転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ   作:水色の山葵

51 / 51
51「がらくた」

 

 

 いつだって勝てる相手じゃなかった。

 そもそもダンジョンなんて魑魅魍魎の溜まり場だ。

 普通の人間が普通にやって勝ち続けられるような場所じゃない。

 

 実際、何度も何度も死んでやり直して、一年間ほぼ毎日死んでここまで来たんだ。

 

 そう考えれば……いや、考えるまでもなく、この程度の不可能じゃ止まる理由には全然足りない。

 

「【俊足(ステップ)】」

『【自己転移(テレポート)】!』

 

 目前まで迫ったところで複製体の姿が掻き消える。

 複製体は俺の後方に現れた。

 小さく笑みを浮かべた複製体は、天城を宙に投げ、召喚したアイアンメイデンに向けて蹴り飛ばす。

 

「うぐっ!」

「大丈夫か!?」

 

 すんでのところで天城をキャッチすると同時に、俺の肩にまた魔力の矢が刺さる。

 この召喚獣(物か?)、圧し折ったはずだが……

 

『言っただろ? こいつらの良いところは物質扱いだってこと。だから【修復師(リストーラ)】の【修復(リペア)】で修復できる。他のヤツらもだ』

 

 人型の召喚獣どもも、圧し折って砕いた剣や盾も、ヒビの一つも付いていない状態で起き上がる。

 

『このスキルの良いところは【回魔(ヒール)】より消費魔力が少なく効果も高いってところだな』

 

 ってことは、【回魔(ヒール)】のスキルも持ってるのか……めんどくさ。

 

「【俊足(ステップ)】」

『ッチ』

 

 舌打ちを零した複製体の表情には苛立ちが伺えた。

 

 俺に疲れはない。スタミナを増加させるスキルもある。

 

 それに、俺の身体が傷付くほど【傷至戦蛮(ダメイジングパワー)】は効果を強め、頭の中に溢れた脳内麻薬が【過集中毒(アドレナリンブースト)】によって集中力へ変換されていく。

 

 興奮してるのに周りはくっきり見える。

 頭は冷静なのに、あいつに対する怒りが滾る。

 

「ハハ」

 

 笑みが、零れる。

 

『気持ち悪ぃんだよ! 【兵嵐(ポーンストーム)】!』

 

 木人形の兵士。一番ベーシックなデッサン用フィギュアみたいな剣士が『八体に分裂』。

 一斉に俺の前を塞ぐ。

 

「しゃらくせぇ、【鉄拳(アイアンフィスト)】!」

 

 殴り壊し、

 

「【斬撃(スラッシュ)】!」

 

 斬り飛ばし、突き進む――

 

『ッ! 【兵爆(ポーンサクリファイス)】!』

 

 人形の心臓が赤く光る。

 あーこれあれだ、爆発するヤツだ。

 拳と剣を振り抜いた直後。こっから回避に転じてたら間に合わない。

 

「【金剛体(アイアンボディ)】」

 

 ボン! と爆発の音は一つだった。

 それほど完璧に同一のタイミングで八体の人形すべてが爆発した。

 全方位かつ超至近距離の爆炎が、俺の身体を包む。

 

 皮膚が爛れてる。全身痛ぇ。けど骨は無事っぽい。

 関節は動くし、五体満足。

 

 キーーーーーーン。

 

 音が聞こえない。

 けど、霞んでるけど目は見える。

 

「ハッ!」

『嘘だろ。止まれよ。つーか治せよ。回復系のスキルあるんだろうが!』

「なに言ってんのか聴こえねぇんだよ!!」

 

 走る。手を伸ばす。

 指先が触れる寸前、複製体の身体が掻き消える。

 だから俺は周囲を確認するために首を振らず(・・・)、身体の向きごと真後ろを向き直る。

 

 今までの転移パターンは全部覚えてる。

 お前の転移先は俺の真後ろの可能性が一番高かった。

 人間ってのは咄嗟の時ほど選択肢が減るモンだ。

 

 反転から地面を蹴り出すまで全部先読みでやった。

 今までとは別格の反応速度。

 読みが当たれば、届く。

 

「届いた」

 

 目の前に複製体と天城がいる。

 複製体の顔にはもう余裕は残っていなかった。

 複製体は慌てて、剣を伸ばす俺へ天城を投げつける。

 

 今更壁として天城を使うのか。

 まぁ、悪くない手だ。

 実際、この剣は突き刺せない。

 

