インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
エピローグの、その先へ
夕暮れ時。学園の屋上に一人立ち、心地よい夜風に吹かれる零士のポケットで、再びスマートフォンのバイブレーションが震えた。 ディスプレイには【R】の文字。
「……リボーンさん。ISの改修プラン、見ましたよ。正一をいじめるのはそれくらいにしてください」
『ちゃおっす、零士。挨拶代わりのウェディングギフトだ、気に入ったか?』
「ギフトにしては物騒すぎます。彼女たちがどんどん堅気から遠ざかっていく」
『いいじゃねぇか。お前が背負ってきた「雪の炎」の冷たさは、一人じゃ抱えきれねぇ。だが、四人のISがその炎を分け合うなら、それはもう凍える暗殺者の炎じゃねぇ。ファミリーを温める灯火(ともしび)だ』
受話器の向こうの小さな家庭教師は、珍しく、本当に嬉しそうに帽子を直す気配をさせた。
『ツナもお前に伝言だ。「零士くん、結婚祝いの日本の高級緑茶、ボンゴレの経費で送っておくね。……あと、できれば僕の愚痴を聞きにイタリアに来て」だとよ』
「……十代目の胃の安泰を祈っておきます」
ふっ、と通信が切れる。 携帯をポケットに仕舞い込んだ零士の背後で、屋上の扉が静かに開いた。
「零士、見つけた!」「夕食の時間ですわよ、お貴方!」「今日は私が零士の隣の席だからね!」「いや、私だ!」
賑やかな、あまりにも騒がしい少女たちの声が、静かな夜の学園に響き渡る。 世界を裏から救った白銀の暗殺者は、今度こそ、心からの温かい苦笑を浮かべ、彼女たちの方へと振り返った。
「――分かった、今行く。……これからは、俺たちの時間だな」
世界の裏側、特等席を奪い去った男の物語は、いま、世界で最も熱く、最も絶対に破られない「最高の家族の掟(オメルタ)」へと変わっていくのだった。
――ああ、訂正だ。俺はまだ、ただの『非常勤講師』だぞ、リボーンさん」
ボンゴレ特製の暗号化スマートフォンを耳に当てた零士は、自分の肩書きをあえて強調するように、低く、しかし明確な声で訂正を入れた。
「それに……式は日本じゃない。イタリアのボンゴレ城だ。あの城で、あいつら全員を連れて式を挙げたい。……それでいいか、リボーン?」
一瞬の沈黙。そして、スマートフォンの向こうから、これまでで一番深く、そして最高に不敵なリボーンの笑い声が響いた。
『はっ、ちゃおっす、零士。ただの非常勤講師が、ボンゴレの総本山(ボンゴレ城)を結婚式場に指定するか。……いい度胸だ、合格(合格点)をくれてやるぞ』
リボーンは帽子の上のレオンを優しく撫でながら、楽しげに言葉を続けた。
『卒業を待たずに、教え子4人を連れてボンゴレ城へ乗り込む……。ただの教師の皮を被った、とんでもねぇ略奪者だな。だが、堅気の常識をすべて踏み越えて本拠地(ホーム)へ誘うその覚悟、マフィアの流儀としては満点だ。よし、招待状(インビテーション)の文面は俺が書き換えさせてやる』
ボンゴレの刻印:各国へ届いた「ボンゴレ城への招待状」
リボーンの手によって瞬時に書き換えられ、ボンゴレの漆黒の封蝋が押された公式招待状が、各国の最高権力機関へ届けられた。その文面は、ただの結婚式の案内ではなく、実質的な「主権の誇示」に等しいものだった。
英国:アルコット家
セシリアの父親と英国政府上層部は、手紙に記された【式場:イタリア・ボンゴレ城】の文字を見て完全に硬直した。
「な、何ですって!? 卒業前のセシリアを、イタリアの……あの『裏社会の聖域』に呼び出すというのか!? 英国の代表候補生が、マフィアの総本山で式を挙げるなど……! しかし、断れば我が国の外交暗号がすべて雪の炎で凍結される。……おい、大至急、最上級の防弾仕様のウェディングドレスを用意しろ! 英国高官も命がけでイタリアへ飛ぶぞ!」
ドイツ:軍上層部
ラウラが所属するドイツ軍部は、もはや驚きを通り越して戦慄していた。
「卒業前にボンゴレ城で挙式だと!? ラウラを完全にマフィアの『家族(ファミリー)』として囲い込むつもりか……! くっ、あそこは国際法も届かぬ闇の要塞。力ずくで連れ戻すなど不可能だ。ならば、我が軍の精鋭を『最高礼装の衛兵』としてボンゴレ城に送り込む! ドイツ軍人の誇り、マフィアの城でも見せつけてやる!」
