インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』   作:suzuki00

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来日

「――というわけで零士、IS学園に行ってくれないかな?」

すっかりボンゴレ十代目としての風格(と、書類仕事によるクマ)を身につけた沢田綱吉は、机の上の膨大な資料を前にそう言った。

白崎零士はため息をつく。 「IS学園って、あの女性しか動かせないっていう兵器の? 俺、男なんだけど」

「そこは大丈夫。ほら、零士って昔から『もしもの時のために』って、弁護士とかカウンセラーとか、いろんな難関資格を片っ端から取ってたでしょ? 技術系の国際免許も。あれが役に立ったんだ。政府を通して『超超エリートの特別非常勤講師』として推薦枠をねじ込んだから」

ツナは手元の資料の束から、数枚の報告書を抜き取って零士の前に滑らせた。

「実はね、世界を震撼させたあの『白騎士騒動』……あの事件で白騎士を操っていた操縦者が彼女の年の離れた実の弟である『織斑一夏(おりむら いちか)』が、世界で唯一、男でありながらISを起動させてしまってね」

「男のIS適合者……? 冗談だろ。世界中のパワーバランスがひっくり返るぞ」

「そう、冗談じゃないんだ」 ツナは真剣な眼差しを零士に向ける。

「一夏くんは近々、強制的にIS学園に入学させられる。当然、世界各国の様々な勢力が、その『唯一のサンプル』を手に入れようと躍起になるはずだ。拉致、暗殺、政治的取引……彼の命は今、世界中から狙われていると言ってもいい。姉の千冬さんも学園の教官として彼を守るつもりらしいけど、彼女一人では限界がある」

ツナは組み替えた指の上に顎を乗せ、まっすぐに零士を見つめた。

「だから零士、君にIS学園へ行ってほしいんだ。表向きは超エリートの特別講師として学園の歪な環境をサポートしつつ、裏では『織斑一夏の警護・護衛』を完璧にこなしてほしい。男の君なら、一夏くんに最も近い距離で寄り添えるはずだからね。……頼めるかい?」

警護と非常勤講師が建前で、こっちが本音か、と零士は胸中で納得する。

「……あのアホみたいにキツかった自主トレと勉強が、こんなところで役に立つとはな」

零士は苦笑した。幼少期、自身に宿る「雪の炎」の暴走を抑えるために始めた肉体鍛錬と精神統一。その一環として、堅気の仕事でも生きていけるようにと趣味半分で取得した資格の数々が、まさかマフィアの潜入任務に化けるとは世も末だ。

「ボスからの任務とあっちゃあ、向かわないわけにはいかないな。……で、目的はそれだけか?」

「さすが零士、察しがいいね。実は、最近裏社会で不穏な動きがあるんだ。ISの技術と、ボクたちの『炎の技術』を融合させようとしてる新興マフィアがいる。……そこでね、正一くんやスパナ、ジャンニーニ、それにヴェルデ博士たちが、イタリアの本部で先手を打って『あるもの』を開発したんだ」

ツナは画面を操作し、守護者全員分用意された、禍々しくも美しい「装甲」の設計図を映し出した。

「ボンゴレギアの技術を応用した、守護者専用兵器――『VIS(Vongola Infinite Stratos)』。駆動源は100%、ボクたちの死ぬ気の炎。もちろん、あの世界のISのようなリバウンド(代償)は一切ない、ボクたちのための力だよ」

ツナの言葉に、零士は自身の首元に手をやった。 衣服の隙間から引き抜いたのは、白銀の輝きを放つ『ロザリオ』。 ボンゴレリングが形を変えた、零士だけのボンゴレギア。そして同時にこれこそが、イタリアの天才たちが作り上げた新たな兵器――『VIS』の待機形態でもあった。

一般的なISがブレスレットやピアスといったアクセサリーを待機形態とするように、このVISは守護者の証であるロザリオに、その全システムが封印されているのだ。

「なるほどな。現地での足も、それなりに用意しておかないと仕事に支障が出るな」

零士はそう言いながら、懐からいくつかの小さな『函(ボックス)』を取り出した。

「日本の仕事のために、この中に俺の愛車を入れていく。ポルシェ911カレラに、TOYOTA86、それにソアラだ。殲滅・任務用」

「はは、相変わらず凄いコレクションだね。でも確かに、その函なら持ち運びも容易だし、学園のセキュリティにも引っかからない。隠密行動が多い今回の任務には、最高の選択肢かもしれないな」

ツナは心底ホッとしたように、トレードマークの苦笑いを浮かべた。しかしすぐに椅子に深く背を預け、キリッとしたボスの表情に戻って零士を見据える。

「IS学園は女性だけの聖域、男にとっては文字通りの『魔境』かもしれない。色々と苦労をかけると思うけど……織斑一夏の命と、世界のバランスを守るために、よろしく頼んだよ。ボンゴレの誇りにかけて――道中、気をつけてね」

