転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
「ふぁ……眠ぃ……」
帰ったら、死霊の楽園の攻略によって手に入れたものの確認をしようと思ってた。
けど、今日はもう疲れた。
終わったんだ。
俺の目的は達成された。
俺の目指した俺になれたのかはわからない。
けど、これ以上、理想の自分になるためになにをするべきかわからない。
眠ぃ……風呂入って寝よ……
確認は明日でいいや。
◆
朝、チャイムの音で目を覚ました。
眠気眼を擦りながら、俺は玄関に向かう。
けど、やけに外が騒がしかった。
のぞき穴から外を見ると、カメラやマイク、手帳とペンを持った人が大量にいた。
俺はドアノブから手を放す。
腕章を付けてる人も見えるし、明らかに報道関係者だ。
昨日、俺と天城がダンジョンを攻略したってアナウンスは全世界の人間が聞いているはず。
それが響いてから半日は経ってるし、俺の住所を調べるくらいの調査能力はあって不思議じゃない。
ってか、死霊の楽園の近くに住んでる『斑鳩彩人』を調べればいいわけだし、単純な話この辺の不動産屋に金でも渡せばどうにかなりそうだ。
それに俺が使ってる買取所の人は俺が行ってるダンジョンと俺の名前を知ってる。
誰がバラしたのか知らないが、人の口に戸は立てられぬということなのだろう。
つっても面倒くさいな。
有名人になりたいわけでもない。
あの記者たちと話をすることで、俺のメリットになりそうなことはない。
でも、あそこに陣取られると近所迷惑だ。
俺の家アパートだし他の住民も出て行きにくいだろう。
近くにあったスマホに手を伸ばすと、メッセージアプリの通知がすごいことになっていた。大学や高校、中学や小学校の同級生からまで連絡が来ている。
今もまだ、そんなに話したこともない人間からのメッセージ通知が止まらない。
俺は天城とのトークを開く。
天城代鳴:私の家の前マスコミでごった返してるんだけど、そっちは大丈夫? 7:02
天城代鳴:起きたら返信してね 7:33
俺は急いで天城に返信した。
斑鳩彩人:おはよう 8:21
斑鳩彩人:めちゃくちゃマスコミいる 8:21
天城代鳴:おはよ 8:22
天城代鳴:めんどくさかったら出なくていいよ 8:22
天城代鳴:あのさ、手柄全部私のものにしてもいい? 8:23
その問いの意味はなんとなく理解できた。
天城には元から相応の知名度がある。
俺と天城が二人でダンジョンを攻略した。という情報しか知らない人間からすれば、どちらが主導したと思うかは目に見えている。
天城が自分が攻略して、俺は『次いで』とか『コバンザメ』とか『寄生』とかって言ってくれれば、俺への注目度はかなり下がるだろう。
手柄をすべて自分のものにしていいか、という問いにはそんな意味が汲み取れた。
俺からすればその方がありがたい。
多少癒えたとはいえ、突然この量の人間と関わるのは億劫……つうか、超嫌だ。
斑鳩彩人:頼んでいいか? ぼろくそに言ってくれていいから 8:27
天城代鳴:そんな風には言わないけど、わかった 8:27
斑鳩彩人:礼は必ずするよ 8:28
天城代鳴:気にしなくていいよ。この状況って私が望んだ「特別」そのものなんだから 8:29
それでも俺が俺の面倒を天城に押し付けていることに変わりはない。
一緒にダンジョン攻略してくれたことを含めて恩は返そうと思った。
すぐにスマホの画面に配信開始の通知が届く。
メッセージアプリの通知は今全部切った。
配信アプリで俺が開始通知までオンにしているチャンネルは一つしかない。
ヨナ名義の配信チャンネルが、約一カ月半ぶりに配信を開始した。
◆
ダンジョン探索系配信者『ヨナ』。
本名『天城代鳴』。元ダンジョン管理委員会所属。
固有スキルは『天凛銃アルソーヴァ』という遠距離攻撃系。相手の魔力を利用する性質はかなり有用と判断されている。
その他、クラスやスキルについてもほぼ知られている。
すべて、配信中に自分でポロっと口に出した内容である。
ネットリテラシーはあまり高くないようだ。
彼女の世間からの印象は、天然で、隠し事が上手くなく、言いたいことはなんでも言うというもの。
気に入らないものは気に入らないと言うし、悔しいことは悔しいと口に出す。そんな性格らしい。
その姿に羨望の眼差しを向ける者も多くいる。
しかし、歯に衣着せぬ物言いに嫌悪感を示したり、プロフェッショナルを疑う声は多々上がっている。
それに、彼女の名が広まる切っ掛けになった事件『有名な配信者への罵倒』によって彼女に悪い印象を持っている人間も相応に多い。
そんな彼女の名前が、日本時間で昨日の十七時二十八分、全世界の人間に対してその人物が最も理解する言語でアナウンスされた。
約二年振りとなるダンジョンの攻略者として。
彼女の配信が始まって一分二十二秒が経過した。
画面に映った彼女は、どうやらカメラとなるスマホの画角を気にしているようでまだ一言も発していない。
けれど、すでに配信の同時視聴数は十万人を超えており、世界中のSNSで彼女の配信URLが拡散され続けている。
「こんなもんでいいかな。家から配信するの初めてだからセットに時間かかっちゃった」
彼女の最初の言葉はそれだった。
――説明会、配信でやるんだ
――ダンジョン攻略について教えてください
――おひさー
――斑鳩彩人との関係は?
