インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
1年1組・2組 合同授業(演習場)
中国の代表候補生であり、一夏の幼馴染でもある凰鈴音がIS学園に来日してから数週間。
この日は、1組と2組による初めての合同実技授業が行われていた。
広大な演習場を見下ろす管制ブースでは、織斑千冬が腕を組み、その隣で白崎零士がタブレットに表示されるリアルタイムの戦闘データを冷徹な目で見つめている。
フィールド中央では、セシリア・オルコットと2組の凰鈴音がペアを組み、副担任である山田真耶先生が駆るIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタム』と激しい模擬戦(エキシビション)を繰り広げていた。
「チッ、すばしっこいなあの先生!」
専用機『甲武』を駆る鈴が、背部の衝撃砲を躊躇なくぶっ放し、鋭い踏み込みで近接打撃を放つ。だが、山田先生は現役の各国代表クラスをも手玉に取るプロのIS操縦士だ。鈴の直線的な突撃を最小限の挙動で予測し、すでにカウンターの体勢に入っていた。
以前のセシリアなら、ここで自分勝手に暴走する鈴に文句を言うか、あるいは連携のタイミングを失って自滅していただろう。
しかし、今のセシリアの脳内は、あの地獄のお手玉訓練を経て、驚くほど冷静にマルチタスクを処理していた。
(鈴の突撃リズムが『1』……先生の回避軌道の予測が『2』……私はその先へ!)
セシリアはパニックに陥ることなく、肉体の操作を『無意識(オート)』に委ねながら、脳の独立した領域で瞬時に弾道計算を弾き出す。
背部の『ブルー・ティアーズ』から放たれた青いレーザー光線が、山田先生の退路を完璧に先読みし、逃げ場を塞ぐようにして一点へと収束した。
「おっとっと! やるわねセシリアさん!」
山田先生が目を見張り、プロの意地で急制動をかけてそれを回避する。
そこからの山田先生のハイスピードな反撃は、やはり一筋縄ではいかなかった。猛烈なカウンター射撃を受け、最終的にはセシリアたちのシールドエネルギーが規定値を下回り、システム上は敗北となった。
しかし、一連の息を呑むような高度な連携に、場内のモニターを見ていた生徒たちからは大きなどよめきと大歓声が沸き起こった。
■ 試合終了後、フィールドにて
「はぁ、はぁ……くそ、やっぱり強いな、山田先生」
悔しそうに荒い息を吐きながら、専用機を解除する鈴の傍らで、セシリアもまた、フィールドの地面に膝をついて肩で息をしていた。
どんなに特訓を重ねても、現役のプロには届かなかった。その悔しさと、自身の未熟さが胸を締め付ける。
「……負け、ましたわね。やはり、私など……」
ふっち、と俯くセシリアの視界に、砂埃の舞う地面とは不釣り合いな、シワ一つない完璧に整えられたブラックスーツの裾が映り込んだ。
ハッと息を呑んで顔を上げると、いつの間にか管制ブースから降りてきていた白崎零士が、すぐ目の前に立っていた。
「白崎、先生……」
セシリアは身を強張らせ、ぎゅっと目を瞑った。「まだマルチタスクが甘い」と、あの冷徹な声で叱責される覚悟をしたのだ。
しかし、予想していた厳しい言葉は返ってこなかった。
零士はセシリアの前で静かにしゃがみ込むと、いつも冷酷に銃身を弾くその大きな手を、セシリアの艶やかなブロンドの髪へとそっと置いた。そして、優しく、包み込むようにその頭を撫でた。
「あの来日初日に比べたら、見違えるほど成長したな。鈴の動きをよく見て、自分の欲をコントロールできていた。……いい動きだったぞ、セシリア」
「あ……」
セシリアの思考が、真っ白にフリーズした。
カッと、顔が沸騰するように熱くなるのが自分でも分かった。
いつも冷徹で、自分にも他人にも厳しく、世界最先端のISすら身一つで圧倒するあの絶対的な強者――「白崎零士」が。
誰よりもプライドが高く、誰にも弱音を吐けなかった自分の努力を、ずっと見ていてくれた。そして、今、こうして真っ直ぐに認めてくれたのだ。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように愛おしさで満たされていく。
「……っ、当然ですわ! 私は、イギリスの代表候補生、ですから……っ」
零士の手の温もりに泣きそうになるのを必死に堪え、フイッと恥ずかしそうに顔を背けたセシリアだったが、真っ赤に染まってしまった耳たぶまでは隠しきれない。
「そうだな。期待しているぞ、オルコット」
零士はいつもの不敵な笑みを浮かべて手を離し、そのまま一夏たちの方向へと歩き去っていく。
遠ざかるその後ろ姿を見つめながら、セシリアはトクトクと激しく脈打つ胸にそっと手を当てた。
胸の奥で、あのお手玉の無機質なリズムなど遥かに置き去りにするほど、熱く、甘く、激しい鼓動が火を噴いたように鳴り響いている。
それは、生まれて初めて知る『敗北以上の衝撃』だった。
世界で唯一の男性IS適合者の出現に揺れ、イギリス代表としての重圧に押し潰されそうになっていた自分を、この人は生身一つで、その圧倒的な強さと正論で救い出してくれた。ただ厳しいだけではない。泥をすすりながら積み重ねてきた自分の地道な努力を、あの氷の瞳は最初からすべて見届けてくれていたのだ。
(ああ、私は……この人に認められたかったのですわ……っ)
頭頂部に残る、零士の手のひらの大きさと、決して容赦のない男だからこそ重みを持つ、あまりにも優しい温もり。
イギリス代表としての傲慢なプライドは、今や完全に溶けて崩れ去り、その下に隠されていた「一人の少女」としての純粋で狂おしいほどの恋心へと塗り替えられていた。
プライドを捨てたのではない。
この「白崎零士」という至高の男に相応しい、世界でただ一人の特別な女性になりたいという、さらに高位の、甘美なプライドへと昇華されたのだ。
「……っ、当然ですわ! 私は、イギリスの代表候補生、ですから……っ」
フイッと顔を背けたセシリアだったが、真っ赤に色づいた耳たぶも、恋の熱に浮かされて潤んでしまった碧眼も、もう隠し通すことなどできはしない。
去りゆく零士の完璧なブラックスーツの背中を見つめながら、セシリアは破裂しそうなほど脈打つ胸を両手でぎゅっと抱きしめた。
その胸中を占めるのは、一夏への対抗心でも、専用機の誇りでもない。ただ一人の男の体温。
セシリアの零士に対する好感度は、この瞬間、魂の底から沸き立つようにして文字通り最高潮(MAX)の限界値へと達したのだった。