インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
【学園編・日常編 最終章】『白銀の誓い、そしてイタリアへ:卒業前夜の風紀指導』
修学旅行という「高校生としての最大の表の思い出」を終え、一行は再びIS学園へと帰還した。 残された学園生活はあと僅か。卒業式が目前に迫る中、学園内はどこか寂しさと、新たな未来への高揚感に包まれていた。
そして、卒業式を翌日に控えた、学園生活最後の夜。
1. 夜の部(IS学園・第三アリーナ):最後の「非常勤講師」として
「――おい、お前たち。消灯時間はとっくに過ぎているぞ。臨機応変に、自室へ戻れ」
深夜の第三アリーナ。月明かりだけが差し込む静まり返った空間に、白い講師用ジャケットを羽織った零士の声が響いた。 正面に立っていたのは、パジャマ姿のまま、それぞれのISを展開した箒、セシリア、シャルロット、ラウラの4人だった。彼女たちの瞳には、一切の眠気はなく、ただ真っ直ぐに零士だけを見つめている。
「戻るわけがないだろう、零士。明日、私たちはこの学園を卒業する。それは、織斑千冬の生徒ではなくなり……お前の『家族(ファミリー)』になるということだ」 箒が紅椿の鞘をカチリと鳴らし、一歩前に出る。その瞳には、かつての迷いはなく、一人の大人の女としての覚悟が宿っていた。
「ええ、お貴方。明日からは、私たちはIS学園の生徒ではなく、ボンゴレの『白銀のボスの妻』として世界と対峙いたしますわ。……ですから、最後の夜に、私たちの成長をその目に焼き付けていただきたいのです」 セシリアがブルー・ティアーズのビットを静かに浮遊させる。その弾道には、完璧にコントロールされた「雨の炎」が蒼く静かに揺らめいていた。
「零士、手加減はなしだよ? 私たちの『霧』が、お前の孤独をどれだけ包み込めるようになったか、試してみて」 シャルロットがラファールから無数の幻影を生み出す。アリーナ全体が、まるでイタリアのボンゴレ城の広間のような美しい銀雪の空間へと書き換えられていく。
「主(だんな)様、私をただのドイツの代表候補生だと思うな。私はお前の『雲』だ。お前が戦う戦場を、どこまでも増殖して守り抜いてみせる!」 ラウラが巨大なシールドを展開し、不敵に笑う。
4人の嫁たちが放つ、ISの出力と「死ぬ気の炎」の圧倒的なプレッシャー。それは、数ヶ月前とは比べ物にならないほど洗練され、一つの完璧な『ファミリー』の絆として完成されていた。
零士はフッと口元を緩め、愛用の白銀のVISを起動する。 空間が、彼の纏う圧倒的な「雪の炎」の冷気によって静かに鎮静化していく。
「……いいだろう。IS学園・非常勤講師として、最後の『風紀指導(お仕置き)』だ。死ぬ気で、俺に喰らいついて来い!」
月明かりの下、アリーナで巻き起こる最高峰の激突。それは戦いではなく、これから過酷な裏社会へと歩み出す彼女たちへの、零士からの最後の「講義」であり、「愛の証明」だった。
2. 深夜の部(千冬の私室):旅立ちの杯と、教師たちの終着点
アリーナでの「最後の授業」を終え、嫁たちを心地よい疲労と共にそれぞれのベッドへと送り届けた零士は、学園長室の奥にある、織斑千冬の私室へと向かった。
ドアを開けると、そこにはすでにジャージを脱ぎ捨て、いつもの黒いスーツ姿でソファーに深く腰掛けている千冬の姿があった。 机の上には、修学旅行の帰りに京都で仕入れてきた最後の銘酒『澤屋まつもと 守破離』のボトルが、静かに月光を浴びて佇んでいる。
「遅かったな、白崎。……最後の風紀指導は、無事に終わったか?」 千冬が、少しだけ寂しげな、しかし最高に誇らしげな笑みを浮かべてお猪口に酒を注ぐ。
「ええ。あいつら、俺のVISの装甲を一枚剥ぎ取りかけましたよ。千冬先生、あなたが育てた生徒たちは、本当に化け物揃いです」 零士が講師用ジャケットを脱ぎ、ソファーへ腰掛けてお猪口を手にする。
一口含んだ酒は、京都の夜と同じように瑞々しく、しかしどこか、別れの切なさを帯びているように感じられた。
「ふっ、当然だ。私の生徒だからな。……だが、明日からは、あいつらは私の手を完全に離れる。白崎、一夏を普通の少年に戻し、あの猛獣どもをすべて背負って茨の道を進む覚悟は、本当にできているんだろうな」
「今更ですよ、千冬姐さん。俺の『雪の炎』は、一度掴んだものを絶対に離さない。あいつらが世界のどこへ行こうと、俺の城(ファミリー)の中で、誰よりも自由で、誰よりも幸せにしてみせます」 零士が静かに酒を飲み干す。その力強い言葉に、千冬は満足そうに目を細めた。
「うにゅぅ……白崎先生ぇ……卒業式、山田は、絶対に泣いちゃいますぅ……」 ソファーの横では、すでに梅酒で完全に出来上がった山田真耶先生が、クッションを抱きしめながらボロボロと嬉し涙を流し、そのまま「すぴー……」と平和な寝息を立てて眠りについていた。
「……相変わらず、涙脆いやつだ。だが、あいつのおかげで、この学園は最後まで『ただの学校』でいられた。感謝している」 千冬が山田先生にそっとブランケットをかけてやり、再び零士に向き直る。
『ちゃおっす。最高の旅立ちの前夜だな』 窓枠から、黒いハットを被ったリボーンが姿を現した。その肩のレオンは、すでにイタリアへの帰還を悟っているのか、静かに瞳を輝かせている。
「リボーンさん、明日で俺の『非常勤講師』もお終いです」 『はん、お疲れさん、零士。九代目もお前の帰還を心待ちにしてるぞ。ツナなんか、「零士くんたちが帰ってきたら、盛大な卒業パーティーを開くんだ!」って、今からマフィアの幹部たちを総動員して準備させてるからな』
リボーンの言葉に、千冬と零士は顔を見合わせて笑った。
「白崎。いや、ボンゴレの白銀のボス、白崎零士」 千冬が最後の一滴を二人のグラスに注ぎ、真っ直ぐに零士を見つめる。 「――お前がこのIS学園に来てくれて、本当に良かった。あいつらを、よろしく頼む」
「――ええ。お任せください、千冬先生。……今まで、ありがとうございました」
チリン、とお猪口が合わさり、最後の美酒が二人の身体を温める。
窓の向こう、夜明けの光が学園の地平線から静かに差し込み始めていた。 明日、彼女たちは制服を脱ぎ、それぞれの翼で未来へと羽ばたく。 だが、この日本の、IS学園という平和な聖域で過ごした賑やかで愛おしい「日常」の記憶は、これから始まる裏社会の長い戦いの中で、彼女たちと零士を支える絶対の光となる。
朝の光に包まれる学園を見つめながら、非常勤講師としての最後の夜は、静かに、そして美しく明けていくのだった。