インフィニット・ストラトス×家庭教師REBORN!―雪零の守護者―』 作:suzuki00
■ アリーナ・クラス代表決定戦
一夏とセシリアのクラス代表決定戦が行われるアリーナ。 観客席を埋め尽くした女子生徒たちの黄色い声援が響き渡る中、教官用の管制ブースでは、織斑千冬が腕を組み、冷徹な視線でメインモニターを見つめていた。その隣には、お気に入りの缶コーヒーを手にした白崎零士が、気怠げに壁に背を預けている。
モニターには、ブルーの優美な装甲を纏い、背部に4機のビット兵器『ブルー・ティアーズ』を浮遊させたセシリア・オルコット。そして、まだその機体の特性すら完全に把握していない一夏の『白式』が対峙していた。
「フン……。あいつ、ISの挙動に完全に振り回されてるな。重心がブレブレだ」 千冬が画面の一夏を見て、苦々しく吐き捨てる。
零士は缶コーヒーを口に運び、ふっと薄く笑った。 「まあ、初めての実戦なんだ、大目に見てやれよ千冬。……だが確かに、あの構えじゃあ、少し手練れの狙撃手が相手なら一瞬で蜂の巣だな。帰ったら体幹を鍛え直すメニューを3倍に増やしてやるか」
「ほう、いい提案だな。私も乗ろう。……おい白崎、お前ならあの距離、どう詰める?」
「俺なら、紙一重でかわし近づく」
その瞬間、セシリアの『ブルー・ティアーズ』から一斉にレーザー光線が放たれた。青い閃光がアリーナを縦横無尽に切り裂く。一夏は白式のブースターを吹かして必死に回避するが、洗練されたセシリアのオールレンジ攻撃に、じりじりとエネルギー障壁を削られていく。
「ダメですわ、一夏! 素人のあなたでは、私の機動力についてくることすら不可能なのです!」
高らかに笑いながら、セシリアはさらに距離を取り、一夏を寄せ付けない完全な遠距離戦を展開する。だが、一夏は直撃を避けつつも、確実にセシリアとの距離を詰めるための「一瞬の隙」を狙っていた。セシリアの攻撃は華麗だが、それゆえに一定のリズムがある。一夏はそのリズムの歪みに、全神経を集中させていた。
「ハァ……ハァ……! そこかっ!」
一夏が叫ぶ。白式の推進力が爆発的に跳ね上がり、セシリアが放ったレーザーの網目を、文字通り紙一重で潜り抜けた。
「なっ……!? 嘘でしょう!?」
一瞬にして懐へ飛び込んできた一夏。その手には、白式の近接用ブレード『雪羅』が握られていた。
「これで……終わりだっ!」
一閃。まばゆい光の粒子がアリーナに散り、セシリアのエネルギー残量を示すインジケーターが一気にレッドゾーンへと叩き落とされた。
『勝者、織斑一夏!』
アリーナに勝利のガイダンスが響き渡り、観客席が大歓声に包まれる。 管制ブースでそれを見た千冬は、小さく鼻で笑った。
「……ふん、運が良いだけの男だ」
「運も実力のうちってな。日本の男の面子は、ギリギリ守られたわけだ」 零士は空になった缶をゴミ箱へ放り投げ、ブラックスーツの襟を正した。
■ エキシビションマッチでの「完全敗北」
一夏に敗北したという事実が、イギリス代表候補生としてのセシリアのプライドを酷く傷つけていた。彼女はそのやり場のない悔しさと焦燥感から、自分の敗因を受け入れられず、クラスの「特別非常勤講師」である白崎零士へと矛先を向けた。
「白崎先生、私とエキシビションマッチをしていただきますわ。男のあなたがどれほどの実力でその地位にいるのか、英国代表候補生として見極めさせていただきます!」
アリーナに再び立つ二人。セシリアは納得のいかない表情のまま『ブルー・ティアーズ』を展開して宙に浮き、対する零士はISを装着することすらなく、いつものブラックスーツ姿のまま平然と地面に立っていた。
「白崎先生、ISを展開なさらないのですか? 舐められたものですわ!」
セシリアの操作により、背部のビット兵器が一斉に一撃を放つ。しかし、零士は顔色一つ変えず、身一つでその猛攻をすべて紙一重で回避してみせた。まるで最初から光線の軌道が見えているかのような、無駄のない最小限の動き。
