インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』   作:suzuki00

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全国の、セシリア、シャル、箒、ラウラファンの方、重婚しました。
ごめんね。


後日譚(エピローグ):白銀の誓いと、騒がしき家族のワルツ

後日譚(エピローグ):白銀の誓いと、騒がしき家族のワルツ

1. 完璧なるオメルタ(沈黙の掟)

激戦の硝煙が完全に消え去ったIS学園。あの日、学園の命運どころか世界の勢力図を塗り替えかねない「神々の激突」が行われたにもかかわらず、翌朝のニュースや世界の表舞台には「欧州の謎のテロ組織が、内部抗争により自滅した」としか報道されていなかった。

 

裏社会の絶対鉄則――『オメルタ(沈黙の掟)』。

 

それは、イタリアの入江正一による超高度な情報改ざんと、学園の支配者である更識楯無の手によって、一分の隙もなく完璧に死守されたのだ。何事もなかったかのように青空が広がり、日常を取り戻した学園の片隅で、白崎零士は深く、深く溜息をついていた。先の戦闘で文字通りボロボロになったスーツをようやく新調し、仕立てのいい最高級の黒のジャケットに袖を通したばかりの、その両脇。

 

「白崎先生!……ううん、零士。本当にお疲れ様!」

 

嬉しそうに、弾むような声で右腕に抱きついてきたのはシャルロット・デュノアだった。今回の戦いを経て、零士の「本当の正体」と、自分たちのために世界の闇を裏で引き受けてくれた不器用な優しさを完全に理解した彼女。その潤んだ瞳には、教え子としての枠を遥かに踏み越えた、熱い情愛が宿っている。

 

「ぬ、ずるいぞシャル! 零士、これからは私が、お前の唯一の護衛――いや、妻(ツヴァイ)として、影の世界でも共に歩むと決めた!」

 

間髪入れずに左腕をがっしりとホールドしてきたのは、ドイツの至宝、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。軍人らしく生真面目な、しかし顔を耳の裏まで真っ赤に染めた彼女のホールドは、ISの重力制御並みに強固だった。至近距離から向けられる猛烈な眼差しに、零士の眉間がわずかに寄る。

 

「……おいお前たち、離れろ。俺は一応、まだここでは教師の肩書きだ。あと、これ以上堅気の世界で目立つような真似をしてみろ。イタリアのツナ(十代目)に『また問題を起こしたの!?』って本気で怒られる……」

 

「あら、そんな弱気なことでどうしますの?」

 

呆れる零士の前に、華やかな縦ロールを優雅に揺らしながらセシリア・オルコットが立ち塞がった。彼女は豊かな胸元に両手を当て、勝ち誇ったような、しかしどこか熱っぽく潤んだ瞳で零士を見つめる。

 

「世界を裏から救うほどの殿方ですもの、英国名門アルコット家の婿(むこ)として、これ以上の適任はいませんわ! 私のIS(ブルー・ティアーズ)とあなたのVISが並べば、表の社会も裏の社会も、誰も私たちを引き離せなくってよ!」

 

「おい、話がどんどん飛躍して――」

 

「待て」

 

制止の声を遮るように歩み出てきたのは、固い決意をその身にまとった篠ノ之箒だった。彼女は零士の正面に立つと、いつになく真剣な、一点の曇りもない瞳でまっすぐに彼を見つめた。

 

「白崎、いや……零士。私は決めたぞ」

 

「箒……?」

 

「お前たちが生きる裏の世界、その過酷さは私にはまだ計り知れない。だが、お前が背負う『雪の炎』の孤独を、私はもう遠くから見ているだけにする気はない。私は――お前の率いる『雪の部隊』の候補生として、お前と共に生きると宣言する!」

 

凛としたその誓いに、シャルロットもラウラも、セシリアまでもが「あ、先を越された!」と言わんばかりに色めき立つ。

 

「ちょっと箒!? 候補生だなんて、抜け駆けは許さないよ!」

「ふん、部隊の最精鋭(トップ)に立つのはこの私だ!」

「まぁ! 私だって雪の炎くらい、気合いでトレースしてみせますわ!」

「……はぁ」

 

両腕にかかる心地よい重みと、正面から注がれる四人分の猛烈なアプローチ。世界を裏から救ったはずの最強の非常勤講師は、自身の纏う『雪の炎』の冷気をもってしても決して凍らせることのできない、最高に熱く、そしてどこか居心地の悪くない溜息を、静かに放つのだった。

