女体化して母親になったよ!天使な子供たちとファンタジー世界で幸せになります 作:きさまち
天界から義弟のガブリゼルさんと、聖皇ゼルフィードを名乗る鳩がやって来た。
初対面で『乳を揉ませろ』と、セクハラ発言をかましたゼルフィード様は大変エッチな御方だ。
要するにこの鳩の中身はスケベジジイである。
ジジイの本体は今も天界におり、この場に現れた鳩は彼の意思を伝達する端末のようなものだと説明を受けた。
外で立ち話もなんなので家に招待したいところだが、襲撃者たちのせいで私の住居『どこでもホーム』はかなりの損傷を受けてしまい、今は収納形態へと戻してある。
「ここはワシの出番じゃな」
「聖皇パワーで家を直してくれるのですか?」
「さすがにそこまでは無理じゃよ。落ち着いて話が出来る場ぐらいは作ってみせるがの」
翼を広げた鳩が『くるっぽー!』と一鳴きすると、地面に積もった雪がひとりでに盛り上がりドーム型の構造物を形成した。
それは日本の雪国(主に東北地方)に伝わる冬の伝統行事であり、この世界の寒冷地でもよく見られる物だ。
「おー、かまくらですね」
「左様、積もった雪の有効活用じゃ」
ゼルフィード様が作ったかまくらは、この場にいる全員が入っても問題のない大きさだった。
ご丁寧に丸テーブルと人数分の椅子も用意されている。
どういう理屈なのか、かまくら内部はほんのり暖かく外気を寄せ付けない。
雪で拵えたテーブルと椅子は触れても冷たくないのも不思議だ。
おそらく、ゼルフィード様が何かしらの魔法を行使しているのだろう。
ただのスケベではなかった鳩を、ほんのちょっとだけ見直した。
「雪で作った小さな家、かまくらと言うのですね。勉強になります」
「なんだかカワイイね」
初めてのかまくらに娘たちは興味津々といった感じだ。
かく言う私もかまくら初体験なので少しワクワクしている。
全員が席に着いたのを見計らい、どこからともなくティーセットを出現させたガブリゼルさんが温かいお茶を淹れてくれた。
テキパキと給仕をする姿が異様に様になっている。
お客様へのおもてなしは私がやるべきだったのに…かたじけない。
「これぐらい造作もなきことです。さ、温かいうちに召しあがってください」
「ワシの分がないんじゃけど?」
「ゼルフィード様はその辺の雪でもつまんでいてください」
「えぇ……せめてかき氷シロップがほしいのう」
ブツブツ言いながら雪で出来たテーブルをつつきだす鳩。
ガブリゼルさんに蔑ろにされ、その背中には哀愁が漂っている。
「ハト爺ちゃん、雪おいしい?」
「冷たくて無味無臭じゃ」
「醤油ならありますけど?」
「醤油氷は嫌じゃ~」
鳩が雪を食っている間に、私たちはお茶を飲んで一息つく。
お茶の温かさが全身に染み渡り落ち着いたところで、ゼルフィード様が話を始めた。
先程までのふざけた様子はなく、鳩からは威厳のようなものを感じる。
「まず最初に謝らせておくれ。双子ちゃんたちが半年前に孵化していた件、黙っているように命令したのはワシじゃ、本当に申し訳ない」
「ちょ、ゼルフィード様!?」
テーブルの真ん中を陣取った鳩が私に向かってペコリと頭を下げた。
端末とはいえ、天界を統べる最高権力者が私などに謝罪の言葉を述べるとは…
その事実に面食らってしまう。
「私からも謝罪します。姉上の御心を知っていながら姪たちの誕生を報告をしなかったこと、深くお詫び申し上げます」
「ガブリゼルさんまで」
ガブリゼルさんも深々と頭を下げて来た。
天界を牛耳る立場にいるであろう大物二人からの真摯な謝罪。
なんだかとても居心地が悪い!
