インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』   作:suzuki00

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編入生

■ 1年1組・教室、朝のホームルーム

セシリアとの合同演習からさらに数週間後。

1年1組の教室は、朝から異様な熱気に包まれていた。一夏に続く「二人目の男子生徒」がフランスから編入してくるという噂に、登校するなりクラスの女子生徒たちが一夏の席の周りにどっと集まってくる。

 

「ねえねえ一夏くん! 聞いた!? お前と同じ男のIS適合者が出たんだって!」

「フランスの代表候補生らしいよ! どんな人なんだろうね?」

 

女子生徒たちが口々に教えてくれる中、一夏は目を丸くした。

「マジか……? 俺以外にも本当にいたんだな……。なんか、ちょっと安心したっていうか……」

 

「フン、安心している場合か、一夏」

隣の席から、腕を組んだ篠ノ之箒が呆れたような声をかける。

「男の適合者が増えたということは、それだけお前への注目や、周囲からの比較も厳しくなるということだ。少しは緊張感を持て」

 

一夏が苦笑いしていると、教室の引き戸がガラガラと開き、担任の織斑千冬と特別非常勤講師の白崎零士が入室してきた。一気に静まり返る教室。

 

千冬が教壇に立ち、書類をトントンと整えた。

「静かにしろ。……今日からこのクラスに新たな編入生を迎える。フランスの代表候補生だ。入ってこい」

 

促されて教室へ入ってきたのは、誰もが息を呑むほどに端正な顔立ちをした、金髪の儚げな少年――シャルル・デュノアだった。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。織斑くんと同じ男として、至らない点もあるかと思いますが、よろしくお願いします」

 

爽やかな笑顔を浮かべるシャルル。一夏が「よろしくな、シャルル!」と嬉しそうに手を振る中、教壇の後ろに控えていた零士の目が、すっと細くなった。

 

(……なるほど。骨格、歩幅、重心の置き方、そしてあの声の波形。フランス本国が何を企んでいるかは察しがつくが……実物を見ると一目瞭然だな)

 

数々の修羅場をくぐり抜けてきた零士の眼力からすれば、シャルルが「男装した少女(シャルロット)」であることなど、初見で見破るには容易すぎた。だが、零士はそれを今ここで暴露するような野暮な真似はしない。

 

「フランスの至宝がわざわざこんな男世帯に飛び込んでくるとはな。……デュノア、歓迎するぞ」

「あ、ありがとうございます、白崎先生……」

 

零士の、すべてを透視するような深い漆黒の瞳に見つめられ、シャルルは一瞬だけゾクッと背筋に冷たいものを感じた。

 

――だが、波乱のホームルームはこれだけでは終わらなかった。

シャルルが自己紹介を終えたその瞬間、教室の扉がバンッ!!!と音を立てて乱暴に開け放たれた。

 

夕闇ならぬ、朝の瑞々しい光が差し込む入り口に立っていたのは、軍服のような漆黒の制服を身に纏い、左目に黒い眼帯をした銀髪の少女――ドイツのIS特殊部隊隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒであった。

 

ラウラは周囲を一瞥もせず、軍靴の音を響かせながら真っ直ぐに一夏の前へと歩みを進めた。目的は、自分がかつて教官として仰ぎ、崇拝していた織斑千冬の弟でありながら、その名を汚したと思い込んでいる織斑一夏への制裁。

 

「お前が、織斑一夏か」

「え? ああ、そうだけど……」

 

一夏が戸惑う暇もなく、ラウラは電光石火の速度で右手を振り抜いた。空気を切り裂く鋭い平手打ち。一夏の頬へ直撃するかと思われた、その瞬間――。

 

ガシッ。

 

「……なっ!?」

 

ラウラの動きが、完全に静止した。彼女の細い手首を、横から伸びてきた零士の大きな手が、万力のような力で完璧に掴み取っていたのだ。

 

「そこまでにしてもらおうか、お嬢さん」

冷徹で、極上の絹のようになめらかな声。教壇から音もなく移動していた零士が、ラウラを手首一つで完全にねじ伏せていた。

 

「放せっ……! 貴様、何者だ!」

「このクラスの副担任および護衛責任者、白崎零士だ。いくらドイツの代表候補生だろうが、朝のホームルーム中に俺の目の前で生徒に手を出すことは許さん」

 

零士がゆっくりと手を放すと、ラウラは一歩、後ずさりをした。

「……織斑千冬の弟。そして、不愉快な男め。私はお前たちを認めない……絶対にだ!」

ラウラは激しい敵意の言葉を叩きつけると、翻って教室を去っていった。

 

朝から始まった怒涛の展開に、一夏は冷や汗を拭いながら零士を見上げた。

「す、救われました、零士先生……」

「気にするな。……さて、デュノア。お前の席は一夏の隣だ。それと、お前たちは寮も同室だったな。仲良くやるんだぞ」

「えっ!? シャルルと俺、同室なんですか!?」

驚く一夏をよそに、シャルルは「うん、よろしくね、織斑くん」と微笑みつつも、先ほどラウラを一瞬で止めた零士の底知れない強さに、完全に警戒のメーターを跳ね上げていた。

 

 




■ 同日、放課後――ボンゴレへの暗号通信
放課後。割り当てられた講師控え室で、零士は一人、イタリア本部との暗号通信を繋いでいた。モニターに映し出されたのは、ボンゴレのバックオフィスを支える男、獄寺隼人だ。

「――こちら零士だ。獄寺、至急調べてほしい案件がある。『シャルル・デュノア』という男の適合者が、フランス本国に本当に実在したのかどうか、戸籍と裏のデータを洗ってくれ」

『あぁ? 零士か。フランスのデュノア社だな……分かった、すぐに嵐の部隊のネットワーカーどもを動かす。――あそこは今、第3世代ISの開発競争に破れて倒産寸前のはずだ。男の適合者なんていう隠し玉で、国からの資金援助を必死に繋ぎ止めようとしてるんだろうが……妙だな』

「やはりな。今日、本物(編入生)を見たが、あれは男装した少女だ。おそらくデュノア社の現社長の隠し子、シャルロット・デュノアだろう。実家の危機を救うために、男と偽って学園に潜入させられたといったところか」

『チッ、実の娘を政治の道具に使いやがって、胸糞悪い国だぜ。どうする、零士? 十代目の神聖な任務に支障が出るなら、社会的につぶしてやってもいいんだが?』

「いや、逆だ。彼女は一夏の同室になった。護衛対象の最も近くにいる人間が、実家の金策ごときで精神を不安定にされては困る。――救済(介入)するぞ、獄寺」

『救済だと?』

「ボンゴレのフロント企業を経由して、デュノア社に大規模な融資を行え。それと、技術的なバックアップもだ。ジャンニーニ、あるいは入江やスパナの技術ストックから、ISに転用可能な『全く新しい次世代エネルギーの制御技術』の特許をいくつか、デュノア社名義で提供してやれ。技術提供の対価という名目でな」

『……ハッ、相変わらず手際がいいな。分かった、ボンゴレのフロント企業を使って、今夜中にフランス政府の介入すら突っぱねる巨大資本を叩き込んでやる。明日にはデュノア社の株価は跳ね返るはずだぜ』

「頼む」
通信を切り、零士はコーヒーを一口すする。
これで、隣にいる少女の「憂い」は消える。護衛としての環境整備としては完璧だった。
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