第三陣営みたいなナニカ   作:よろぴくみん

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なんか、調子いい。


格好いい自己紹介とは、異世界共通なのである

 

人生、何事も上手くいくもんじゃない。

それは誰だってそうだ。特別なことじゃない。

 

「クソみてぇな境遇で、かわいそうな立場で……んで? なんだよ? だから、すべてを許してほしいってか?」

 

──クズがクズを生んで、その繰り返しなんだよ。この世の仕組みってやつは。

 

ありきたりな、どこにでもあるような、そんな話だった。

 

一人の少年が生まれた。

その少年の親は、人を殺したのだという。

身勝手な理由で他人の命を奪い、金を奪い去った、救いようのない罪人だという。

 

当然、世間は彼らを許さなかった。

罪を自覚しているのなら、その汚い命をもって償えと、石を投げつけた。

少年は泥水をすするような日々の中、ただ頭を下げ、必死に耐え忍んだ。自分には関係のない、親の罪という重荷を背負わされて。

 

季節は巡り、やがて少年は大人になった。

人の噂も七十五日などというが、それはただの綺麗事だ。

彼が人殺しの子として邪険にされずに生きてこれた日など、ただの一秒すらなかった。

 

親が残した莫大な借金。

呪いのような自身の境遇。

ただ今日一日を生き延びるための金を稼ぐのも、一日の食費を賄っていくのも、普通の人間がこなす努力の、何倍も、何十倍も過酷だった。

 

そんな少年は、ある日、ぷつりと糸が切れたように吹っ切れた。

──あるいは、悟ってしまった。

 

『このまま死んだように生きていても、しょうがない。最後に、ぱぁっと、派手に自殺しよう』

 

あぁそうだ。どこにでもあるような、ありきたりな結末。

けれど、そのクズの気まぐれが、俺のすべてを壊した。

 

「なんで……なんで、俺の家族なんだよ……ッ!!」

 

血の海の中心で、俺は泣き叫んだ。

対するそいつは、返り血で顔を真っ赤に染めながら、心底楽しそうに首を傾げた。

 

『なんで? なんで、かぁ。ん〜、よし!自殺しよう!って決めた時、一番近くにあった家だったから、かな?』

 

俺がたまたま家を空けていた、ほんのわずかな空白の時間。

俺の愛する家族は、まるで退屈しのぎのおもちゃのように弄ばれ、無残に殺された。

許せなかった。許せるはずがなかった。

 

だというのに、法は、国は、あいつをまともに裁いてはくれなかった。精神がどうだの、責任能力がどうだのという戯れ言の前に、俺の日常は踏みにじられたままだ。

 

だから、俺は刃を握った。

自分の手で、その報いを受けさせるために。

 

最期の瞬間、俺のナイフを深く突き立てられたあいつは、口から血を溢れさせながら、やはり嘲笑っていた。

 

『どこにでもある、ありきたりな話さ。クズから生まれた僕がクズになってしまったように。クズに壊された君は、僕を殺して新しいクズになってしまう。こうやって増えていくんだよ、負のループ。あぁ、本当に……誰も、救えない、ねぇ』

 

肉を断つ、生暖かく、不快極まりないあの感触は、今でもこの両手にべっとりとこびりついている。

あいつは死ぬその瞬間まで、ずっと笑顔のままだった。

 

──俺は、一体どうすればよかったんだろうな。

 

誰も教えてはくれない。

ただ、自らもクズの仲間入りを果たした俺に残されたのは、ただ灰色の後悔だけだった。

 

 

 

 

「……最悪だ。久々に見たよ、あの夢……」

 

ぽつりと漏らした自分の声で、目が覚めた。

視界に飛び込んできたのは、見慣れた我が家の、木目の天井。

 

『おい。起きたか? 寝坊助』

 

お馴染みの、どこか冷ややかで傲慢な少女の声が脳裏に響く。

 

「ゼーリエ……? ──あぁっ!? あの時いた子供たちは!? 無事!?」

 

一気に記憶が呼び戻され、ガバッと勢いよく跳ね起きる。

 

『……朝から喧しいな、全く。あの子供たちなら、責任を持って私が街へ送り届けてやったさ。全員、命に別状はない』

 

「……そっか。それなら、よかった……」

 

心底ホッとして、体から緊張の糸が抜けた──その瞬間だった。

 

「ィ゙ッッッッッ!!!!????」

 

尋常ではない激痛が、全身の神経を烈火のごとく駆け巡った。

のたうち回る余裕すら与えられない。体の芯から焼き切られるような痛みに、視界がチカチカと明滅する。

 

『当たり前だ。無理やり魔力回路を抉り開けたのだ。お前の意思とは関係なく、魔力が体内を巡るたびにその激痛が襲ってくるだろう。まだお前の脆弱な肉体が、魔力に慣れていないんだ。……そうだな、例えるなら、剥き出しの生肉に直接塩を刷り込まれているようなものだぞ』

 

「……っ、ハァ、ハァ……っ! もう絶対に、魔法なんて使いません……!! 農家になります、俺はクワを握ります……!」

 

涙目でそう宣言する俺に、脳内の大魔法使いは、冷酷極まりないトーンで引導を渡してきた。

 

『却下だ。私の魔力を持っておきながら腐らせるなど、この私が許さない。……精進しろ、ルナリス』

 

それだけを言い残し、ゼーリエの気配はフッと消えた。

あとに残されたのは、じんじんと痛む我が身と、理不尽すぎる現実だけ。

 

「はは……、人生、何事も上手くいくもんじゃない、か……」

 

前世の格言を今世でも噛み締めながら、俺は涙を拭って、ゆっくりとベッドに横たわった。

 

 

 

 

「ねぇ、なんて名前なの?」

 

