インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
姉妹の邂逅、白銀の調律
1. 停滞する『打鉄』、焦燥の妹
IS学園の専用機持ちの中でも、更識簪の立場は複雑だった。
生徒会長である姉・楯無への劣等感、そして自身の専用機『打鉄弐式』の開発遅延。開発元である更識自体の技術力をもってしても、機体のコアとパイロットの同調(シンクロ)が安定せず、簪は学園内で孤立を深めていたのだ。
「……また、エラー。どうして……」
深夜の第二開発ドック。独り、機体のモニターを見つめる簪の瞳には、諦めと悲しみが混ざり合っていた。
そこへ、音もなく近づく影があった。
「――同調(シンクロ)しないのは、機体のせいじゃない。お前の『迷い』が、コアの波形を乱しているからだ」
「っ!? ……白崎、先生……?」
そこに立っていたのは、無愛想な臨時講師、白崎零士だった。その手には、学園の支給品ではない、見たこともない複雑な回路が組み込まれた基盤パーツが握られている。
「あなたは……非常勤の……。関係ないはずです、これは更識の――」
「更識の技術では、その『火力の穴』は埋められない。ISの規格そのものが、ある一つの属性(エネルギー)を排除して設計されているからな」
零士は迷いのない足取りで打鉄のコクピットに近づくと、既存の基盤の一部を強引に引き抜き、持ってきたボンゴレの最先端パーツ――入江正一らが開発した『擬似エネルギー安定化回路』を叩き込んだ。
2. 姉の謝罪、死神の調律
「――勝手な真似はやめてもらおうかしら、白崎先生」
背後から届いたのは、鋭い拒絶を孕んだ楯無の声だった。
だが、その瞳にはいつもの余裕はなく、開発の壁にぶつかった妹を助けられない己への苛立ちが滲んでいた。
「お姉ちゃん……」
「簪、下がりなさい。この男が何を仕込むか分かったものじゃ――」
「黙って見ていろ、楯無」
零士は楯無の言葉を遮り、デスク上の端末を叩いた。
「お前が俺を嗅ぎ回る時間はあっても、妹の『心の氷』を溶かす時間はないようだな。……俺のやり方で、この機体に『芯』を通してやる」
零士がパーツのコンソールを起動させ、ボンゴレの特殊周波数を打鉄のコア接続部に流し込んだ瞬間、ドック内の空気が一変した。
機体から発生していた過剰なノイズと不安定な熱源反応が、まるで嘘のように収束していく。
「なっ……! ISのエネルギー出力が、完全に一定値で『静止』して安定した!? この制御技術は一体……!?」
楯無が驚愕の声をあげる。更識の最新センサーをもってしても構造を解析できない、未知のブラックボックス。それは破壊の力ではなく、機体内に渦巻く高負荷を鎮め、コアを完璧な安定状態に置く『調律』の技術だった。
「簪。お前の姉は、お前を疎んでいるわけじゃない。……あまりに高い場所(裏の世界)で戦いすぎて、隣にいるお前の守り方を忘れていただけだ」
零士の不器用な言葉と共に、打鉄弐式のメインモニターが、これまでにないほど澄んだ青色に輝き始めた。
「……先生。これ、は……すごく、温かいです」
簪がコクピットの中で、初めて自分を完全に受け入れてくれたISの確かな鼓動に、大粒の涙をこぼした。
3. 裏の同盟、成立の夜
零士が調整を終え、ツールボックスを片付けてドックを去ろうとした時。
楯無が零士の前に静かに立ちふさがった。しかし、そこに鋭い殺気はもうなかった。
彼女はゆっくりと扇子を閉じ、深々と、更識家の当主としてではなく「一人の姉」として頭を下げた。
「……感謝するわ、白崎先生。簪の『打鉄』……いえ、簪の心を救ってくれたこと」
「勘違いするな。簪が使い物にならないと、最終決戦(これからの騒動)で一夏の足手まといになる。それを防いだだけだ」
「相変わらず可愛くないわね。……でも、決めたわ」
楯無はゆっくりと顔を上げ、不敵に微笑んだ。その瞳には、零士を『不審者』としてではなく、明確に『信頼に値する戦友』として見る確かな光が宿っていた。
「あなたが世界の裏側でどんな血を流そうと、私はもう文句は言わない。……その代わり、この学園の『情報』はすべて私が握り、あなたのカモフラージュは更識が完璧に保証してあげる。……いいわね、零士?」
「フン……。報酬は高くつくぞ、生徒会長」
「ええ。最高の特等席(バックアップ)を用意して待っているわ」
二人の間に、一夏や他のヒロインたちでは決して立ち入ることのできない、『大人の裏の同盟』が完全に結ばれた瞬間だった。
楯無は涙を拭う簪の肩を優しく抱き寄せ、姉妹は数年ぶりの「本当の仲直り」を果たす。その光景を一度だけ振り返り、零士は今度こそ無言で、深夜のドックの闇へと足を進めた。
(更識楯無・簪エピソード:第三幕 完)