転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
橋を渡り切ると、その間隣に【
傷も深いしマナもあんまり残ってない。
このまま進むのは挑戦とかそういう次元じゃないな。
「さすがに一旦帰るか」
「カカ……」
肩を貸してくれていた極美が心配そうに頷いた。
まるで「そうした方がいい」とでも言いたげだ。
極美をモンスターカードに戻し、【
「脱出」
その瞬間景色は一変し、そこはいつも使っている『死霊の楽園』に入るための魔法陣がある聖堂の中だった。
腕は生えてるし、傷は全部治ってる。なのに、気が付くと俺はその場に尻餅を付いていた。
……なんか、すげぇ疲れた。
この三カ月の疲労が一気に来た感じだ。
「けど、マジで楽しかったな……」
勝てない相手に挑戦し続け、少しずつ相手のことを知って、そして最後には打ち勝つ。
この経験は絶対、意味のある経験になったと思う。
「いつも通りこのダンジョンを使ってるヤツなんて誰もいないし、レベルアップとドロップの確認でもするか」
まずは【スキルオーブ:八艘跳び】という手の平サイズの白い玉だ。
初めて聞く名前だったのでスマホで検索する。
どうやらかなりなレアアイテムらしい。
使用を念じることで固有スキルを得られるのだとか。
ただ、使用には期限があり現物化してから三時間以内に使用しないと消滅してしまうようだ。
ただ、『八艘跳び』で検索しても出てくるのは牛若丸の話とかばっかりで、スキルについての詳細な情報がどこにもなかった。
覚えてみるしかなさそうだけど、俺に使うか極美に使うかは悩み所だ。
八艘跳びが
一方で俺が覚えれば
まぁ、幸い消滅まではまだ二時間以上ある。
その前にレベルアップの確認をしておこう。
「【
――【
最も因縁のある死者の魂……?
いや、待て、そんな死者の蘇生みたいな……そんなバカみたいなこと……できるわけ……
いつか使うかもと思って一応持って来ていた『スケルトンソルジャー』のモンスターカードが手元にはある。
それに、おあつらえ向きに召喚枠も二つになってる。
今日はまだダンジョンで死んでないから、もう一回ダンジョンに入れる。
外でクラススキルを使ってるところは億が一の確率でも誰にも見られたくないから、一応ダンジョンに行くか。
魔法陣に入り直し、俺は「第一階層」と呟く。
念じるだけでも転移できるらしいけど一応だ。
すぐに視界が切り変わり、いつもの見晴らしのいい荒野が現れる。
そこで俺はスケルトンソルジャーのモンスターカードを見つめながら、スキルを発動させるように念じる。
「【
呟きと共にモンスターカードが光り輝き、描かれた絵と文字が変化する。
描かれたスケルトンソルジャーが持っていた剣は刀に変わり……文字は……
『侍スケルトン【
斑鳩十蔵。それは紛れもなく、死んだはずの俺の爺ちゃんの名前だった。
「さ……【
声が震える。
極美の時と同じようにモンスターカードに描かれた存在、刃の白い刀を持ったスケルトンが実体化する。
「カカカ、カカカカカカ、カカ」
「あ、しまった……そういやスケルトンって喋れないじゃん……」
俺は『侍スケルトン』という種族名に変わった召喚獣を前に……膝から崩れ落ちた。
「やらかしたぁぁぁぁぁぁああ! もっと亜人っぽいモンスターカードが出るまで待てばよかったぁ……! てか【
――【
ダメじゃん。終わった。ゴメン爺ちゃん。
「カカ」
顎の骨を鳴らした侍スケルトンは、刀の切っ先を地面に突き立て、土の上をなぞっていく。
『彩人、逞しくなったではないか』
地面にはそう書かれていた。
それを見た瞬間、自然と視界が歪んだ。
身体から力が抜けて、今の今まであった『ちゃんとしなきゃ』という戒めのようなものが取り払われていく。
「……ごめん爺ちゃん……爺ちゃんが残してくれた金、全部失くしちまった」
侍スケルトンは……爺ちゃんは、なにも言わず俺の頭の上に手を置いて、ぽんぽんと叩く。
「いろいろあって、探索者になろうかなって今は思ってるんだけど、爺ちゃんはどう思う?」
『お主の人生だ。好きなようにすればよい。金など気にするな』
そう、爺ちゃんは地面に文字を書いた。
相手は骸骨。言葉は文字。
なのに、そのスケルトンの姿は爺ちゃんが死ぬ数日前に病院で話した時の姿と重なって見えた。
「ありがと……ごめん……ありがと……」
感謝と謝罪しか口から出てこなかった。
爺ちゃんが死んでからの出来事が走馬灯みたいに蘇ってくる。
爺ちゃんが死んで、天涯孤独になって……だから彼女ができた時は一人じゃないんだって安心できた。
でも、そんなのは全部まやかしで、俺は結局一人で……いや、人間っていう存在は究極的には一人なんだ。
