転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ 作:水色の山葵
「グォォォォォォォ!」
「グォォォォォォォ!」
「グォォォォォォォ!」
腐り爛れた全身の肉に蛆が纏わりついている。
トロイ動きとそれに似つかわしくない剛腕。圧倒的な数。
そんな特徴を持つ『ゾンビ』というモンスターの軍勢に俺は追いかけ回されていた。
「クソがぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!」
スキルを……【
俺がこいつらに勝ってるのは速度くらいのものだ。
とはいえ、走行方向の地面からも絶え間なく湧き続けるから全力で走り続けるしかない。
けど、マナ以上に体力が持たない……
「カカ」
「カッ」
俺の進行方向に風神雷神よろしく、もしくはゴールテープ係みたいに待ち構えていた二人が【
爺ちゃんが【侍】レベル10で獲得した飛翔する斬撃と、極美が【
――レベルアップしました。
――レベルアップしました。
――レベルアップしました。
「うるせ……今その報告いらねぇ……」
息切れしながら呟くと、頭に響くセカイの声が静かになった。
俺は時に曲がりながら全力疾走を繰り返す。
すると、時折俺の方に魔石が投げ込まれる。
さっき倒したゾンビ共の魔石だ。爺ちゃんと極美が拾ってこっちに放り投げてくれている。
それを……
「【
で開けた異空間の穴に放り込んでいく。
どうだコラ、これが今回の作戦「逃げるが勝ち」である。
俺が逃げてるだけで魔石は集まるからめちゃくちゃ金は稼げる。
しかもレベルも上がる。一石二鳥の戦術だ。
ただし問題は……
「あぁ、気持ち悪ぃ……!」
俺がまったく気持ちよくないってことだ。
俺は戦わず逃げてるだけ。
魔石を集めてるだけ。
いや、遠距離攻撃も範囲攻撃も持ってない俺が問題なんだけどさ……
それにしたってストレス溜まる……
「もういいだろ、
どうせ体力も限界だ。
もうワンループやる余裕はねぇ。
立ち止まって振り返れば、爺ちゃんと極美が撃ち洩らしたゾンビが、新たに湧いて来たゾンビと群れを成して生まれた軍勢が襲い掛かってくる。
目算だけど百体近い数だ。
「【
「グォォォォ!」
なんか俺の悪口を聞いてヤツら心なしか加速した気がする。
まぁ関係ない。俺は軍勢の中に飛び込みながら、先頭のヤツをぶん殴る。
スキル込みの打撃はゾンビの身体を吹っ飛ばすが、ゾンビ耐久力じゃスケルトンとは段違いですぐに立ち上がる。
それに、何十体ものゾンビが列すら成さず突っ込んでくるのに全部に反撃できるはずもない。
圧倒的な物量。
もう技とか見切りとか関係ねぇ。
物理的な手数の差が、俺の身体の自由を奪い、地面に縫い留め、腐った肉と蛆の群れが俺の身体を犯し始める。
食い千切り、砕き折り、抉り、傷口に蛆が入り込み、不快な匂いが俺の鼻の中を満たしていく。
不快を煮詰めたようなその光景は、いつもより死をゆっくりに感じさせる。
「憶えてろよ。もう一回ブチ殺して地に返してやる」
◆
ダンジョンの出口の魔法陣まで戻された俺は、溜息混じりに立ち上がる。
ドロップとレベルアップの確認だ。
「お、モンスターカード出てるじゃん」
逃走中はまったく気が付かなかったけど、爺ちゃんか極美が拾って投げてくれていたらしい。
それに、魔石は全部で三十四個もある。
ゾンビの魔石は一個千二百円で売れる……ってことは全部で四万?
「ヤッバ……バイト辞めれるくね……?」
あの死に方を毎日するのはかなり嫌だが、それでも金は欲しい。
けど、あの蛆の群れはかなり気持ち悪かった。
集合体恐怖症が発症してもまったくおかしくない。
よし、今日は白子でも買って帰ろう。
次にレベルアップの確認だ。
お、今日だけで【
覚えたスキルは【
スキルにまで明日もやれって言われてるよ。
次のクラスは【
爺ちゃんと極美もレベル10になってたから適当に
極美が【
それから一週間ほどそんなペースで過ごしていると、一気にレベルアップが進んでいく。
さすが第四階層、一次職の必要経験値は一日とちょっとで貯まる。
俺が【
爺ちゃんが【
極美は
一次職はもう簡単にカンストするな。
二次職はさすがにレベルアップが遅い。
体感的にだけど、一次職の五倍以上の経験値を求められているような気がする。
俺の転職可能な一次職の残りは【
これはちょっと……うん、一旦置いておこう。
極美も一次職の【
爺ちゃんは直接戦闘系のクラスばっかりだったから、スキルも近接戦闘系ばっかでクソ強くなった。いや、元々めっちゃ強いから違いはよくわからんけど。
『死霊の楽園:第四階層』……八日目。
「グォォォォォォォ!」
もう逃げはしない。
真正面から戦ってやる。
こいつらの問題は数だ。湧いてくる速度が早すぎて処理が間に合わない。
だが、新たに十個以上のスキルを手に入れた俺ならその物量にも対応できる、はず……
まぁ、戦闘系スキルは半分くらいしかないんだけどな……
「【
手から雷撃がぶっ放され、ゾンビの一体に命中して動きが止まる。これは【
さらに【
このスキルは【
俺が取り出したのは『鉄パイプ』だ。
