インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
【修学旅行・京都編:最終夜】『二寧坂に佇む琥珀の庵:八坂の塔と、京大和の美酒』
1. 昼の部:二寧坂のお土産狂騒曲と、一夏が掴んだ「普通の幸せ」
修学旅行の最終宿泊先は、東山の歴史の特等席、二寧坂に面した『パーク ハイアット 京都』。 創業140年余の老舗料亭「京大和」の歴史ある庭園と、洗練された現代建築が見事に調和したその空間は、まさに表の格式の頂点であり、同時に裏の人間が息を潜めるにも完璧なプライベート感を備えていた。
だが、チェックインを目前に控えた昼間、零士は二寧坂・産寧坂の入り組んだ石畳の中で、四人の嫁たちの「お土産選び(という名のデート)」に全力で付き合わされていた。
「零士、見てくれ! この清水焼の夫婦茶碗……いや、五人用の『家族茶碗』だ! これをイタリアの城に持って行き、毎朝お前と飯を食うのが私の今の夢だ!」 箒が、職人が丹精込めて焼いた美しい白磁の茶碗を抱え、ポニーテールを揺らして微笑む。
「あら、箒さん。お茶碗も素敵ですが、イタリアの食卓にはこちらの西陣織のテーブルランナーが似合いますわ。お貴方、こちらの伝統的な藍色、お貴方の『VIS』の白銀にとても映えると思いませんこと?」 セシリアが華やかに縦ロールを揺らし、零士の右腕をがっちりとホールドする。
「二人とも、荷物が増えちゃうよ? ほら零士、私はお揃いの宇治抹茶の匂い袋を買ったんだ。お前の上着に忍ばせておけば、イタリアに行っても日本の、この旅行の匂いを思い出せるでしょ?」 シャルロットがいたずらっぽく微笑み、霧の炎で周囲の観光客の視線をさりげなく逸らしながら、左手の手のひらを零士の手に重ねてくる。
「ふん、私はお土産よりも、あそこにある木刀のキーホルダーが気になる。新選組の誠の旗が刻まれているな。主(だんな)様、これを我が雲の炎で増殖させ、学園の風紀の証として職員室に――」 「ラウラ、木刀を増殖させるな。千冬先生にまた腕立て伏せを増やされるぞ」 零士が今日100回目となる臨機応変なツッコミを入れつつ、大量の紙袋を抱えてエスコートを続ける。
ふと二寧坂の喧騒の向こうを見ると、浴衣姿の一夏が、鈴に「一夏、ほら! あそこのお団子屋さん入ろ!」と手を引かれ、実に楽しそうに笑っていた。 「……あはは。白崎先生、あの四人の『未来の覚悟』を受け止めるのは先生しかいませんよ。俺は、この普通の清水の坂道を、鈴と二人で歩けるだけで大満足です」 一夏は、かつて背負っていた「世界の中心」という重荷を完全に下ろし、ただの恋する少年として、零士に感謝の視線を送っていた。
2. 夜の部:八坂の塔を見下ろす「琥珀」の特等席と、山田先生の限界
夜。すべての旅程を終え、一行は『パーク ハイアット 京都』へと滑り込んだ。 歴史ある「京大和」の木造建築とモダンなホテルが融合した敷地は、零士の「雪の炎」の結界によって、夜這いを企てる嫁たちの気配すら優しく包み込み、彼女たちを心地よい疲労と共に深い眠りへと誘っていた。
零士が向かったのは、ホテルの最上階にあるバー『琥珀(KOHAKU)』。 ガラス窓の向こうには、ライトアップされた「八坂の塔(法観寺)」が目の前に迫り、その背景に京都の街の夜景がパノラマで広がる、この世で最もドラマチックな特等席だ。
そこには、すでに「京大和」が用意した最高峰の京料理をアテに、伏見の限定銘酒『澤屋まつもと 守破離』の最高峰ボトルを傾けている織斑千冬の姿があった。
