インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
■ クラス対抗マッチ・バトルフィールド
シャルルが「実は女の子(シャルロット)」であるという秘密を、一夏と零士の間だけで共有しつつ迎えたクラス対抗戦。
本来であれば、一夏とシャルロットのペアに対し、ラウラと非常勤講師の白崎零士がコンビになる。
「先生、私の隣に立つ資格があるのは……お前だけだ」
「やれやれ、我が儘なお嬢さんだな。戦闘中の足引っ張りだこは勘弁してくれよ」
ISを展開するラウラの『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隣で、相変わらず生身のブラックスーツ姿で不敵に佇む零士。対峙する一夏の『白式』とシャルロットの『ラファール・リヴァイヴ・カスタム』が、その異様な光景に身構える。
「いくよ、織斑くん!」 「おう! 息を合わせるぞ、シャル!」
試合開始の合図とともに、一夏とシャルが鮮烈な連動攻撃を仕掛けた。シャルの『ラファール・リヴァイヴ・カスタム』がマルチウェポンシステムを駆使した精密な弾幕でラウラの死角を執拗に攻め立て、動きを制限する。バックアップに徹する零士の存在を警戒しつつも、二人の連携は完璧だった。
弾幕を強引に突破しようとするラウラに対し、一夏が『白式』の機動力を活かして急速接近。シャルの絶妙な牽制射撃に連動し、一夏が放った鋭い一撃がシュヴァルツェ・ハーゼの絶対障壁を大きく削り取る。
「しまっ――!?」
完全に虚を突かれたラウラへ、さらに二人の息の合った波状攻撃が容赦なく叩き込まれる。アリーナを驚愕させるほどの善戦を見せる一夏とシャルに対し、防戦を強いられたラウラは目に見えて追い詰められていった。
(何故だ……! 守るべき男(零士)の目の前で、私はこれほど無様に……ッ!!)
特等席で見せつけるはずだった己の強さが通じない焦燥、そして一夏への激しい敵対心とプライドの激昂。それが限界を超えた瞬間、誰もが予想だにしない最悪の異変が起きた。
ドイツ軍の非合法施設はボンゴレの手によって壊滅したものの、ラウラの機体に深く刻まれていた「呪い」――『VTシステム』が、彼女の急激な精神の高揚に過剰反応して暴走を始めたのだ。
『警告、精神同調率が許容量を超過。VTシステム、強制起動』
「が、あ、あああああああッ!!?」
ラウラの絶叫がアリーナに響き渡る。 シュヴァルツェ・ハーゼの装甲が生き物のように蠢き、かつて世界を震撼させた第1世代型IS『白騎士』の残影を思わせる、不気味で圧倒的な白い戦闘形態へと変貌していく。ラウラの意識はシステムの濁流に飲み込まれ、その瞳は敵味方の区別を失って血走っていた。
「シャル、下がれ!! ラウラの様子がおかしい!」
「織斑くん、あれは……システムがおかしくなってる!」
先ほどまでの善戦から一転、暴走し「白騎士もどき」と化したラウラは、凄まじい出力で巨大なブレードを振り回し、フィールドの障壁を削り取りながら、無差別に破壊の嵐を巻き起こす。一夏とシャルロットが防戦一方になる中、暴走の負荷によってラウラ自身の肉体と精神(脳)は限界を迎えようとしていた。
「これ以上は、彼女の脳が焼き切れるわ! 試合を中断して強制排除を――!」
管制ブースの千冬が叫ぶが、システムが完全にハッキングされており、外部からの緊急停止コードを一切受け付けない。
その時、破壊の嵐が吹き荒れる真っ芯へ、一人の男がゆっくりと歩み出た。
「先生!? 危ない、下がってください!」
一夏が叫ぶ。 しかし、白崎零士はいつもの気怠げな表情を消し、胸元の銀のロザリオへと手を伸ばした。ボンゴレの新武器であり、零士の意志で極限の氷結晶を新造・展開する特殊兵器『VIS』。
「兵器ごときが、俺の生徒の脳(領域)を侵食するなと言ったはずだ。――VIS、フル・アームド展開(アクセプト)」