「天界の重鎮たちをこうも簡単に屈服させるとは、さすが私の母さんです!」
「ハト爺ちゃんより偉い…ママ超かっこいい!」
「コラコラ、変な誤解をしないようにね」
私は誰も屈服させていないし、聖皇様より偉い訳がないでしょ。
娘たちの中で私が間違った方向へ美化されていくのが正直怖い。
娘たちの誕生を知らされなかった件、最初に聞いた時は随分と頭に来たものだが、その怒りも既に引いてしまった。
夢にまで見た娘たちと再会し、一緒の時を過ごして幸せを享受した。
今の私は幸せいっぱい胸いっぱいであるからして、未だかつてない程の寛容さを獲得するに至っている。
目の前にあの女、リリアナがいても許せるぐらい心が広くな…
いや、やっぱあの汚物だけは許せねぇわ!
「お二人とも、頭を上げてください」
私はもう怒ってはいない。
むしろこの15年間、娘たちを守り通してくれたことに感謝をしている。
旦那様の遺児ということで、ただでさえ狙われる立場にあった子供たち。
卵から孵った双子は父親譲りの強大な力を身に宿してした。
しかも、貴重な女性天使であったのだから天界はさぞや混乱したはずだ。
先程ジャーマンでやっつけた座天使(クズ)のように娘を利用しようとする連中が、うじゃうじゃ湧いたに違いない。
そういう奴らから娘たちを守ってくれて、本当にありがとう。
一晩娘たちと過ごし、いろいろ話を聞いて理解した。
この子たちは天界で大事にされていたのだと。
まだ未熟なところも多々あるが、一般教養や行儀作法の指導を受けた経験がある事もすぐに分かった。
それに二人とも母親想いの、すごくいい子だ。
これもガブリゼルさんたちが、私に代わり娘たちを正しく育ててくれたおかげだと思う。
娘たちの誕生を私に知らせなかった事にも理由があると、冷静になった今なら分かる。
強すぎる力を持って生まれた双子に物事の分別を教えるため、敵勢力の排除ないし力を削ぐため、他にもややこしい諸々の手続きとか、私がまともな母親として機能するか見定める準備など、とにかく時間が必要だったのだ。
全ては私たち家族を慮ってのことだ。
ガブリゼルさんにゼルフィード様も決して悪気があった訳ではない。
そうですよね?と、問いかけると二人は我が意を得たりという風に大きく頷いてくれた。
ならばもう、謝罪は必要ない。
頭を下げるべきなのは私の方なのだから。
「娘たちがお世話になりました。母親として二人に感謝致します」
「姉上…なんと度量の大きい!あなたのことを、きっと兄上も誇らしく思うことでしょう」
「ほっほっほっ、コルニクスは本当にいい女じゃのう。鳩の丸焼きにされる覚悟も取り越し苦労じゃったわい」
丸焼きだなんて、天界のトップにそんな仕打ちできませんよ。
「手羽先ぐらいなら、かじってもええんじゃよ?」チラッ
「あはは、遠慮します」
「そこまでにしとけよ鳩、高温の油にじっくり浸けられたいか?」
「フライドチキンは勘弁じゃ」
手羽先もフライドチキンもいらないので、ガブリゼルさんにはお怒りを鎮めてもらった。
●
「コルニクスの優しさに救われた身じゃが、話を続けさせてもらうぞい」
仕切り直しとばかりに、ゼルフィード様が翼をはためかせる。
鳩がテーブルの上をちょこちょこ歩き、娘たちの前に移動した。
「ミカエリアス、ルシフェルト、お主らはガブリゼルの言いつけを破り下界へと脱走、その際に天界を守護する要である結界層を破壊した。間違いはないな?」
「間違いありません」
「やっちゃった!」
元気よくハキハキとした口調で肯定する娘たち。
何故か鼻息荒く誇らしげである。
あの、二人とも…ゼルフィード様が怒ってらっしゃるわよ?
「更に、ここに来るまでに【神器】を使用したな?」
「先に発動させたのはルーです。私は仕方なく迎撃したまでです」
「ミカがしぶといのが悪いの」
「お前たち…なんと言う事を…」
ガブリゼルさんがヤレヤレとため息をつき、ゼルフィード様が『くるっくー!』と唸っていらっしゃる。
これマズくない?
娘たちとんでもない罪を犯しちゃってない?
