最初に意識というものが芽生えたとき…
微睡みの中で揺蕩うような感覚の中で、とても安心していたのを覚えている。
温かく心地良い…
ずっと、ずっとここにいたい…
愛されている。
全てを肯定され存在を望まれている。
堪らない幸福感に満たされていた。
『早く会いたいな。一緒にやりたいことがいっぱいあるんだ』
穏やかな声。
この声を聞いているだけで安らぐ。
誰?
あなたは誰?
『元気に生まれて来るんだよ。お母さん待ってるから』
おかあ…さん…?
母…そうか、母親なのか…
あなたが私の『母さん』『ママ』なんだね
理解した よくわかった
私は 私たちは
あなたに会うために あなたのために
生まれるのだ
原初の想いは記憶の彼方に…
だけど確かに刻まれた。
記憶よりも、この魂が覚えている。
●
大陸北西部、どこまでも青い海が広がっている。
上空、晴れた渡った空に不釣り合いな稲光が発生していた。
よく見れば空の一部が歪んでいるという異常事態に気付くのだが、生憎とそれを観測できる者はいなかった。
歪みの中心から小さな人影が二つ飛び出して来る。
純白の翼を広げて飛行する天使の双子姉妹、ミカエリアスとルシフェルトだ。
「ぷはっ!ようやく抜けたぁ…」
「何とかなりましたね。途中で呼吸が出来なくなったのは予想外でしたが」
天界で暮らしていた彼女たちは、結界層と呼ばれる防壁に穴を空け下界へと舞い降りたのだ。
今頃、叔父たちが大騒ぎをしているはずだが、知った事ではない。
悪い事をした罪悪感がない訳ではないが、自分たちの大願成就のためには仕方のないことだと思う。
全ては母に会うために。
卵から孵化してずっと、二人の最重要目標は『母親に会う』これひとつだけだった。
叔父たちの監視を掻い潜り、下界へ行き母を探す方法を模索した。
ルシフェルトは度々脱走して天界中の島々と魔力の流れ調べ上げ、結界層の綻びを探し出した。
ミカエリアスは叔父たちに協力的な態度を取り続け、信頼を勝ち取りながらチャンスを伺う。
最初こそバラバラに動いていた二人だが、互いの思惑を悟ってからは協力して動いていた。
姉妹の計画は順調に進んで行く。
準備が完了した後、ルシフェルトの脱走を止めるという名分でミカエリアスが出動。
従者たちを引き離したまま合流した二人は結界層の綻びへ向けて強力な魔法を同時発動。
姉妹初の合体魔法攻撃により結界層に穴を穿つことに成功する。
その穴を通り抜け、ついに二人は下界へとやって来たのだ。
初めての下界、目に映った景色は天界にはない大海原だった。
「でっかい水たまりだ!?これが海?……うぇ、本当にしょっぱい…」
「アホですか?あなたは」
海面に頭を突っ込んで海の味を確かめた妹。
こいつやっぱりアホだなとミカエリアスは思った。
「チラッと見えたけど凄く広くて深いよ。それになんかいっぱい変なのが泳いでた」
「海中には魚類だけでなく、哺乳類、甲殻類、軟体動物など多種多様な生き物が暮らしています。興味深いですね」
「サメとかいうのがいるんでしょ?ミカを餌にしたら釣れるかな?」
「鮫は愚かな奴から食い殺す習性があるらしいです。餌になるのはルーの方が適任ですよ」
天界の書物で学んだ知識を披露する姉。
ムカつくので巨大鮫の餌になればいいのにとルシフェルトは思った。
「ねえ、なんだか体が重くない?空気も美味しくない気がする」
「天界と違い、下界は大気中の魔力濃度が薄いのですよ。天使が下界で暮らしにくい理由のひとつです」
「なるほどね。じゃあ、下界用に体を調整しないといけないんだ」
「並みの天使ならいざ知らず、私たちなら楽勝です。40秒で支度しますよ」
「はいは~い」
飛行を続けながら、姉妹天使は己の身体機能を調整していく。
環境に合わせて最適な体を構築するなど、二人には造作もない事だった。