――この人誰?
――顔かわいい
――宝物の内容教えろ
そのようなコメントが追うのも難しい速度で流れていく。
ほとんどは、天城代鳴を今回のことで初めて知ったと思えるコメントだ。
「そ、説明できること全部配信で説明するから。私の家の外で待機してるヤツらはさっさと散って。ほんと近所迷惑だから。私に協力してくれた人の方に行ってる連中もね」
不快感を隠そうともしない言葉選び。
二十歳にもなっていない人間の態度としては、礼儀も愛想もまったく足りない。
だが、今の天城代鳴の言葉にはそんなことは無意味になるほどの重みがある。
彼女は国内に十人といない『ダンジョン攻略者』という圧倒的な称号を持った人間だから。
その称号を持ち、現在でも生きている人間は世界中を探しても百人といないだろう。
――どうやってダンジョンを攻略したんですか?
「立ち塞がったモンスターを全部倒して最深部まで進んだら攻略できた」
どうやら彼女は説明が下手らしい。
と、配信を見ている視聴者たちは理解した。
――宝物は手に入れたんですか?
「手に入れた」
――宝物の効果は?
「今、政府の人が調査してる。私は効果を知ってるけど、その認識が本当に合ってるかわからないからまだ言えない」
――斑鳩彩人って誰?
「誰ってなに? 彩人は彩人だけど。あのダンジョン……死霊の楽園の攻略に必要な能力を持ってたから一緒に行ってあげた」
――どんな能力?
「他人の能力は勝手に言えない。けど……まぁ大したことないから気にしなくていいわ。ただの雑魚よ」
――【
――どういう関係?
「あーえぇっと、私の攻略を手伝わせてあげたのよ。友達よ友達」
――友達(パシリ)?
――いや、友達(召使い)だろ
――攻略に必要なスキルを持っているのがこいつにバレたのが運のツキ
――最初の炎上の件知ってるヤツならわかるだろうけど、こいつ人のこと見下すタイプだから
――まぁ……うん、バイト代くらいは出してあげてください
――お礼言ってなさそう
「なんで私が礼を言うのよ。あいつが礼を言ってくるのが筋でしょ。てか言われたし」
――おん
――わお
――そうですよねごめんなさい
――うん、ヨナちはそういう感じだ昔から
――昔って配信始めてそんな経ってないだろ
――頑張れいかるがなんとかw
――実際ヨナの能力ってめっちゃ強力だし、そいつはダンジョンギミックを攻略するためだけの雑用ってことっしょ、納得
「なんかウザいんだけど。次の質問ないの?」
――また斑鳩彩人と一緒にダンジョン攻略したり、一緒に配信することはありますか?
「ダンジョン攻略はあいつのやる気と有用性次第。あいつシャイだから配信に出てはくれないと思う。ていうかあいつが配信に出ても毎日死ぬから多分つまんないよ」
――ひえっ
――どんな教育……?