「結界層の破壊、私的な決闘による神器の使用、どちらも重罪じゃとわかっておるのか?」
「覚悟の上です。母さんに会うためなら、私は犯罪者の汚名だって甘んじて受け入れます」
「ママに会いたかったんだよ!そのために力を振るって何がいけないの?」
「その結果、お主らの母親が責を負うとしてもか?」
「「……え?」」
ゼルフィード様の糾弾に反抗的な態度だった二人が固まる。
ミカもルーも、責任の所在というものを深く考えていないかったのだ。
「な、なんで、母さんが…」
「そうだよ。悪い事をしたのは私たちで…」
「古来より子供がやらかした事件の責任を取るのは親じゃ。そうじゃの、コルニクス?」
「はい。その通りです、娘たちの罪はこの私が償います」
私はミカとルーの母親だ。
二人が悪い事をしたのなら私がその責任を取って然るべき。
それが親というものだ。
「母さん!そんな、私はそんなつもりじゃ」
「待って、ママは悪くない。私が…」
娘たちが私に縋りついて来た、その顔は蒼白かつ自責の念で一杯だ。
私は二人を落ち着かせるようにゆっくりと語りかける。
「大丈夫だよ。二人が私に会うためにしたことだって解ってるから。その気持ちは本当に嬉しい」
でも、そのせいでガブリゼルさんたちや、たくさんの人に迷惑をかけたのも事実。
だから謝らなければならない。
謝って済まない分は私が何かしらの形で償う事になる。
「わかってくれるよね?これも母親としての大事な務めなのよ」
「母親としての…」
「うん。二人のお母さんとして、私は私に出来る事をしてあげたい。これもそのひとつよ」
「ママ…」
ゼルフィード様の意図が読めて来た。
彼はこれを機に、娘たちに責任というものを学ばせるつもりなのだ。
大きな力を持っているからこそ、その力を私欲のために振るってはいけない。
自分さえ良ければいいという傲慢な考えは改めるべき。
犯した罪で傷つくのは自分だけとは限らないのだから…
「力に溺れ間違いを犯せば、お主らの愛する母が迷惑を被る。理解したかの?」
「はい……申し訳ありませんでした」
「ごめんなさい。私が悪かった…です」
自分の非を認め、しっかりと謝れるうちの子たちが誇らしい。
ガブリゼルさんも、ウンウンと頷いている。
娘たちにはこれからも、心の在り方というものを学んで行ってほしいものだ。
「ゼルフィード様、二人の母として私はどう償えばいいですか?」
「そうじゃのう、ここはやはり『ぱふぱふ』してもらお…」
「叔父さん、揚げ鍋の準備ができました」
「よし、後は新鮮なエロ鳩を投げ込むだけだな!」
「火力は私が調整するよ。暗黒の炎でじっくり加熱しちゃおう」
私たちの背後で煮えたぎる油を用意する三人。
焦ったエロ鳩はワザとらしく咳ばらいをして『ぱふぱふ』発言をなかった事にした。
「コルニクスにはワシから、とある重要任務を依頼しようと思う。それで今回の件は、お咎めなしじゃ」
「わかりました。その任務とやら、お受けします」
「姉上、内容を聞いてからの方がいいですよ?どうせスケベな任務でしょうから」
「ゼルフィード様、サイテーです」
「見損なったよ、ハト爺!」
「こりゃこりゃ、アツアツの油に投げ込もうとしたらダメなんじゃよ~」
まあ、エロくない任務なら受けてあげようかな。
何であれ、それで娘たちの罪が不問となるなら安いものだ。
「母さんだけに、罪を背負わす事などできません。ゼルフィード様、私にも厳正な処罰をお願いします」
「私も!ママばっかりに迷惑かけられないもん」
「二人とも…いい子すぎる」
いい子すぎる娘たちの感動!
もう、なんでこんなに愛おしいかなあ!
「わかったぞい。ならばワシも心を鬼にして二人を罰しよう」
おいおい、いいのか?
ゼルフィード様、スッカリ娘たちに乗せられているよ。
せめて半日の社会奉仕活動ぐらいでお願いします。
「ミカエリアス、ルシフェルト。聖皇の権限で、お主ら二人を追放刑に処す!」
「追放!?え、どこから?」
「もちろん天界からじゃ。ワシが良しと言うまで、天界に戻る事を禁ずる」
「はい。了承しました」
「ちょっと寂しいけど、仕方ないね」
娘たちが故郷から追放されたぁー!
