インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』   作:suzuki00

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深夜の生徒会長室。遮光カーテンが完全に引かれた暗がりの暗室で、更識楯無はホログラムディスプレイの淡い青光にその端正な顔を照らされていた。
パタパタ、と手元で弄ばれる扇子の音だけが、静寂に均一なリズムを刻んでいる。
「……奇妙ね。本当に、気味が悪いくらいに綺麗に消えてる」
彼女が視線を向けているのは、日本政府の暗部――更識家が独自に運用する情報収集衛星と、IS学園の周囲に張り巡らされた高密度ナノマシンセンサーが弾き出した「異常ログ」の解析結果だった。
湾岸エリアの廃倉庫。旧化学プラント。そして、国際貨物船のコンテナドック。
ここ数週間、学園の外部、それも亡国機業や裏社会の非合法組織が巣食っていたはずの拠点が、次々と「完全沈黙」している。警察の動いた形跡はない。国家規模の軍事行動でもない。ただ、ある夜を境に、そこにいた構成員も、彼らが操っていた粗悪なマフィアの武器も、すべてが物理的に消滅しているのだ。
血痕も、硝煙の残り香もない。ただ、現場には決まって、現在の科学では説明のつかない「局所的な絶対零度のエネルギー残渣」だけが遺されていた。
「ISの出力特性じゃない。分子を、運動エネルギーを、概念ごと『静止』させる未知の熱源……。そして、この事件の発生時刻に、必ず学園のシステムから『機体不調によるエネルギー低下』を偽装して外出している大人が一人」
楯無は指先でホログラムを操作し、一人の男の顔写真を画面中央にポップアップさせた。
白崎零士。冴えない、無愛想な、ただの臨時講師。
「入江正一、それにスパナ。イタリアの巨大財閥の息がかかった天才技術者たちが、わざわざこの学園のサーバーにバックドアを仕掛けてまで、あなたのデータを偽装していた。……日本政府を舐められたものね、白崎先生。いいえ、ボンゴレの『死神』」
だが、楯無が本当に恐ろしさを感じ、そして強い興味を抱いたのは、その死神の戦闘力だけではなかった。
学園の「内側」で起きている、致命的な地殻変動。
画面を切り替えると、4人の少女たちの行動解析データが表示された。
セシリア・オルコット。
シャルロット・デュノア。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
篠ノ之箒。
「あの子たちの瞳から、一夏への盲目的な執着が、綺麗に消え失せている……」
楯無は扇子を口元に当て、微かに目を細めた。
つい先日まで、織斑一夏という一つの太陽を巡って、微笑ましくも騒がしい恋の鞘当てを演じていたはずの代表候補生たち。それが今や、一夏に対しては「日常を守るべき対象」として一歩引いた慈愛の目を向け、その裏で、各自の実家の情報網や特権をフル稼働させて『世界の裏社会』のデータを貪るように収集している。
セシリアはアルコット家の財力で非合法マフィアの動向を追い、シャルロットはボンゴレの情報部門と秘密裏に回線を繋ぎ、ラウラはドイツの軍事ネットワークから『匣兵器』のデータをハッキングし、箒は篠ノ之束の遺したコードから世界の境界線を観測している。
まるで、一人の男が背負う戦場に、自分たちも背を向けて飛び込むための「花嫁の身支度」を調べるかのように。
「一夏と鈴ちゃんは、まだ何も気づいていない。あの子たちはあの夜、フェンスの向こう側から伸びてきた本物の死線から……4人の女の子たちと、あの男によって、不可視のまま『日常』の側へと押し戻されたんだわ」
楯無はゆっくりと椅子から立ち上がり、窓辺へと歩み寄った。
カーテンの隙間から、月明かりに照らされたIS学園の美しい校舎が見える。
日本政府の盾として、この箱庭を守るのが更識楯無の、そして更識家の使命だ。
だが、現在のIS学園の均衡を保っているのは、政府の権力でも、織斑千冬の威光でもない。日常の裏側で、返り血すら残さず世界を剪定し続ける白銀の死神と、その孤独に殉じる覚悟を決めた4人の怪物(候補生)たちだ。
「……これ以上、好き勝手に境界線を書き換えられては、生徒会長(わたし)の面目が立たないじゃない?」
楯無は手にした扇子をパチン、と鋭い音を立てて閉じた。
その双眸には、恐怖を完全に飼い慣らした、国家の暗部を統べる当主としての不敵な光が宿っていた。
泳がせるのは、ここまで。
すべてを見届けた上で、あの男がこの学園に何をもたらすのか。その欺瞞の灯火を、直接暴きに行くとしよう。
「さて……。放課後のデートのお誘い、受けてくれるかしら、死神くん?」
妖艶な笑みを残し、彼女は暗室を後にした。
――これが、あの渡り廊下での緊迫した対峙へと繋がる、観測者のスパイダーネットの全貌だった。


