インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
【ショッピングモール到着:姿を消す鉄馬】
週末で賑わうショッピングモールの地下駐車場。
零士の運転するロールスロイスが滑り込むと、薄暗い空間の中でもその漆黒の車体は一際目立っていた。周りのドライバーや歩行者が「お、おい、なんだあの車……」と唖然とした視線を向けてくる。
「さて、到着したな」
「うわぁ、本当にあっという間だったね。すっごく快適だったよ、零士」
「そうですわね。揺れも全くありませんでしたわ。さすがですわ、零士さん」
シャルルとセシリアが満足そうに息を吐き、一夏は緊張のドライブから解放されて「ふぅ……」と胸をなでおろしていた。
「お前たちは先にエレベーターホールへ向かっていろ。車をきっちり枠内に収めてから行く」
「おう、わかった! 零士、ありがとな!」
一夏を先頭に、水着選びに胸を躍らせる女子たちがぞろぞろと車を降りていく。「鈴、足元に気をつけるあるよ!」「シャルルこそ!」なんて騒がしい声を残しながら、彼女たちは自動ドアの向こうへと消えていった。
カツン、と静かな足音が地下駐車場に響く。
車外へ出た零士は、周囲を見回した。監視カメラの死角であり、かつ今は完全に人気(ひとけ)がないことを確認する。
「……戻れ」
零士が空間に軽く手を振ると、再び幾何学的な『筺(ボックス)』のインターフェースが空中に出現した。画面を流れるようにタップすると、ロールスロイスの巨体が光の粒子へと分解され、吸い込まれるようにして空間の裂け目へと消えていく。
そこには、最初から何もなかったかのように、ただのガランとした駐車スペースだけが残された。
鍵をポケットにしまい、零士は何食わぬ顔でエレベーターホールへと歩き出す。自動ドアをくぐると、すでに一夏が女子たちに囲まれて「だからまだ決まってないって!」と早くもキャパオーバーになりかけていた。
「待たせたな」
零士が声をかけると、シャルルがぱっと笑顔を輝かせた。
「あ、零士! 遅いから迷子になっちゃったかと思ったよ」
「そんなわけないだろ。さあ、行くか。一夏のライフが売り場に着く前にゼロになりそうだからな」
「おい零士! 助けてくれよ!」と嘆く一夏を無視して、零士は先行してエスカレーターへと向かう。その後ろを、華やかな美少女たちと哀れな一夏が追いかけていく。
いよいよ、嵐の水着特設売り場へと、一行は足を踏み入れるのだった。
【水着売り場の狂騒曲:教官の極上たる口説き文句】
水着特設売り場――そこは、ある意味で本物の嵐よりもタチの悪い戦場だった。
色鮮やかな水着が所狭しと並ぶフロアに足を踏み入れた瞬間、セシリア、シャルル、ラウラ、そして箒と鈴の五人は、一夏を巻き込んで早くも大騒ぎを始めていた。一夏は相変わらず「どれも良いと思うぞ!?」とキャパオーバーで右往左往している。
そんな騒がしさの中心から少し離れた柱にもたれ、白崎零士はその光景を眺めていた。
「……相変わらず賑やかだな。まあ、臨海学校前だ。無理もないか」
どこか楽しげに小さく肩をすくめた後、零士は軽く歩み寄る。
「おい、一夏。随分と修羅場だな」
「れ、零士!? ちょっと助けてくれ!」
縋るような目。だが零士は一歩引いて、淡々と返す。
「無理だな。これはお前の役目だ。逃げるな」
「そんなぁ!?」
そのやり取りに、女子たちの視線が今度は零士へと向いた。
「……白崎零士。貴様も評価しろ」
ラウラが鋭く言う。
「そうですわね。客観的な意見としては悪くありませんわ」
セシリアも腕を組む。
「零士なら変な気遣いしないあるしね」
鈴が頷く。
「……う、うむ。参考にはなるな」
箒も渋々ながら同意し、シャルルは少し安心したように微笑んだ。
囲まれる形になり、零士は小さく息を吐く。
「……仕方ないな」