零士の言葉に応じるように、ロザリオがカシャリと精緻な機械音を立てて分解・拡張を始める。 結晶化した「雪の炎」が純白の冷気を放ちながら瞬時に零士の全身を包み込み、まばゆい光の粒子を収束させていく。
光が収まった時、そこに立っていたのは、もはや生身の男ではなかった。 白銀の美しい装甲には禍々しくも幻想的な氷の紋様が刻まれ、背中には左右で性質が異なる一対 of 翼――左には浄化と守護を司る天使の純白の氷晶翼、右には破壊と裁定を司る死神の漆黒の氷刃翼を広げた、圧倒的な威容。 それこそが、零士の真の姿である【氷零の終焉騎士(フロスト・エンドワルツ)】であった。
天使の如く舞い、死神の如く刈り取る王者の絶対的な存在感に、アリーナ全体が息を呑み、静まり返る。 零士は武装一覧から、氷の力を濃密に宿した漆黒の刀身と白銀の刃紋が浮かぶ『長刀』を静かに抜き放った。
ドン、と零士が空間を蹴った。 ISの超高速移動をも遥かに凌駕する速度。零士はラウラが振り下ろした、障壁をも一撃で叩き割る巨大な一撃を、左右の翼で完璧にバランスを保ちながら死角へと滑り込むことで鮮やかに回避。 そのまま、暴走する白騎士の装甲の懐へと瞬時に肉薄した。
「ヴィイィィィアアアッ! 邪魔をするなアアッ!!」
狂乱するラウラがゼロ距離でヴァイヤーブレードを突き出す。だが、零士は冷徹な瞳を崩さない。長刀を逆手に構え、対マフィアモードのみで使用する死ぬ気の炎(雪の炎・凍結効果)を刀身全体へと最大出力で上乗せする。
「終わりだ」
吸い込まれるような一閃。 空間ごと絶対零度に凍りついたかのような錯覚の中、零士の長刀が白騎士もどきの絶対障壁を、そして強固な外部装甲を文字通り一刀両断に切り裂いた。
パキィィィン!!! と、ガラスが砕け散るような高い音がアリーナに響き渡る。 零士の精密無比な剣技と雪の炎のフリーズ効果は、中のラウラの肉体には微塵の衝撃も与えず、暴走の根源であるVTシステムの外部装甲と制御回路だけを、冷徹に「切って救った」のだ。
「くっ……う, あ……」
不気味な白い装甲が綺麗な断面を見せて剥がれ落ち、光の粒子となって霧散していく。 システムの濁流から解放され、意識を失ってアリーナの床へと倒れ込むラウラの生身の身体。零士は【氷零の終焉騎士】の装甲と長刀を素早く消滅させ、いつものブラックスーツ姿に戻りながら、その華奢な身体を大きくて強固な腕の中へと、お姫様抱きのようにしっかりと受け止めた。
静まり返るアリーナ。一夏もシャルロットも、そして観客席の女子生徒たちも、ISを遥かに超越した独自の重装甲武装(VIS)を使いこなし、暴走ISを無傷で完全に切って制圧してみせた非常勤講師の規格外の強さに、言葉を失っていた。
「……お騒がせしたな。織斑先生、このお嬢さんは俺が保健室へ運んでおく。授業を続けてくれ」
零士は腕の中のラウラを愛おしそうに見つめると、ブラックスーツを翻して悠然とフィールドを去っていった。
異変の隠蔽と、霧の幻術師
アリーナから続く静かな廊下を、零士は足早に通り過ぎていく。腕の中のラウラは、先ほどまでの狂乱が嘘のように静かな寝息を立てていた。VTシステムの暴走による精神的負荷は、雪の炎の凍結効果によって完全にシャットダウンされ、彼女の脳は今、深い急速モードに入っている。
「……やれやれ。柄にもなく、少しばかり派手にやりすぎたな」
保健室に到着し、そっとラウラをベッドへ横たえた零士は、首元のロザリオ――『VIS』へと視線を落とした。
IS学園という、世界中の注目が集まる場所で【氷零の終焉騎士(フロスト・エンドワルツ)】の姿を晒し、雪の炎を最大出力で解放してしまった。織斑千冬や生徒たちの記憶をそのままにしておけば、明日にはボンゴレの存在はおろか、ISを凌駕する超技術の存在が世界中に露見してしまう。
