女体化して母親になったよ!天使な子供たちとファンタジー世界で幸せになります   作:きさまち

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バカな…早すぎる

 私の名はガブリゼル、天界の統治者たる聖皇〖ゼルフィード〗様に仕える天使だ。

 真面目だけが取り柄の私は仕事ばかりの日々を送っている。

 文官として毎日大量の業務を捌いており気が付いたら、熾天使にまで登り詰めていた。

 

 天使の社会は厳格な階級制度が敷かれている。

 その中でも第一位・熾天使(セラフィム)にまで至れるのはごく僅かな逸材だけだ。

 自慢ではないが私は天界でも指折りのエリート天使である。

 熾天使ともなれば仕事の責任は重大だが、この世界の秩序と安寧を守るためだと思えばやりがいがある。

 

 まあ私のことはどうでもいい。

 それよりも、我が偉大なる兄上について語った方が有意義だ。

 

 兄上〖ベルゼクティオ〗は自他共に認める最強の天使であり血を分けた兄弟だ。

 傲岸不遜、唯我独尊、傍若無人、好戦的かつ残忍な人物でありながら思慮深い一面も持ち合わせている。

 自由奔放な性格で思いついたら即行動。

 気に入らない奴がいれば叩き潰し、好ましく思ったモノにはどこまでも愛を注ぐ。

 他者にへりくだる事を嫌い、聖皇ゼルフィード様に対しても上から目線の態度を崩さなかったらしい。

 その強烈なカリスマ性で多くの人々を魅了した傑物。

 

 尊大な態度に最初こそ不満を積もらせる者も多かったが、兄上は仕事上でもすこぶる優秀だったので『偉そうにするだけの実力はある奴』だとすぐに周囲から認められていった。

 兄上が異例のスピードで熾天使に抜擢されたのは至極当然だと思う。

 後で判明した事だが、兄上は熾天使への昇格辞令を何回も断っていたらしい。

 最終的にゼルフィード様との飲み比べ勝負をして敗北、渋々熾天使になったと兄上本人が愚痴っていた。

 

 兄上の力はまさに圧倒的だった。

 少し集中するだけで天地が鳴動する規格外の魔力、山ほどもある巨大魔獣を素手で殴り殺せるだけの身体機能。

 どんな魔法も一瞬で解析し自分のモノにしてしまう叡智、場所も距離も得物すら選ばない非常識なまでの戦闘センス。

 その力を誰もが恐れ畏敬の念を抱いた。

 

 天使でありながら悪魔の如き力を誇る理不尽の権化。

 いつの頃からか兄上は【天魔王】の二つ名で呼ばれるようになっていた。

 本人はこの二つ名を大層気に入っていたようだ。

 

 天界、下界、問わず兄上が起こした事件は多過ぎて数えるのもバカバカしい。

 伝説となって今もなお語り継がれている、などと言う事はざらにある。

 兄上の最も有名なエピソードは過去に起こった災厄戦争での活躍ぶりだろう。

 最前線で激闘を繰り広げ、その驚異的な力で見事勝利を収めたのだ。

 今の世が太平なのも兄上の存在あってこそなのである。

 

 そんな兄上を私は誰よりも尊敬している。

 弟だからというだけではない、私はこの世界に生きるひとつ命として、兄ベルゼクティオに心酔しているのだ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 私と兄上は歳の離れた兄弟だ。

 天使は長命種であり若い肉体を維持したまま長い時を生きるが、決して不死ではない。

 そう遠くない未来、兄上は私よりも先に逝ってしまう。

 最強にして無敵の天使も寿命には勝てないのだ。

 

 高齢になった兄上は浮遊島を購入して家を建て、一人暮らしを始めた。

 世間のしがらみから逃れ、ひとりでのんびりと隠居生活を満喫したいのだという。

 ゼルフィード様も『長年ご苦労じゃったの』と言って快く兄上を送り出した。

  

 良い事を思いついた。

 ここ100年ほど一度も使ってない有給を全部使って、兄上と兄弟水入らずのスローライフを送るのもいいかもしれない。

 私の考えを見抜いた同僚たちに邪魔されて有給申請は却下された。畜生め!

 

 隠居した兄上の暮らしは概ね順調なようだ。

 最近では料理や家庭菜園にハマっているらしい。 

 私も何度か浮遊島を訪ねたが、家庭的になった兄上もそれはまた素晴らしかった。

 このまま穏やかな余生を過ごせるよう、祈らずにはいられない。

 

 欲を言えば兄上の血を継ぐ者がいてくれたならと、そんな大それた考えを持ってしまう。

 天使は子供の出来にくい種族ではあるが、兄上の優れた血筋を遺さないのは世界の損失!

 兄上さえ望んでくれたのなら、どんな種族のどんな美女でも手配してみせるのに…

 

『余計な真似はするな!俺はモテない訳ではないぞ!』

 

『弟にマッチングさせられたなど俺のプライドが許さぬわ!』

 

『大体なぁ、義務感で子作りなどして何が楽しいのだ?』

 

 この話をすると兄上が不機嫌になるので無理強いはしないでおく。

 

 ・・・・・・・・・・・・・

 

 ある日、兄上の方から珍しく私を訪ねて来た。

 顔がニヤついているので、何か良い知らせがあると見た。 

 

『聞いてくれガブ。俺、ついに結婚したんだ』

『それはよろしゅうござ……うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!?!?』

『ナイスリアクションだ弟よww』

 

 いやいやいやいや!結婚んんん??