「な、なぜ当たらないのですの!?」
焦ったセシリアが全方位からの同時狙撃を仕掛けるが、零士は自身の首元のロザリオ(VIS)に宿る「雪の炎と氷」を、周囲に悟られないよう極小に出力した。 直後、至近距離に迫ったビットの銃口が、まるで空間ごと凍りついたかのように一瞬だけその動きを「停止」させる。零士はそのわずかな隙を見逃さず、指先一つでビットの銃身をパチンと弾き、軌道を完全に狂わせた。
セシリアが目を見開いた次の瞬間には、質量を持った「残像」のように距離を詰めた零士が、すでに彼女の懐へと潜り込んでいた。 ガキィン、と零士の手鏡のような超硬化ガラスのペンが、セシリアのコクピット装甲の急所に軽く突き立てられる。システム上の判定は『クリティカル・ダウン』。
一瞬。文字通りの瞬殺だった。
「……バ、バカな……。ISも纏わない生身の男性に、この私が……?」
装甲を解除され、アリーナの床に膝をついて呆然とするセシリア。その見下ろす位置から、零士は冷徹に言い放った。
「兵器の性能に溺れて、自分自身の『脳』が追いついていない。お前は一度に多くの処理をしようとして、全てが疎かになっている。一夏に負けたのも、俺に瞬殺されたのも理由は同じだ。その程度のマルチタスクでパニックになるなら、専用機(そのおもちゃ)を動かすのは百年早い」
■ 零士の特訓:プライドをへし折られた後の「お手玉」
翌日の放課後、講師控え室。 昨日の完全敗北の悔しさと屈辱で肩を震わせ、今にも泣き出しそうな表情で立っているセシリアに、零士が命じた訓練は、ISの操縦とはおよそかけ離れた、奇妙なものだった。
「な、なんですのこの下俗な遊びは!? 私はISの操縦訓練を――」
セシリアは、零士から手渡された3つの色彩豊かな「お手玉」を睨みつけ、声を荒らげた。目の前のホワイトボードには、簡単な四則演算(計算式)がずらりと書かれている。
「ISの操縦、ビットの独立制御、敵の動向分析。戦闘中のお前の脳内は常に複数の作業(マルチタスク)を要求される」 零士はコーヒーを一口すすり、淡々と説明を続けた。
「お手玉という単純な肉体労働を、身体に覚え込ませて『無意識(オート)』でこなす。そして、その最中にも脳の別の領域を完全に独立させ、目の前の『思考(計算)』を冷静に巡らせる。これができないお前に、あの機体を乗りこなす資格は無い」
「くっ……!」
言い返す言葉がなかった。セシリアはプライドを捨て、唇を噛み締めながらお手玉を上に放り投げた。 だが、最初はボロボロだった。お手玉に集中すればホワイトボードの計算が止まり、計算を解こうとすればお手玉がバラバラと床に落ちる。
「ああ、もう! できませんわ、こんなこと!」
「落ち着け、オルコット。お前は完璧主義が過ぎる」
頭を抱えるセシリアに対し、零士の声のトーンがすっと変わった。難関資格である「カウンセラー」の技術。相手の精神状態を的確に見極め、最適な言葉を投げかける。
「お前はイギリスの代表として、常に『完璧でいなければならない』と自分を追い込んでいる。だから一つの狂いでパニックになる。お手玉を落なくてもいい。計算を間違えてもいい。まずは、自分の呼吸のリズムを取り戻せ。お前のポテンシャルはそんなものじゃないはずだ」
「先生……」
零士の的確なメンタルフォローと、理路整然とした指導。セシリアは深く息を吐き、張り詰めていた肩の力を抜いた。
何度も泥臭く繰り返し、数日後――セシリアの手元では3つのお手玉が綺麗な放物線を描いて回り続け、その目はホワイトボードの計算式を次々と暗算で解き明かしていた。彼女が抱えていた最大の弱点、「想定外の事態におけるパニック癖」は、この風変わりな特訓によって確実に克服されつつあった。
不敵に微笑みながら、その成長を見届ける特別非常勤講師・白崎零士。一夏の護衛という任務の傍ら、彼は確実に、この女たちの園で教師としての確固たる足場を築いていくのだった。