 天城が探索者で、ここで死んでも入り口で復活するだけだってのはわかっている。

 けど、ここで天城が死ねばこのダンジョンに囚われることになる天城の魂が一つ増えることになる。

 

 それを俺は許せない。

 じゃあ連れてくんなって話だよな……

 けど、嬉しかったんだ。天城が俺を手伝ってくれるって言ってくれた時。

 

 だから、天城は死なせない。

 

 俺は剣を引き、手を広げる。

 

「ふざけんな。この私をいつまでも物扱いしてんじゃねぇよ!」

 

 天城の目が見開かれ、その身体から可視化した白い魔力が溢れていく。

 なんだこれ……こんなスキル聞いてねぇ……

 

 つーか、天城は今スキルを使えないはずだろ?

 短剣は……うん、まだ背中に刺さってる。

 どうなって……

 

「【天凛銃アルソーヴァ】」

『は!?』

 

 天城の両手に白い二丁拳銃が握られている。

 投げられながら身体を反転させ、天城は銃口を複製体へ向けて引き金を引く。

 同時に俺は天城の身体を受け止めた。

 

「爆ぜろ!」

『防げ!』

 

 浮遊する盾――たしか【召喚盾(シールドサーヴァント)】だったか――が、天城の銃弾を受け、爆発する。

 

「すぐ治す」

「いいから」

 

 白い魔力が拡散する中、天城が俺にだけ聞こえる声で呟く。

 全身骨折してるだろうし、まだあの痛覚を増幅させる短剣も刺さったままだ。

 なのに天城は、歯を食いしばって俺に笑いかけてくる。

 

「行って」

 

 天城の手が俺の胸を抑える。

 その間には、アルソーヴァが押し付けられるように添えられていた。

 

「マジか……できるのかよそんなこと……」

 

 俺の目に、天城は覚悟の籠った瞳を合わせ、頷いた。

 

 だったら俺は信じるだけだ。

 

 ほんと、俺って変わったよな……

 

『そうやって、他人に依存するからオレは!』

 

 昔は、ああだったのに……

 

 俺は天城を寝かせ、それを「受け取って」走った。

 あいつはもう天城に【転印(アポート)】を使えない。

 今の、スキルが普通に使える天城を手元に呼び出すことは自殺行為だ。

 

 それに、天城がいなくなったことであいつの頭には同時に幾つもの問題が浮上してるはず。

 そして、今の今まで絶え間なくスキルを発動させ続け、その発動速度は徐々に落ちて行っていた。

 

 そろそろ集中力も限界だろ?

 

 俺と複製体の間の空間が、どんどん縮まって行く。

 

『【過重改造(オーバーリペア)】!』

 

 すべての召喚物に黒い魔力が宿る。

 速度が……いや、速度だけじゃない。すべての能力が向上している。

 召喚物を強化するスキルか……

 

 俺と複製体の間に雑魚共が挟まってくる。

 こいつらを蹴散らしている間に、また転移スキルで逃げられる。

 

『残念だったな、振り出しだ。【自己転移(テレポート)】』

「どうだかなッ!」

 

 スキルが発動する刹那、俺は剣を投擲した。

 複製体の姿が、また目の前から掻き消える。

 

 けど、届いた。

 剣が斬り割いたのは複製体の指先。

 スキルの発動と共に掲げた右手の人差し指の第一関節から先。

 

 その指先(パーツ)は空を舞い、俺の手元に降って来る。

 

「【敵喰超越(プレデターエクシード)】」

 

 ゴクリ……

 俺は、その指を喉の奥へ押し込む。

 

『はぁ!? キモ……』

 

 その瞬間、俺に対して恐怖を抱いた対象の身体能力を低下させる【現実的恐怖(テラーインパイア)】の発動条件が満たされる。

 

 さらに、俺の四次職【執行者(エグゼキューショナー)】の第二スキル【斬撃呪法(ブレイドカース)・炎巻(バーンステーク)】は、斬撃を与えた対象の体温を上げる効果を持つ自動発動能力(パッシブ)だ。

 体温が上がれば、思考能力は更に低下する。

 

 そして、声が聞こえたことで周囲を見渡す必要なくあいつの転移先が把握できた。

 

 

 剣じゃない。俺が向けるのは、腰に差して服で隠していた白い拳銃。

 

 

 

 ◆

 