 

2. 世界の裏側、最強の家庭教師からの電電(TEL)

「――一夏よ、すまん。お前のヒロインを横取りした」

 

放課後、自室に戻った零士が、誰に言うでもなく(しかし心の中で本気で織斑一夏に詫びながら)新調したばかりのネクタイを緩めた、その瞬間。デスクの上に置いていたボンゴレ特製の暗号化スマートフォンが、間の抜けた、しかし心臓に悪い着信音を鳴らした。ディスプレイに表示された発信元は【R】。

 

零士の背筋に、IS学園のどの新型ISを前にした時よりも鋭い緊張が走る。通話ボタンを押すと同時に、スピーカーから響いたのは、あまりにも聞き慣れた、冷徹で楽しげな幼子の声だった。

 

『ちゃおっす、零士。派手にやったそうだな』

 

世界最強の殺し屋(ヒットマン)にして、ボンゴレ十代目ファミリーの絶対的家庭教師――リボーンである。

 

「……リボーンさん。耳が早いですね。現地(イタリア)は今、夜中のはずですが」

 

『ボスのツナがな、日本の防衛サーバーの異常数値を感知した正一から報告を受けて、半泣きで泡を食ってたぞ。「零士くんがIS学園を壊滅させたかもしれない」ってな』

 

「壊滅させてませんよ。亡国機業と過激派連合の襲撃を、仕事(護衛任務)のついでに無傷で処理しただけです。オメルタも死守しました」

 

『ああ、その件は正一と楯無の小娘が完璧に揉み消した。そこは合格だぞ、零士。……だがな』

 

ふっ、と通信の向こうで不敵に、そして酷く愉悦に満ちた笑みを浮かべる気配がした。

 

『問題はその後だ。お前、教え子の女どもに両脇を固められて、挙句の果てには「雪の部隊の候補生として共に生きる」とまで言わせたらしいじゃないか』

 

「っ……!? なぜそれを……」

 

『俺を誰だと思ってる。ボンゴレの intelligence(情報網)を舐めるなよ。……で、どうするんだ? 英国の名門に、ドイツの軍人に、フランスの令嬢、果ては日本のIS開発者の妹か。なかなかの大物揃いだな』

 

零士が額を押さえて絶句していると、リボーンはまるでおもちゃを見つけた子供のように、容赦なく言葉を続けた。

 

『マフィアたる者、ファミリーの拡大と繁栄は絶対だ。堅気の法律や一夫一妻制なんていう表の基準に縛られる必要はねぇ。……重婚も、俺が認めてやるぞ。むしろ全員まとめてボンゴレに引き込め。雪の守護者(おまえ)の直属部隊、あるいは“零士ファミリー”の誕生だな』

 

「勝手に俺の家庭環境をマフィア化しないでください。一応、俺はまだここの非常勤講師なんです」

 

『何が講師だ。お前が一夏って少年の特等席(ヒロイン)を全部かっさらっちまったせいで、あの少年は今頃、ただの「ちょっとISが動かせるだけの普通の男子生徒」に逆戻りだぞ。実にいい気味だ』

 

「言い方……!」

 

『まぁ、死ぬ気で全員幸せにしてみせろ。もし一人でも泣かせるような真似をしてみろ、お前の眉間に死ぬ気弾をぶち込んで、今度こそ本物の地獄の特訓(教育)を再開してやるからな』

 

じゃあな、とだけ言い残し、ブツリと通信が切れた。

 

「……はぁ。どいつもこいつも、基準が狂ってやがる」

 

手元に残されたスマートフォンを見つめ、零士は今日何度目か分からない溜息をついた。リボーンが「認める」と言い出した以上、これは冗談では済まない。イタリアの十代目の頭痛の種がまた一つ増えるのを幻視しながら、零士は窓の外の静かな学園を見下ろす。

 

一夏へのほんの少しの申し訳なさと、これから始まるであろう「四人のヒロイン+最強の家庭教師」に振り回されるあまりにも熱い日常を予感し、白崎零士は静かに苦笑するのだった。

 

