もしも織田信忠が本能寺の変で死ななかったら   作:アルトリア・ブラック(Main)

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注意点、武田信玄の娘松姫が信忠の正室になっています


第一話「本能寺の変」

天正10年6月2日、京・本能寺にて

 

天下統一を目前にした織田信長は、家臣・明智光秀の謀反によりその生涯を閉じた。

 

嫡男・織田信忠もまた二条御所にて討たれ、織田家は滅亡への道を歩む。

 

――それが歴史である。

 

だが、もし。

 

織田信忠が二条御所を脱し、生き延びていたならば。

 

これは、織田信忠が天下人となるまでの物語である。

 

 

 

 

本能寺の変、前夜

 

信忠は信長に呼ばれ本能寺へ来ていた

 

信長は何の気無しに、お酒を差し出して来た

 

「武田攻めの頃より痩せたな」

 

到達に言われたことに酒を飲む手が止まる

 

「そうでしょうか」

 

「そうだ」

 

信長は酒を飲む。

 

「飯を食え」

 

「食べております」

 

「ならもっと食え」

 

なんか押しが強いなぁと思いつつも、まぁ父上だしと思いつつ宿に戻ったら食べますと伝える

 

「では父上、私は二条へ」

 

「ああ」

 

信長は書状から顔も上げない。

 

信忠は苦笑する。

 

「お見送りも無しですか」

 

「何だ、して欲しいのか」

 

「いえ」

 

「ならさっさと行け」

 

信忠が頭を下げる。

 

去ろうとする。

 

そこで信長がふと呼ぶ。

 

「信忠」

 

「は」

 

「京は暑い」

 

「そうですな」

 

「倒れるなよ」

 

信忠が少し驚く。

 

「承知いたしました」

 

「うむ」

 

馬に乗り二条城へ戻る

 

 

二条城ー

 

六月二日。

 

夜明けにはまだ遠い刻限であった。

 

信忠は机に向かっていた。

 

京へ入ってからというもの、各地から届く報せは絶えることがない。灯火の揺れる部屋には書状の山が築かれ、ようやく最後の一通へ手を伸ばしたところだった。

 

静かな夜だった。

 

遠くで風が鳴っている。

 

二条御所もまた眠りについているはずであった。

 

不意に。

 

廊下を駆ける足音が聞こえた。

 

信忠は顔を上げる。

 

慌ただしい。

 

尋常ではない速さだった。

 

襖が開かれる。

 

飛び込んできた家臣は、顔色を失っていた。

 

「殿!」

 

「何事だ」

 

「本能寺の方角より火の手が上がっております!」

 

信忠は眉をひそめた。

 

本能寺。

 

父が宿泊している寺である。

 

だが京で火事は珍しくない。

 

すぐに結び付けることはできなかった。

 

「火元は確認できたのか」

 

「いえ、まだ――」

 

言葉の途中だった。

 

今度は遠くから乾いた音が響いた。

 

パン、と。

 

鉄砲だった。

 

一発。

 

そしてまた一発。

 

夜の静寂を裂く音に、部屋の空気が変わる。

 

信忠はゆっくりと立ち上がった。

 

火事だけではない。

 

そう直感した。

 

その時だった。

 

廊下の向こうから別の足音が近付いてくる。

 

現れたのは織田有楽斎だった。

 

寝起きとは思えぬほど落ち着いた顔をしている。

 

「騒がしいですな」

 

「叔父上」

 

有楽斎は開け放たれた障子の向こうへ視線を向けた。

 

夜空の一角が赤い。

 

炎だった。

 

「本能寺ですか」

 

「まだ分かりませぬ」

 

家臣が答える。

 

有楽斎はしばらく黙っていた。

 

その横顔は険しい。

 

信忠はその表情にわずかな違和感を覚えた。

 

楽観していない。

 

有楽斎は最初から何かを警戒しているように見えた。

 

そこへさらに一人の使者が転がり込むように現れた。

 

息が切れている。

 

膝をつくなり叫んだ。

 

「申し上げます!」

 

「申せ」

 

「本能寺にて合戦が起きております!」

 

部屋の空気が凍った。

 

信忠は一歩前へ出る。

 

「敵は」

 

使者は答えなかった。

 

いや、答えられなかった。

 

喉が震えている。

 

「誰だ」

 

沈黙。

 

短いはずの時間が異様に長く感じられた。

 

やがて使者は絞り出すように言った。

 

「明智勢との報にございます」

 

誰も動かなかった。

 

風だけが吹いている。

 

有楽斎の目が細まる。

 

信忠は使者を見つめたまま言った。

 

「……誤報ではないのか」

 

そうであってほしかった。

 

光秀は父の重臣である。

 

丹波平定の功臣。

 

中国攻めを任された将。

 

その名が敵として挙がること自体がおかしい。

 

だが使者は首を振った。

 

「既に複数の者より同様の報せが届いております」

 

信忠は黙り込んだ。

 

本能寺が襲われた。

 

相手は明智光秀。

 

理解はできる。

 

理解はできるのだ。

 

しかし心が受け入れなかった。

 

その時、遠くから再び鉄砲の音が響いた。

 

一発。

 

また一発。

 

今度は先ほどより近く聞こえた。

 

再び鉄砲の音が響いた。

 

今度は先ほどより近い。

 

信忠が何かを命じようと口を開いた、その時だった。

 

廊下の向こうから騒ぎが起きた。

 

「止まれ!」

 

「待て!」

 

誰かが叫んでいる。

 

家臣達がざわめく。

 

次の瞬間。

 

一つの大きな影が障子を押し開けた。

 

信忠は目を見開く。

 

「弥助」

 

黒人の巨躯が部屋へ転がり込むように入ってきた。

 

衣服は煤に汚れ、肩口には血が滲んでいる。

 

息も荒い。

 

本能寺にいたはずの男だった。

 

「弥助!」

 

信忠が駆け寄る。

 

弥助は片膝をついた。

 

その姿を見た瞬間、信忠の胸に嫌な予感が走る。

 

本能寺から来た。

 

ならば。

 

「父上は」

 

問いかける。

 

弥助は答えない。

 

ただ俯いている。

 

「父上はどうされた」

 

声が強くなる。

 

弥助の拳が震えていた。

 

やがて絞り出すような声が漏れる。

 

「……申し訳、ございませぬ」

 

その一言で十分だった。

 

信忠は息を呑む。

 

部屋から音が消えた。

 

誰も言葉を発しない。

 

有楽斎でさえ沈黙している。

 

弥助は深く頭を下げた。

 

「上様は最後まで戦われました」

 

震える声だった。

 

「私は命により、本能寺を離れました」

 

「命により」

 

信忠が繰り返す。

 

弥助はゆっくり頷いた。

 

「若君様をお守りせよと」

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