ベッドの脇から、じっと俺の顔を覗き込んできた少女が口を開いた。

現在、俺は昨日助けた子供たちに、文字通り四方から詰められています。まぁ、外見年齢的には俺も人のことを言えないくらいには子供なんだけどね。

 

「ルナリス。──ただのルナリスさ」

 

あえて視線を斜め下に落とし、ちょっとミステリアスな笑みを浮かべて答えてみる。

よし、これは決まった。

 

「なにそれ…?」

 

「えっ」

 

ナリスと呼ばれていた、助けを求めていた方の女の子が、心底怪訝そうな顔で眉をひそめた。

おっと、おかしいな。どうやらこの格好いい自己紹介は、純粋無垢な異世界の子供には一切通用しないらしい。

ジェネレーションギャップ、あるいは世界の壁ってやつかな。

心がちょっと痛い。

 

冷静になって、俺のベッドを囲む面々を見渡す。助けた子どもたちは、全部で三人。

 

森の中で血に塗れて倒れていた、鋭い目つきの男の子の名前はクロス。

同じく致命傷を負って倒れていた、おっとりした雰囲気の女の子の名前はルミア。

そして、涙を流して助けを呼んでいた、今俺に冷たい視線をくれている女の子の名前はナリス。

 

昨日あんな凄惨な目に遭ったというのに、クロスとルミアの傷は綺麗に塞がっていた。あのゼーリエが、自分の魔力を使ってわざわざ治療してくれたのだろう。

 

「なぁ、ルナリス。一緒にいた、あの耳の尖った奴は連れてこなかったのか?」

 

ふと、怪我人の一人であるクロスが、部屋の入り口をキョロキョロと見回しながら尋ねてきた。

……耳の尖った、やつ?

え、ちょっと待て。

嫌な予感が頭をよぎる。

……もしかして。

 

『もしかしなくても、私のことだな』

 

脳内の精神世界から、ゼーリエがフンと鼻を鳴らした。

 

「あー……、あははー、いやー……。あいつは、その、今は、ぐっすり寝てる、かなぁ……?」

 

冷や汗をダラダラと流しながら、子供たちに適当な嘘をでっち上げる。

脳内では、即座に大魔法使いへの通信を開いた。

おい、どういうことだゼーリエ。お前、あの子たちを送り届ける時に、姿を見られたのか!?

 

『仕方がなかろう。お前が不甲斐なく気絶したのだからな。それにしても、〝魂の同化〟というのは興味深い。お前が私の力を使う他にも、私がお前の肉体の主導権を握ることもできるのだな』

 

『……は?』

 

『まぁ、お前が気を失っている間限定のようだが。それに、私が主導権を握った瞬間、お前の肉体が私の姿に変化してしまった。子供たちを背負って街の門をくぐった時は、少々騒ぎになってしまったよ』

 

こいつ……!

とんでもない爆弾発言を落としやがった。反省も何もしてねぇ……っ!!

 

脳内のゼーリエの解説によると、俺の中に眠る十の魂との「憑依(同化)」には、どうやら二つの形があるらしい。

 

一つは、俺が主導権を握る【変身型】。

俺の意識のまま、姿形をそのキャラに変え、能力を行使する。ただし、意識は俺のままでも口調や語尾はそのキャラの性質に引きずられてしまうらしい。

 

そしてもう一つが、昨日ゼーリエがやった、他者が主導権を握る【現界型】。

宿主である俺の意識が完全に眠っている時限定で、中の者が俺の肉体を乗っ取り、そのキャラクター自身として完全に現世に降臨する。そこに俺の意思は一ミリも存在しない。

 

つまり何か?

昨日、この街の門番や住民たちは、不気味な金髪のエルフの少女が、気絶した人間の子供たちを背負って帰還するっていう、あまりにも目立つ現場を目撃したってことか!?

 

「おい、ルナリス? 聞いてんのか?」

 

クロスが俺の顔の前でパチパチと手を振る。

いかん、一瞬だけ意識が現実逃避しかけていた。

 

「あ、ああ、ごめん。ちょっと頭がぼーっとしてて……」

 

「無理もないよ。あの時は本当に死ぬかと思ったけど、君たちが助けてくれたんだもんね」

 

それまで静かにしていたルミアが、包帯の巻かれた手を胸に当てて、優しく微笑んだ。

その瞳には、俺に対する純粋な、そして圧倒的な感謝の色が宿っている。

 

「本当に、ありがとうございました。あのエルフの人も、すっごく強くて綺麗だったけど……最初にボロボロの私達の前に飛び出してきてくれたのは、ルナリス、君だったから」

 

ナリスも、さっきまでの冷たい視線を和らげて、少し照れくさそうに頭を下げた。

 

前世では、誰かを助けようとした結果、碌なことにならなくて、後悔しか残らなかったからか、少し感動している。

 

今、目の前で生きているこの子供たちの笑顔を見た瞬間、全身を巡る魔力の激痛が、ほんの少しだけ和らいだような気がした。

 

「……いや、お礼を言われるようなことじゃないさ。俺は、ただ……」

 

「俺、強くなるよ」

 

俺の言葉を遮るように、クロスが拳を強く握りしめて、まっすぐな目で言った。

 

「あんな魔物に負けないくらい、ルナリスや、あのエルフの奴みたいに、大切な奴らを護れるくらい強くなる。──だからさ、ルナリス。俺たちと、友達になってくれよ」

 

前世の灰色した後悔が、彼らの真っ直ぐな言葉によって、少しずつ上書きされていくのを感じた。

今思えば、俺の運命は、ここから動き出していたのかもしれない。

 

「──俺でいいのなら、喜んで」

 

こうして俺は齢8歳にして、ようやく初めての友ができたのである。

 

 





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