 結婚する素振りなんて微塵も見せていなかったのに、いきなり何を?

 兄上、まさか嫌がる女性を無理やり手籠めに…さすがにドン引きです。

 

『阿呆が!ちゃんと口説き落として両想いだわ!今ではラブラブ夫婦だぞ!』

 

 ラブラブ夫婦という単語が兄上の口から出たことに衝撃を受ける。

 それから兄上は伴侶となった方の自慢話を始めた。

 兄上は今まで多くの女性と関係を持って来たが、これほどまでに愛した相手はいなかったという。

 

『妻は少々変わった経歴を持っていてな。ちょっと前まで男だったのだ』 

『全然少々どころではないですよ!え?まさか結婚相手は…ラファ!?』

『あんなオカマ野郎と俺の妻を一緒にするな!星の海までぶっ飛ばすぞ!』

 

 熾天使の同僚であるオカマの顔が浮かんだが違ったようだ。

 違っていて本当に良かった。

 私もアレを義姉だとは思いたくない。

 

 兄上に曰く、妻は妙な薬を飲まされて性転換してしまっただけ、今はちゃんとした女性なので問題ないらしい。

 自身の境遇から兄上のアプローチを断っていた相手を、何日もかけ熱心に口説き落としたと誇らしげだ。

 兄上がここまで惚れ込むとは一体どんな方なのだろう?

  

『俺をあそこまで手こずらせたのは後にも先にも、あいつだけだ』

『男だったことはともかく、素敵な女性なのですね』

『そうだぞぉ!写真見る?見てもいいが惚れるなよ?』

 

 兄上が懐から一枚の写真を撮り出す。

 嫁のことが大好きで仕方がないのはわかるが、写真に頬ずりやキスをする姿は少々キモい。

 兄上のハートを射止めた女性、謹んで拝見させてもらおう。

 どれどれ……

 

『…な……ぼ!?』

『ふはははは!言葉もないか、そうだろそうだろう!』

 

 写真に写った女性は目も眩むような美人だった。

 咄嗟に言葉が出ないまま、思わず見入ってしまう。

 

 長く艶やかな金髪、蒼玉のような深い青の瞳。

 すらりと伸びた華奢な手足、陶磁器のような白い肌。

 カメラを向けた兄上に微笑んでいるだろうその顔は、慈愛と優しさに満ちている。

 

 ただ写真を見ただけだというのに、私の鼓動は自然と早鐘を打っていた。

 種族柄、天使は美男美女が多いのだが、写真の中の女性は全く見劣りしていない。

 それどころか、天使の女性にはない温かで柔らかな雰囲気がとても尊いモノに感じられた。

 何と言うか…途轍もなく可愛らしい人なのだ。

 元男だったという事がどうでもよくなるぐらい。

 

『可憐な方ですね…』

『わかってくれるか!そうなのだ、美人なだけでなく愛くるしくて堪らんのだ!何をやっていても可愛いから自分を抑えるのが大変だぞ!』

 

 私の背中をバンバンと叩く兄上。

 そこから長い惚気話を聞かされる羽目になるのだった。

 

『この方のお名前は?』

『ん?おお、まだ言ってなかったな。妻は〖コルニクス〗という、俺が命名したのだぞ!』

 

 コルニクス…

 私は自分の義姉となる人の名前を胸に刻み込んだ。

 

『兄上、良い伴侶を見つけましたね。ご結婚おめでとうございます』

『全くだ、最後の最後で最高の宝を見つけるとはな。これも神の思し召しと言うヤツか』

 

 幸せそうな兄上を見て、私は心から二人を祝福したのだった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 電撃結婚報告から少し経って、またしても兄上がやって来た。

 また惚気話でも聞かされるのかと思ったが、それどころではないビッグニュースが舞い込んだ。

 

『コルニクスが妊娠した』

『ほわぇ!?』

『俺は父親になってしまうんだぞぉぉぉ!!』

『待ってください!それは本当ですか?兄上の妄想でないという根拠は?』

 

 冗談でも妄想でもなく事実らしい。

 コルニクス殿のお腹に、彼女のものではない別の魔力が発生しているのを感じたというのだ。

 この短期間で妊娠させるって…どんだけやる事やっていたのか?

 

『アレだな。バニーガールのコルニクスが愛おし過ぎて一日中盛り上がった時の子だと思う』

『生々しい情報暴露しないでください』

 

 有頂天になった兄上が反応に困ることを言い出した。

 きっと兄上もまだ混乱しているのだ。

 

『と、ともかくおめでとうございます。私も自分の事のように嬉しく思います』

『うむ。お前なら喜んでくれると思ったぞ』

 

 コルニクス殿とお腹の子が気掛かりだ。

 万全を期すためにも私から医師の派遣を申し出たが、兄上は丁重に断って来た。

 我々が大勢で押しかけて余計なストレスを与えたくないのだと言うが、本音は妻を別の男に会わせたくないという嫉妬心だろう。

 兄上は頑固なので、一度決めてしまったら中々折れない。

 まあ兄上は回復系の魔法を使えるし、効果てきめんの秘薬も備蓄しているので大事には至らないと思う。

 コルニクス殿に何かあればすぐに私を頼るよう言い聞かせておいたが、心配である。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 久々にやって来た兄上から、コルニクス殿のお腹が大きくなっていると報告を受けた。