裏の理、欺瞞の灯火(更識楯無との接触

裏の理、欺瞞の灯火(更識楯無との接触)

1. 深まる疑絶と、保留の境界線

放課後の喧騒が去り、夕闇と静寂が支配し始めたIS学園の渡り廊下。

コツ、コツ、と一定のテンポで刻まれる靴音が、前方から歩いてくる人影の存在を告げていた。

 

手にした扇子をパタパタと弄びながら、いつもと変わらない余裕の笑みを浮かべているのは、生徒会長――更識楯無。

だが、すれ違いざま。

その優雅な歩みがピタリと止まり、彼女の纏う空気が、一瞬にして日本政府の暗部を背負う「更識家の当主」のものへと変貌した。

 

薄暗い廊下の静寂を破る、白崎零士の低い声。

 

「おい。俺を嗅ぎ回っているのは更識か?」

 

四人の少女たちが「死神の花嫁」としての覚悟を完了し、一夏と鈴が日常の側へと踏みとどまった、そのすべての境界線を見届けて。零士は背中を向けたまま、地を這うような低い声で問いかけた。その手は、首元の白銀のロザリオ――『雪のロザリオ』にいつでも触れられる位置にある。

 

楯無はゆっくりと振り返り、扇子で口元を隠しながら、ふふ、と妖艶に微笑んだ。

 

「人聞きが悪いわね、白崎先生。私はただの生徒会長として、学園内の『不審な熱源』と、候補生の女の子たちの『夜遊び』を少しだけ心配しているだけよ?」

 

「……。セシリアたちのことか」

 

「それだけかしら?」

 

楯無の双眸が、鋭い光を帯びて零士を射抜く。

 

「湾岸エリアの廃倉庫、旧化学プラント、国際貨物船のドック……。それから、一夏と鈴が巻き込まれそうになったあの夜のフェンス。学園のシステムは完璧に誤魔化せているようだけど、更識家の網(センサー)までは欺けないわ。高速道路の件が“片付いた”かどうかは、私が決めることよ」

 

零士の身体から、目に見えないほどの微細な、だが絶対的な凍結を孕んだ白銀の炎(死ぬ気の炎)のプレッシャーが立ち上る。廊下の窓に浮かぶ結露が、一瞬で白い霜へと変わっていく。

 

「俺に戦いを挑むなよ。意味がないからな。お前たちがISというおもちゃで遊んでいる間にも、世界の裏側は動いている。首を突っ込むなと言っているんだ、更識」

 

「一夏の警護ねぇ。あの子、放っておいてもトラブルの方から寄ってくるタイプなんだけど?」

 

楯無は零士の放つ圧倒的なプレッシャーを前にしても、一歩も引かなかった。彼女の専用機『ミステリアス・レイディ』が持つ高度なナノマシン領域が、零士のVISの偽装熱源が内包する矛盾を、今も冷徹に計算し続けている。

 