3. 「白銀の誓い」:地獄の後の、甘い断罪

数日後。激戦の痕跡が完全に消え去り、平和な静寂を取り戻した夕暮れのアリーナ。零士はかつて100機のドローンを沈黙させたその場所に、四人の少女――箒、セシリア、シャルロット、ラウラを呼び出していた。新調した黒のスーツを隙なく着こなし、かつてないほど真剣な、しかしどこか「観念した」ような表情で彼女たちを見つめる。

 

「……あんな殺戮の現場を見て、俺が何者かも知ったはずだ。それでも、本当にいいんだな?」

 

零士の声が静まり返ったアリーナに響く。あの日、彼が「白銀のVIS」で見せたのは、美しくも残酷な、世界の汚濁を間引きする裏社会の暴力そのものだった。IS学園という平和な箱庭に住む彼女たちにとって、それは本来、忌避すべき地獄の光景だったはずだ。だが、四人の瞳に迷いは微塵もなかった。

 

「言ったはずだ。お前の背負う孤独を、共に見届けると。地獄だろうとどこだろうと、私はお前の隣に行く」

 

箒が先陣を切って一歩踏み出し、零士の瞳を射抜くように宣言する。

 

「そうですわ。あんなにも気高く、私たちを守ってくださった姿……。あの日から、私の心はお金や地位では動かない、あなただけのものですの」

 

セシリアが優雅に、しかし確固たる意志を込めて続く。

 

「零士が何者でも関係ないよ。私が好きになったのは、不器用で、でも誰より優しい零士だから」

 

シャルロットが柔らかく、すべてを包み込むような微笑みを向ける。

 

「戦場でお前を見た時、私は確信した。お前こそが私の唯一の主であり、伴侶だ。裏も表も、私がすべて射抜いてやる」

 

ラウラが鋭いオッズ・アイの中に、深い愛おしさを滲ませて断言した。彼女たちのあまりにも真っ直ぐな、あるいは「異常な事態」すら受け入れる強さを前に、零士はついに降参するように、短く、しかし深い溜息をついた。

 

「……分かった。もう、逃げも隠れもしない」

 

零士はポケットから例の暗号化スマートフォンを取り出し、その場でスピーカーモードにして発信した。相手は、この「重婚容認」という爆弾発言の主。

 

『ちゃおっす。意思確認は済んだようだな、零士』

 

呼び出し音もなく繋がったリボーンの声が、夕暮れのアリーナに響き渡る。

 

「リボーンさん……。ええ、全員の覚悟を聞きました。……俺も、受けるしかないと判断しました」

 

『ほう。マフィアの掟、ファミリーの繁栄――重婚まで飲み込む覚悟ができたか』

 

リボーンの楽しげな笑み。零士は隣で顔を赤くしつつも、期待に満ちた目で自分を見つめる四人を見渡し、はっきりと告げた。

 

「……ああ。ここにいる四人全員、俺が、ボンゴレの“雪の守護者”として責任を持って幸せにします。……いや、俺たちのファミリーとして、一生守り抜く」

 

その瞬間、アリーナの空気が歓喜に跳ねた。ラウラが「当然だ!」と叫び、セシリアが感極まってハンカチを握りしめ、シャルロットが満面の笑みで抱きつき、箒が「……ふん、遅いくらいだ」と照れ隠しに横を向く。

 

『いい返事だ。ツナには俺から伝えておく。「零士の嫁(予定)が四人増えた。結婚式の会場はボンゴレの本部か、それとも日本か」ってな。正一には、彼女たちのISとボンゴレ技術の完全統合を急がせる』

 

リボーンは最後に、少しだけ声を低くし、家庭教師としての真剣さを滲ませた。

 

『零士、そしてお嬢さん方。……マフィアの家族(ファミリー)になるということは、光も闇もすべて分かち合うということだ。覚悟しておけよ』

 

「……分かってます。もう、誰一人離す気はありませんから」

 

零士が通信を切る。スマートフォンの向こうで、イタリアの十代目が「ひえぇぇぇ!」と悲鳴を上げている光景が容易に想像できたが、今の零士にそれを気にする余裕はない。

 

「さて……。講師としての仕事の後に、お前たち四人の相手をするのは、100機のドローン制圧より骨が折れそうだが」

 

苦笑する零士の腕に、我先にと四人のヒロインが群がる。

 

「何を言っている! 教育(ハネムーン)はこれからだぞ、零士!」

「もう、離しませんからね!」

 

