぁ、この力はこのダンジョンのラスボスってヤツから貰ったんだ。選んでいいっつうからお前らを倒すことを目的に選んだ。お前らの戦い方は見てたから、割と良いスキル構成になったと思うぜ』

 

 貰った……?

 ダンジョン攻略は偉業だ。

 その達成には並大抵ではない実力と幸運が求められる。

 この程度の不条理はあって当然とも思える。

 

 けど……

 

「あなたがそんな卑怯な能力を選ぶなんて思えないけどね……」

 

 私がそう言っている間にも最初の複製体は私に歩み寄ってくる。

 スキルがなにも使えない。

 短剣を抜きたいが、私の動きを監視するような目付きのあいつの前でそんな動作をすれば、すぐに接近されるだろう。

 

 あいつがゆっくり歩いて来るのは、スキルの使えない私がなにをしても対応できるという自信があるからだ。

 

『お前にオレのなにがわかる? お前の知ってる俺はオレじゃねぇんだよ』

 

 最初の複製体は自虐的な笑みを浮かべた。

 

『オレには本物(あいつ)みたいな戦闘技術はない。オレには理解者はいない。オレに自信なんてモンはない。オレには……未来はない……』

 

 おもちゃを買って貰えなかった子供が駄々をこねるように、あなたは言う。

 

『あんな希望に満ちた俺を見せられて、どうしろってんだよ!? なぁ、答えろよ!』

 

 あなたは悲痛にそう叫ぶ。

 その顔を見ているだけで、私は自然と自覚させられる。

 

 あぁ、そっか。

 私ってなんにも知らなかったんだね。

 

 あなたには、こんな時があったんだね。

 

『部屋の隅から見てたからわかるぞ。自分のことを特別だと思ってるお前なんかに、なにも持ってないオレを理解できるわけがねぇ』

「っ……」

 

 なにも答えてあげられなかった。

 当たり前だ。私はあなたの立場を経験したことがないのだから。

 

『ふっ……なんてな。冗談だ冗談。フツーにオレはこのダンジョンのモンスターとして侵入者を排除する。ただ、それだけのことだから気にすんな』

 

 悲痛な表情は嘘みたいに消えて、気さくな笑みを浮かべてそんなことを言ってのける。

 そんなあなたを見て、心底怖いと思った。

 

 あなたは後退りする私の目の前まで来て、私の胸倉を掴み、

 

「カッハッ!!」

 

 お腹に蹴りを突き刺した。

 思ったよりも強い威力で、私はその場から吹き飛び、俯せに転がった。

 

 今の蹴りは普通の人間の身体能力じゃない。

 【封魔の短刀】以外にも与えられたスキルを持ってるのか。

 

  飛ばされた方向は本物の彩人が戦っている方向で、なんとか立ち上がりながら私は自然と彩人に謝罪の言葉を漏らしていた。

 

「彩人……ごめ……」

 

 痛みで口が上手く回らない。

 身体がフラフラする。

 また、私の身体は前のめりに倒れた。

 

 でも、彩人は私に気が付いたみたいだ。

 

 私を見て険しい顔になった彩人が私に近付こうとするが、周囲の複製体がそれを邪魔している。

 

 ここの複製体はダンジョンの防衛のために動く。

 逆にそのためであればある程度の自由は利くようだけど、今の私に彩人を近づける合理的な理由(いいわけ)を作るのは無理だろう。

 

「ちょっと待ってろ! すぐ行く!」

 

 心配そうな顔で彩人は私にそう叫ぶ。

 そんな彩人を見て、最初の複製体は嗤う。

 

『お前ら全員くだらねぇんだよ。他人に期待なんかするから、こうやって窮地に陥る。そう学んだはずだろ?』

 

 私のせいだ。

 私が油断したせいだ。

 また迷惑をかけている。

 

 なんとかしてこの短剣を抜かないと……

 こっそりと背中に刺さった短剣に手を伸ばす。

 

『抜かせねぇよ』

 

 伸ばした手が、複製体に踏みつけられた。

 

『お前はそこで転がっとけ。それがあいつのためでもあるんだから』

「は?」

『どんな出会いをしたか知らねぇが、あいつは腑抜けてる。弱い時に戻ってる。お前やあの召喚獣共のせいだ。それじゃあまた勘違いして、間違える』

 

 彼の言葉は静かで、なにかを思い出しているようだ。

 

「勘違い? なにを勘違いしていたの?」

『誰かのために行動すればその誰かは応えてくれる。そんな勘違いかな。まぁ他人からすりゃくだらなくてバカな話だ。でもオレにとっては重要な、オレを形成する記憶だ。未来を持つあいつには同じ間違いをして欲しくはない』

 

 とか、と彼は続ける。

 