「大空の融解、そして停止・凍結・氷結か。……いいよ、ツナ。その新しいマフィアだか何だか知らないが、俺の教え子たちに手を出すってなら、徹底的に冷やしてやる」

零士は指先でロザリオの十字架を軽く弾き、ふっと目を細めた。 胸元で静かに冷たい光を放つロザリオをブラックスーツの内側にしまい、愛車の眠る函をポケットに滑り込ませる。

こうして、雪の守護者・白崎零士は、女たちの園へと歩みを進めるのだった。

――羽田空港、深夜。

滑走路の灯りが、静かに瞬いていた。

ターミナルの喧騒から離れた駐車エリアで、白崎零士は何の躊躇もなくジャケットの内側へ手を入れる。

次の瞬間――空間が“歪んだ”。

金属の音も、エンジンの唸りもなく、ただ“存在”だけが現れる。 黒塗りのスポーツセダン。TOYOTA 86 GR。 ボンゴレの技術で構築されたボックス兵器――その一つ。

「……時間が惜しい」

短く呟き、運転席へ滑り込む。 エンジンが目覚める。低く、獣のように。

――目的地、IS学園。

羽田空港を抜けた瞬間、零士の車は夜の首都高へ“撃ち込まれた弾丸”のように侵入した。タコメーターが跳ね上がり、エンジンが唸る。

――だが、それを“狙っていた”かのように、背後から爆音が響いた。

ブォォォンッ!!!

「……来たか」

バックミラーを見る。三台どころじゃない。五台。六台。七台――隊列を組み、完全に“狩り”の動き。しかも、前後左右の逃げ道を塞ぐ完璧なフォーメーション。ただの三下ではない。

次の瞬間、左後方から全開の体当たりが炸裂した。

ドンッ!!!!

衝撃が車体を揺らす。だが零士は瞬時にカウンターを当てる。ハンドルを逆に切り、タイヤを滑らせてスピン寸前から復帰。

「甘い」

そのままアクセル全開。だが、今度は前方車両が一斉に急減速し、ブレーキランプが赤く光る。挟み潰す気だ。 普通なら終わり。だが零士はブレーキを踏まない。

「なら、上を使う」

ハンドルを切り、路肩のわずかな段差へ突っ込む。 ガガガガガッ!! と火花が散るが減速はしない。そのまま前方車両の“横”、壁と車のミリ単位の隙間を強引にねじ込んだ。

「――抜ける」

ギュンッ!!! と車体が滑り込み、強引に突破。 だが、「チッ――」と零士が舌を巻いた。 上方の高架合流地点から、一台の車が落ちてきたのだ。

ドォォォン!!!

着地と同時に前方封鎖。完全に逃げ場を潰す布陣。

「面白い」

零士の目が細くなる。その瞬間、フロントガラスへ集中銃撃が浴びせられた。パパパパパァン!! と連射されるが、弾丸はすべて弾かれ火花が散る。

「だから無駄だ」

しかし、敵は止まらない。前方の車が路面に何かを投げ落とした。「爆薬か」と思った直後、ドォンッ!!! と激しい爆発が巻き起こる。炎と煙で視界はゼロ。普通なら減速する。だが零士は。

「視界がないなら――感覚だ」

アクセルを踏み、煙の中へ突入。その中で、敵車が完全なブラインドアタックを仕掛けて突っ込んでくる。

「読める」

ハンドルをわずかにずらし、直後、ギリギリコンマ数秒の差で交差。

「遅い」

そして、零士はスイッチを入れる。

「雷、駆動へ回せ」

車体に走る青白い閃光。次の瞬間、加速が“別次元”へ跳ね上がった。 ゴォォォォォン!!! と空気を裂き、速度が常識を超える。敵の一台に瞬時に接近し、――ぶつける。

ドガァッ!!!!

だが、壊れるのは相手だ。フロントが潰れて回転し、後続を巻き込んで連鎖クラッシュを起こす。 残り三台。だがここで敵も左右前方から圧縮し、完全包囲の挙に出た。

「……悪くない」

零士はブレーキを踏み、一瞬だけ減速。敵が距離を詰めた瞬間、それこそが罠だった。

「詰めすぎだ」

ハンドルを切り、サイドブレーキを引く。リアが滑り、ドリフト。車体が横向きのまま加速し、一台の側面へ突っ込む。

ベゴォッ!!!!