雪の炎ですら凍らせられない、あまりにも熱く騒がしい日常。世界のルールを書き換えた最強の非常勤講師は、愛すべき「家族」たちの心地よい重みに、幸福な敗北感を感じながら、赤く染まる学園の空を見上げるのだった。

 

4. 特等席を失った少年と、幼馴染

夕暮れのアリーナの片隅。巨大な柱の影から、その「あまりにも熱い断罪劇」をじっと見つめていた二つの人影があった。織斑一夏と、篁鈴である。

 

二人は完全に言葉を失っていた。アリーナの中央で、新調した黒のスーツを四人の美少女(箒、セシリア、シャルロット、ラウラ)に文字通り揉みくちゃにされながらも、完全に腹を括ったような顔をしている非常勤講師の姿を。

 

「……なぁ、鈴」

 

一夏が、どこか魂の抜けたような、乾いた声で呟く。

 

「な、何よ……一夏……」

 

鈴の声も、引きつっていた。いつもなら「一夏に近づく泥棒猫どもめ!」と怒り狂うはずの彼女だったが、今回ばかりは規模が違いすぎた。相手は世界を裏で救った最強の男であり、ヒロインたちの瞳は完全に「一人の男の伴侶」としてのガチな覚悟に染まっている。

 

「俺さ、白崎先生には命を救われたし、めちゃくちゃ感謝してるんだ。……感謝してるんだけどさ」

 

一夏はそっと自分の胸に手を当てた。

 

「なんだろう、この……胸の奥が、ものすごく、こう……すっっっごく、空っぽになったような気がするんだ。本来なら、あの真ん中に俺がいたような、そんな不思議な錯覚がするっていうか……」

 

「気のせいよ、一夏。あんたがそこに入ったら、間違いなく最初の数秒でバラバラに引き裂かれて、機能停止に追い込まれてるわよ」

 

鈴は引きつった笑みのまま、一夏の肩をポンと叩いた。彼女の脳裏には、先ほどスピーカーから聞こえてきた『重婚容認』という、マフィアの恐ろしすぎる常識がリフレインしている。

 

「あそこに並んでるの、各国の代表候補生よ? それを全員まとめて責任取るなんて言えちゃうの、あの先生くらいなものよ。……っていうか、箒のあんな顔、初めて見たわ」

 

遠くでは、箒が顔を真っ赤にしながらも、零士の腕をぎゅっと抱きしめて「私の家系は、一度決めた男には生涯尽くす性質(タチ)でな……!」と、完全に乙女の顔で囁いている。

 

「……あはは。白崎先生、やっぱりすげぇや」

 

一夏はガリガリと頭を掻きながら、切ない笑顔で苦笑した。主人公としての特等席(ヒロイン)をすべて、文字通り完璧に「横取り」されてしまった少年。しかし、そのおかげで彼は、この先待ち受けるはずだった数々の命がけの修羅場(と、過激すぎる女の子たちの包囲網)から、ある意味で完全に解放され、ただの「ちょっとISが動かせるだけの普通の男子生徒」としての、かけがえのない平穏を約束されたのだった。

 

「一夏、呆れてないで帰るわよ。あそこにいたら、こっちまであの熱気で消し炭にされちゃうわ」

 

「そうだな……。先生、お幸せに」

 

二人は静かに、誰にも気づかれないようにアリーナを後にした。夕日が沈み、夜の帳が下りる学園。特等席を失った少年と、その横で少しだけ安心したように寄り添う幼馴染の背中を見送るように、アリーナからは今日も、賑やかで熱い悲鳴が響き渡るのだった。

 

5. 観測室の鉄の女

アリーナのさらに上層、観測室のブラインドの隙間から、その光景を「別の意味で」凝視している二人の影があった。織斑千冬と、山田真耶である。

 

千冬は、愛用の木刀を握る手にミキミキと不穏な音を立てさせながら、眼下で繰り広げられる「重婚成立」の瞬間を、般若のような形相で見つめていた。

 

「……やりおったな、あの非常勤講師」

 

地を這うような低い声。その視線の先では、零士がヒロインたちに囲まれ、あろうことか重婚容認の電話を終えたばかり。

 

「織斑先生、お、落ち着いてください! 木刀が、木刀が折れちゃいますぅ!」

 

隣で山田先生が、涙目で千冬の腕に縋り付いている。しかし、その山田先生もまた、眼鏡の奥の瞳には複雑すぎる感情が渦巻いていた。

 