「天界から追手が来るかもしれません。移動を開始しましょう」
「了解~。あっちに行ってみよう、ママがいそうな気がする」
「コラコラ!当てずっぽうで動いてどうするんですか?」
勘頼りに飛んで行こうとする妹を引き留めるミカエリアス。
闇雲に動いてどうする気だこのバカは。
「ミカにはママの居場所がわかるの?」
「あなたと違ってちゃんと準備しています。父さんの書斎で見つけたこの魔道具が役に立つはず」
ミカエリアスは蓋付きの懐中時計のような魔道具を取り出した。
蓋を開けると中は時計ではなく、方角を示す盤の上に矢印状の針がプカプカと浮いていた。
『愛の羅針盤』テレテレッテレ~♪
「これは父さんが母さんの位置情報を常に把握するために作った魔道具です」
「それだけ聞くとパパめっちゃ怖い!」
叔父に案内され、父と母の暮らしていた浮遊島へ遊びに行ったことがある。
その際、ミカエリアスはこの羅針盤を入手していたのだ。
父直筆の説明書によると、矢印針の素材には母の毛髪が練り込まれており、彼女のいる大まかな方向を矢印が常に指し続ける。
シンプルな構造だが効果範囲が広く、下界でも問題なく使えるはずだと記してあった。
因みに、この魔道具を作った事は母本人には内緒である。
「パパ、嫉妬深い束縛男だったんだね。なんかイメージ違った」
「父さんがストーカー気質だったおかげで、母さんの位置が特定できると思いましょう」
ミカエリアスはさっそく羅針盤へと魔力を流し起動させる。
すると矢印がくるくると回転を始めピタリと停止した。
この矢印の先に、待ち望んでいた母がいるのだ。
「ふーん、それがあればママの居場所がわかるんだ。ちょっと見せてよ」
「渡しませんよ。あなた魔道具をすぐ壊すクラッシャーなんですから」
「いいじゃん!ちょっとだけだからさ」
「ダメですって…あ、コラ!」
一瞬の隙をついてルシフェルトは羅針盤をかすめ取ってしまう。
『返せ!』と声を荒げる姉を無視して、羅針盤を手の中でもてあそび、矢印の示す方角をじっと観察した。
「ルー!返しなさい。壊す前に返しなさいってば!」
「わかったわかった。うるさいなぁ…はい、パース」
「うわっと!?乱暴に扱わないでください」
投げ返された羅針盤を慌ててキャッチするミカエリアス。
海に落ちたらどうしてくれる?
「良かった、どこも壊れてな……!?」
パチッ!…
手の平で何かが弾ける音。
次の瞬間、羅針盤が破裂して激しい閃光を生み出した。
咄嗟のことでミカエリアスの視界は刹那の時間、閉ざされてしまう。
「油断したね…お・ね・え・ちゃん♪」
嘲笑う妹の声が耳元で聞こえた。
直後、ミカエリアスの全身を衝撃が襲う。
ゼロ距離から魔法で攻撃されたのだ。
諸に食らってしまったが、この程度でやられはしない。
しかし、使用された爆裂系の魔法により海へと落とされてしまう。
ルシフェルトは海に落下した姉に向け追撃の魔法を連続で撃ち込んだ。
海面に巨大な水柱が何本も立つ。
これで海の藻屑となってくれたらいいが、そう簡単に死ぬようなタマではないとルシフェルトは理解していた。
先程、放り投げた羅針盤はルシフェルトが自身の権能を使って用意した偽物だ。
本物は翼の中へと収納してある。
偽物を使い捨ての閃光弾にして隙を作り、ミカエリアスを海に叩き込むことに成功した。
協力して天界を脱走した姉を裏切りったのは、咄嗟の思い付きではない。
ルシフェルトはずっと考えていた、母親には自分だけを見て欲しい、母の愛を独占したいのだと。
そのためには姉の存在が邪魔だった。
悔しい事にミカエリアスは強い、本気でやり合えば互いにボロ雑巾になるのは以前のケンカで証明済みだ。
ミカエリアスの排除は現実的ではない。
だったら、母に少しでも自分を強く印象付けよう。
十数年離れていた母娘、最初に劇的な再会を果たすのは、この私だ!