横からの衝撃で敵車が浮き、そのままガードレールへ叩きつけられた。 残り二台。怯んだ敵は逃げに入るが、零士のライン取りは“異常”だった。コーナーを直線のように最短距離で駆け抜ける。

「逃がさない」

一台を限界まで追い詰めると、プレッシャーに耐えかねた敵がハンドル操作を誤り、ガードレールへドォン!!! と激突した。 最後の一台が必死に逃げるが、雷の加速が一瞬でその横に並ぶ。零士は視線だけを向けた。

「終わりだ」

軽く、押す。それだけで、ベキィッ!! とバランスを崩した車がスピンし、中央分離帯へ激突した。

静寂。煙。焼けたゴムの匂い。 その中で、零士の車だけが完璧に無傷のまま、滑るように走り続けている。

「……時間の無駄だ」

アクセルを踏み、再加速。夜の首都高を雷が貫いた。 だが――「……まだ来るか」 バックミラーを見ると、闇の中から動きに無駄のない鋭い二つのライト。

「……当たりだな」

前方には、巨大な入口。トンネルが見えてきた。

■トンネル内バトル

突入。ゴォォォォォン!!! とエンジン音が何倍にも反響する。逃げ場のない閉じた空間。 後方の車が一気に距離を詰め、パァンッ!! と銃撃を放ってきた。だが今回は違う。車体表面に火花を散らしながら、わずかに食い込んできた。

「……徹甲弾か。面白い」

零士の目が鋭くなる。次の瞬間、前方からもう一台が対向レーンを逆走し、ライト全開で視界を潰しにかかった。完璧な挟撃。 だが零士はアクセルを踏み込む。

「なら――貫く」

前方車両との距離が消える直前、ハンドルを壁スレスレに切った。 ギィィィィィィッ!!! と火花がトンネルを照らす中、“壁走り”のようにラインを維持して前方車の横へ滑り込む。

「見えている」

その瞬間、後方車がタイミングを合わせた挟み潰しを仕掛けてくる。しかし、零士の一瞬のブレーキ減速で敵のタイミングがズレた。

「合わせすぎだ」

ハンドルを切り、前方車へ押し込む。ドガァッ!!! と側面衝突した前方車がバランスを崩し、そこへ後方車がドォォォン!!! と突っ込んだ。二台同時クラッシュ。トンネルが塞がる。

だが、トンネル奥から低いエンジン音と異様な圧を纏った最後の一台――本命が現れた。直線で異常な加速を見せ、一瞬で横に並ぶ。窓越しに目が合った敵ドライバーは笑っていた。

次の瞬間、重い体当たりが炸裂する。ドンッ!!

「強化車両か」

だが零士は逆に押し返す。ドガァッ!! 互いに削り合い、トンネル内が閃光で満ちる。敵は一度離れて前に出ると、進路を塞いで急減速。完全な殺しのタイミング。

「いい判断だ」と零士は笑う。「だが――遅い」

■橋へ――

トンネルを抜けると視界が一気に開けた。前方は工事中で途切れている未完成の高架。通常ルートは封鎖されており、逃げ場を消す気だ。 敵車がギリギリで止まろうと減速する中、零士は減速しない。

「飛ぶ気か」と敵ドライバーが目を見開く。

■橋ジャンプ

雷の炎が車体を走り、青白い閃光がエンジンと共鳴する。

「距離――足りる」

限界を超えた速度で踏み切る。ドォォォォン!!! 車体が宙へ。空中、並んで飛んできた敵車が体をぶつけてくるが、零士は空中でハンドルをわずかに調整し姿勢を制御。

「終わりだ」

逆に押し返すと、弾かれた敵車は回転しながら闇の海へと落下していった。 零士の車はドォォン!!! と着地。雷の硬化がサスペンションを支え、タイヤを悲鳴を上げさせながらも完全に制御を復帰させた。

背後には、もう何もいない。

「……任務続行」

アクセルを踏み、再び加速する。零士はステアリングを片手で握りながら、インカムの通信ボタンを押した。

「……こちら零士。獄寺、聞こえるか。事後報告になるが、無事学園に到着した。途中、格下相手に妨害を受けたが、こちらは無傷。ただ、戦闘の弾みで高速道路を少々破損した。すでにNEXCOには被害状況を報告させてある。こちらの請求書、学園宛てに回しておいてくれ」

『ああ!? 了解だ零士! 十代目の1人の神聖な任務を邪魔するような三下どもめ、きっちり社会的にも身ぐるみ剥いでやる! 請求先の処理はこっちの嵐の部隊(バックオフィス)で完璧に片付けておくから、お前はそのまま潜入を続けろ!』

数日後。IS学園・職員室。

机の上に、異様な厚みの書類が積み上げられていた。 「……なんですか、これ」 事務職員の一人が、震える手で一枚を抜き取る。その瞬間――「……は?」と空気が止まった。