フランス:デュノア家
シャルロットの実家であるデュノア社は、逆にこの状況を「千載一遇のチャンス」と捉えて狂喜乱舞した。
「ボンゴレ城に招待されるなど、一企業のトップが逆立ちしても不可能な栄誉だぞ! シャルロットが非常勤講師(雪の守護者)を完全に骨抜きにした証拠だ。フランス代表の特権など、ボンゴレの庇護に比べれば些細なもの。今すぐ、城の広間に飾るための最高級の引き出物をフランス全土からかき集めろ!」
その頃、IS学園の職員室では……
日本の防衛省と外務省からの、鳴り止まない国際電話の対応に追われていた織斑千冬が、ついに受話器をデスクに叩きつけた。その顔は、般若すら逃げ出すほどの怒りと、呆れに染まっている。
「白崎ぃぃぃ……!! 貴様、ただの非常勤講師の分際で、学園の最高戦力4人を一気にイタリアのボンゴレ城へ連れ去るつもりか!」
「……織斑先生。言ったはずです、俺はただの非常勤講師だと。だからこそ、生徒たちの安全を一番に考えた結果、世界で最も安全な『あの城』を選んだまでです。リボーンさんも乗り気ですし……」
「屁理屈を言うな! 卒業前に生徒を拉致(ハネムーン)されて、はいそうですかと見送れるか!」
千冬はミキミキと音を立てて木刀を握りしめたが、ふぅ、と長く重い溜息をつくと、それをデスクの脇に置いた。
「……まぁいい。こうなったら私も、学園長(教師)として、そしてあいつらの身元保証人として、イタリアへ同行させてもらう。ボンゴレ城とやらがどれほどのものか、この目で確かめてやる。……おい、一夏にもパスポートを準備させろ。あいつには城の入り口で、4カ国から集まる超大物たちの靴磨きでもやらせる」
「……相変わらず手厳しい。ですが、感謝します、千冬先生」
聖域の鐘:リボーンからの最終伝言
スマートフォンから、リボーンの、大仕事を前にしたヒットマンとしての冷徹で、最高に楽しげな声が響く。
『ツナにはもう伝えたぞ。「ひえええ! 零士くんの結婚式をうちの城でやるの!? ヴァリアーの面々や雲雀(ひばり)が暴れたら城が壊れちゃうよー!」って、今からパニックになってる。正一とスパナには、ボンゴレ城の防衛システムと、お嬢さん方のIS技術の完全リンクを急がせてる。城の空を、雨と雪と霧と雲の炎で満たすためにな』
リボーンは不敵に笑い、最後にこう締めくくった。
『非常勤講師・白崎零士。お前が選んだ戦場(式場)だ。各国の思惑も、裏社会のパワーバランスも、すべてお前のまとう「雪の炎」と、4人のヒロインたちの愛の熱量で叩き潰してみせろ。……ボンゴレ城の特等席で、お前たちの「死ぬ気の誓い」、楽しみに待ってるぞ』
イタリア、の山奥に聳え立つ、ボンゴレ・ファミリーの総本山――ボンゴレ城。
いつもは冷徹な鉄血の要塞であるその城が、今日ばかりは世界各国の最高級リムジンと、各国政府・軍部の最高幹部たちの姿で埋め尽くされていた。
純白のタキシードに身を包み、新郎控室で最後のネクタイの調整をしていた零士は、コンコン、という小気味いいノックの音に振り返る。
「ちゃおっす、零士。さすがにサマになってるじゃねぇか」
入ってきたのは、仕立ての良い小さな黒いタキシードを着こなし、今日のために新調したネクタイを締めたリボーンだった。その肩には、いつものように緑色のトカゲ(レオン)が澄ました顔で乗っている。
零士はスマートフォンではなく、目の前の小さな家庭教師(ヒットマン)を見下ろし、少しだけ緊張の混じった苦笑を浮かべた。
「……リボーンさん。城の広間を見下ろしましたが、本当に洒落にならないことになっていますね。英国の王室関係者に、ドイツ軍の最高将官、フランスの政財界のトップ……。ただのIS学園の非常勤講師の結婚式に、これだけのメンツが集まるなんて、頭が痛くなります」
「はん、何を言ってる。お前が『全員まとめてボンゴレ城で式を挙げる』と啖呵を切ったんだ。世界を裏から牛耳るボンゴレの誘いを、坚気(かたぎ)のトップどもが断れるわけねぇだろ。……だが、驚くのはまだ早いぞ」
リボーンは不敵に笑い、帽子の庇をくいと上げた。
「……リボーンさん。もしかして、あの席には……9代目(ノーノ)も来るんですか?」
零士の問いに、リボーンは当然だと言わんばかりに頷いた。