 何事もなく順調に子供が成長しているようで何より。

 兄上の子、すなわち私の甥になる子だ。

 私も生まれて来る時が楽しみで仕方がない。

 

『予想ではもうすぐ生まれそうだ。俺が出産に立ち会ってやれたらいいが…』

 

 今日の兄上はいつもより静かだった。

 この時の私は何かを察していたが、それを言葉にするのは躊躇われた。

 新たな命の誕生が近いというのに、兄上の命はもう長くはない…

 神よ、どうか兄上にもう少しだけ猶予をお与えください。

 

『ガブ、お前にはずっと苦労を掛け通しだな』

『とんでもない。兄上にのお役に立てるならば本望ですよ』

『そうか、感謝する。お前が弟で俺は果報者だ』

『今日はまた随分としおらしいですね』

『気にするな。そういう時もあるw』

 

 兄上は遺言と諸々の手続きを私に託した。

 コルニクス殿が困っていたら助けてやってくれと念押しされる。

 言われなくてもそのつもりだ。

 

『これを渡しておく…俺の命が尽きた時がわかる魔道具だ』

『縁起でもない!受け取れませんよ、こんなもの』

『いいから、持っていてくれ。頼む』

『………承知、しました』

 

 兄上から黒い水晶玉を渡された。

 この黒水晶に異常があれば、兄上の命は…

 

『ガブリゼル、後を任せたぞ』

 

 兄上と話をしたのはこれが最後になる。

 数日後、黒水晶は私の目の前で粉々に砕け散ったのだった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 私は兄上の浮遊島へ向け船を全速前進で飛ばした。

 兄上の住む島は天界でも辺境に位置している。

 飛行船を限界まで飛ばしてもかなりの時間が必要だ。

 兄上を失ったコルニクス殿は今、どんなに心細いだろうか。

 頼む、早く到着してくれ…

 

 浮遊島に到着、私はすぐさま兄上宅へ走り玄関扉を強く叩いた。

 ここまで来ても、私は兄上の死を認めたくなかった。

 何かの間違いであってほしい、きっとまだ生きてくれている。

 そうであればいいと思い、兄上を呼びながら必死に扉を叩いた。

 反応がない事に業を煮やした私は扉を破壊しようとした。

 その時、女性の声がして扉がゆっくりと開いた。

 

 金の卵と抱いた銀髪の女性がおどおどしながら現れたのだ。

 

 冗談ではなく呼吸が止まった。

 う、美しい…

 何と言う事だ、写真で見るよりも実物は何倍も素敵じゃないか。

 私だけでなく連れて来た従者たちも呆けたまま固まってしまう。

 やつれている表情すらも儚げで魅力的に感じてしまう。

 それほどまでにコルニクス殿は美しく可憐であった。

 

 この人が私の義姉…そう姉上だ!

 私はコルニクス殿を姉上と呼ぶことにした。今決めたのだ。

 男女比8:2の天使は姉や妹がいるだけでも周りから羨ましがられる。

 私もずっと姉が欲しいと思っていたひとりだ。

 今後は姉上の弟として恥ずかしくない行動を心がけねばならない。

 年齢差は気にしたら負けである。

 

 姉上が家の中へ通しくれた。

 少し言葉を重ねただけでも姉上の人となりがよくわかる。

 非常に心根の優しい方だ…兄上が惚れるのも無理はない。

 余談だが、金色だった姉上の髪は妊娠をしてから徐々に銀色に変わっていったらしい。

 

 昨日起こった出来事を話してくださった。

 兄上を看取ってくれただけでなく、たったひとりで出産もなされたと聞いて、自分の至らなさにほとほと呆れた。

 私がもう1日早く訪れて入れば、姉上ひとりに全ての苦労を押し付けなくて済んだのに…

 悔やんでも悔やみきれない、この汚名は必ずや返上してみせる。

 

 姉上はとても芯の強い女性だった。

 子供たちのことを思い、私に卵を託した彼女には最大級の敬意を払わざるえない。

 我が子と引き離され、人の身で20年を耐え忍ぶなど酷なことを強いたと思う。

 それなのに、姉上は私に恨み言のひとつも言わなかった。

 さすがは兄上の愛した人だ。

 彼女の信頼に応えるためにも、全身全霊で子供たちを守ろうと思う。

 

 翌日、下界へ戻るための転送ゲートまで姉上を送って行くことになった。

 そこで私は子供たちの名前を聞かされた。

 

「ミカエリアスとルシフェルトって言うの。いっぱい悩んだ挙句に勢いで決めちゃったけど、変ですかね?」

「変だなんて!とんでもない。素晴らしい命名だと思います」

「ありがとうございます。良かったね二人とも、いい名前だって叔父さんが褒めてくれたよ」

 

 叔父…そうか、私はこの子たちの叔父になったのだ。

 心に温かいものが満ちていく。

 兄上、あなたの分まで私が家族を大事にします。

 

 ●

 

 姉上が下界へと戻ってすぐ、私は金の卵を孵化させるための神殿『揺り籠』に持って行った。

 神殿の最奥にある立派な祭壇へと卵を丁寧に置き深い祈りを捧げる。

 すると、大気中の魔力が可視化されるようになり光の粒子が辺りに漂う。

 粒子は全て卵へと吸収されていった。初めて見たが物凄い吸引力だな。

 ひとまずはこれでいいだろう。

 