差出人はNEXCO東日本および日本道路公団。内容はガードレールや防音壁の損壊、路面全面補修、緊急封鎖に伴う損害など一切の復旧費用。 そして、総額――。

「……一兆、二千……億……?」

「いやいやいや待ってください!! 桁おかしいですよね!?!?」 「国家予算クラスなんですけど!?」

職員室が一気にざわめく。添付された【責任所在に関する通知】には、当該事故はIS学園関係者に起因するものであり監督責任は貴学園にある、費用請求は全額一括とする、と非情な文面が並ぶ。

「分割も無理ですか!?!?」 「無理です!! っていうか払えるわけないでしょうこんなの!!」 「ていうか何やったんですかあの人はあああああ!?」

完全にパニック。一人の職員が「これ、国からの圧力入ってません……?」と呟き、「じゃあもう詰みじゃないですか!!」と悲鳴が上がる。 その時、静かに扉が開き、千冬が入室した。一瞬で空気が凍る。

「騒がしいな」

その一言で全員が黙る。恐る恐る差し出された請求書に、千冬は無言で目を通した。数秒後。

「……なるほどな」

「いやなるほどじゃないですよ!?」「一兆円ですよ!?」「学園潰れますよ!?」

悲鳴の中、千冬はため息を一つ。

「原因は明白だ。白崎零士だ」

全員の視線が集まる。千冬は続けた。

「だが、奴は“外部協力者”だ。正式な生徒でも職員でもない。――だからこそ、学園が受け入れた時点で責任は発生する」

絶望。完全な、詰み。もはや誰もが言葉を失い、ただ頭を抱えるしかなかった。

その頃、当の本人は――。

割り当てられた臨時の講師控え室で、イタリア本部からの暗号通信を終えたところだった。 画面の向こうで、フェドラ帽の縁を指で押さえながら不敵に笑っていた赤ん坊(家庭教師)の言葉が、零士の脳裏に蘇る。

『ククッ……零士、お前は相変わらず「掃除」の仕方がダイナミックだな。だが、悪くない。一兆二千億? はっ、安い授業料だ。学園側は、お前が国家予算級。の賠償金を平気で踏み倒し、それを合法的に突きつけられる「理不尽な怪物」だと身をもって学習したわけだ。完璧な布石だぞ。次、同じような騒動を起こすなら、もっと派手にやってもいい。どうせ最後は、俺たちが帳尻を合わせるんだからな』

「相変わらず無茶苦茶を言う……」

零士は苦笑しながら通信端末をポケットにしまった。 リボーンの言う通り、バックオフィスでは獄寺たちが完璧な法的処理を完遂し、この学園に「ボンゴレの力と恐怖」を植え付ける挨拶代わりの一撃は決まった。学園側は、零士という『制御不能な災害』を飼い慣らすことの不可能性を理解したはずだ。

「さて……挨拶は済んだ。次は本業だな」

零士は自身の首元、ブラックスーツの内側に隠された白銀のロザリオ(VIS)に触れ、ゆっくりと立ち上がった。目的は、世界で唯一の男のIS適合者――織斑一夏の警護。

歩を進めた先は、1年1組の教室。

ガタガタと慌ただしい職員室の喧騒とは裏腹に、ここからはじまる新生活の幕開けにふさわしい、どこか緊張感の漂う少年の声が扉の向こうから聞こえてくる。

「……え、あー。織斑一夏です。ええと、まあ、色々と事情はあるんですが、一応やるからにはしっかりやりたいと思います。男一人で頼りないかもしれませんが、よろしくお願いします」

いかにも巻き込まれ体質そうな、しかし真っ直ぐな自己紹介が教室内へと響き渡る。女子生徒たちのざわめきと、品定めするような視線が男一人に向けられる中、教室の引き戸がガラガラと静かに開いた。

職員室での爆弾(請求書)を処理してきたばかりのはずの織斑千冬が、何食わぬ顔で教壇に立ち、冷徹な視線で教室内を一睨みして黙らせる。そして、入り口の方へと視線を向けた。

「おい、入ってこい」

千冬の言葉に促され、ブラックスーツを完璧に着こなした一人の男が、大人の余裕を纏って教壇へと歩み寄る。その洗練された佇まいと、一夏に続く「二人目の男」であるという事実に、教室内は先ほどの一夏の時以上の衝撃と静寂に包まれた。

男はチョークを手に取ると、黒板に流れるような筆跡でその名を刻み、前を見据えて不敵に微笑んだ。

「今日からこのクラスのサポート、および特別座学を担当する。非常勤講師の、白崎零士だ。よろしく頼む」

 

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