インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
■ 急転:絶望のセカンド・シフト
「やった、のか……?」
一夏が白式の剣を引き、大きく息を吐いた。海面へと沈んでいくシルバー・ゴスペルの巨体を見下ろし、セシリアやシャルロットたちも安堵の表情を浮かべる。暴走ISのシステムは完全に凍結し、機能停止したはずだった。
誰もが勝利を確信し、わずかに張り詰めた糸を緩めたその瞬間――。
「――いや、まだだ! 全機、最大出力で離脱しろ!!」
空間の違和感を誰よりも早く察知した零士が、VISの通信回線に怒号を響かせた。
直後、海中から爆発的な、これまでの第3世代型ISの枠組みを遥かに超越した「神々しいまでの白銀のプレッシャー」が噴き上がった。
海水を沸騰させ、爆音とともに浮上してきたシルバー・ゴスペルは、その姿を禍々しくも神聖な形態へと変貌させていた。
『セカンド・シフト(第2形態起動)』
ハバクク(広域エネルギー集積展開翼)が不気味に明滅し、零士の雪の炎による凍結を、内側からの圧倒的な熱量で瞬時に融解・爆破していく。ハバククが全開になり、周囲の熱量を吸い上げて限界を超えたエネルギー光弾が、ゴスペルの銃口に収束していく。
その狙いは、まだ機体に慣れておらず、急激な状況の変化に硬直してしまった箒の『暮桜・調律型(シンフォニア)』だった。
「箒!!」
一夏が叫ぶが、白式の位置からは間に合わない。
ゴスペルの放つ、空間そのものを消滅させるかのような超高出力の光線が、無防備な箒へと解き放たれた。
「チッ……!」
その光線の軌道上へ、白銀の残影を残して肉薄した影があった。【氷零の終焉騎士(フロスト・エンドワルツ)】を纏った白崎零士である。
普段の彼ならば、ゴスペルのセカンド・シフトすら予期し、完璧に回避するか、あるいは『大鎌』や『長刀』の死ぬ気の炎で空間ごと切り裂いて相殺していただろう。
だが、この時の零士には、ほんのわずかな「計算違い」と「油断」があった。
(篠ノ之束が良識人になり、機体の安全性を保証した。ならば、裏のハッカーを骸が潰した時点で、これ以上のイレギュラーは起きない――)
束の精神的安定を確かめた安心感、そして「ISという兵器の限界値」をどこかで見くびっていた最強の暗殺者としての慢心。それが、システム自体の自律進化であるセカンド・シフトへの反応をコンマ数秒遅らせた。
さらに、零士は攻撃を回避するのではなく、背後の箒を完全に庇うために、生身の盾となる選択を強制されたのだ。
「先生……っ!?」
箒の目の前で、零士は左右の氷晶翼と氷刃翼を盾のように交差させ、最大出力の『絶対零度結界』を展開してゴスペルの光線を真っ向から受け止めた。
ズガァァァァァァン!!!
洋上の大気が消し飛ぶほどの衝撃波が炸裂する。
セカンド・シフトを遂げたゴスペルの破壊力は、零士の予測を遥かに上回っていた。展開した結界がパキパキと音を立てて粉砕され、純白の氷晶翼が根元からへし折れる。
「が、はっ……!?」
衝撃波と熱線が零士の重装甲を貫き、その肉体を容赦なく打ちのめした。
最強の男の口から鮮血が飛び散る。VISのエネルギーラインが強制遮断され、白銀の鎧が光の粒子となって剥がれ落ちていく。
「白崎先生ーーーっ!!!」
一夏、そしてラウラやセシリアたちの絶叫が響く中、意識を失った零士の身体は、ブラックスーツの姿のまま、力なく重力に従って真っ逆さまに下の海へと撃墜されていった。
水しぶきを上げて、海の底へと沈んでいく絶対強者の姿。
それは、残された代表候補生たちに、未だかつてない本当の絶望と、激しい怒りを植え付けることになる――