一夏のようにオロオロと取り乱すことはない。零士はあくまで一人のレディに対する礼儀として、そして彼女たちの魅力を誰よりも理解する者として、真剣に、どこか口説くような甘さを孕んだ声で一人ずつ視線を向けていった。
まずは鈴。赤を基調としたチャイナ風の水着。
「鈴、お前はその鮮やかな色が本当によく映える。快活な動きやすさの中に、お前だけの特別な愛らしさが詰まっているな。……とても目を引く、お前らしい魅力だ」
「……っ!? べ、別に、そんな風に褒められたって、嬉しくなんかないある!」
鈴は顔を林檎のように真っ赤にして、ぷいっとそっぽを向いた。だが、その口元は完全に緩んでいる。
次にシャルル。パステルカラーの柔らかなデザイン。
「シャルルはそれで正解だ。お前の持つ純真さと、触れたくなるような清潔感が完璧に調和している。……思わず見惚れるほど、本当によく似合っているよ」
「……っ、ありがとう、零士」
シャルルは胸元に水着をきゅっと抱きしめ、熱い吐息を漏らしながら嬉しそうに、けれどどこか妖艶に微笑んだ。
セシリアへ視線を移す。フリルと装飾が目立つ華やかな一着。
「セシリア、それは完成されているな。選ぶ必要がないくらいだ。お前の気品と極上のプロポーションがあって初めて着こなせる、まさに大英帝国の至宝に相応しい一着だよ」
「ふふ、ふふふ……! 当然ですわ!」
セシリアは最高に満足げに、頬をバラ色に染めて優雅に微笑んだ。
そして箒。スポーティで引き締まったデザイン。
「箒はそれだな。無駄が一切ない。日頃から鍛え上げられたその美しい身体のラインが、何よりも官能的に引き立っている。……素晴らしいな」
「なっ……! 身体、の……ライン……!? そ、そうか……」
箒は自分の身体のあちこちを隠すようにしながら、耳まで真っ赤にして身悶えしている。
最後にラウラ。手にしているのは例の“紐”。
零士は一瞬沈黙し、彼女のすぐ近くまで歩み寄ると、その耳元で低く囁いた。
「……ラウラ、それは却下だ」
「なぜだ」
「そんなものを着たお前を、他の男の目に晒したくない。防御力がゼロなのは、俺の理性の話だ」
「お、俺の、理性……!? ご、合理的、いや、情熱的な判断か……! なら、別のにする!」
ラウラはかつてないほど激しく狼狽し、顔から湯気を出さんばかりの勢いで大人しい水着を選び直しに走っていった。
一夏が顎が外れんばかりの顔で思わずツッコむ。
「言い方! あと基準そこなのかよ!?」
零士はふっと口元を緩め、全員を見渡して肩をすくめた。
「全員、本当に似合っている。正直、甲乙はつけられないな。……美しいレディたちだ」
その一言で、売り場の空気が完全に凍りついた。いや、熱を帯びて静まり返った。
「……っ」
「……ふ、ふん」
「……へへ」
「……ありがと」
「……当然ですわ」
それぞれ反応は違うが、全員が胸をときめかせ、完全に零士の言葉にノックアウトされていた。
一夏がわなわなと震えながら小声で呟く。
「俺より説得力あるっていうか……おい零士、お前ナンパ師か何かなのか……?」
「ただの事実を言ったまでだ。さて――」
我に返った箒とセシリアが、今度は嫉妬と独占欲を織り交ぜた凄まじいプレッシャーを放ちながら、一夏ではなく、なぜか零士の周りをジリジリと囲み始める。
「零士さん……一夏にはデリカシーがありませんが、あなたという人は、少し罪作りすぎますわ!」
「そうだぞ零士! 誰にでもそんな風に言っているのか!?」
「零士、私の次の水着も選んでくれ!」
「おい、待てお前たち。売り場でISを展開しようとするな。一夏、何とかしろ」
「無理だよ! 零士が自業自得だろそれは!?」
ショッピングモールに響き渡る、今度は零士と一夏の妙な掛け合い。
臨海学校の本番を迎える前に、非常勤講師としての平穏な日常は、彼女たちの熱気によって早くも溶かされようとしていた。