転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
「なんだよあいつ……」
そう言葉に出せば、セカイの声は疑問に答える。
――モンスター【
アイテム名と同じ。セカイの声で教えられるのは相手の名称のみだ。
けど、名前以前に雰囲気で理解できる。
こいつは今まで戦ってきたスケルトン共とは別次元の強さを持っている。
「つっても、
俺は橋へ踏み入る。
相手は一体。こっちだけ複数ってのも卑怯な話だ。
それに、もし極美が即死したらモンスターカードごと消滅する。
ここまで育てた極美が倒されるのはさすがに勿体ない。
「いや……全部言い訳だな。悪いな
「カカッ!?」
「
親指を立てた極美をカードに戻しながら、俺はソレの前に立つ。
「もうストレス発散って感じでもないな……」
俺がダンジョンに来てるのは、ここに俺の居場所があるからだ。
俺は不必要な人間だった。
俺を生んでくれた人と俺を育ててくれた人の遺産を、俺は騙されて失った。
騙された相手は一度は愛した相手。借金を肩代わりしたのに彼女は俺の元には戻って来なかった。
それはきっと、俺が不必要な人間だからだ。
生きてる理由も意味もなく、ただそこにいるだけの無価値な人間だからだ。
俺は強くなるためにここにいるんじゃない。俺は善人になりたいわけじゃない。
愛されたいわけじゃない。金が欲しいわけでもない。
俺は、俺はただ……俺自身を肯定したい、認めたいだけだ。
「クキ……」
「クキキ」
近くに突き刺さっていた刀を一本手に取り、
「クキキキキ」
その姿が掻き消える……
「【
いや、それより速く、細かく、そして空中での連続した――加速。
「クソが」
俺は【
相手の獲物は刀。間合いも攻撃力もヤツが優れる。
だが、相打ち覚悟なら間合いは関係ねぇ。
傷に差があっても【
「youtyube動画の見様見真似だ。食らいやがれ、クロスカウンター!」
跳んでくるその剣士に俺は拳を突き出した…………………………瞬間、その軌道がズレる。まるで
空を足場に側転でもしてるかのように舞ったそいつに俺の拳はスカされる。
ヒュン……と、風を斬るような音がする。
視界が真下に落ちていく。
そのまま回る視界が映し出したのは、首から上がなくなった俺の胴体だった。
◆
「マジか……」
死霊の楽園の入り口にある魔法陣の傍で、俺はそう呟く。
一撃で殺された。しかも首を一刀両断。
つーかなんだあの空中機動。あんなのどうやって捉えればいいんだ。
ていうか、どう考えたって剣の達人だろあれ。
俺とじゃ技量の差が隔絶している。
今の俺の戦闘技能なんて、多少喧嘩慣れしたヤンキーレベルだ。
もちろん、スキルを使えば常人以上の能力を発揮できるが、【
基本的な身体能力が俺より高い?
レベルを上げても身体能力が強化されるわけじゃない。
増えるのはあくまで『マナ』の量だけだ。
技量も、身体能力も、スキルも……あらゆる面で俺は負けている……
「勝てる気しねぇな……」
面白れぇ……
あいつを倒せたらきっと俺は、多少は俺を好きになれる。
極美が内職を始めてくれたお陰で生活費にはほんの少しの余裕ができた。
これならダンジョンで得られる魔石の売却金がなくても生きていける。
一日一時間。『死霊の楽園:第三階層』に転移し、
挑んで、殺される。
そんな毎日が始まった。
最初の一カ月は一手で殺され続けた。
寝ても覚めても
インプットは家で、アウトプットはダンジョンで……武の理を知り、理解したと思って挑み、また殺され、高みを思い知らされる。
そんな日々をただ繰り返した。
レベルはまったく上がらなかった。
魔獣を一体も倒してないんだから当然だ。
理性では理解している。
レベルを上げるべきだ。もっと転職するべきだ。
いろんなクラスを極め、いろんなスキルを得るべきだ。
そうすればもっと簡単に勝てるようになる。
けど、そういう理性より本能が勝る。
今勝ちたいんだ。
今勝って認めたいんだ。
まだ俺が五歳の時、事故で死んだ両親に、あんたたちの息子はちゃんとしてるって示したい。
高校まで俺を育ててくれて、『好きなように生きろ』って遺言を残してくれた爺ちゃんに誇れるようになりたい。
剣を受けるたびに、その理が少しだけ理解できる。
どうしてその角度なのか。どうしてその足捌きなのか。どうしてその姿勢なのか。
人を殺すという目的のために創造されたその武器と、それを扱う術理の道を俺は少しずつ歩いていく。
毎日死んだ。
一時間にも満たない時間で、俺はダンジョンから追い出される。
言い訳が無限に湧いた。『そもそも一人で挑む相手じゃないだろ』とか『こんなの三次職で挑むような相手だろ』とか『もっとちゃんとした師匠でもいないと剣なんて
それでも、その言い訳を捻じ伏せるだけの達成感と満足感があった。
楽しかった。自分の成長が。弱い自分が消えていくのが。
知見を得て、技量を知り、少しずつ
それに、この苦行には理屈的な意味もある。
このままレベルを上げ、スキルを増やすだけの成長しかできなかったら、俺はそれに頼るだけの人間になるかもしれない。
偶発的に手に入れた力に依存するだけの……俺じゃなくてもなにも問題ない固有スキルの『器』になってしまう。
そんなヤツに、こんな強いスキルは要らないだろ。
今なんだ。まだまだ強くはない今だから、技量を重要だと思える。
これから手にする数多の