「あたりまえだ。歴代のボンゴレボスの中でも、とりわけ包容力と『家族(ファミリー)』の拡大を喜ぶ老人だからな。お前のような優秀な守護者が、4人もの大物(代表候補生)を同時に連れて組織に根を下ろすんだ。喜んで直々に祝福に来るさ。……ほら、噂をすればお出ましだぞ」
控室の重厚な扉が静かに開く。 そこに立っていたのは、穏やかな、しかし立っているだけで周囲の空間を圧倒するほどの慈愛と覇気を纏った老人――ボンゴレ9代目(ティモッテオ)だった。
「やあ、零士。素晴らしい日だね。君の晴れ舞台を、この老い先短い目で見届けることができて、本当に嬉しいよ」
「9代目……! わざわざ足を運んでいただき、恐縮です」
零士が深く頭を下げると、9代目は温かい手でその肩を叩いた。
「頭を上げなさい、白銀の暗殺者(教え子を愛した教師)。今日、この城は君たちの家だ。4人の美しい花嫁たちを見たが……みんな、君に命を預けるにふさわしい、強い瞳をしていた。堅気の法律や古い常識など、我がボンゴレの絆の前には無意味だ。大いに胸を張りなさい」
「……はは、ありがとうございます」
9代目の圧倒的な器の大きさに、零士は今日一番の深い、しかしどこか吹っ切れたような溜息をついた。
その時、控室の奥の通信モニターから「ひえええええ!」というお馴染みの情けない悲鳴が響き渡る。画面の向こうでは、同じくタキシード姿の10代目(ツナ)が、髪を振り乱してパニックになっていた。
『れ、零士くん! 大変だよ! 広間でヴァリアーのXANXUS(ザンザス)たちが「肉と酒が足りねぇ」って暴れ始めてるし、雲雀(ひばり)さんは「群れる桜(各国高官)は咬み殺す」ってトンファー抜いてるし、挙句の果てに織斑千冬先生が木刀持って「うちの生徒を泣かせたら城ごと叩き斬る」って門番(ゴーラ・モスカ)を威嚇してるんだよー! 助けて零士くん!!』
画面の横では、入江正一がまた胃を押さえて卒倒しかけている。
それを見たリボーンは、実におもちゃを見つけた子供のような笑みを浮かべ、銃(レオン)をクルリと回した。
「楽しそうじゃねぇか。おい零士、9代目も、お前の花嫁(猛獣)たちも待ってる。世界で最も物騒で、最も祝福された結婚式の始まりだ。――死ぬ気で、全員幸せにしてこい」
「……言われなくても、そのつもりです。非常勤講師の、これが最後の『課外授業』ですからね」
零士は新調した白いジャケットの襟を正し、白銀の炎を微かに宿らせた瞳で、歓声(と破壊音)が響く大広間への扉を開け放つのだった。
第4話:『死ぬ気の誓い(マリアージュ):白銀の聖域に響く鐘の音』
「……全く、どいつもこいつも『死ぬ気』になりすぎだ」
爆発音と歓声が交互に響くボンゴレ城の長い回廊を、零士は白いタキシードの足取りも確かに進んでいた。 その背後からは、小さな足音。リボーンが愛銃を懐に仕舞いながら、実におかしそうに並走している。
「はん、弱音を吐くな零士。お前が世界最強の非常勤講師なら、あの広間にいる各国の化物どもを全員黙らせて、身も心も完璧に『家族(ファミリー)』にしてみせろ」
「言われなくても……そのために、この白い悪魔みたいな服を着てるんです」
重厚な大広間の扉の前に、二人の漆黒の衣服を纏った男たちが立っていた。一人は、すでに戦意を喪失して魂の抜けたような顔でご祝儀袋を持っている織斑一夏。そしてもう一人は、黒い夜会服(ドレス)に身を包み、腕を組んで般若のオーラを放っている織斑千冬だ。
「……来たな、白崎。遅いぞ」
千冬の低く冷徹な声が、廊下の空気をピリつかせる。
「すみません、千冬先生。身内の調整に少々手間取りまして」
「ふん。貴様の身内(十代目ファミリー)の凶暴さには、さすがの私も肝を冷やしたぞ。先ほど、銀髪の爆弾男(獄寺)が『十代目の聖域で騒ぐな!』と叫びながらダイナマイトを撒き散らし、それをうちの篁鈴が甲武(IS)の刀で叩き落としていた。……ここは戦場か?」
「あはは……白崎先生、本当に命がけの結婚式ですね……」 一夏が乾いた笑いを浮かべながら、零士のタキシードの乱れをそっと直してくれる。その切ない少年の優しさに、零士は内心で「本当にすまん、一夏」と五度目の一礼をした。
「安心してください、千冬先生。ここからは、俺の『授業』です。生徒たちの最高の瞬間を、特等席で見届けてください」
