インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
五つの助手席、第三の記憶(ラウラ・ボーデヴィッヒの場合)
1. 祈りは雪に溶ける
雪が、静かに降っていた。
深夜の人気のない倉庫街。白崎零士の展開する不可視の『雪のフィールド』によって、周囲の音も熱量も、すべてが絶対的な静寂の中に閉じ込められている。
そこには、裏社会の禁忌である非合法の『匣(ボックス)』を密売し、人身売買に手を染めていた亡国機業の末端どもが集まっていた。
「だ、誰だテメェ……!」
突如現れた白崎零士に向け、男たちが一斉に非合法の銃器を構える。だが、零士の両手にはすでに、静かに凍てつく長刀と、185cmの巨大な大鎌が握られていた。
「終わりだ」
冷酷な宣告と共に、零士の足元から『絶対零度結界(マフィア殲滅モード)』が狂気的な速度で展開される
床を這う白銀の霜に触れた瞬間、男たちの脚は細胞レベルで完全凍結され、コンクリートに縫い付けられた。
逃げることすら許されない絶望の中、零士の大鎌が鋭い波動を放ちながら広範囲を薙ぎ払う――『零鎌(れいれん)』
刃が触れた男たちは、切り口から一瞬で凍りつき、絶叫をあげる暇もなくガラス細工のように粉々に砕け散った。肉体だったはずの破片が雪の上に飛び散り、赤い血が流れる間すらなく凍結していく。
「ひっ、あ、悪魔め! 撃て! 撃ち殺せぇ!!」
生き残った幹部が狂乱し、隠し持っていた違法改造の重火器を一斉に掃射する。
だがその瞬間、世界からすべての「音」と「光」が完全に消失した。
零士の身体が、世界を沈滅させるために鋳造された白銀の装甲――最終形態『Final Shift(ファイナル・シフト)』へと変貌したのだ。
発動した『絶対沈黙領域《サイレント・フィールド》』の内部では、放たれた弾丸もエネルギーの奔流も、零士の纏う『死の帳:虚無のマント』に触れた瞬間、最初から存在していなかったかのように空間ごと巻き戻され、完全に無へと帰)。
「あ……あ……」
背中から広がる漆黒の『無限虚空翼』を羽ばたかせ、虚空に浮かぶ零士
。その意志に呼応し、禍々しい『死鎖:終焉の鎖』が蛇のように伸びて残党の肉体を縛り上げる。
そして、手にした漆黒の大鎌『死刃:終焉鎌《エンド・サイス》』が一閃した。
パリン、と空間が割れるような乾いた音が響く。
鎖に絡め取られ、鎌に斬られた者たちは、肉体の破壊はおろか、その魂、その男たちが世界に生きていたという「存在の記録」ごと完全消去され、サラサラとした白銀の塵となって虚空へ霧散した。
あとに残されたのは、生存者ゼロの圧倒的な静寂と、すべてを覆い隠すように静かに降り積もる雪だけだった。
「……終わったのか」
背後から、低く、硬い声が響いた。
織斑一夏の強襲に対抗するため、この学園に転校してきたドイツの黒ウサギ――ラウラ・ボーデヴィッヒだ。
「……見てたのか」
零士はFinal Shiftの装甲を静かに解き、元の姿に戻りながら呟いた。
「偶然だ。訓練の帰りに、尋常ではない気配を感じた」
キュッ、と雪を踏む軍靴の音が近づいてくる。
ラウラの鋭い視線は、跡形もなく敵が消え去った虚空へと向けられていた。通常のISによる砲撃や斬撃の痕跡が一切ない、存在そのものの消滅。そして何より、自分が絶対の神と信じる「織斑千冬」の強さとは決定的に違う、世界の理不尽そのものを凍りつかせるような不気味な絶対性。
「……これは、何だ」
「こいつらは――人身売買、その他諸々の違法行為を裏で働いていた連中だ。ボンゴレが、最も嫌う類のな」
「……正義のため、というわけか?」
「違う。俺の手は……もうとっくに穢れてる。相手は殺す覚悟で来る。だから俺は、それ以上の覚悟で抹殺するだけだ。綺麗事じゃない」
一歩、ラウラへと近づく。
「それに――これは、俺自身と……ボンゴレファミリーを守るための戦いでもある」
零士は静かに瞳を閉じ、胸元で十字架を握りしめて、静かに祈りを捧げた。漂う濃厚な凍気の中で。すべてを覆い隠す雪に包まれながら。
まるで、自分自身が救われることなど、最初からこれっぽっちも信じていない者のように。
ラウラは、その祈る姿を見ていた。
国家の枠組みにも、ISの常識にも縛られない、裏社会の絶対的な掟。そして、圧倒的な孤高の背中。
究極の兵器として育てられ、強さのみを信奉してきたラウラの中で、頑なに凍りついていた「織斑千冬への妄執」が音を立てて崩壊し、目の前の圧倒的な死神の姿によって完全に上書きされていくのを、彼女は自覚していた。
2. 白いソアラの静寂
カチカチと、インパネの時計が刻む音。