『まぁ真っ当に見える理屈は付けられるが、結局は今のあいつを見てるとムカつくってだけだよ。同じ間違いに進んで行くあいつが気に入らない。だからあんたを使って俺を殺して、勘違いを正すんだ』

 

 意味がわからない。

 いや違う。わかりたくない。

 

 こいつはつまり、こう言っているのだ。

 

 私と出会い友人や仲間として接することは、斑鳩彩人にとって間違いなのだと。

 

「お生憎様。あなたが絶望したような人間と私は同じにはならない。だって私は――ガッ」

 

 最初の複製体が、私の腹を蹴った。

 

『うるせぇよ。お前がどういう人間かとかマジでどうでもいい』

「ぐ……」

『お前があいつと関わってるのは、お前があいつにメリットを感じてるからだ。人間ってのは結局損得で動くようにできてる。そしてオレ以上にメリットを感じる人間が他にいるならそっちを選ぶ。お前もオレも遺伝子的にそうなってるんだよ』

「なってない!」

『なってるさ。自分で言ってただろ。お前はオリジナルに助けてもらった。だから一緒にいる。つまりお前はただ自分にメリットを与えてくれる人間にくっ付いてるだけだ』

「違っ……いや、もしそうなんだとしても今の彩人はそういう価値のある人間なんだから、それでいいじゃない」

『よくねぇよ。上には上がいる。もしお前がいなくなったら、また傷つくかもしれない。そんなのはリスクでしかない。だから最初から全部独りでやるべきなんだ』

 

 え……私がいなくなったら、傷ついてくれるんだ。

 

 あ、いや、今はそういうことじゃない。

 こいつの間違いを正して、なんとか戦況を変えるのが今の私にできること。

 

「あなただって他人の力を使ってるのに、どの口がそんなこと言ってるのよ」

『オレは別に、他人の存在を認めないなんてことは言っていない。他人ってのは存在する。オレが人里離れた山の中で生活しようが、他人の造った道具や道を使ったり、過去の林業や田畑の影響は受ける。他人と関わらないなんてことは不可能だ』

「じゃあ独りなんて結局無理な話じゃない」

『だから、そういうことじゃねぇんだよ。独りで生きるってのは、他人と関わらないってことじゃない。オレはただ――』

 

 その言葉を聞いて私は理解した。

 この人は、本当に、心の底から、他人というものに絶望しているのだと。

 

 

『オレはただ、他人という存在を〝現象〟として捉えるだけだ』

 

 

 そこまで……そんなにも捻くれてるんだね。

 私と良い勝負……いや、ずっと上だね。

 気持ち悪い。

 

『貰った力つったって、このダンジョンを防衛するというラスボスの意志……という現象の結果だ。向かい風や追い風が吹くのと差なんかない。だからオレはその現象を認識し、利用する。それがオレの考える、〝独りで生きる〟ってことだ』

 

 他人に期待しない。

 その強い意志が到達した帰結がそれってことか。

 

「でも、やっぱり本物(あいつ)の方がすごいよ。あなたと違って努力してるから」

『はぁ……努力ね、それってレベル上げのことか? よかったな、ゲームみたいなシステムが現実にあってさ』

「……」

『いや、そもそも五体満足に産まれて来れてよかったな。そういう努力をできる環境があってよかったな。才能があってよかったな。オレと違って、未来と時間があってよかったよな』

「……」

『勘違いするな。努力を否定してるわけじゃない。ただ、他人も幸運も利用できるモンは利用するべきだし、それを努力と認めないってのもテメェの勝手な難癖だぜ』

 

 言い返す言葉が思い付かないのは、私が馬鹿だからだろうか。

 いや、私なんかじゃ比べ物にならないくらいこいつは独りで考え続けたんだ。

 その思考の重み、絶望の大きさが、私の軽い言葉を完封していく。

 

 オリジナルの彩人には時間と未来があった。

 複製体の彩人は、力を他者の思惑によって得た。

 

 この二つの幸運を測れる天秤を、私は持っていない。

 いや、そもそもそんなものを測ることに意味なんてないのだろう。

 

 ダメだ……私じゃこいつを救えない。

 

 だってこいつは、他人からの救いなんて求めてないんだから。

 

 彼にとって私は現象でしかなくて、風景とか物理現象に近いんだろう。

 私は彼の対応を変えることはできるかもしれないけど、その気持ちまでを変えることはできない。

 

 もし変えられるとしたら、それはたった一人だけ……

 

 こいつが唯一、羨んで、憎んで、嫉妬して、期待する相手。

 

「要するに、自分が傷つかない場所で安心したいってだけだろ。足退けろ、そんなに安心してぇならさっさとあの世に送ってやるよ」

 

 それは、『自分自身』だけだ。

 

 オリジナルの彩人の背後では、十数人の複製体が倒れ、消失現象を始めていた。

 

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