「でも、面白いわね。あなたの言う『裏の世界』。セシリアたちがあんなに目の色を変えて、あなたに心酔する理由……少しだけ分かった気がするわ」

 

「フン……。巻き込む前提で話すのは、更識の家系だからか、それともお前個人の我が儘か?」

 

「両方、と言ったらどうするかしら?」

 

楯無は扇子をパチンと閉じ、一歩、零士との距離を詰めた。

 

「私はあの子たちのように、あなたの助手席に乗って守ってもらうつもりなんて毛頭ないわ。だけどね……一夏を、そしてこの学園を脅かす『本物の怪物』が裏にいるというのなら。私は生徒会長として、それを利用させてもらうだけ」

 

「言葉だけ、ね」

 

零士はふっと鼻で笑い、踵を返して歩き出す。

 

「その言葉が本当かどうかは、これから見せてもらうだけよ、白崎先生。――いいえ、マフィアの死神くん?」

 

背後から届く楯無の不敵な笑みを、零士は冷徹に聞き流しながら、闇が濃くなる廊下の奥へと消えていった。

 

2. 欺瞞の灯火と死神の掟

それから数日後の深夜。教員用宿舎の自室に戻った零士は、一人、重厚なデスクの前に座っていた。

 

カチリ、と机の上に置かれたのは、あの漆黒のポルシェとソアラを呼び出すための『匣(ボックス)』。

そして、その隣に置かれた端末のモニターには、学園のメインサーバーに表示させている「白崎零士のISエネルギー稼働データ」が映し出されている。

 

【エラー:エネルギー出力、慢性的な低下(全体の15%で推移)】

 

学園の技術陣が「シルヴァリオ・ゴスペル戦のダメージによる、機体の機能不全」と信じ込んでいる、完璧な欺瞞データ。それは入江正一やスパナが設計した、本来のエネルギー源である「死ぬ気の炎」の超高熱源反応を隠蔽するための高度なカモフラージュだった。

 

「……フン、これだけのカモフラージュを敷いても、更識の目は誤魔化しきれんか」

 

零士は首元の雪のロザリオを指先で弄びながら、窓の外、静まり返ったIS学園の夜景を見つめた。

 

(俺達の力は本来、マフィア同士の抗争でしか使っちゃいけない。堅気(カタギ)にバラした時点でアウトだ。ボンゴレの、いや、裏社会の絶対鉄則――『オルメタ(緘黙の掟)』に触れる)

 

セシリア、シャルロット、ラウラ、箒。

すでに4人のヒロインが、あの助手席で世界の汚濁を知り、自分と共に地獄へ歩む覚悟を決めてしまっている。

 

「あいつらを、深く巻き込みすぎたな……」

 

ぽつり、と零士の口から漏れたのは、マフィアの死神らしからぬ、微かな後悔の念だった。

 

だが、もう境界線は越えられたのだ。

更識楯無はまだ決定的な証拠(本物の死ぬ気の炎の熱源)までは掴んでいない。だからこその「保留の境界線」。彼女は一夏を守るため、零士という不確定要素をギリギリの線で観察し、利用しようとしているに過ぎない。

 

「挑んでくるなら、いつでも相手になってやる、更識。だが……」

 

零士の瞳の奥に、冷徹な、けれど揺るぎないマフィアの『掟』の光が灯る。

 

「俺のファミリー(4人の花嫁)に手を出す奴がいるなら……それが亡国機業だろうが、日本政府だろうが、この雪の炎で一人残らず静止(フリーズ)させるだけだ」

 

カチリ、と部屋の明かりが消され、完全な闇が訪れる。

 

学園の日常の裏側で、静かに、けれど確実に、世界の裏の絶対者たちが集う「最終決戦」へのカウントダウンが、今、静かに始まりを告げていた。

 

 

(更識楯無エピソード:第一幕・第二幕 完




この世界、倉持もボンゴレの傘下企業なので、簪の打鉄似式もいち早く建造済み
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