「アルソーヴァは私の手から離れると消える。でも、二丁のうち一つでも私の手の中にあればその存在は意識的に消さない限り維持される。――行け」

 

 ◆

 

 

 

『なんで、なんでだ……』

 

 完全に意表を突いた。

 この弾丸を避けるのはお前の身体能力じゃ不可能だ。

 それに、今まで見た限り自己転移のスキルには最低でも五秒以上の再使用待機時間がある。

 

 白い弾丸が、複製体の心臓を撃ち抜いた。

 吸着した魔力の弾丸が、徐々に光を強めていく。

 銃なんて初めて撃ったが、当たって良かった。

 まぁ、反動ねぇから簡単だったけど。

 

「お前は誰かとの関係が弱さの原因だと思ってるみたいだが、それは違う。俺の弱さの原因は、誰かに裏切られた程度ですべてなくなったなんて思っちまうほど、俺が空っぽの人間だったってところだ」

 

 近付いてくる召喚物を、拳と銃弾で破壊していく。

 能力が強化されたとしても、スキルが一つ乗った程度で俺を倒せるほどにはならない。

 敵の攻撃を見切り、こっちの攻撃を当てれば今まで戦って来た敵と同様に砕け散る。

 

「お前の言ってることも間違ってないと思う。自立できる強さ、独りでも生きていける強さ、そういうのは必要だ。でももう、俺はそれを手に入れてる。だから次は、俺にその力を与えてくれた存在に恩を返すべきだと思ったんだ」

『それは……他人のために生きるってことだろ? けど、その他人がお前の行いに好意的に応えてくれる保障なんてないだろ……』

 

 複製体に吸着した銃弾が爆発する。

 吹き飛ぶその身体にさらに銃弾を当てる。

 狙うのにも慣れてきた。

 

「いや、俺は俺のために生きてる。俺の行動はすべて俺の満足と納得と幸福のためにある。俺はお前の地続きだ。お前と同じ思考もちゃんとある」

『どこがだよ。お前は他人と助け合ってんじゃねぇか』

 

 複製体は天城や爺ちゃんの方を一瞥し、俺にそう訴える。

 

「俺はお前と同じ、そもそも他人に期待なんかしてない。ただ、誰かが俺になにかをしてくれた時、それが俺にとって嬉しいことなら、その相手が喜ぶことを返してやりたいって、そう思ってるだけだ」

 

 白い魔力の爆発が、複製体の身体を確実に削っていく。

 腕が千切れ、足が千切れ、腹に穴が空き、耳が吹き飛んで……

 

 満身創痍なゾンビみたいなその顔で、そいつは俺を寂しそうに見つめていた。

 

『いいなそれ。オレもそんなことを言える人間になりたかった……』

「……」

 

 俺にはこいつと違って未来があったからこう思える。

 このダンジョンに囚われたこいつとはそもそも前提に差がありすぎる。

 

 だから俺はこいつを救えない。

 ただ消してやることしかできない。

 

『お前を殺す。そんな八つ当たりでしか、オレはオレを肯定できない。我ながら哀れだと思うが、オレみたいな幽霊には怨み言を吐くくらいしかできることはなくてな』

「そうだな、どうせお前は俺が殺すんだ。力の出所なんざどうでもいいから、どうせ最後なら全力出してみろよ」

 

 俺を殺すためだけに、過去の俺(おまえ)が選んだ力。

 興味がある。

 

『ハハ、後悔しても知らねぇぞ?』

 

 しねえよ。

 お前の全力受け止めて死ぬなら、そりゃもう仕方ねぇことだ。

 このダンジョンの攻略は天城に託すとするよ。

 天城もダメだったら、その時はまたレベルアップして戻って来るさ。

 

 覚悟の決まった、けれどそこか嬉しそうな表情で、複製体はボロボロの身体を起き上がらせる。

 

 召喚物は全部潰した。周りには残骸が散らばるだけ。時間稼ぎ要因はもういない。

 回復系のスキルを使ってる余裕はない。

 

 あいつに取れる手は、『攻撃』だけだ。

 

『三次職【塵収集者(ジャンクバンカー)】。このクラス、スキルのほとんどが充填(チャージ)用でさ、使い辛いったらありゃしねぇんだ』

「ハッ、なんでそんなクラス取ったんだよ……?」

『仕方ねぇだろ。クラスの名前で取っただけで、どんなスキルかは獲得するまでわかんなかったんだから』

「あー、俺も結構覚えのある感覚だな。微妙に使い辛いよな、俺の固有スキル」

『それな』

 

 複製体が右手を伸ばし、掌を上に向ける。

 周囲から……俺が壊した召喚物の残骸がその手の中へ集まっていく。

 

『【塵蓄積(ガラクタスタック)】』

 

 いや、召喚物だけじゃない。

 この空間に漂う魔力が、あいつの手の中へ集まっていく。

 

 他の複製体が倒された時に霧散した魔力も集まってるのか?