「……遅かったな、白崎。この旅の、本当に最後の夜だ。腰を据えて飲もうじゃないか」 千冬が、八坂の塔の黄金色の光に照らされながら、艶やかな浴衣の袖を払って、手慣れた手つきでグラスに酒を注ぐ。
「お疲れ様です、千冬先生。二寧坂の坂道と、嫁たちの物欲をコントロールするだけで、流石の俺も『死ぬ気』になりかけましたよ」 零士がふっと笑い、講師としての肩書きを完全に下ろして、千冬の対面の特等席に座る。
一口含んだ酒は、これまでの京都の夜を締めくくるにふさわしい、圧倒的なキレと深みを持っていた。
「美味いな……。この八坂の塔の景色と、この酒。……白崎、お前がIS学園に来た時、私はただの『厄介な非常勤講師』が来たと思っていた。だが、お前はあいつらに『戦う理由』ではなく、『誰かを守り、共に生きる覚悟』を教えてくれた」 千冬がグラスを揺らし、京都の夜景を見つめる。
「俺はただ、あいつらが裏の世界へ来た時に、孤独にならないようにしているだけです。千冬先生、あなたが表の世界で彼女たちの『基礎』を作ってくれたからこそ、俺はその上に、ボンゴレとしての未来を築くことができた」
その時、二人の座るローテーブルの端から、「ふにゃぁぁ……」と、完全に魂が抜けたような声が響いた。 見ると、山田真耶先生が、パークハイアットの最高級クッションに顔を埋め、完全にノックアウトされていた。手には、飲み干したばかりの宇治抹茶カクテルのグラスが転がっており、眼鏡が完全に額までズレ上がっている。
「……山田先生、最終夜も完璧に予定調和の爆睡ですね」 「放っておけ。あいつは昼間、一夏と鈴の『普通のデート』が邪魔されないよう、他のクラスの女子たちの視線を誘導するために、一人で映画村を走り回っていたからな。あいつこそ、この修学旅行の陰の功労者(守護者)だ。……よくやった、と褒めて寝かせてやれ」 千冬は愛おしそうにフッと笑うと、山田先生に自分の羽織をそっと掛け直してやった。
『ちゃおっす。極上の夜景に、最高の酒。裏社会のボスを労うには、これ以上ない舞台だな、零士』 テラスの窓枠の影から、黒いハットを被った小さなヒットマンが、レオンを肩に乗せて静かに降りてきた。リボーンだ。
「リボーンさん。最後まで、見事なプロの足取りですね」 『はん、当然だ。ツナからな、「零士くんたちが、日本の伝統の最後を最高に楽しめますように!」って、並盛のボンゴレ地下から、このホテルの全室の宿泊費を『経費』で落とす手続きをさせられたからな。……千冬の姐さん、あんたの育てた生徒たちは、明日から『世界』を変えるぞ』
リボーンの言葉に、千冬は静かにグラスを突き出した。 「……分かっているさ。白崎、これからは、お前があいつらの『家(ファミリー)』だ。卒業のその日まで、せいぜいその白いジャケットを私の前で汚さずにいろ」
「――ええ。死ぬ気で、その風紀を守り抜きますよ」 零士が微笑み、三人のグラスが、八坂の塔の輝きの中でチリンと美しく、そして何よりも重厚な音を立てて重なり合った。
階下のスイートルームからは、「零士……イタリアでも、一緒だよ……」「お貴方、離しません……」「むにゃ、突撃……」と、夢の中で白銀の城を目指す四人の嫁たちの愛おしい声が、古都の夜風に乗って静かに響いている。
4泊5日、広島から始まった修学旅行。 表の最強の女と、裏の白銀の講師、そして世界を護るヒットマンは、東山の美しい月明かりの下で、来たるべき未来の戦いと、愛おしい卒業の日のために、どこまでも深い大人たちの杯を交わし続けるのだった。