窓の外を、等間隔に並んだ街灯の光が流れていく。
『トヨタ・ソアラ』の車内は、高級クーペ特有の静寂に包まれていた。
その静けさの中で――助手席のラウラを見ることなく、零士が不意に口を開いた。
「人質は解放済みだ」
ラウラは驚かない。視線を真っ直ぐ前に向けたまま、「……詳細を」と短く促す。
「取引のあった倉庫とは別の、地下倉庫に分離されて拘束されていた。お前が来る前にな。全員の拘束を解除、移動可能な状態であることを確認してから、安全なルートへ退避させた」
感情のない、事実の列挙。
「その後、日本におけるボンゴレのフロント組織――『雲雀財団』が身柄を回収し、保護している。追っ手の手が及ぶことはない」
ラウラは数秒、沈黙した。彼らの手際の良さを、頭の中で軍事的に整理していく。
「……合理的だ。敵勢力の確実な排除と同時に、資産――いや、人員の確保も完了しているのだな」
かつて自分自身が実験室で「兵器(資産)」として扱われていた過去があるからこそ、救出された人々を「人員」と言葉を選び直すあたりに、彼女のわずかな内面の傷と意識が滲んでいた。
「一つ確認する。……人質の、抵抗は?」
恐怖でパニックになり、作戦に支障をきたすような不確定要素はなかったのかという意味だ。
「最小限だ。全員、静かに指示に従った」
零士は即答する。難関資格である心理カウンセラーの技術(メンタルケア)を、その場で使ったからこその結果だ。
「……そうか」
再び訪れる沈黙。だが、先ほど倉庫街で流れていた重苦しい空気とは、明らかに質が違っていた。
敵の分析と、目の前の男に対する品定めが終わった後の、どこか奇妙に落ち着いた静けさ。
そして――ラウラはぽつりと、小さく言葉をこぼした。
「非効率ではないな」
それは、畏怖、そして、確かな信頼が混ざり合った言葉だった。
3. 新たな主(マスター)への誓い
「白崎零士」
ラウラはシートの中で背筋を伸ばし、ダッシュボードから無造作に渡された温かい缶コーヒーをギュッと握りしめた。その顔は耳の裏まで真っ赤に染まっていたが、オッドアイの瞳には、一切の迷いのない「狂信」と「情愛」が灯っていた。
「私は決めたぞ。私は今日を以て、織斑千冬への執着を捨てる。お前こそが、私の唯一の主(マスター)であり、この命を捧げるべき男だ!」
「……ハァ。勝手に言ってろ、ボーデヴィッヒ。俺は部下を持つつもりはねぇ」
「フン、断る権利はお前にはない! 私はドイツの軍人だ、一度見定めた主からは決して離れん! それに……」
ラウラは助手席から身を乗り出し、ソアラのハンドルを握る零士の横顔を真っ直ぐに見つめた。
「お前のその果てしない孤独な闇、自分を救わぬ祈り……私のこの魔眼で、共に背負ってやる。お前の隣、この助手席は――将来的に私のもの、いや、お前の妻(ツヴァイ)としての定位置にしてやるからな!」
「チッ……じゃじゃ馬(セシリア)たちの次は、電波な軍人か。頭が痛いな」
零士はわずかに眉間を寄せたが、アクセルを踏み込む足に少しだけ力が入り、白いソアラはさらに速度を上げて、IS学園の光が見える方向へと夜を切り裂いていく。
ラウラは心の中で、ただひたすらに、熱く、狂おしいほどの誓いを立てていた。己を泥水から救い出し、真の強さと「不器用な救い」を見せてくれたこの男の盾となり、その左手を支える伴侶になるために。
4. 歪み始める学園の日常
翌日、IS学園の訓練アリーナ。
「あ、ラウラ。今日もまた千冬姉の話か?」
一夏がいつもの調子で苦笑しながら話しかける。
だが、ラウラは一夏を一瞥すると、鼻でフンと笑い飛ばした。
「勘違いするな、織斑一夏。私の目はすでに、もっと高く、もっと深い闇の深淵を見据えている」
「え? 深淵……? 何のことだよ?」
不思議そうに首を傾げる一夏を完全に無視し、ラウラはアリーナの観客席の陰から自分を見つめていたセシリア、そしてシャルロットと静かに視線を交わした。
三人の間に流れる、言葉にできない「助手席」の共犯関係。
セシリアが「あら、ラウラさんもようやくお気づきになりましたのね」と言いたげに不敵に微笑み、シャルロットが「ふふ、ライバルが増えちゃったな」と苦笑する。
一夏を巡る箱庭の恋のバトルは、この日を境に、完全に崩壊した。
少女たちの目的はただ一つ。世界の裏側の絶対者である白崎零士を「いかにして征服し、その孤独なファミリーの伴侶となるか」。
そして、このラウラの「第三の記憶」という狂信的な誓いが、最後の箒をも裏の世界へと引き摺り込み、あのリボーンすらも呆れ果てさせた「4人の重婚エピローグ(零士ファミリーの誕生)」へと、爆発的な速度で加速していくのである。
(第三の記憶・ラウラの場合 ―― 完)