インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
第五幕:群れる亡者、孤高の浮雲(最終決戦プロローグ)
1. 敗走の果て、並盛という名の「檻」
「ハァ、ハァ……! 何なのよ、あの男の力は……!」
大雨の降る深夜。臨海エリアのコンテナドックから命からがら逃げ延びた亡国機業の幹部、スコール・ミューゼルは、ひどく乱れた息を吐きながら身を隠していた。
その傍らには、IS『黒騎士』の装甲をパージし、忌々しそうに雨に濡れる織斑まどかの姿がある。
彼女たちの後ろに控える欧州マフィア連合の残党兵たちも、白崎零士という「死神」に魂ごと凍てつかされた恐怖から、未だに身体の震えが止まっていなかった。
「スコール、ここはどこだ。IS学園の追跡レーダーからは外れたようだが……」
まどかが冷徹に周囲の夜景を見渡す。そこは、どこにでもある日本の地方都市のようでありながら、妙に静寂が張り詰めた独特な空気を纏う街だった。
「ふふ……安心して、まどか。ここは日本の警察も、IS学園(政府)の調査権も及ばない『完全な空白地帯』よ。欧州マフィア連合のハッカーが、あらかじめ安全圏として弾き出した座標よ」
スコールは濡れた煙草を投げ捨て、不敵に笑みを浮かべた。
だが、彼女たちは知らなかった。そこが、世界のあらゆる裏組織が「決して足を踏み入れてはならない絶対の聖域」として恐れる、最凶の男の縄張りであることを。
――日本の、並盛町。
そこは世界最強のマフィア、ボンゴレファミリーの現十代目とその守護者たちが育ち、いまや『雲雀財団』の圧倒的な情報網と武力によって完璧に管理された、世界で最も危険な「檻」だった。
2. 鳴り響くコール、並盛の浮雲
同じ頃、激戦の余韻が残る臨海エリアのコンテナヤード。
白崎零士は、漆黒のポルシェ911のボンネットに寄りかかりながら、耳元に装着したインカムの通信ボタンを押していた。
彼の視線の先には、更識楯無が隠蔽した情報網のログが映し出されている。そこには、逃走した亡国機業の移動ルートの終着点が、あまりにも見慣れた「あの街」を指している事実が示されていた。
「……チッ。逃げた先が、あそこだと?」
零士の口から、珍しく本気の苦虫を噛み潰したような声が漏れる。
彼は迷わず、ボンゴレ本家の通常の回線ではなく、雲雀財団の最高機密ラインへと暗号コールを送った。
ツーツー、という無機質な呼び出し音が二回。
それだけで、通信の向こうから、空間そのものを切り裂くような冷徹な気配が伝わってきた。
『……夜更かしだね、零士。僕の眠りを妨げるなんて、それなりの理由があるんだろうね』
低く、切れ味の鋭い声。
雲雀財団の総帥であり、ボンゴレ最強の雲の守護者――雲雀恭弥だった。彼はちょうど、財団の極秘任務のためにイタリアから日本の並盛へと戻ってきていたのだ。
「悪いな、雲雀。そっちの管轄エリア(並盛)に、泥棒が迷い込んだ」
零士は淡々と、だが的確に状況を告げる。
「亡国機業と、それと手を組んだ欧州マフィア連合の残党だ。ISの技術とマフィアの武器を密輸しようとして、俺が潰し損ねた」
通信の向こうで、衣服が擦れる微かな音がした。雲雀がゆっくりと立ち上がったのが、電波越しにでも分かった。
『へぇ……。僕の街(並盛)で、僕の許可なく群れようとする、身の程知らずの、ワオキツネザル(亡者)たちがいる、と』
雲雀の声から、完全に温度が消える。それは紛れもない、彼が「獲物」を見定めた時の極限の殺気だった。
『ちょうど、イタリアでのデスクワークに退屈していたところだ。並盛の秩序(みどり)を乱す奴らは、誰であろうと――咬み殺す』
「待て、雲雀。奴らの本体は、すでにIS学園そのものを完全に沈黙させるための『総力戦』の準備を進めている。並盛にいるのは、あくまでその一部だ」
『関係ないね。僕の視界に入る不純物は、すべて叩き潰すだけだ。……零士、君は自分のファミリー(花嫁たち)の防衛線に戻りなよ。ここは、僕の戦場だ』
プツン、と非情に通信が切られる。
零士は深くため息を吐き、首元の雪のロザリオを制服の内側へと収めた。
「やれやれ……。あいつが動くなら、並盛の残党どもは文字通り『消滅』するな。俺は学園へ戻るか」
3. 総力戦の幕開け、学園沈黙の日へ
並盛の夜の帳の中。
高級ホテルの最上階から、黒い外套を翻した雲雀恭弥が、静かに雨の街を見下ろしていた。その両手には、鈍い銀色の光を放つ一対の仕込みトンファーが握られている。
その背後には、草壁哲矢率いる雲雀財団の精鋭たちが、一糸乱れぬ動きで亡国機業の潜伏先を包囲していくログが端末に流れていた。
「群れる群衆、欺瞞の光……。すべて、僕が排除する」
一方、IS学園では。
更識楯無のバックアップのもと、セシリア、シャルロット、ラウラ、箒の4人が、それぞれの専用機の最終調整を終えていた。
彼女たちの瞳には、もう迷いはない。
並盛の「孤高の浮雲」が裏社会の残党を咬み殺すその裏で、彼女たちは愛する死神(零士)と共に、学園へ迫り来る亡国機業の本隊を迎え撃つ。
「行きましょう、皆様。私たちの『家(ファミリー)』と、零士先生の防衛線(ルール)を守るために!」
セシリアの凛とした声が響き、IS学園のすべてのゲートが開かれる。
日常の皮を完全に脱ぎ捨てた世界の裏の絶対者たちが、いま、一つの戦場へと集結しようとしていた。
(第五幕:群れる亡者、孤高の浮雲 ―― 完)