これならほぼ金はかからないし、マナが宿ってないからロストする心配はないし、仮に無くしてもまったく懐が痛くない。
マナの宿っていない物理攻撃はモンスターには効きにくいが、それはスキルで解決する。
「【
斬撃をマナで強化するこれも【
攻撃力がかなり強化されるし【
斬撃性能も強化されるらしいが、そもそも鉄パイプには斬撃性能なんかないからその効果は今のところほぼ意味がない。
次から次に【
極美は隠密系のスキルを多く獲得した。音を消す【
爺ちゃんはいつも通りだ。
避けて斬る。やってることを表現するとそれだけなのに、その動きが一々卓越している。
スキルもほぼ使ってないように見えるけど【
スキルに身体を慣らしているんだろう。
それと爺ちゃんは【ドロップ率増加】のスキルを二つ持っている。
俺たちも持ってる【
その効果が重複しているのかは謎だけど……
「ゾンビのモンスターカード出た。え、そっちも?」
すでに八体分のモンスターカードが俺の【
このペースなら【
見る限り、俺たちの処理スピードはゾンビの発生スピードより速い。それに俺には【
疲れない地形を選べて、しかも体力の自然回復も早くなるから持久力もかなり上がってる。
「今日にでも次の階層に行けそうだな……」
なんて呟きが聞こえたのか、ゾンビたちの行動パターンが突然変わった。
今までは【
なのにそれが、まるで混ざり合うように一ヵ所に集まっていく。
「カカカ?」
「カ……」
爺ちゃんと極美が近寄って来て「なんじゃ?」「変ですね」とでも言いたげに首を傾げていた。
眺めているとゾンビの塊がどんどん巨大化していき、それは最終的に一つの個体となった。
――モンスター【
全長は五メートル近い。ゾンビとゾンビが縫い合わさったようなその緑っぽい肉体はまるでフランケンシュタインみたいだ。
「じゃあ俺突っ込むから、援護よろしく」
二人の返事を待つことなく、俺は【
後ろから飛翔する斬撃と氷の槍が飛んできて、目の前の巨人の両肩に命中した。
「グォォォォォォォォォォォ!!!」
絶叫なのか遠吠えなのか、それとも別のなにかなのか……
よくわからん大声を出しながら、
「もしかして棺に入ってる時に上を歩かれてストレスでも溜まってるのか?」
拳に力を込めながら【
握り込んだ拳で俺の身長の半分近くありそうな巨大な足裏を殴りつける。
「俺が足ツボマッサージしてやるよ。突き刺さったらごめんな!」
言った通りに俺の拳は
けど、それでもヤツは動きを止めずそのまま俺を踏み潰した。
「痛っつぅ……重てぇんだよクソデブが、ダイエットしろや……!」
まぁ、圧死しなかっただけセーフか。
それに、ダメージを受けたことで【
【
「アガって来た!」
もう一発、飛翔する斬撃と氷の槍が今度は
ヤツが衝撃で後ろによろけた隙に俺は立ち上がり、もう一度、拳に力を込める。
「【
初めてのスキルの三重掛け……
色々と身体が激痛を訴えてくるが、この一発をあいつに食らわせてみたいという好奇心に比べれば痛みなんて心底どうでもいい。
目の前には少し前なら考えられない光景が広がっている。
俺は今、暴力を振るっている。振るわれてあんなに嫌だった暴力を振るう側にいる。
そうか、こんな気持ちか……
自分よりも弱いとわかりきってるヤツに振るおうとはまったく思えない。
けど自分と同等かそれ以上の存在に挑むってのは、楽しいモンだ。
これはたしかに、他のことじゃ体感できない興奮だ。
「ははッ、ハハハハハハハハハハ!!」
なんで俺、笑ってんだろ……
わかんねぇけど、どうでもいいや……
金も家族も天涯孤独も過去の失敗も……
今は、こいつをぶっ飛ばすってコト以外は全部――どうでもいい!
「【
よろけた巨体を追うように俺は大きく跳躍する。
その先はヤツの顔面。狙いは頭。
跳躍し、額に飛び付くように拳を突き出す。
打撃というより刺突に近い。
硬質化した俺の拳はその額の中にメリ込んだ。
肉の内側で手を開く。
「【
頭の中で電撃が爆発する。
黒い煙を口と鼻と耳から吐きながら……それでもさすが死体と言うべきか、
けれど……
ドスン、と音を立てて
その片足をよく見れば、氷漬けになっている。
極美の【
さらに【八艘跳び】によって俺と
落下と共に目にも止まらぬ斬撃を放ち、
「サンキュー二人共。【
もう一度、俺は頭に突き刺した手の先から雷撃をぶっ放す。
クソ痛い、なんて感覚すら消えていく……
多分、内側で爆発してるせいで俺の腕も焦げてる……けど……
「【
どうでもいいんだよそんなこと……!
「さぁ、ダメージが蓄積してきたぜ」
俺の右腕の肘から先はもうどうなってるのかわからない。
ちゃんとくっついてるのかすら疑問だ。
そんな死にかけの状態でこそ【
左拳を握りしめ【
「トドメだ」
眉間を殴りつけると同時に、
けど、地面に付く前に俺の身体は抱き留められた。
「骨だから普通に痛ぇや……」
髑髏だからわかんねぇけど、そう言った俺を抱えた極美は少し微笑んでいるような気がした。
それから極美と俺の【
さっきのデカブツを倒したせいなのかゾンビが湧く量がかなり少なくなっていて、爺ちゃんが護衛してくれたことで次の【
「脱出……」
掠れる意識の中そう唱えれば、次の瞬間には俺の身体は万全な状態に戻っていた。
「あぁ、疲れたぁ……」