え、エライ事じゃ!
どうしよう、今土下座したら許してくれるかな?
「ガブリゼルさん!娘たちが追放されましたよ」
「まあ、結界層をぶっ壊したら普通は極刑になってもおかしくありませんからね。ならなかったのは兄上ぐらいです」
「間違いなく旦那様の血統で嬉しいやら悩ましいやら」
追放刑というのはかなり甘い措置らしい。
でもでも、天界を追放されたら娘たちはどこで生きて行けば…
「さてコルニクス、さっそく任務じゃぞ」
「はい?」
「罪を犯した天使を二人ほど下界に追放した。その者たちが悪さをしないよう監督してもらいたいのじゃ」
「へ?ええ?」
「なお期間は今のところ無期限とする。二人が真に更生したとワシが判断するまで追放刑は継続じゃと思え」
ゼルフィード様が仰ったことが頭を駆け巡る。
私は娘たちと顔を見合わせると、二人もポカンとしている。
ガブリゼルさんは口元を押さえて笑ってるよ。
つまり、これはその…
娘たちと地上で暮らしてもいいってこと?
娘たちと一緒に暮らすことは私の悲願である。
本当は20年離れ離れなるはずが、15年目で会うことが出来たのだ。
あと5年待てと言われても『はいそうですね』などと言うつもりは毛頭ない。
もう待てない、我慢できるはずがない、せっかく取り戻したぬくもりを再び失うなど私には耐えられない。
今日の話し合いで私が何としても勝ち取ろうと思っていた事がある。
娘たちと暮らすことを聖皇ゼルフィード様に許してもらう。
それがこんな形で叶うことになろうとは…夢じゃないよね?
「どうじゃ?この任務を受けてくれるかの?」
あ、鳩が下手くそなウインクをした。
エロジジイだなんて思って、すみませんでした!
あなたこそ聖皇と呼ばれるに相応しい御方であります!
「はい!【夢幻の魔女】コルニクスの名において、此度の重要任務を遂行させて頂きます」
私はゼルフィード様に跪いて最大級の礼を示した。
鳩相手に何やってんだと思うが、私たちは至極真面目である。
「よろしい。では、ミカエリアスとルシフェルトの身柄を預ける。しっかりと監督するのじゃぞ?」
「我が命に代えましても」
「ガブリゼルもそれでよいな?」
「異論ありません。私を含めた熾天使一同も既に了承済み、反対する者がいれば力づくで黙らせます」
そうか、これは既に予定調和の出来レースだったのか。
根回しは十分、ガブリゼルさんたちは最初から娘たちを私の下へ戻すことを決めていたのだ。
私たち母娘のためにここまでしてくれるなんて…ガブリゼルさんとゼルフィード様には感謝してもしきれない。
他にも協力してくれた人たちがいるみたいなので、その人たちにもいつか会ってお礼を言いたいな。
「えーっと、つまり…ママと下界で暮らしていいの?」
「そう、みたいですね。とんとん拍子に話が進んで実感できませんが……痛いッ!!なんで私デコピンされた?」
「あ、夢じゃないみたい」
「自分の体で確かめなさい!とりあえずビンタさせろ!」
「ママ助けて!ミカがいじめる」
「こいつ…」
娘たちが仲良くじゃれ合っている。
その様子を見て私は嬉しさがこみ上げて来て堪らなくなった。
「ミカ、ルー、これからはずっと一緒よ」
「母さん。はい、とっても、とっても嬉しいです!」
「やった!ママと暮らせるんだ。きゃっほー!」
娘たちを抱きしめると、二人も抱きしめ返してくれた。
天使二人分の翼も私を包み込んでくれる。
母娘で幸せを噛み締める様子を、ガブリゼルさんとゼルフィード様が優しく見守ってくれていた。
見ていますか旦那様。
私たち母娘は今日ここから新しい人生を始めます。
どうか、応援してくださいね。
「コルニクスや、突然じゃがペットを飼う気はあるかのう?」
「ペットですか?特に考えたことはないですね」
「今なら、人語を話す賢い鳩〖ゼルちゃん〗が無料で手に入るぞい」
「いや~要らないっス」
この鳩、本当にブレないなあ。
素直にリスペクトさせてくださいよ。