零士が微笑むと、千冬はふいと目を逸らし、しかしどこか満足そうに口元を緩めた。 「……行ってこい。泣かせたら、あの9代目という老人が許しても、この私が許さん」
大広間の巨大な扉が、ボンゴレの黒い黒服たちの手によって、ゆっくりと左右に開け放たれた。
白銀の聖域、四神降臨
『――新郎、白崎零士。そして、その生涯の伴侶たちの入場です!』
ルッスーリアの無駄にハイテンションなアナウンスが広間に響き渡るのと同時に、天井高数十メートルの大空間に、五色の炎が美しく吹き荒れた。 正一とスパナが調整した、ISのセンサーとリングの炎による「光の祝砲」だ。
広間に集まった英国・ドイツ・フランス、そして日本のお偉いさんたちが一斉に息を呑む。 扉から歩み出てきたのは、純白のドレスに身を包んだ、四人の、世界で最も美しく物騒な花嫁たちだった。
「零士……! 待たせたな! このドレス、動きづらいが……お前の隣に立つにふさわしい私になれているか?」 先頭を歩く箒は、いつものポニーテールを華やかに結い上げ、顔を真っ赤にしながらも、凛とした瞳で零士を見つめた。その指には、雪の炎と共鳴して白銀に輝くリングがある。
「まぁ、箒さんたら先を急ぎすぎですわ。零士、見てくださいまし。アルコット家が総力を挙げて仕立てた、防弾・防刃仕様の最高級ドレスですの。お貴方の隣で、表も裏も支配する準備はできていなくってよ?」 セシリアが縦ロールを揺らし、勝ち誇ったような、しかし愛おしさに満ちた瞳で零士の右腕を滑り込ませる。
「ふふ、二人とも気合が入りすぎだよ。零士、お疲れ様。……今日の私は、教え子じゃなくて、お前の『女の子』だよ?」 シャルロットが柔らかい微笑みを浮かべながら、零士の左腕にしがみつく。ドレスの隙間から覗く彼女のISの起動リングが、霧の炎で淡く輝いていた。
「零士! ドイツ軍部からは『一番目立ってこい』と言われたが、そんな命令はどうでもいい。私はただ、お前の一番近くで、お前の盾(ツヴァイ)として生きるだけだ!」 ラウラが黒い眼帯すらドレス仕様の純白に変え、猛烈な眼差しで零士の胸元に飛び込んできた。
四人の圧倒的な美しさと、それを正面から受け止める非常勤講師の姿に、各国の高官たちは言葉を失い、ただただ圧倒されていた。 マフィアの総本山で、ISの未来を担う少女たちが、一人の男の「ファミリー」として完全に調伏されている――その政治的・軍事的な意味の重さに、彼らはただ拍手を送るしかなかった。
9代目の祝辞と、最強の家庭教師の悪だくみ
雛壇に上がった零士たちを、温かい眼差しで迎えたのは9代目だった。 彼はゆっくりと立ち上がり、広間に集まった裏と表の支配者たちを見渡した。
「素晴らしい。今日、ここに新たな『絆(レガーム)』が結ばれた。堅気の法律が一つの愛しか認めないというのなら、我がボンゴレの歴史が、彼女たちの覚悟を全霊で肯定しよう。白崎零士、そして四人の美しき花嫁たちよ。君たちの未来に、大空の加護があらんことを」
9代目の格調高い宣言に、広間は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。 沢田綱吉(ツナ)が「本当によかったぁぁぁ!」とハンカチで涙を拭い、その後ろではリボーンが不敵に笑いながら、新たなリストを眺めている。
「おい、ツナ。泣いてる暇はねぇぞ。早速、フランスのデュノア社から『雪の部隊』への特別予算の共同口座が開設された。英国からはアルコット家の領地の一部をボンゴレの指定保養地にする書類が届いてる」
「ひえええ! リボーン、結婚式を政治利用しないでよ! 零士くんが怒るよ!?」
「何言ってる、ファミリーの繁栄はボスの責任だ。おい零士、挙式は終わった。ここからはハネムーン(実戦訓練)だぞ」
リボーンが雛壇の零士に向けて、親指を立ててみせる。
四人の花嫁の心地よい重みと、世界中から集まった大物たちの視線を浴びながら、白銀の非常勤講師は、今日、人生で最も熱く、そして二度と凍ることのない最高の溜息を、静かに吐き出すのだった。
「……さて。お前たち、これから始まる俺の『終わらない授業』、死ぬ気でついてきてもらうぞ」
「「「「喜んで(だぞ)、零士!!」」」」
ボンゴレ城の鐘の音が、イタリアの青い空に、賑やかに、そしてどこまでも高く響き渡った。
(完)