「兄上と姉上に代わり、君たちは私が守る。安心して大きくなるんだぞ」

 

 それから毎日、私は揺り籠を訪れて卵の様子を見に行った。

 私の魔力を与えるのも忘れずに行う。

 どうも子供たちは大気中の魔力だけでは満足していないようなのだ。

 揺り籠に常駐している神官によれば、卵が吸収する魔力量は日に日に増大しており、このままだと供給が間に合わなくなるらしい。

 二人分とはいえかなりの大食らいだ。

 卵の時期に貪欲だった者は優秀な天使になるというジンクスもあるので、可能の限り魔力の供給は行おうと思う。

 自分の魔力で足りなければ、従者や同僚たちにも協力してもらうつもりだ。

 方々に借りを作りたくないが、甥っ子たちのためを思えばこのくらい何でも無い。

 

 甥っ子たちを立派な天使に成長させて見せるぞ!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 早いもので揺り籠に卵を預けてから十数年が経過していた。

 毎月の定期報告によると、姉上は魔女として精力的に活動しているらしい。

 魔女になってからの姉上は前にも増して凛々しく、そして逞しくなったと思う。

 子供たちを思う気持ちが姉上を一段と強くしたのだ。

 

 私は今日も揺り籠へと日参する。

 神殿の入口には見知った顔の天使が二人いた。

 

「ようガブ公、毎日ご苦労様だな」

「ハロハロ~。甥っ子思いのガブちゃんも素敵よん♪」

「ウリエノール、ラファエナム、来てくれたのか」

 

 彼らは私と同じ熾天使だ。

 仕事の同僚であり長年の腐れ縁でもある。

 

〖ウリエノール〗

 熾天使の中でも指折りの戦闘狂で天軍の実働部隊を束ねる女将軍。

 個体数の少ない女性天使は手厚く保護されるのだが、彼女はそれが我慢ならなかったらしい。

 『俺は籠の鳥になるつもりはねえ!』と豪語して、当時の天軍総大将を実力で叩きのめし今の地位に就いた経歴を持つ。

 性格は兄上に負けず劣らずの傍若無人、戦いと強者が大好きで、兄上にも何度か戦いを挑んでいる。

 ただの乱暴者かと思いきや意外にも職務には忠実なので、ゼルフィード様や部下からの信頼も厚い。

 重度のサボり魔だった兄上よりも人望はあるかもしれない。

 一時期、兄上と交際していたという噂があるが…真相は不明だ。

 

〖ラファエナム〗

 物腰柔らかく誰に対しても穏やかに接する、天界一の人格者だと言われる熾天使。

 世話好きで面倒見がよく天界と下界を行き来しては、各種族との交流も頻繁に行っている。

 天界にスカウトする人材の選考や、下界に住む天使たちの動向チェックも彼の仕事だ。

 私と兄上も昔から世話になっている。

 間違いなくいい奴なのだが、こいつはオカマである。

 もう一度言おう、この熾天使はオネェ言葉を使うガタイのいい男、オカマなのだ!

 いい男を見るとセクハラしたくなるのが玉に瑕。

 本当にそれさえなければなぁ…

 

「ガキ共に飯をやりに行くんだろ?付き合うぜ」

「ガブちゃんひとりで大変だったでしょ。もっと早く来てあげればよかったのだけどね」

「二人とも…感謝する」

「いいって事よ。俺たち災厄戦を生き残った中だろ?」

「そうよ。ベルちゃんは先に逝っちゃったけど…彼の意思はちゃんと遺ってるわ」

 

 ウリエノールが私の肩を抱きニカッと笑う。

 まったく、露出度の高い服でベタベタするのはやめろと言うのに…

 ラファエナム、どさくさ紛れに私の尻を触るんじゃあない!

 

 仕事の合間を縫ってわざわざ来てくれた二人に感謝をする。

 甥っ子たちの魔力吸収量は数年前から爆発的に跳ね上がった。

 魔女として覚醒した姉上に呼応しているかのような反応…

 最初こそ私ひとりでも賄えたが、昨今では知り合いに手あたり次第声をかけ、何とか魔力を融通させてもらっている。

 熾天使である彼らが来てくれたことは、正直かなり助かる。

 

 三人で祭壇へ向かい金の卵と対面する。

 

「なんか思ったより小せぇなあ」

「まだ孵化予定日まで5年はかかる。双子だとしてもこんなものだろう」

「あら~双子だなんて珍しい。ベルちゃん似の可愛い男子が二人も…うふふ」

「おいカマ野郎!甥っ子たちに妙な真似をしたら許さんからな」

 

 金の卵は姉上から預かったときよりも随分と大きくなった。

 だが、まだ全然足りない。

 成人男性二人分の大きさに成長するには、まだ時間が必要なのだ。

 

「腹を空かせているんだろ?さっさと飯を食わせてやろうぜ」

「ふふふ、天界中から魔力をもらって育つ子は、どんな天使になるのかしらね?」

 

 私を含めた熾天使三名が金の卵に触れる。

 ひとりだと一回の供給でヘロヘロになっていたが、今回は大丈夫だろう。

 三人で頷き合い、私たちは魔力供給を開始した。

 

「うぉ!?こいつは…」

「あらあらあら?もの凄い食いつきねえ」

「くっ!今日はいつも以上によく食べる…」

 

 とんでもない勢いで魔力が吸われていく、こちらの魔力を根こそぎ食いつくすような勢いだ。

 ウリエとラファの二人もこれは予想外だったらしく、若干頬が引きつっている。

 熾天使三人分の魔力でも足らないというのか?さすがに食べ過ぎでは?

