インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
■ 深夜:宿舎の特等席
臨海学校の喧騒が眠りについた、午前2時。
生徒たちの宿舎から少し離れた教員用のテラス席は、波の音だけが静かに響く大人の空間へと変わっていた。
テーブルの上に置かれているのは、数本の冷えたビールの缶と、氷をたっぷり入れた高級ウイスキーのボトル。そして、骸からお裾分け(あるいは強奪)した、イタリアの老舗ブランドのダークチョコレートが静かに添えられている。
「……随分と豪勢な夜食だな、織斑先生」
湯上がりのラフな黒シャツ姿の白崎零士が、気怠げにパイプ椅子に腰掛けた。
「フン、世界を滅ぼしかねない暴走ISを片付けた男への、国からの報酬の先払いだ。好きなだけ飲め」
向かい側に座る織斑千冬もまた、いつもの厳格な教員服を脱ぎ捨て、ゆったりとした部屋着姿で缶ビールを開けていた。ふわりと香るシャンプーの匂いと、月光に照らされた横顔は、昼間の「鬼教官」とは違う、一人の美しい大人の女性の割り切れない色気を醸し出している。
カチン、と互いのグラスと缶が軽い音を立てる。
「生きている心地がしない数日間だった。……束が、あそこまで落ち着いて私のことを気にかけていたというのも驚きだが、何より貴様だ、白崎」
千冬はウイスキーを口に含み、ふぅ、と長い溜め息を夜風に溶かした。
「一夏や箒たち生徒の前では言わんがな。……データを書き換えられようが、私の目は誤魔化せんぞ。あの時、海の底から湧き上がったあのプレッシャー……あれはISの出力などという生易しいものではなかった」
「……何のことだ? 俺のVISが、あの時たまたま限界を超えた『Final Shift』に移行した。それだけだろう」
零士はダークチョコレートを一つ口に放り込み、ウイスキーで流し込みながら、視線を海へと逸らす。記憶を書き換えられたはずの千冬だが、世界最強のIS使いとしての直感と、零士への深い信頼が、本能のレベルで「何か別の絶対的な力」を感じ取っていたのだ。
千冬はそんな零士の横顔をじっと見つめ、呆れたように、けれどどこか愛おしそうに口元を緩めた。
「フッ、はぐらかすか。まあいい、貴様がそう言うなら、そういうことにしておいてやる。……だがな」
千冬はグラスを置き、少しだけ真剣な眼差しで零士に身体を寄せた。
「箒を守ってくれたこと、そして……生きて戻ってきたことは、個人的に感謝している。貴様のような男に逝かれたら、私の酒に付き合う男がいなくなるからな」
「買い被りだな。俺は自分の慢心で撃墜されただけだ。次はあの鉄屑ごと、最初から消し去る」
「言うようになった。……おい、次はこれを開けるぞ」
千冬が少し赤くなった頬を夜風に晒しながら、2本目のボトルへと手を伸ばす。
昼間の激戦、裏社会の調律、そして生徒たちの前で見せる「冷徹な教師」の仮面を外し、二人の最強は、ただの男と女として、静かに更けゆく夏の夜を飲み干していくのだった。
■ 深夜:そして、大人の時間へ
酒が進むにつれ、テラスを包む空気は少しずつ、気怠くも濃密なものへと変わっていった。
千冬はすでに3本目のビールを空け、少し潤んだ瞳で零士をじっと見つめている。普段の凛とした佇まいはどこへやら、部屋着の襟元から覗く鎖骨が、月光に濡れて妖しく輝いていた。
「……おい、白崎。貴様、さっきから私の顔を見ようとしないな」
「……酔っ払いの相手は疲れるからな。そろそろ部屋に戻らせてもらう」
零士がグラスを置いて立ち上がろうとした瞬間、千冬の手が素早く伸び、彼のシャツの袖をきゅっと掴んだ。見たことのない親友の妹(箒)のような不器用な仕草に、零士の動きがピタリと止まる。
「逃げるな。今日はまだ、貴様を帰すつもりはないと言ったはずだ……」
千冬はそのまま立ち上がると、少しふらつきながらも零士の胸元に寄り添うように距離を詰めた。ふわりと漂うアルコールの熱気とシャンプーの甘い香りが、零士の理性を静かに揺さぶる。
「織斑先生、お前な……」
「白崎、いや……零士。今夜だけは、教師でも、織斑一夏の姉でもない。ただの……一人の女として、私を見ろ」
千冬のその言葉は、あの日ゴスペルの直撃から自分を盾にして守ってくれた零士への、抑えきれない情熱と愛の告白だった。
零士は小さくため息をつくと、諦めたように、けれど愛おしそうに口元を緩めた。
「……やれやれ。手厳しいな、織斑先生。マフィアの幹部を朝まで拘束する気か」
「ああ、極限まで拘束してやる。……覚悟しろ」
零士は彼女の細い腰を大きな手で引き寄せ、その濡れた唇を深く塞いだ。
夜風に揺れるカーテンの向こう、静まり返った教員部屋のベッドへと、二人の影がゆっくりと沈んでいく。
裏社会の任務、学園での護衛、そして少女たちからの熱烈な視線――。それらすべてを一時的に忘却の彼方へと追いやり、二人の最高峰は、夏の夜の熱気に身を任せて、夜が明けるまで互いの身体を深く、貪るように求め合うのだった。