転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
迷宮省異能管理委員会? ダンジョン管理委員会じゃないのか?
疑問を頭に浮かべていると、天城が耳元で、
「私がいたのも迷宮省の組織の一つ。ダンジョン管理委員会はダンジョン内での業務全般。逆に異能管理委員会はダンジョン外での異能やダンジョン絡みの事件の解決を担ってるらしいよ。ちなみに二つの組織は超仲悪いって先輩が言ってた」
と、教えてくれた。
「ヤタさん、俺らになんか用っすか?」
「ご同行をお願いしたく参上いたしました。あなた方が手に入れたであろう【宝物】と共に」
そう言うと、彼女の視線が厳しくなる。
それに呼応するように、控える四人もまた若干の臨戦態勢を取ったように感じた。
まぁ、俺が持ち帰った宝物がクソ強い病原菌とかだったら日本崩壊の危機だ。
こういうのが来るのも当然っちゃ当然か。
「それって強制っすか?」
「はい。宝物の効果が明らかにならない限り、ご同行いただく決まりになっております」
「じゃあ説明すればいいんすか?」
「その言葉が真実である証明ができるのであれば」
そんなのここでできるわけねぇだろ。
つーことは、やっぱり俺が手に入れた宝物を差し出せってことか。
「宝物を渡したとして、それはどうなるんすか?」
「調査に回され、危険がないと判断された場合は返還されます。ただ、その前に国の方から買い取り額を提示するのが通例でございます」
「俺が手に入れたヤツ、使ったらなくなるっぽいんですけどどうやって確かめるんですか?」
「【
国家組織だし鑑定スキル持ちもそりゃいくらでもいるか。
鑑定後に返還されるなら問題もないだろう。
そもそもここで揉め事なんて起こしたら俺たちは一発で指名手配犯だ。
そもそも協力するしか選択肢はない。
それに、なんとなくだけどこの婆さんは良い人そうな気がする。
「わかりました。ついて行きます。あぁでも、近くの駐車場に車停めてるんですけど」
「こちらで運搬しておきます。ナンバーは?」
「熊谷、たの20ー11です。鍵は……」
「結構です。転移させるので」
「そうすか。じゃあ頼みます。俺らはどうすればいいですか?」
「特に、なにも」
彼女が俺たちに近付き、肩へ手を置く。
瞬間、足下に魔法陣が展開され、目の前の景色が一瞬で切り替わった。
屋外だったのが一瞬で室内。
応接室のような場所に切り変わった。
どうやらこの婆さんの固有スキルが『転移』らしい。
「東京都迷宮省にある応接室です。取り調べというと仰々しいような気がしますので、そうですね、いくつか質問をさせてください」
ヤタに勧められるまま、俺と天城はソファに腰かける。
フカフカだ。
「他の人たちは連れ帰らなくていいんすか?」
「一応戦闘になった時のために連れて行きましたが、彼らだって子供ではありませんから帰って来るくらい自力でできるでしょう」
あのコスプレみたいな恰好で?
めちゃくちゃ目立ちそう。
「それでは質問させてください」
それから質疑応答が始まった。
基本的に俺が返答する。
天城は【死霊の楽園】での活動歴が俺より短いし……俺にはいくつかバレたくないこともある。
天城も空気を読んでくれて、基本的に俺の答えに同意する形で話は進んだ。
Q:手に入れた【宝物】の効果は?
A:【人間薬】。飲むことで発動する。怪我や病気の一切を治すって、ダンジョンのボスが言ってた。
Q:預からせていただいても?
A:あとで返してくれるなら。
Q:探索者としての経歴を教えてください。
A:一年と少し前からダンジョンに入り始めた。『死霊の楽園』と『亜人の頭開樹海』にしか行ったことはない。
Q:固有スキルの内容は?
A:教えない。
Q:ダンジョンに入り始めた理由は?
A:言いたくない。
Q:ダンジョンのボスというのはどのような存在でしたか?