 私は気絶しないよう、意識を保つのが精一杯だった。

 

 30秒足らずの時間で魔力供給は終了した。

 あと数秒続いていたら、私はその場で倒れていただろう。

 卵から手を放した途端にふらつく体を二人の同僚たちが支えてくれた。

 

「あっぶねぇな。大丈夫かよ?」

「すまない。少々、つ、疲れた…」

「話に聞いていた以上ね。毎回これだと身が持たないわよ」

 

 今日は何かがおかしい、私の魔力は今のでほぼ無くなってしまった。

 私よりマシなはずの二人もゴッソリ魔力を削られてしまったようだ。

 一体どうしたと言うのだ?

 

「さすがベルゼクティオのガキ共ってか?俺の魔力を遠慮なく持って行きやがったぞ」

「将来が楽しみよね。そうだわ!この子たちを私に預けてみる気はない?品行方正な益荒男に教育してあげる♪」

「やめとけやめとけ、オカマの双子が増えるだけだ。何なら俺が面倒見てやってもいいぜ?強ぇ奴ならガキでも大歓迎だ」

「悪いが、どちらにも渡す気はない!甥たちの進路は姉上と相談してから決める」

 

 目を付けられてしまったようだが、オカマにも戦闘狂にも甥たちは渡さない。

 どうしてもというのなら、この私を倒してからにしろ!

 

「え?ヤダよ。お前弱いから戦ってもつまんねえもん」

「ぐぬぬぬ…」

「ウリちゃん、意地悪言っちゃダメよ。ハンデを付けて勝負すればいいじゃないの」

「ハンデねえ…例えば?」

「相手の下着を剥ぎ取るまで絡み合うヌルヌル相撲とか、どうかしら?」

「「それお前がやりたいだけだろ!?」」

 

 オカマの提案は当然却下だ。

 悔しいが、文官の私では天軍の頂点にいるウリエとは勝負にならない。

 オカマにすら私は勝てないだろう…貧弱な我が身が恨めしい。

 

 今のは彼らなりの冗談だったようで、本気で甥っ子たちを奪う気はなかったようだ。

 正直、ホッとした。

 兄上がいない今、この二人を止められる者など早々見つからないからな。

 

「ふぅ…魔力吸われて腹が減ったな。なんか美味いものでも食いに行こうぜ?」

「いいわね!おすすめの店があるのよ『シンジュークニッチョメ』って言う雰囲気の良い店でね」

「それオカマバーじゃね?絶対嫌なんだか」

「オカマが御釜で炊いたご飯は本当に美味しいのよ。騙されたと思って行ってみましょうよ~」

 

 ウリエとラファが何を食べるかで盛り上がっている。

 やれやれ、これは私も付き合うことになりそうだ。

 

 ピシッ…

 

 今何か聞こえた?

 

 ピシッ…パキン…パリンッ

 

「あん?何の音だよ」

「っ!?二人とも見て!卵が、卵が割れてるわよ!」

「なんだとぉ!」

 

 ラファが大声で指差す方を見る。

 金の卵の表面に大きな亀裂が刻まれていた。

 

 あり得ない。

 天使の卵はああ見えて非常に硬い殻で守られている。

 上級魔法を連続でぶつけようとも、かすり傷ひとつ付けられない装甲を誇っているはずなのだ。

 それが今、大きくひび割れてしまっている。

 

 私たちは魔力供給を行っただけ、卵に対して攻撃を仕掛けた者などいない。

 ということはつまり……内側からの破壊!?

 

 ビキッ!ピキピキピキ!バリン!バリバリバリッ!!

 

「バカな…早すぎる」

 

 双子の天使が今、生まれようとしていた。

 

 ●

 

「なんだ、どういうこった?説明しろオカマぁ!」

「う~ん。せっかちな子たちだったのかしら?」

「知らねぇよ。どうすんだよ!出て来るぞ、あいつら出て来るって!」

「落ち着きなさいウリちゃん。私たちが慌てても仕方ないわ」

 

 前例のない異常事態にテンパる熾天使たち。

 それは私も同様だった。

 

 天使は卵の中で20年の時間かけ成体へと成長してから生まれて来る。

 50年が必要だった兄上は例外中の例外だ。

 姉上から卵を預かっておよそ15年、まだ生まれるには早いのだ。

 今の状態で無理に孵化してしまえば、最悪子供たちの命に関わる。

 私は一気に血の気が引いた。

 

「ミカエリアス!ルシフェルト!」

「バカッ!てめぇ何する気だよ」

「離せっ!私は、私は守らねばならん!兄上と姉上から託された大事な子たちを守らねば!」

「そんな体でどうするの。今のあなたに出来る事は何もないわ」

「くっ!」

 

 卵に駆け寄ろうとした私をウリエが引き留める。

 みっともなく藻掻いてみたが、彼女の力には敵うはずもない。

 そもそも、先の魔力供給で私の力はほとんど残っていないのだ。

 

 騒ぎを聞きつけて神殿の神官や私たちの従者まで集まって来てしまう。

 その間にも卵のひび割れは酷くなり、殻の剥がれ落ちた箇所から尋常ではない魔力が漏れ出す。

 誰もが動けないでいる中、ついにその時は訪れた。

 