誰だって自己利益のために生きている。恋愛だってそれは同じ。問題は俺が利益を与えられるような存在じゃなかったってことだ。
だからここに来た。自分に自信が持てる、そんな人間になりたかった。
でも、まったく無理をしていなかったかと問われれば、きっと多少は無理をしていたのだろう。
怖かった。生き返ると知っているも本当は死ぬのが怖かった。
痛かった。モンスターに負わされた傷は痛くないって言い聞かせてたけど本当は痛かった。
だから、楽しいことだと思い込まなきゃ……やってられなかった……
『お主が初めてレベルアップした時からではあるが、守護霊としてお主の行動は見ていた。儂はお主を誇りに思う。よう頑張ったな』
「あ、あぁ……」
吐き出せる相手なんかいなかった。
俺を見てくれるヤツなんかいなかったんだ。
だから、だからさ……
水滴が目先の地面にポタポタと零れていた。
「う、うあぁぁぁぁ……!!」
氾濫した川みたいに大量の涙が溢れてきた。
そんな俺の頭を、爺ちゃんはずっとポンポンと叩いていた。
◆
「よし、泣いたらスッキリした。爺ちゃん生き返りおめでと」
『相変わらず精神のリセットが早いなお主は』
「爺ちゃんに似たんだろうな。それで爺ちゃんは俺を手伝ってくれるのか?」
『まぁ暇じゃから構わんよ。老いも感じぬ肉体も手に入ったことだしな』
五十年近く前、まだダンジョンに一般人が入れなかったような時代。
ダンジョンの魔獣はスキルを使うためのエネルギーでもある『マナ』を纏っていて、クラス所持者による近接攻撃とスキル以外の攻撃が効き難く、ダンジョン攻略は難航した。
その時に、武術や剣術を修めている人間に国が協力を要請したことがあった。
その一人に選ばれたのが俺の爺ちゃんだ。
とはいえ活動歴は十年ほどで、その後は国から貰った報酬を元手に道場の師範代をしていた。まぁ、結構赤字だったらしいから道楽の範囲だったぽいけど。
「そういや爺ちゃんって何次職まで進んでんの? スキルは?」
『どうやらかなり弱体化しているようじゃ。元は三次職の【剣豪】じゃったはずだが今は、』
――クラスレベル【
――固有スキル【危機察知】
――クラススキル【
――個体名『斑鳩十蔵』は召喚獣であるため、レベル上限が召喚者の最大レベルとなります。
「あ、セカイの声が教えてくれたからもう書かなくていいや」
『ぬ』
なんだ、「ぬ」って。
どうやら爺ちゃんも極美と同じように俺の『配下』のような扱いになってるっぽい。
だから爺ちゃんのステータスもセカイの声が教えてくれたんだろう。
「まぁ俺とまったく同じレベルなら一緒にレベル上げできるからいっか」
それから爺ちゃんと極美の顔合わせを済ませ、少し普通のスケルトンを一緒に狩って爺ちゃんの強さを見せてもらった。
さすが元探索者、身体が変わって感覚も変わってるだろうに危うげはまったくない。
剣術の技量だけで言えば
「あ、あと爺ちゃんこれ使って」
『なんじゃこれは?』
「さっき拾った【スキルオーブ】で【八艘跳び】ってスキルを覚えられるみたい」
『儂が使用してよいのか? お主自身が使うべきではないか?』
「いいや、俺はどうせ死んでも生き返るから死んだら終わりの爺ちゃんを強くしておきたい」
『然様か。ならばありがたく貰っておくとしよう』
爺ちゃんの固有スキルに【八艘跳び】が追加される。
スキルの詳細をセカイの声に聞いた限り、やっぱり空気を壁や地面のように蹴ったり叩いたりして運動量を得るスキルらしい。
最大八回まで連続で使用でき、着地すると回数がリセットされるようだ。
『使い勝手は悪くはないな』
「カカ(パチパチパチ)」
爺ちゃんが縦横無尽に空を翔ける姿を見て、極美も拍手していた。
『光栄だ、極美嬢』
「え、極美って女なの?」
『どう見てもそうであろうが』
極美はローブを纏っているとはいえ、中央は開いているし、中は全裸(骨)だ。
けど、あんたと違って俺は骨のどこ見りゃ性別がわかるかわかんねぇんだよ。
『実はそうです』
と、極美も近くに落ちていた枝で文字を書き出した。
「お、お前も会話できるんかい」
いや、当たり前か、俺のスマホで検索とかしてたわけだし……
それならそれで最初からやってくれればいいのに。
『私照れ屋で……すいません……』
「まぁいいけどさ」
『彩人、極美嬢、改めてよろしく頼む』
「うん、よろしく爺ちゃん。極美も」
『主様、十蔵様、よろしくお願いいたします』
爺ちゃんは軽く礼をし、俺は適当に手を上げ、極美は深々とお辞儀していた。
今日はそれくらいの軽い探索に留めておく。
帰り道、『
夕食は回る寿司屋に行った。