私、ルシフェルトこそがあなたの娘で、姉のミカエリアスはおまけなのだと証明してやる。
一番最初に母親に会う。
そのためだけに、ルシフェルトは姉を出し抜いたのだ。
「じゃあ先に行くね。ママに会ったら、ミカは海水浴に夢中だって言っておくよw」
姉の落下した先を一瞥した後、ルシフェルトは羅針盤の示す方向へと飛び立って行った。
(クソッ…やられた!!)
ミカエリアスは海中で己の迂闊さを嘆いていた。
結界層を協力して突破したことで、妹に気を許してしまった。
何だかんだ言いつつも、血を分けた双子だ。
大事な局面では互いに支え合う事ができると思っていたのに…
(裏切ったなルー…私を裏切ったなァァーーー!!!!)
甘かった、私はチョロアマ天使だった。
妹がとんでもないバカだと知っていたのに、この始末。
恐らくあのバカは、自己が確立した瞬間から私を敵だと認識していた。
母さんの愛情を奪い合う、最凶の敵だと!!
いいよ。上等だよ。
そっちがその気なら、こちらも手加減抜きでやらせてもらう。
私を怒らせたことを後悔させてやる!
突如として海が爆発した。
怒りのオーラを纏ったミカエリアスが海底から一気に浮上したためだ。
すぐさま魔力残渣をサーチ、魔素の濃い魔力反応が高速で飛び去った方向を睨みつける。
「くそばかルシフェルト……逃がすかぁぁァァーーー!!」
目を血走らせたミカエリアスは、己の出せる最高速度で追跡を開始した。
●
「見つけた…」
フィジカルで勝るミカエリアスは程なくしてルシフェルトに追いついた。
視界に捉えた憎たらしい天使(妹)は最早敵である。
「ブレードセット」
体に魔力を浸透させイメージを具現化させる。
メキメキと音を立て翼の羽ひとつひとつが鋭利な刃へと変化していく。
純白の羽毛だったはずの翼は、あっという間に銀の金属翼へと生まれ変わった。
「撃ち落とす!」
ミカエリアスの翼から無数の刃が発射される。
さながらそれは機関銃のフルオート射撃のようであった。
ミカエリアスの魔力が続く限り弾切れはない、マシンガンの乱れ撃ち。
双子天使の空中戦が開始された。
殺意を込めた刃の羽がルシフェルトへと殺到する。
攻撃されている事に気付いたルシフェルトも迎撃に応じた。
後ろを振り返ることなく自身の翼から、大量の黒い球体を生み出し空へとばら撒く。
闇魔法『ダークスフィア』
空中を漂い物体に接触すると自動で爆発しダメージを与える、機雷のような使い方ができる魔法。
もちろん、直接相手にぶつけることも可能だ。
闇の力による爆発は、単純な火魔法より効果があると以前のケンカで検証済みだ。
これはルシフェルトが対ミカエリアス用に考案した魔法である。
銀の刃と黒の球体が接触する。
闇の瘴気を纏った連鎖爆発が引き起こされ、空に爆煙の花を咲かせた。
「もう追いついて来た…本当に厄介な姉だよ」
ブチギレながら迫る姉の殺気を感じながら、ルシフェルトは内心で冷汗をかく。
ああなってしまったミカエリアスの恐ろしさを身をもって知っているからだ。
だからといって、母の下へ一番乗りするのは諦められない。
次は意識を刈り取るぐらいのダメージを与えて、しばらく眠っていてもらおう。
「弾幕追加発注するよ!」
翼から更なる球体を生成する。
威力と数も先程の倍以上を用意した。
さすがにこれを容易には突破できないだろう。
後方で立て続けに起こる爆発は姉が追いすがって来ている証拠だ。
とにかく、相手の得意な間合いに入らないように距離を取り続ける。
手の平に魔力を圧縮、反転して魔法を撃ち込むタイミングはよく見極めないと…
「つかまえたぁ…」
「にょわっ!?なんでぇ!」
信じられないことが起こった。
後方にいたはずのミカエリアスがいきなり進行方向に出現したのだ。
彼女の両手には巨大な戦斧が握られおり、それを力任せに振り下ろして来た。
ヤバっ!本気で私の頭をカチ割ろうとしている!?