「みんな下がって!ウリちゃん!」

「わかってるって!」

 

「「プロテクションウォール!!」」

 

 ラファとウリエが強固な防御障壁を展開させた瞬間、金の卵は内側から弾け飛んだ。

 

 障壁越しにも感じる凄まじい衝撃と魔力の奔流。

 床に身を伏せ、吹き飛ばされるのを何とか堪えた。

 

「もうビックリしたわね」

「全員無事か?」 

 

 衝撃が収まってから身を起こす。

 ウリエが全員の無事を確認してから障壁を解除した。

 

「ミカエリアス、ルシフェルト…」

 

 周囲に漂う砂煙が晴れ壊れた祭壇が見えて来る。

 卵があったはずの場所に……いた。

 

 二人がいた。

 

 色白で細くしなやかな体。

 成人には程遠い小さな子供の体躯、その背には純白の翼が見える。

 黄金に輝く金の髪、宝石のような光を宿した瞳。

 恐ろしく整った容姿は両親譲りのものだろう。

 

 双子の天使は子供の姿でこの世に誕生したのだ。

 

「おいおいおいおい!こいつはどういうことだwww」

 

 全員が双子に注目している中、最初に言葉を発したのはウリエノールだった。 

 可笑しくて仕方がないと言う風に肩を震わせている。

 

「あら~ん。私的には残念なのかしらねww」

 

 オカマ天使、ラファエナムが頬に手を当ててくねくねしている。

 残念と言っている割に、とても嬉しそうだ。

 

 私は言葉を出すことができない。

 双子の姿を見てしまった誰もが私のように困惑しているはずだ。

 まさかこんな事が…

 

「マジかよwwこいつら二人とも(メス)じゃねーか!!」

 

 お前もな暴力女!と、ここに集う全員がツッコミを入れたい衝動に駆られた。

 ウリエの言ったことはすこぶる正しい。

 

 生まれて来た双子は、二人とも女性だったのだから。

 

 私がずっと甥だと思っていた二人、実は姪だったのだ。

 兄上でさえも、生まれて来るのは男だろうと予想していたのに…

 

 女性の天使は貴重な存在だ。

 ひとり生まれただけでお祭り騒ぎになってもおかしくない。

 双子の両方が女性の天使など…何百年振りだ?

 

「おい!いつまでボケっとしてんだ?何か着せる物持ってこいや!」

「そうね。女の子を裸のまま放置するのは良くないわ。タオルと着替え、その他諸々今すぐ用意してちょうだい!」

 

 ウリエとラファの一喝を受けた神官と従者たちが慌てて動き出す。

 そ、そうだな。

 子供とはいえ女性の裸をいつまでも晒しておくわけにはいかない。

 

 私は意を決して姪たちに傍へと向かった。

 生まれたばかりで、未だに微動だにしない二人。

 叔父として声のひとつでもかけてやらねば。

 

 近づくと二人異常性がハッキリとわかる。

 何なのだ、このバカげた魔力量は…これが生まれたての天使だと!?

 この理不尽さ、間違いなく兄上の血を引いている。

 

「ミカエリアス、ルシフェルト……自分が何者かわかるかい?」

 

 虚ろな目をした姪たちが声をかけた私を視界に収める。

 反応がない。

 寝ぼけていてまだ覚醒しきっていないのかもしれない。

 

 名前を間違えた訳ではないよな?

 聖素が多い方がミカエリアス、魔素の多い方がルシフェルトで合っているはずだ。

 何度か名前を呼ぶが、二人の反応は芳しくない。

 

「困ったわね。精神が育ち切らなかったのかしら?」

「めんどくせぇな。体がガキで頭が空っぽとか、どうしろってんだよ」

 

 好き勝手言っている戦闘狂とオカマは放置だ。

 

「何も心配しなくていい。君たちのことは私がまも……」

 

 守ると言いかけた私は息を呑む。

 姪たち二人の瞳から一筋の雫が頬を伝って行くの見たからだ。

 

 涙?

 二人とも何故泣いている?

 

「「…ぅ…ぁああああああああああああああああ!!!!」」

 

 涙を流したかと思えば、二人は耳をつんざくような咆哮を上げた。

 大気が震え二人の体から膨大な魔力が迸り衝撃波が発生する。

 情けなくも私はその場から飛ばされてしまう。

 

 何もわからないままの私を置き去りにして、姪たちは行動を起こす。

 双子の天使は全身に力を漲らせてオーラを纏い、床を踏みしめ、純白の翼を限界まで広げた。

 それが意味するところはひとつしかない。

 

「待て行くな!ミカエリアス!ルシフェルト!待ってくれ!」

 

 私の制止を無視して、二人が宙へと飛び立つ。

 尋常ではない勢いとスピード。

 神殿の天井をあっけなく無く吹き飛ばした彼女たちは、そのまま天界の大空へと身を躍らせ消えていく。

 

 逃亡?な、何と言う事だ。

 姪たちはどうしてしまったのだろう?