 

 ガラクタ。使い道のないもの。役に立たない品や道具。価値のないもの。

 そんな意味を持つ言葉。

 

 そうだな。社会的にはなんの意味もない。自由な意志すらない。生きる理由も失った。命なんて持っていない。

 お前らはたしかにガラクタだ。

 

 けど、俺にとってだけは、無意味だなんてことはない。

 

「忘れない。お前の存在も俺を作った一部だから、ちゃんと連れて行く」

 

 教訓にする。糧にする。肥しにする。

 

 お前がいたから今の俺になれた。

 

『だったら超えてみろ。これがオレの全力だ』

 

 召喚物の残骸とこれまでに倒された複製体から溢れた魔力が、複製体の手の平の上で融合し、青い真珠となって浮遊する。

 

 

『【我羅供他(スターダスト)】』

 

 

 青い宝玉が、その内に秘められた力を一気に解放した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き)(作者:池崎)(オリジナル:ファンタジー/戦記)

突如として前世の記憶を思い出し、自身が病弱貴族になってしまったことを悟った主人公は、とある出来事をきっかけに──「治癒魔法をかけ続けたら戦えるのでは??」と気づき、おっさん治癒術師を巻き込んで修練に励む。▼その結果──確率で血反吐を吐きながら拳で戦うHENTAIスタイルになってしまう。▼「だ、大丈夫! すごく痛いけどすぐ治るから!!」▼


総合評価:3544/評価:8.27/連載:14話/更新日時:2026年08月12日(水) 12:39 小説情報

スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい(作者:逆鯖)(オリジナル:現代/ノンジャンル)

▼ 工場派遣として働く25歳、佐藤直人。▼ ある日突然、視界に《スキルシステム》なんてものが現れた。▼ 《清掃》《料理》《プログラミング》みたいな普通の技能から、《豪運》《魔術》《錬金術》《ダンジョン作成》なんて明らかにおかしいものまで、SPさえあれば取得可能。▼ だったらまあ、使うっきゃない。▼ 仕事は楽に、金はなるべく効率よく稼いで、自分の時間はしっかり…


総合評価:7923/評価:8.46/連載:19話/更新日時:2026年10月09日(金) 21:25 小説情報

転生特典がパワプロ風成長だったのでデートして最強になろうと思います(作者:らっきー(16代目))(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

あるいはSkyrimみたいな自分でスキルを選ぶタイプ。ダクソとかエルデンリング方式のレベルアップでも可。ウマ娘方式とも言う。努力が実る保証があるってサイコー!…は建前で。▼デートで経験値が入るならさぁ!何股もかけて経験点稼ぎまくればいいじゃん!ゲームと違ってデートの回数に制限とか無いし!!何人でも口説けるし!!!▼だがTS娘は知らなかった…有り得ない早さで強…


総合評価:7818/評価:8.58/連載:9話/更新日時:2026年09月20日(日) 07:03 小説情報

精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる(作者:モナカパウマン)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードゲーム最高!▼全てがアニメみたいにカードゲームで回ればいいのに……そんな風に思って、日々を過ごし、気がついたらカードアニメみたいな世界に転生していた。だが問題があった。この世界においてSSRカードの証左である精霊たちが一切懐いてくれないのである。▼しかし構わない。▼俺は一人で成り上がってみせる。▼元よりカードゲームに精霊なんて、無粋なのだ。▼※他サイト…


総合評価:7112/評価:8.03/連載:23話/更新日時:2026年10月28日(水) 10:35 小説情報

貧乳好きなのにカードの精霊達の胸が大きすぎる(作者:匿名)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードで国境すら決める世界▼そんな世界に転生した貧乳好きのショタがおっぱいの大きなカードの精霊達に囲まれる話


総合評価:7116/評価:8.43/連載:9話/更新日時:2026年09月25日(金) 20:06 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>