「でも……でもですよ、織斑先生。あの白崎先生、あんなに強いのに、女の子たちにあんなに真っ直ぐ責任を取るなんて言えちゃうなんて……。ちょっと、不謹慎ですけど、格好良く見えなくもないというか……」

 

「山田、貴様まで毒されたか」

 

千冬の鋭い視線が山田を射抜く。山田は「ひいっ!」と短く悲鳴を上げて縮こまった。

 

「……あいつは私の実弟(一夏)を護衛するという名目でこの学園に入り込み、あろうことか一夏が築くはずだった……いや、一夏の周囲にいた優秀なIS操縦者たちを、根こそぎ自分の『ファミリー』へ引き込みおった。これはもはや、教育上の問題どころか、国家レベルの損失だぞ」

 

千冬がこれほどまでに悔しさを滲ませるのには理由があった。教師として、そして一夏の姉として。本来なら一夏が成長し、切磋琢磨していくはずだったライバルやパートナー候補たちが、零士という「完成されすぎた大人の男」の魅力と実力に、ものの見事に完敗してしまったからだ。

 

「それに……あの箒まで。あんなに可愛らしい顔をして……。私には一度も見せたことのないような、あんな……あんな……!」

 

千冬は言葉に詰まり、再び眼下の光景に目を戻す。そこには、零士に抱きついたまま幸せそうに微笑む箒の姿。

 

「……ふん。一夏の奴、あんな情けない顔をして見送るとは。姉として情けない」

 

千冬はふいと顔を背けた。だが、その頬は夕日のせいか、あるいは別の感情のせいか、わずかに赤みを帯びている。

 

「織斑先生……もしかして、一夏くんのことじゃなくて、白崎先生が……その……」

 

「黙れ、山田。腕立て伏せ1000回追加だ」

 

「ええぇぇぇーっ!?」

 

絶叫する山田先生を尻目に、千冬は最後にもう一度だけ、アリーナの中央で騒がしくも幸せそうに笑う零士を見つめた。

 

「……全く。とんだ『死ぬ気の教育者』を招き入れてしまったものだな」

 

その呟きは、怒りよりも、どこか深い敗北感と、そして「味方で良かった」という安堵が混ざり合った、複雑な響きを帯びていた。

 

最強の非常勤講師・白崎零士。彼はIS学園のヒロインだけでなく、鉄の女と呼ばれた織斑千冬の「評価基準」までも、その白銀の炎で完全に焼き尽くしてしまったのである。

 

(白崎零士・IS学園裏マフィア譚 ―― 大団円・完)




【終結後:大決戦のその後に】
亡国機業(マフィア連合)との激戦が終わり、白銀の氷柱と大空の炎によって世界が救われた後。
IS学園の最奥、織斑千冬の前に、一人の女性が姿を現した。
「ちーちゃん! 会いたかったよー!」
「つ、束……!? お前、今までどこに……!」
驚愕する千冬。世界中から指名手配されていたはずの妹分は、以前のような狂気は一切なく、非常に晴れやかで、どこか知的な『良識ある研究者』の顔をしていた。
「ふふーん、ボクね、今はとっても大きな『イタリアの会社』で働いてるんだ! ほらこれ!」
束が自慢げに見せた名刺には、【ボンゴレ・エアロスペース(宇宙開発部門)最高責任者・篠ノ之束】と書かれていた。
「宇宙開発だと……? お前がISではなく、宇宙を?」
「そう! ボクの新しいボスがね、『束さんの技術は地球を争わせるためじゃなく、人類を次のステージに進めるためのものだよ』って言って、お月様に行くための新型ロケットの開発を任せてくれたんだ! 正一くんやスパナくん、ヴェルデ博士とも毎日おしゃべりして、超楽しいんだから!」
束は楽しそうに笑い、それから学園の廊下に立つ白崎零士を見つめて、いたずらっぽくウインクした。
「あの時、ボクを暗闇から引っ張り出して、本当の夢を思い出させてくれた『先生』には、感謝しきれないよね!」
一夏や千冬が安全に、平和に暮らせる世界を裏から担保してもらい、自身は本当にやりたかった宇宙への夢を追いかける。
マフィアの絶対的な庇護のもと、良識ある天才となった篠ノ之束は、今度こそ世界を正しく変えるためのロケットを、青い空へと打ち上げる準備を始めるのだった。
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