 いや、そんなことよりすぐに追わなければ。

 

「まあ、そうなるわな」

「そうよね。可哀想な子たち…」

「何?お前たちには姪たちの行動理由がわかるのか?」

「逆に何でわかんねぇんだよ。お前の姪たちだろうが」

「う…」

 

 なんという屈辱。

 オカマと戦闘狂は姪たちの心を理解しているのに私は…

 

「長いことずーっと待っててよ。いざ起きたら、母ちゃんがいねーんだぞ?そりゃ泣くわ、癇癪だって起こすだろう?ガキなんだからよ」

「あの子たち卵のままでも母親を求めていたのよ。早く会いたい一心で、未成熟な体のまま出て来たのね…なんて健気なの」

「なん…だと…」 

 

 ミカエリアス、ルシフェルト…

 君たちはそんなにも姉上のことを。

 

 私は無意識に二人のことを侮っていた。

 どうせ子供だから、まだ卵だから、何もわかるはずがないと高を括っていたのだ。

 

 二人の寂しさをわかってやれるのは叔父である私の役目だったはずなのに…

 不甲斐ない自分を百万回どつきたくなる。

 

「今すぐ追わなければ……ぐぅ…」

「お前には荷が重いつーの!ここは俺に任せときな」

「私も行くわ。あの状態は危険よ。最悪、天界中の島を破壊して回るかもしれないわ」

 

 今の姪たちは明らかに暴走状態にある。

 力のコントロールができないチビ兄上が二人いるようなものだ。

 ヤバい!それは非常にヤバい!

 

 何とか天界の住民に被害が出る前に止めないと。

 だが、魔力切れを起こした私ではそれは不可能だ。

 

「頼む、ウリエノール、ラファエナム。二人を連れ戻してくれ、この通りだ!」

「いいぜ!泥船に乗ったつもりで待ってろ」

「それを言うなら大船よ、ウリちゃん」

 

 天界でも最強クラスの熾天使が姪たちを追い飛び立って行く。

 頼んだぞ二人とも、無事に二人を連れ帰ってくれ。

 

 崩壊してしまった神殿『揺り籠』の中で、私は神に祈る事しか出来なかった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 しばらくして、ウリエとラファが戻って来た。

 その腕にぐったりした姪たちが抱えられている。

 

「死んでないよな?殺してないよな?なあ?」

「ちゃんと生きてるから落ち着けよ……ちっ…結構手こずっちまった。あークソッ!俺もまだまだだな」

「ホント末恐ろしいわよね。神器を使われる前に止められて良かったわ」

 

 信じられない事にウリエとラファは手傷を負っていた。

 この二人が戦闘で傷つくなど、本当に久しぶりに見た。

 それをやったのが生まれたばかりの天使だというのが末恐ろしい。

 

「おいガブ!やっぱこいつ俺に寄越せ、誰よりも強ぇ天使に育ててやるからよ」

「私も興味出て来ちゃったわ。間違いなくベルちゃんの娘、私の後継者になってもらおうかしらん?」 

 

 二人はスッカリ姪たちを気に入ってしまったようだ。

 一度戦闘したことで、何かを感じ取ったのかもしれない。

 だがしかし、二人の提案を吞むつもりはない。

 どうするか決めるのは姪たちの意思、それと姉上の判断が必要なのだから。

 

 そうだ!姉上!

 姉上に二人が生まれたことを早く報告しなければ!

 

 くるっぽー!

 

『悪いんじゃが、それはちと待ってくれんかのう』

 

 通信機を手にする私にストップをかける声があった。

 どこからか飛来した一羽の鳩がじっとこちらを見ている。

 声はあの鳩から聞こえたものだ。

 

「ぜ、ぜ、ゼルフィード様!?」

『そう、ワシじゃよ。三人ともお疲れさんじゃったのう』

 

 天界の統治者、聖王ゼルフィード様が降臨なされた。

 ゼルフィード様はとある事情でみだりに動けないお方だ。

 この鳩は、彼の意思を伝えるための使い魔、相互通信端末のような物だ。

 鳩ポッポだからと言って不敬を働いてはいけない。

 

「爺さん、見ていたなら助けろよ」

「双子ちゃんの件、ゼル様にも予想外だったんじゃないかしら?」

『まあそうじゃのう。ベルの遺児じゃから覚悟はしとったが、ここまでとは…ワシも耄碌したものじゃわい』

 

 片膝をつく私と違い、ウリエとラファはいつもの調子を崩さない。

 ずっと思っているのだが何で平然としていられる?

 私は鳩から発せられるプレッシャーで緊張しっぱなしだと言うのに…

 これが天使としての実力差なんだと思う。

 

『ガブリゼル、この双子は強すぎるでの、一歩間違えば天界も下界もどえらい事になる。それはわかるな?』

「はい、重々承知しております」

『じゃから、母親への報告はもう少し待って欲しい。二人が正しき心を備え、己の力に呑まれぬようになってからでも遅くはない』

「お言葉ですが!姉上は姪たちに会うのを心待ちにしており…そのような嘘をつくことは…私には出来かねます」

 

 私は知っているのだ、姉上がどんな気持ちで姪たちと別れたか。

 姪たちがどれほど姉上のことを求めているか…

 私は一刻も早く親子を再会させてやりたいのだ。

 

『気持ちはわかるぞい。痛いほどわかる。だからワシも頭を下げよう。無理を言ってすまんなガブリゼル、ワシと一緒に怒られてくれんか?』

 

 天界の最高権力者が頭を下げると言った。

 そんなことを言われたら、熾天使の私は従うしかないではないか。

 

「ゼルフィード様……」

『コルニクスと言ったかのう。鳩の丸焼きで許してくれるといいが』

 

 端末が丸焼きになってもアンタ無傷だろうが!