――教育ってか調教
――ギリ犯罪だろw
「私が強制してるわけじゃないから、あいつが勝手に死ぬのよ」
――ま、まぁ自分の意志でダンジョンに入って自分の意志で戦ってんなら犯罪になることはないな、うん
――毎日死んでるヤツが正常な判断とかできるわけもなく……
――それが狙いってことか……怖っ
「言っとくけど、探索者関係者も配信関係者も私を通さずに彩人に近付いたら……私、怒っちゃうからね?」
――っす
――実際暴力と名誉と金で大抵の問題解決できるのがダンジョン攻略者
――便利能力者(奴隷)を奪うのは許さないと……
――哀れ、成仏は願ってるぞ
――ダンジョン探索者の
「認めた人間以外とツルむ気はない」
――認められるにはどうしたらよろしいですか?
「知らない。私より特別な人間なら話くらいは聞いてあげる。けど、そんなヤツ今までの人生で一人しか出会ったことないけど」
――俺という可能性が微レ存
――誰だよ↑
――ダンジョンで手に入ったものって宝物以外になんかある?
「ユニーククラスを手に入れた。あぁそれと、今まで気が付かなかったんだけど、私の固有スキルって片方なら譲渡できるみたい。あと攻略報酬で固有スキルをもう一つ手に入れたみたいなんだけど、まだ確認はできてない」
――は?
――ヤッバすぎだろ
――ちょっとまって情報量が多い
――ユニークって千人に一人くらいだぞ
――アルソーヴァって有志の固有スキルランキングで将来性込みのSランク(最大)評価でしょ? 譲渡可能ってことはそれ以上……現時点でSランクってことじゃね?
――ユニーククラスの能力は?
「教えない。前はあんたらの口車に乗せられて全部バレちゃったし、今度はちゃんと内緒にする」
――そこがいいところだったのに
――ネットリテラシーがレベルアップしました(セカイの声風)
――いらんレベルアップすぎる
――けどアルソーヴァの判明した効果は教えてくれるところ好き
「まぁ、見たいなら配信見れば? そのうち力を使うこともあるでしょ」
――ていうか今更だけど配信続けるんだ
――やった
「そりゃね。最近配信してなかったのはダンジョン攻略に注力したかったからで、それは達成したわけだからこれからは前みたいに配信する予定だよ」
――箔付きまくったしダンジョン配信の同接もめっちゃ伸びそー
――ダンジョン攻略者で配信活動してる人なんて他にいないしな
――そりゃ宝物って最低でも数億円から取引されるし、攻略者は金稼ぐ必要なんかねぇもんな
――探索者って夢あるんやなぁ
――俺、結構探索者として活動してるし、あんたの配信も何回か見たことあるけどさ、あんたの実力で『ダンジョン攻略』が可能ってのは到底信じられないな。もしかしてめっちゃ簡単なダンジョンだったとか?
「一つしか攻略したことなんてないから他との比較は知らない」
――比較できる人間って日本に何人いるんだよ
――アナウンスが鳴ってる以上、ダンジョンを攻略してるのは事実だし反論の余地はないよね
――元ダンジョン管理委員会所属で、Sランク相当の固有スキル持ちで、ユニーククラス持ちで、ダンジョン攻略経験アリで、しかもまだ18歳って……天才っているところにはいるんだな
――「可愛い」も追加しろな
――あの、探索者でもなんでもないおっさんなんですけど、推してもいいですか?
「いいよ、推させてあげる」
そう言って彼女は、満面の笑みを浮かべた。
その姿は、その配信を見ていた人間すべての目を奪う。
その現象に、彼女が成し遂げたいくつか影響がバックボーンとしてあったのはたしかではあるが、それでもそれ単体としても見ても彼女の微笑みは可憐と言って差し支えないものだった。
「それじゃあそろそろ喋り疲れたからそろそろ切るね。他に聞きたいことある人は配信見に来て暇そうな時にでも質問して。じゃあ、ばいばい」
そうして三十分にも満たない配信が閉じられた。
彼女の今後の動向には注目せざるを得ない。
――ニュースサイト「テラステラ」の記事『ダンジョン攻略者天城代鳴の説明会配信』より抜粋 著:テラステラ編集部
14話に
「ダンジョンが発生して五十年経つ現在でも攻略されたダンジョンは『千』に及ばない」
と書いてましたが、
「ダンジョンが発生して五十年経つ現在でも攻略されたダンジョンは『百』に及ばない」
に変更しました。
以後その認識でお読みいただければと思います。