◆
「何度目かね、お前と相対するのは」
このダンジョンに通い始めて半年。
第三階層に来てからは三カ月と少し。
死んだ回数は多分もう二百を超えている。
その内百回くらいはこいつに殺されてる。
何度も挑んだことでわかったことだが、こいつは俺の行動に対して毎回同じ反応を示す。
ゲームのNPCみたいなモンだ。
こいつにとって俺との戦闘はずっと『初見』なんだろう。
だが俺は百を超える戦闘経験から、こいつの持つパターンを学習できる。
俺がどう動けばあいつがどう動くのか。パターンのすべてを見切り、俺の勝利へ繋がる道を探す。
それが、すべてで負ける俺がこいつを倒す唯一の方法だ。
「あの時と同じだ」
元カノの浮気相手と会った時。
ガタイも、格闘技も、度胸も、多分財産も、全部で負けていた俺はあの男になにもできなかった。
殴り返すどころか言い返すことすらできなかった。
「どうやら俺は、女に捨てられた未練より負けたことへの悔しさの方を強く感じる人間だったらしい」
「クキ……?」
「あぁいや、ただの自分語りだから気にしないでくれ。多分、今日でお前と顔を突き合わせる日々も終わりだから、ちょっと感慨深くてさ」
スキル発動――【
初手にコレを使った場合の
俺が持つ【
「フェイント、だろ?」
初見じゃわけわからんすぎて食らったが、もう百回以上戦りあってんだ。
タイミングをズラして振るわれるその一撃に、俺は【
剣ってのは刃で斬る武器で、その側面に斬撃性はない。
それに『刀』って武器は耐久性にやや欠ける。
スキル込みの俺の蹴りは、その刃を腹からブチ折った。
折れた刀の切っ先が宙を舞う中、俺はさらに距離を詰める。
「【
スキルの連続発動速度は、ここ三カ月の経験でかなり早くなっている。
【
「まずは一発、返すぜ」
その腹部を目掛けてボディブローをかます。
だが、【
折れた剣を腹部の前に構え、俺の拳が受けられる……けど、気にする必要はねぇ。
そのまま全力で、思い切り、自分の拳が斬れても関係なく、腹を撃ち抜く。
「ぶっ飛べ」
言葉に現実が追い付くように、俺の拳が鎧を穿ったことで
まだ予定調和。お前の動きは全部見切ってる。
【
ヤツは吹き飛ぶ最中にもう一つ武器を拾った。
今度は『薙刀』だ。
このフィールドの武器の散らばり方は完全ランダム。
相手の行動パターンを読んでいるとはいえ、拾われる武器種によってその戦闘方法は大きく変化する。
薙刀は刀より間合いが広く、棍にはない斬撃性がある。
正直、一番面倒くさい武器だ。
けど、薙刀でだって何十回も殺されたんだ。
そのパターンも頭に入ってる。
突っ込んでくる相手には……
「回転斬りによる迎撃だろ? 【
両脚に力を込めて俺は大きく跳躍する。
回転斬りを避けながら、距離を詰めるための動き。
そして、回転斬りを跳躍によって避けられたことを悟った
回転斬りによってできた隙を殺す、優美さすら感じさせる無駄のない所作。
今だ。こここそが、俺にとっての最大の難関。
ここを成功させれば、俺の勝利は一気に近づく。
「っらぁぁぁ!」
突き出された薙刀の柄を――空中で掴む!
「よし!」
それを軸にして身体を回し、【
「二発目ェ!」
たしかなクリーンヒットの感触。
薙刀から
着地した俺の手元には、おあつらえ向きにヤツの方に刃が向いた薙刀が収まっている。
繰り出した刺突の先は顔面じゃない。
一気に玉は取れない。首を逸らされるだけこの一撃は無に帰す。
だから俺が狙うのは、スケルトンという構造物における極めて重要な部位。
「武術家も剣術家もみんな言ってたぜ、重要なのは下半身だってよォ! 背骨折れたらもうお前存在価値ねェだろ!」
カツ、という簡素な音と共に俺の手には
よし、全部上手くいった。
完全に作戦通りだ。
俺の勝――
「クキィ!」
バン、と
なんじゃそりゃ……!?
あの加速スキル、足以外からも使えんのかよ……
さらに、バン! と、音を鳴らして後方の空中を叩いた
ヤバ、反応遅れた……避けれねぇ……
「ぐぞがっ、ぁぁぁ!」
その身体を何度も殴りつけるがびくともしない。
酸欠で上手く力を入れられない。顔を狙っても首を捻って避けられるし、胴体には鎧が着こまれている。
上半身だけのクセに、なんでこんなに力が強いんだよ……
死ぬ。負ける。もう一回最初から?
いや、今更か、毎日死んでたんだ……もう一回挑戦して……
バカか……
死ぬ気で戦うのと、死んでもいいから戦うのは、まったく違ぇだろ。
常に全力を出すべきだ。
「【
お前のお陰で生活できてる。
たまにはちょっといい飯も食える。なのにお前は食事も必要ないからちょっと後ろめたかったんだ。
だから、一番美味いトコをくれてやるよ。
俺ごとやれや……
現れた極美に目でそう訴えかける。
俺の意志を正しく理解してくれたのだろう。
「カッ!」
極美は首を絞められる俺に向かって手を翳した。
その手の上に現れた氷が発生し、【
「クキィ!!」
それを感じ取ったのか、
おい、それはトラウマなんだ。
他のヤツに浮気せず、俺に集中してくれよ。
「【
離すなよ。寂しいだろうが。心中しようぜ――
「クキキキキキキキ!!!」
それでいい。こっち見てろ。
――【
――クラススキル【
――【
――クラススキル【
――アイテム【スキルオーブ:八艘跳び】を獲得しました。
『そうか彩人、お前も探索者になったのじゃな。血は争えぬということか……』