インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
並外れた頭脳を持つ五人の天才たちが一堂に会する場所――それは、ボンゴレのアジトの最深部に位置する、最先端の実験機材が並ぶ特設開発室だった。
中央のホログラムプロジェクターには、かつて篠ノ之束が設計したオリジナル『暮桜』の基本フレームが、禍々しい赤い光を放ちながら浮かび上がっている。
「――というわけで! 以前の暮桜はね、ボクの悪い癖で『当たれば一撃必殺だけど、動かすだけで操縦者の寿命が縮む』みたいな、出力(パワー)偏重のバカげた失敗作だったの。今回の『調律型(シンフォニア)』はそれを全否定! 箒ちゃんを包む、世界一優しくて絶対に傷つかないバランス型にするんだよ!」
大型モニターの前に陣取った篠ノ之束は、指示棒を振り回しながら満面の笑みで言い放った。
その言葉に、デスクで数式入りの端末と格闘していた入江正一が、こめかみを押さえながら深くため息をついた。
「束さん、お気持ちは分かりますが……。送られてきた新しいコアの基本設計データ、これでもまだ出力が常人の許容値を超えています。IS特有の瞬間的なエネルギー反動(キックバック)は、生身の箒さんの肉体に深刻な負荷を与えかねません。キャハハ、じゃ済まないんですよ、僕の胃の位置が恐怖でズレそうです」
「大丈夫、大丈夫! 正ちゃんは心配性だなぁ」
「心配しますよ! だから僕の役割は、システム全体に多層的なセーフティ・フレームワークを組み込むことです。機体パワーが一定値を超えた瞬間、過剰なエネルギーを強制的にバイパスさせ、過負荷(オーバーロード)を完全に無効化する安全回路を統合します。……よし、これでバグは出ないはず」
眼鏡を押し上げながら、正一はキーボードを叩き、束の暴走しがちな設計図に鉄壁の防御プログラムを編み込んでいく。
その横で、口にロリポップキャンディを咥えたスパナが、独自のツールで機体の3Dモデルを弄っていた。
「正一の言う通り、いくら安全でも、動いた時のレスポンスが硬くちゃ意味がない。箒の過去の戦闘データを見たけど、彼女の剣術は一瞬の踏み込みと、滑らかなステップが命だ。だから俺は、メインフレームを支えるインナーフレーム(駆動骨格)のトルク配分をミリ秒単位で調整した」
スパナは画面上のアームノズルや人工筋肉の伸縮比率を書き換えていく。
「パワーをただ抑えるんじゃなく、箒の体の動き、筋肉の緊張、呼吸の癖にまでフレームが『先回り』して追従するように『遊び(クリアランス)』を設定した。これなら、過剰なパワーを無理に出さなくても、最小限の力で最大の防御力と運動性を発揮できる。……うん、このスパナでの微調整、完璧だな」
「フン、相変わらず君たちの泥臭い機械工学(メカニクス)には恐れ入るよ」
不敵な笑みを浮かべて口挟んだのは、緑色の髪をした小さな科学者、ヴェルデだった。彼はホログラムのエネルギー流動図を指差す。
「ISなどという旧時代のオモチャに、我々が長年研究してきた『死ぬ気の炎』の技術を組み合わせる。これほど科学的探究心をそそられる実験もない。正一のセーフティで弾いた余剰エネルギーと、スパナが調整したフレームの駆動効率を利用して、私はある『コンバーター(変換機構)』を組み込んだ」
ヴェルデが提示した図面には、機体回路の核となる部分に、奇妙な波形を描くナノチップが描かれていた。
「彼女の内に眠る『雪の守護者候補生』としての、まだ無自覚で微弱な『雪の炎』――すなわち『調和』の力を検知し、それをISのシールドエネルギーへとロスなく変換・増幅させるシステムだ。機体そのものの内蔵パワーに頼らずとも、彼女自身の精神エネルギーが自動的に機体フレームを強化し、絶対的な障壁を築く。これぞ真の『調律』だと思わないかね?」
「素晴らしいです、ヴェルデさん! ですが、みなさんのその美しくも複雑な理論を、実際の物質として完璧に再現できるのは、この私しかいません!」
大仰な身振りで割り込んできたのは、ボンゴレの専属チューナー、ジャンニーニだった。彼はピコピコと特製の工具を動かしながら、最終的なナノマシンの実体化パラメーターを調整していく。