「反省しろぉ!クソバカ!」
「いっっ……たぁ~いなあ!もう!」
魔力障壁を何重にもかけた翼と腕のガードが何とか間に合う。
頭部は守られたが、攻撃の威力は殺し切れなかった。
痛ってぇぇぇ!
今ので左腕がやられた。損傷個所から熱と痛みがジワジワ広がっていく。
これ折れてるな、すぐに回復しないと…
それより、どうしてミカエリアスが私より前にいる?
「簡単な話です。あなたが機雷を追加した瞬間に加速して追い抜き、先回りしただけ」
「限度ってもんがあるでしょ!」
まさか、あれだけの弾幕を全て躱し……そういうわけではないようだ。
ミカエリアスの着衣は所々焼け焦げており、体の至る所から出血している。
躱したのではない、頑丈な体にものを言わせて強引にダークスフィアの弾幕を突破して来たのだ。
姉の持つバカバカしいまでの身体機能に頭が痛くなる。
「これだから脳筋は嫌いなんだよ」
「奇遇ですね。私もバカは大嫌いですよっ!」
会話をしている最中も戦斧を使った斬撃の乱舞は止まってくれない。
刃と化した翼を使った攻撃も追加されはじめ、いよいよ手が付けられなくなる。
防戦一方になってしまうルシフェルト、接近戦ではやはりミカエリアスが一枚上手だ。
「羅針盤を返して今すぐ土下座しなさい!命だけは勘弁してあげます」
「土下座で許してくれるなんて、随分と優しいんだねw」
「は?だれが許すといいましたか、罪を償うまで人権があると思うな」
「なんか怖いこと言い出した!罪を償うって何させる気?」
即時発動型の魔法を連発しながら、姉の猛攻を凌ぐルシフェルト。
この戦いで敗北した場合の末路がどうしても気になり聞いてみることにした。
……聞かなければよかった。
「母さんの前に連行して、尻に極太大根をねじ込んでやります!」
「ぜっっったいに嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
なんだその発想?なんで大根なんだ?
意味不明かつ常軌を逸した拷問を思いた姉はどうかしている!
母親の前でそんな醜態晒したら恥ずかしくて死ぬわ!!
「頭おかしいんじゃないの!私のこと散々バカにしていた癖に、そっちの方が何倍もバカじゃん!」
「うるせぇ!私のDNAが『尻に大根だ!』と叫んでいるんですよぉ!!」
「それパパの遺伝子だよね?ママじゃないよね?ねえ!ママだったらどうしよう!!」
「良かったですね。母さんが2本目の極太大根を入れてくれますよww」
「やめてー!!想像させないでぇぇー!!」
姉と一緒に満面の笑みで大根をセットする母…
想像して吐きそうなった。
おのれ、精神攻撃までやって来るとは我が姉ながら恐ろしい奴!
撃ち合い斬り合い、何度も交差しぶつかりながら、天使たちは戦いを繰り広げた。
●
超常の力を持つ天使二人の戦いは終局を迎えようとしていた。
戦いは既に海上から帝国領のだだっ広い荒野へと場所を移している。
空から大地を見下ろすルシフェルトは、姉であるミカエリアスが健在な姿を見てため息をこぼす。
先程、魔法による絨毯爆撃をお見舞いしたばかりだが、あまり効いてないようだ。
この姉、タフ過ぎて怖いよ!
マジで勘弁してほしい。
対するミカエリアスも、上空にいる妹のルシフェルトを睨みつける。
バカがバカみたいな魔法をバカらしく連発してくるのが非常に鬱陶しい。
距離を離され上を取られた今、再び接近戦に持ち込むのは骨が折れそうだ。
この妹、めんどくせぇなぁ!
本当に勘弁してほしい。
「ミカが悪いんだよ……サッサとやられないからさぁ!」
「ルー?あなたまさか!?」
頭の悪い妹が何をするつもりか察した、ミカエリアスの背筋に冷たいものが走る。
ルシフェルトは右腕に装着している腕輪に魔力を流し始めたのだ。
あのバカタレっ!!
