インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
2. 嫁たちの宣戦布告、あるいは終わらない主導権争い
「零士! 聞いたぞ、正一という男から連絡があった! 私たちのISが、お前の『雪の炎』と番(つがい)になるための調整に入ったとな!」
開発室の自動ドアが勢いよく開き、ラウラが鼻を荒くして飛び込んできた。その後ろからは、お盆に載せた紅茶セットを器用に持ちながら、優雅に、しかし目が全く笑っていないセシリアが続く。
「まぁラウラさん、はしたないですわ。零士、英国伝統のスコーンを焼いてまいりましたの。これから裏の社会でアルコット家の名を轟かせるためにも、まずはこの私の『ブルー・ティアーズ』とお貴方の『VIS』の戦術コンビネーションをですね――」
「ちょっと二人とも、零士を困らせちゃダメだよ」
苦笑しながら二人の間に割って入ったのはシャルロットだった。彼女は自然な動作で零士の白衣の裾を掴むと、上目遣いで微笑む。
「私のラファール、霧の炎の特性がつくんだって? 零士の幻影(ホログラム)を私が作って、二人で敵を翻弄する……ふふ、なんだか共同作業みたいで素敵だね」
「……待て。抜け駆けは斬る」
最後に現れた箒は、木刀ではなく、すでにボンゴレから支給された「雪の炎」を通すための特製リングを指に嵌めていた。彼女は真っ直ぐ零士の前に立つと、顔を林檎のように赤くしながらも、凛とした声で言い放つ。
「私は『雪の部隊』の筆頭候補生だ。ISの調整が終わり次第、お前に実戦形式での指導を請う。……手加減は無用だ、零士」
四者四様の、しかし逃げ場のない熱烈な視線。零士は新調した黒のジャケットの襟元を緩め、内心でイタリアのボス(ツナ)に「俺の有給はどこに消えましたか」と電波を送った。
「……お前たち、勘違いするな。ISの改修はあくまで防衛のためだ。それに、俺はまだお前たちの『夫』になったわけじゃない。リボーンさんが勝手に言っているだけで――」
「「「「却下(ですわ)!!」」」」
綺麗に揃った四重奏が、地下開発室に響き渡った。
「お前はあの夕暮れのアリーナで、一生守り抜くと確かに言った! 軍人に二言はないが、マフィアのボス(予定)にも二言は許さん!」 「そうですわ! 私、すでに英国の父(弁護士)に『ボンゴレという由緒正しい(?)組織と縁組を結びます』と手紙を送ってしまいましたもの!」
零士は天を仰いだ。世界最強のヒットマンが認めた瞬間から、彼女たちの外堀を埋めるスピードは光速を超えていた。
3. 特等席の住人と、胃壁を削る鉄の女
一方、学園の購買部裏。 かつて主役であるはずだった織斑一夏は、篁鈴から回ってきた焼きそばパンを齧りながら、どこか遠い目をしていた。
「……なぁ、鈴」
「何よ、一夏。まだあの『白銀の修羅場』引きずってんの?」
「いや……引きずってるっていうか。今日さ、クラスの女子たちが『白崎先生って、裏社会の超大物なんだって……』『四人を一斉に娶る覚悟がある大人の男、最高じゃない?』ってキャーキャー言っててさ。俺、なんだかIS学園の『唯一の男子生徒』っていうアドバンテージが、完全に消滅した気がするんだ」
「いいじゃない、命が助かったんだから」 鈴は炭酸飲料を喉に流し込みながら、呆れたように笑う。 「あんたがあの四人の相手をしてごらんなさいよ。セシリアのビームで焼かれ、ラウラに拘束され、シャルに翻弄されて、箒に一刀両断されてたわよ。白崎先生みたいな『規格外の怪物』だからこそ、あの猛獣たちを四頭同時に飼い慣らせるのよ」
「飼い慣らすって……先生、今朝も四人に囲まれて、朝食のローテーション(フランス式かドイツ式か和食か英国式か)で本気で悩んで、死ぬ気弾打たれたみたいな顔してたぞ……」
一夏が同情混じりの苦笑いを浮かべたその時、購買部の裏口から「ズシン」と重苦しい足音が響いた。
「――光も闇も分かち合う、か。全くだな」
現れたのは、織斑千冬だった。その手には、いつも以上に使い込まれた木刀が握られており、額には青筋が浮かんでいる。
「ち、千冬姉!? どうしたんだよ、そんな怖い顔して」
「一夏、お前は呑気でいいな。……あの非常勤講師のせいで、私のデスクの上は今、日本政府からの『ボンゴレ・ファミリーとの外交および技術提携に関する秘密親書』と、更識家からの『うちの楯無も雪の部隊に混ぜてほしい』という狂った推薦状で埋まっている」
「更識先輩まで!?」 一夏が飛び起きる。千冬ははぁ、と重いため息をつくと、木刀の柄を地面に叩きつけた。
「ISという世界のバランスを揺るがす兵器が、マフィアの『家族の絆(ファミリー)』という理不尽な力で再定義されようとしている。……だが、不思議と不快ではないのが忌々しいな」
千冬の脳裏に浮かぶのは、数日前、職員室で零士と二人きりになった時の会話だ。
『織斑先生。一夏くんの周囲を脅かす脅威は、俺の命に代えてもすべて裏で処理します。あなたが彼を「表の英雄」として育てたいなら、俺はその影になりましょう』
大人の男としての、あまりにも完成された、そして揺るぎない覚悟。
「……白崎零士。お前がもし、あの四人の誰か一人でも泣かせてみろ。リボーンとやらが死ぬ気弾を撃ち込む前に、この私が貴様の五体をIS(クラスティ・ハマー)で粉砕してやるからな」
千冬は誰もいない空に向かって、そう鋭く呟いた。しかし、その声には「生徒たちを最高の男に託した」という、教師としての奇妙な信頼が混ざり合っていた。