「0.001ミリミクロン単位でナノマシンの結合密度をチューニングいたしました! 通常時は、箒様が普段使いしやすいよう、美しい一輪の『桜』を模した小さなペンダントチャームとして、その戦闘気配を完全に隠蔽。そして展開時は、いかなる衝撃をも無効化する、超軽量・高強度の装甲フレームへと瞬時に再構築させます! 私の職人技、とくとご覧あれ!」
ジャンニーニがエンターキーを叩くと、研究室の中央にある3Dプリンターが静かに駆動し、ベルベットのケースに収まった小さな銀細工のチャームが出力された。
五人は、完成したその小さな桜のペンダントを見つめた。
かつて世界を恐怖させた『暮桜』の面影はそこにはない。ただ、ひだまりのような温かさを放つ、美しく繊細なアクセサリー。
「……うん! 完璧、大完璧だよ!」
篠ノ之束は、少女のように目を輝かせてチャームを掲げた。
「ボクの我が儘につきあってくれて、みんなありがとう。これなら、箒ちゃんに最高の笑顔で渡せるよ」
「……全く、手がかかりましたよ。まあ、これで彼女が理不尽な戦闘に巻き込まれても、傷一つ負うことはないでしょうけど」
正一は安堵から胃のあたりをさすり、小さく笑った。
スパナはロリポップを転がし、「あいつの剣、これで完成だな」と呟く。
ヴェルデはフンと鼻を鳴らしつつも、満足げにデータを保存した。
ジャンニーニは誇らしげに胸を張っている。
裏社会の天才たちが、一人の少女の日常を守るために全力を尽くした、至高のオーダーメイド。
『暮桜・調律型(シンフォニア)』は、こうして静かに産声を上げたのだった。
【IS×REBORN】新星の調律 —— 陽光のプレリュード
IS学園の臨海学校。さんさんと降り注ぐ夏の太陽の下、白い砂浜とエメラルドグリーンの海は、実習に励む生徒たちの活気で満ちていた。
午前中の訓練がひと段落し、昼休憩に入った時間帯。織斑箒は、専用機『打鉄』の挙動データを手元の端末で確認しながら、喧騒から少し離れた静かな波打ち際を歩いていた。
一夏の急速な成長に対する焦り、視線の先で生徒たちの指導に当たる姉御肌の教師――織斑千冬の背中。そして、世界のどこかで追われているはずの姉・篠ノ之束への割り切れない想いが、強い陽射しの中でも彼女の心に薄暗い影を落としていた。
「お姉ちゃん……私は、もっと強くならなければいけないのに……」
ため息のようにつぶやき、ふと顔を上げた時だった。
白い砂浜の木陰、パラソルの下に、周囲の生徒たちとは明らかに違う雰囲気を纏った二人組が立っているのが目に入った。
一人は、胸元に銀のロザリオを下げ、いつものように周囲を鋭く警戒しているブラックスーツ姿の男――特別非常勤講師、白崎零士。
そしてもう一人は、大きめのキャスケット帽を深く被り、サングラスをかけた……しかし、箒が見間違えるはずのない、最愛の姉の姿だった。
「お姉……ちゃん……!? なんでここに……っ!」
驚きのあまり声を荒げそうになった箒の唇に、音もなく近づいてきた束が人差し指をそっと当てた。
「しーっ。大声出しちゃダメだよ、箒ちゃん。今のボクは一応、表向きは『指名手配中の天才科学者』だからね」
サングラスを少しずらし、束はいつもの悪戯っぽく、けれど以前のような底知れない狂気のない、本当に穏やかで知的な笑顔を覗かせた。
「お姉ちゃん、どうして……。こんな開けた場所に来たら捕まっちゃうよ! 早く逃げないと!」
周囲を気にして声を潜めながらも、本気で自分を心配する妹の姿に、束の胸が温かくなる。
今の束には、背後に立つ零士をはじめ、裏社会のあらゆる脅威から自分を完全に保護してくれる「ボンゴレ」という頼もしい味方がいる。だからこそ、理性を保ち、良識ある大人の姉としてここに立つことができていた。
「大丈夫だよ、箒ちゃん。頼れるボクのカウンセラーくんが、完璧な隠密・逃走経路を確保してくれてるから。……それより、今日はこれを箒ちゃんに渡したくて、無理を言って一瞬だけ時間を貰ったんだ」
束はポケットから、小さなベルベットのケースを取り出した。
蓋を開けると、夏の太陽の光を浴びて、眩いほどに美しく煌めくものがあった。
それは、精巧な銀細工で作られた、一輪の「桜」を模した小さなペンダントチャームだった。
「これは……アクセサリー?」
「うん。『暮桜・調律型(シンフォニア)』の待機状態だよ」