A:金髪のクソガキ。不老不死の研究をしてた。アンデッドを創る能力を持ってたけど、本人は強くなかった。
他にもダンジョンで見聞きした情報を細かく聞かれた。
俺のスキルについてと、ウィリアムから受け取った【資料】の話は隠した。
けど、それ以外は素直に伝えた。
人間薬もポケットに手を入れながら、【
ウィリアムの研究資料を隠したのは直感だ。
なんとなく、この資料は世に出さない方がいいような気がした。
というか、俺が中身を確かめてからじゃないと扱い方に困る。
「あのダンジョンにはダンジョン内で死亡した人間を複製し、第六階層のモンスターとして出現する機能と死亡せずに最奥まで辿り着いても神獣に殺されるギミックもあったはずです。どうやって突破したのか教えていただけますか?」
「そこまで知ってるんですね」
「実を言うと、私も何度かあのダンジョンに挑戦したことがあるのです」
だから攻略直後に一瞬で転移してこれたのか?
さすがに日本中どこにでも飛べるスキルってことはないだろうし、マーカー的なのがあるんだろうけど、それを【死霊の楽園】に設置してた理由はそれか。
けど、この婆さんをダンジョンや神殿で見たような憶えはない。
いや、あのダンジョンの
実際、俺もそれが理由で【亜人の頭開樹海】でレベリングしてたわけだし。
「いつか、私が攻略しようと思っておりました」
「それは……横取りしてすいませんでしたね」
「いいえ、誰が攻略したかはそれほど私にとって重要ではありませんので、どちらかと言えば私の代わりを務めてくださったことに感謝していますよ」
「そうですか。けど攻略法か……まぁ、レベルを上げて殴り殺したとしか。天城の固有スキルも結構役に立ちました」
「結構ってなに。すごく、でしょ?」
「すごく役に立ったよ」
「棒読みでウザい」
お前がウザい。
とは言わないでおこう。
「天凛銃アルソーヴァ……ダンジョン管理委員会の資料に記載されていますね。ランクAの固有スキルです。たしかにこれがあれば突破は可能な気がします」
タブレット端末を操作しながらヤタは頷く。
「複製体数体なら運が良ければ倒せるか……」
「なに言ってんのよ? 彩人の複製体の数は三百体くらいいたわよ。勝手に甘く見積もらないで」
こいつマジで敬語とか使えないんだな……
まぁ俺も社会人経験ねぇから適当だし、人のことは言えないな。
「三百……?」
ヤタの俺を見る視線が鋭くなった。
「それは本当ですか? しかしダンジョンに入り始めたのは一年と少し前だと」
「あっ」
ヤベ、みたいな顔で天城が俺を見てくる。
まぁ別にいいか、死亡回数は少し恥ずかしいくらい隠したいとまでは思ってない。
「そうっすよ。一年とちょっと毎日入ってたんで、複製体が増えすぎててちょっと困りました」
「毎日……いえ、二年足らずでそれだけの数死亡したと言うのですか?」
「え? だからほぼ毎日入ってたんで。いや死ぬ前に逃げ切れたこともありますよ? けど基本進んでるんで、そりゃ運よく【
天城が渇いた笑みで天井を見ている。
ヤタの目が点になっていた。
なんだよ。
「なるほど、わかりました。質問は以上です。宝物の返還にはもう少し時間をいただきたいのですが……」
「じゃあ後日でいいっすよ。俺風呂入りたいし」
「私も……汗とかは傷と一緒に消えてるけどさっぱりしたい気分」
「了解いたしました。お車をお運びしてきます。宝物は後日ご自宅へお届けに参ります」
「わかりました」
会話を終えてたヤタが立ち上がる。
それを見て俺たちも立ち上がり、部屋の外、地下駐車場まで案内された。
その後、転移スキルで車を持って来てもらった。
いいなぁ転移スキル。
最初の複製体の時も思ったが、条件があるとしてもかなり利便性の高いスキルだ。
クラススキルでここまで効果の強いヤツは四次職や五次職くらいじゃないと出なそうだから、固有スキルのガチャとしては大当たりの部類だろう。
そういやウィリアムの話じゃ、俺と極美と天城は新たに固有スキルを獲得してるって話だから帰ったら確認しよう。
転移だったら最高だな。
「では、また後日」
「はい」
運転席の窓から一礼し、俺は車を出す。
天城を家まで送り、俺も帰路へ着いた。
それにしてもあの婆さん、前にどこかで見たことがあるような気がするんだよな……どこだったっけ?
◆
翌朝。俺の家には大量のマスコミが集まっていた。