「ここで神器の解放を?下界の地形を変えるつもりですか!」
「それぐらいやらないと、ミカは倒せないでしょ?」
「っ……やらせません!」
翼から無数の刃を、戦斧から斬圧による衝撃波を上空のバカに放つ。
神器に力を注いでいるルシフェルトは動く気配がない。
全ての攻撃がまともに命中する。
しかし、多重の魔力障壁を展開済みだったらしく、ルシフェルトは無傷だ。
「無駄だよ。神器解放前の隙には注意しろって、教えてくれたのはミカだったじゃん」
「ああもう!過去の私め、余計なことを…」
「それよりさあ、そっちも神器を出しなよ。じゃないと……ホントに死ぬよ?」
「くそっ!せっかく母さんに会いに来たのに、なんでこんなことに…」
「日頃の行いが悪いんじゃないの?」
「お前のなっ!!」
妹の本気を感じ取ったミカエリアスは覚悟を決める。
妹と同じデザインの腕輪に魔力を流し、神器の解放を始めた。
「これで決着だね。どっちが勝っても恨みっこ無し」
「私は恨みますよ。ええ、恨みますとも」
二人の腕輪が淡い光となって解けていく、真の姿に戻るための準備が完了したのだ。
あとは主と認めた者の号令を待つだけだ。
「おいで!〖ヤサカニ〗」
「起きなさい!〖ムラクモ〗」
ルシフェルトの手に、コの字形に湾曲した白と黒の宝玉が出現した。
禍々しいほどの魔力を秘めた二対の玉。
ここに前世の記憶を持つコルニクスがいたら『あれ勾玉じゃね?』と呟いたことだろう。
ミカエリアスは眩い光を放つ大剣を握りしめ構えていた。
神々しい魔力で形作られた、光そのものと言っていい輝く『剣』
コルニクスが見たら『勇者パース!』と興奮していただろう。
【神器】天使が持つ切り札であり、己の幻想を骨子に魔力で創り上げられた超武装。
天使が長い年月をかけ築き上げる力の象徴であり、物質化した奇跡である。
わかりやすく言うと天使の必殺技。
本来ならば数百年の研鑽をもって、ようやく形になるはずの神器。
それを、生まれてまだ半年の天使が使いこなしている…
ミカエリアスとルシフェルトの姉妹は本当に規格外の天使なのだ。
これには父親であるベルゼクティオもニッコリである。
「ママからもらった、天下無敵、最強の力を見せてあげる!!」
「母さんから受け継いだ、唯一無二にして至高の力、その身で味わえ!!」
二人の力、そのほとんどは父親譲りのものであるが、双子たちは母がくれたものだと信じて疑わない。
これにはベルゼクティオもいじけて泣きそうである。
二対の勾玉が合わさりその体積を加速度的に膨張させる。
数秒も経たないうちに、勾玉は巨大な魔力の塊となった。
例えるならばそれは、黒い太陽…全てを無に帰す滅びの力の具現。
ルシフェルトは天に両腕を掲げ、今も膨張を続ける魔力塊を支えている。
使用者すら飲み込み、押しつぶさんとする太陽はどこまでも無慈悲だった。
光の剣は急激にその力を練り上げていた。
使用者の意思に呼応し、あらゆるモノを撃滅する刃となる。
剣は稲妻のような姿に変貌して荒れ狂う。
ミカエリアスは自身の手が焼け爛れることも厭わず、必死に剣を構えていた。
少しでも気を抜けば、剣は使用者の命すら葬り去ることだろう。
双子天使の視線が交わった。
これで勝負が決まる。
(いくよ!お姉ちゃん!)
(来なさい!バカ妹!)
二つの神器が今、その力を解き放つ。
「潰れて弾けて消し飛んじゃえ!ブラック・サァァァンンンッッ!!」
「その魂すら切り捨てる!ディバイン・キャリバァァァァーーーッッ!!」
暗黒の太陽が地に落ち、閃光の斬撃が天に昇る。
ぶつかり合う神器の力は周囲全て破壊で染め上げた。
(ママ…私は…)
(ごめんなさい…母さん…)