「えっ……ISなの!? でも、暮桜って、お姉ちゃんが前に言っていた……」
「以前の暮桜はね、ボクの悪い癖で、ただ出力を尖らせただけの失敗作だったの」
束は真摯な目で妹を見つめ、静かに告げた。
「そんな危ないものを、大切な箒ちゃんに渡せるわけないじゃない? だからね、ボクの新しい優秀な仲間たちと一緒に、箒ちゃんが絶対に傷つかない、世界で一番安全で優しいバランス型に作り直したんだよ」
「お姉ちゃん……」
手渡された桜のチャームを、箒がそっと手のひらで包み込んだ。
その瞬間、冷たい金属のはずのチャームから、驚くほどの「温かさ」がじわりと流れ込んできた。
まるで、ひだまりの中にいるような、あるいは姉の手のひらに包まれているかのような、絶対的な安心感を与える熱。
箒はまだ知らない。
このチャームが、彼女の内に眠る『雪の守護者候補生』としての微弱な「雪の炎」を無自覚のうちに検知し、機体回路へ安全に変換・同調させる超ナノシステムが組み込まれていることを。スパナや入江正一、ヴェルデたちが、彼女の身体に一切の負荷をかけないよう、裏で完璧に調律した最高傑作の結晶であることを。
箒にとってそれは、ただただ「お姉ちゃんの、不思議で優しい体温」だった。
「すごく、温かい……。体にすっと馴染んでいくみたいだ。ありがとう、お姉ちゃん。私、これと一緒に頑張るよ」
「うん! 箒ちゃんなら、絶対にその子と最高のパートナーになれるよ」
箒が愛おしそうにチャームを胸元に下げるのを見届け、束は満足そうに微笑むと、名残惜しさを押し殺して一歩後ろに下がった。
良識ある大人として、これ以上ここに留まれば、妹や学園の生徒たちを無用な危険に巻き込みかねないことを、今の彼女は深く理解しているからだ。
「よし、任務完了! 箒ちゃん、ボクはもう行くね。一夏くんによろしく。……それから」
束は一度、はるか遠くの砂浜で、生徒たちに指示を出している千冬の背中を見つめた。その瞳には、かつての唯一無二の親友に対する、深い信頼と少しの寂しさが滲んでいた。
「ちふゆにも、よろしく伝えておいて。……本当は、久しぶりにあいつの愚痴でも聞きながらゆっくりお茶でもしたかったんだけど、今のボクが近づくと迷惑になっちゃうからさ。ボクは元気にやってるよ、って、そう伝えて」
「お姉ちゃん……うん、分かった。千冬姉に、必ず伝えるよ」
姉の「良識」と、親友への不器用な思いやりを感じ取り、箒はしっかりと頷いた。
「ああ。これ以上はリスクが高まる」
それまで物陰から完全に気配を消し、周囲を警戒していた零士が、一歩前に出て箒に告げた。
「篠ノ之は俺たちが責任を持って守る。箒、お前はお前のアカデミーでの日常を全力で生きろ。……行くぞ、篠ノ之」
「はーい。じゃあね、箒ちゃん! 笑顔でね!」
束は最後に一度だけ大きく手を振ると、サングラスをかけ直し、零士の先導に従って素早い足取りで砂浜の雑踏へと紛れていった。その先には、ボンゴレが手配したセーフハウスへ直行する、目立たないカモフラージュ車両が待っている。
白波が弾ける夏の青空の下。
残された箒は、胸元でトクトクと脈打つように温かい桜のペンダントをそっと握りしめた。
その内側で、彼女が無意識に放つ透明な『雪の炎』が、機体を優しく起動させ、彼女を守る強固な「調和」の障壁を築き始めていることなど知る由もない。
しかし、姉の愛と、見えざる天才たちの技術に守られた箒の心からは、先ほどまでの焦燥感は完全に消え去っていた。
原作では、世界を混乱に陥れるトリックスターとしての篠ノ之束から手渡された専用機『打鉄弐式(のちの暮桜)』。
しかしこのルートでは、すでに零士のカウンセリングとツナの包み込むような器によって「良識ある天才科学者」としてボンゴレに保護され、純粋に夢だった宇宙開発(ロケット開発)に没頭している束さん。
そんな彼女が、妹・箒のために紡ぎ出したのがこの『暮桜』です。
しかし、天才ゆえにどうしても機体がピーキー(尖った性能)になりがちな束さんの設計を、ボンゴレが誇る一級の技術者、入江正一とスパナが「実戦で箒が死なないように」と完璧なバランス型へと超改良する――。
この熱すぎる技術者たちの裏舞台と、臨海学校での暮桜譲渡の瞬間を、一つの美しいエピソードとして組み立てました。