 叫びそうになった言葉を飲み込む。

 怒った姉上に焼かれても構わない、それぐらいの覚悟があるという事か…

 

「わかりました。姉上に怒られる時は一緒ですよ」

『うむ。聖皇の名に懸けて、コルニクスの怒りを受けとめることを誓おう。ビンタしてくれるかな?…ハァハァ』

 

 おい鳩!お前姉上に折檻されたいだけじゃないのか?

 一瞬とても不敬な考えがよぎったが、聖皇に限ってそれはないと思うことにした。

 

 姉上、申し訳ありません。

 このガブリゼル、姉上を裏切ってしまいました。

 ドM鳩と一緒に謝るのでどうかご容赦ください…

 

 ●

 

 ゼルフィード様及び熾天使たちと別れた後、

 ミカエリアスとルシフェルトを私が住む居城へと連れ帰った。 

 

 これから私は二人をしっかりと教育しないといけない。

 とても責任重大な仕事である。

 私が無能だと判断されれば、双子をウリエやラファに取られてしまう事態にもなりかねない。

 それだけは絶対に感化できない。

 私は気合を入れ直し、二人を立派に育てると誓った。

 

「……」

「……」

「ああ、二人とも起きていたか」

 

 双子たちが寝かされている部屋に入ると、ちょうど二人がベッドから身を起こしたところだった。

 ウリエたちと激しい戦闘をしたというのに、傷はもう塞がっており健康状態も問題なく見える。

 虚ろだった目にも今は少しだけ意思の光が確認できた。

 

「私はガブリゼルという。君たち二人の叔父にあたる者だ」

 

 自己紹介をすると、二人は首を傾げて『?』を浮かべる。

 叔父という概念が解っていないのか?

 何か喋ってくれないかと思っていると、ようやく二人は言葉を発した。

 

「かあ…さん?」

「まま…?」

「違うよ。私は君たちの母ではない、それはわかるだろう?」

 

 コクコクと頷く双子天使。

 くっ…何だコレ仕草がいちいち可愛い!

 

「どこ…に…います…か?」

「まま…いない?」

「事情があって今すぐには会えないんだ。それまでは私が君たちの面倒を見よう」

 

 顔を見合わせた双子が嫌そうな顔をした。

 おうぅ…今のちょっと傷ついたぞ。

 

「おじ…さん…?」

「おじじ?」

「そうだ君たちの叔父、ガブリゼルだ」

 

 やった!叔父として認識してくれたぞ。

 嬉しすぎる!

 

「な、まえ…かあさん…の…なまえ…しりた…い」

「ままは…まま、だよ?なまえ…ほか……にある?」

 

 姉上がやはり一番なのは譲れないらしいな。

 たどたどしい口調で一生懸命話そうとする姿が健気で可愛い。

 

「コルニクスだ。君たちの母親はコルニクスという、とても素敵な女性だよ」

 

 母の名前を聞いた二人の表情が途端に明るくなる。

 

「かあさん…こる…にくす…おぼえ、た……こるにくす」

「こる?……まま、こるこる?…まま」

 

 よしよし、次は兄上の名前を教えてあげよう。

 

「父親の名前はベルゼクティオだ。こちらもちゃんと覚えておくといい」

 

 偉大なる天魔王の血を引くこの子たちには、兄上の話をたくさん聞かせてあげるつもりだ。

 

「とうさん…より…かあさんが…すき」

「ぱぱ?……ぱぱ?……ままがいい…まま…だけでいい」

 

 なんか兄上嫌われてるぅ!?!?

 なんで?マジで何で?

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、君たちの父は本当に凄い天使だったんだ!今からほんの少し兄上の伝説を語るから心して聞いてね!」

「「……??」」

 

 このままではマズい。

 実の娘たちの嫌われたままでは、兄上も成仏できないだろう。

 私は必死に兄上の素晴らしさを語って聞かせた。

 少々熱が入ってしまったが、兄上を伝説を聞けば姪たちも考えを改めてくれるはずだ。

 私が話している最中、二人の表情がげんなりしていたのは気のせいだと思う。

 

 10分後……

 

「と、いうわけなんだ。第一章はここまでだけど、何か質問はあるかい?」

 

 ふぅ…久しぶりに熱弁して気分がいい。

 時間があれば姉上にも語ってあげたかった。

 因みに、ベルゼクティオ伝説は九十二章まである。

 

 双子がまたしても顔を見合わせた。

 そして・・・

 

「父さんの話はもう結構です」

「パパ話つまんない!ママのことが知ーりーたーいー!」

「いきなり流暢にシャベッタァァァァァァァァ!?!?」

 

 先程までのカタコトは何だったのか?

 どうやら姪たちは10分で言語機能をアップデートしたようだ。

 

「母さんに関する情報の全てを開示してください。今すぐに!」

「ねえねえ!ママってどんな人?強い?私のこと簡単に殺せるぐらい強いといいなぁ」

 

 急にペラペラ喋りだした姪たちは私に圧をかけながら、姉上のことを話せと要求してくる。

 もしかして、この子たちの教育かなり大変なのでは?

 いや、ここで挫けてはいけない。

 姉上のためにも、何より姪たち自身のためにも、ちゃんとした教育を施さなければ。

 天界の命運は私の手にかかっている!

 

「母さんがいない世界になど興味ありません」

「だよねえ。別に滅んでもいいよねえw」

 

 やだ!私の姪たち思った以上に恐ろし子!

 

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