零士はポケットから特製の通信端末を取り出すと、慣れた手つきで特定の暗号回線へと繋いだ。
呼び出し音は二回と鳴らない。画面には、妖艶な笑みを浮かべたオッドアイの男――六道骸の姿が映し出された。
『クフフ……おや、珍しい方からの連絡ですね、零士。そちらでの“教師ごっこ”は退屈極まりないと思っていましたが、ずいぶんと面白いことになっているようだ』
画面の向こうの骸は、すでに学園のアリーナで起きた「異常事態」を察知しているようだった。霧の守護者たる彼の情報網と、精神世界へのアクセス能力を侮ることはできない。
「話が早くて助かる。見ての通り、少しばかり不手際があってね。俺の『雪の炎』とVISの展開を目撃した連中の記憶を、少しいじって欲しい」
『クフフ、簡単に言ってくれますね。IS学園の全生徒と、あの織斑千冬の記憶を書き換えるとなれば、それなりの労力が必要ですよ? 僕をタダ働きさせるつもりですか?』
ククク、と愉しげに三叉槍を弄ぶ骸。しかし、零士はその反応を完全に予測していた。胸ポケットから、あらかじめ用意していたイタリアの老舗ブランドの高級チョコレートのカタログ(ボンゴレ特販品)をカメラにかざす。
「お前が狙っていた、例の限定新作チョコレートだ。マフィアのルートでも手に入らない逸品を、今夜中に黒曜ヘルシーランドへ届けさせよう。……これでどうだ?」
『……。クフフ、やはりあなたは僕の扱いをよく分かっている。いいでしょう、その取引(チョコレート)、謹んでお受けします』
骸の瞳の数字が『一』から『六』へと転じる。
次の瞬間、IS学園全体を、目に見えない薄い「霧の炎」が優しく包み込んだ。
アリーナで騒然としていた生徒たち、そして管制ブースで頭を抱えていた織斑千冬の脳裏で、直近数分間の記憶が、骸の精緻な幻術によって鮮やかに書き換えられていく。
【修正された記憶】:ラウラのISがシステムエラーで暴走。しかし、非常勤講師の白崎零士が、ISの隙を突いて生身でコックピットへと肉薄。物理的な緊急ハッチ解放によって彼女を救出し、暴走したISはセーフティ機能の作動により自動停止した――。
誰もがその「偽りの現実」に納得し、【氷零の終焉騎士】の威容も、絶対零度の長刀の一閃も、最初からなかったこととして人々の意識から消え去っていった。
覚醒、そして不敵な日常へ
「……う、ん……」
霧の炎が完全に収まった頃、ベッドの上のラウラが微かに身悶えし、その隻眼をゆっくりと開いた。
視界に映ったのは、保健室の白い天井。そして、傍らのパイプ椅子に腰掛け、いつものように気怠げに雑誌をめくっている白崎零士の姿だった。
「目が覚めたか、我が儘なお嬢さん」
「……先生? 私は……確か、織斑一夏たちと戦っていて、それから……」
ラウラは頭を抑え、記憶の混濁に眉をひそめる。彼女の記憶からも、VTシステムの暴走の恐怖や、零士が騎士の姿に変貌した光景は綺麗に消去されていた。ただ一つ、残っているのは――。
「……お前が、私を助けてくれたのか?」
「さあな。お前が勝手に暴走して倒れたから、俺がここまで運んでやっただけだ。お前を鍛え直す旅路は、まだまだ遠いようだな」
零士はフッと不敵な笑みを浮かべると、ラウラの頭を少し手乱暴に、しかし愛おしそうに撫でた。その大きな手の温もりに、ラウラは頬を微かに赤く染めながらも、嬉しそうに目を細める。
「ふん……やはり私の隣に立つ資格があるのは、お前だけだ、零士」
「はいはい。早く体力を戻して、次の授業には顔を出せよ」
立ち上がり、ブラックスーツを整えて保健室を後にする零士。
その背中を見送りながら、ラウラは確信していた。この底知れない男の傍にいれば、自分はどこまでも強くなれるのだと。
廊下に出た零士は、スマホに届いた『美味しくいただきました。クフフ』という骸からのメッセージを確認し、苦笑しながらそれを消去した。