実は俺、前世の記憶があるんだよね。
『頭大丈夫?』とか思った?
その気持ち、凄くよくわかる。
俺だって前世がどうたら言う奴がいたら『お大事に』とだけ告げて病院に行くよう勧める。
だがしかし、このとち狂った発言をしたのが他でもない、自分自身なら話は別だ。
天地神明に誓って嘘は言っていない。
頭を強打してもいないし、心の病気を患っている訳でもない。
俺には確かに、今生きる世界とは違う文明と社会の中で暮らしていた記憶があるのだ。
そういうことでひとつよろしく。
〇
剣と魔法とモンスターに他にもいろいろ、いわゆるファンタジー世界が二度目の人生を歩む舞台となった。
俺はちょっと貧しい家庭の一人っ子(♂)として生まれ、流行り病で両親を亡くした後、優しい村長の家に引き取られた。
早くに奥さんを亡くし、子供のいなかった村長は俺を本当の息子のように大事に育ててくれた。
裕福ではなかったが、俺は日々の暮らしに満足していた。
村長を手助けしながら、牧歌的な村でのびのび生きて行けたのなら、それでよかった。
自分に前世があると気付いたのは10歳を過ぎてからだった。
ちょっと遅い。
おかげさまで、赤ん坊の頃から最強になるための努力とか研鑽なんぞ積んでこなかったわ!
おぼろげな記憶によると、ニッポンとかいう島国で平々凡々な暮らしを営んでいたように思う。
だけど前の自分が、どんな名前だったか?どのような職業についていたか?家族は?年齢は?一体いつ死んだ?
などという情報はいくら頭を捻っても浮かんでこない。
確証があるのは前の俺も性別は男だったということだけだ。
今の世界が『ゲームと同じだ!』とか『悪役令嬢になった!』とか、そういう驚きや感動は一切ない。
前世の知識で無双とかも出来そうにないので、俺はこのままひっそりと生きていくことにした。
つまり、前世があろうが無かろうが俺の日常は変わらなかったってこと。
「お前さぁ。なんか将来の夢とかないの?」
「夢は所詮夢だ」
「厳しいな!って、そうじゃなくてだな、大人になってやりたい仕事とか行ってみたい場所とか…」
「ないな。飢えない程度に稼いで、たまの休みに家でダラダラ出来たら幸せだ」
「なんでそんなに枯れてんだよ。俺たちまだ10代だぜ?」
今は幼馴染のロックと農作業の合間に駄弁り中だ。
ロックはお隣に住む次男坊で、昔からよく一緒に遊んで来た仲だ。
最近この友人は将来の話とかをよく振って来る。
進路について悩むお年頃なのだろう。
村のガキ大将として暴れ回っていた奴が成長したものだ。
「そういうロックは何か考えてる?」
「よくぞ聞いてくれた。俺はこんな田舎からは出て行って、冒険者として名を上げるんだ」
「えぇ…すごい大変だって聞くぞ」
「ロマンだよロマン。世界中を冒険して、仲間たちとダンジョンを攻略、一攫千金だって夢じゃない」
冒険者、その日暮らしで危険な作業をこなす、使いパシリにして何でも屋。
仕事内容によってはダンジョンに潜ったり、ヤバいモンスターを討伐したりもする。
ロマンはさておき、死亡率の高い危険な職業には違いない。
安定と安心を望む俺からすれば、なりたくない職業の上位だ。
「国の騎士団に所属するのもいいな。強いモンスターと戦ってガンガン出世するぜい」
お前、騎士団が戦うのモンスターだけだと思ってない?
戦争とかになったら人VS人ですけど?
国家の狗となって命ずるままに人の命を奪い、奪われる職業だぞ。
上下関係とかも厳しそうだし、パワハラとかも横行してそうだ。
「そんで、俺の功績を認めたお姫様と結婚なんかしちゃったりしてー!」
するわけないだろ!
あーこりゃあ、
仮にもしそうなったとして、姫様がめっちゃブスだったらどうすんの?
お姫様=美人とか幻想だからね?
冒険者も騎士団も戦いが避けられない過酷な仕事だ。
なんで無理に戦おうとするのか、理解に苦しむね。
「お前は夢がないな。男に生まれたのなら戦ってこそだろう?」
「俺は、痛いのも怖いのも…嫌だ」
「俺だってそうだよ、だけど怖がってたら何も始まらねえ」
「ふむ、一理ある」
「強くなりたい、カッコいい男になって、女にモテたいってのは、雄の本能だ!」
そういうもんかねえ。
俺にはイマイチよくわからんが・・・
「なーにが雄の本能よ。バッカじゃないの?」
「げっ!セリス」
「『げっ!』とは何よ。幼馴染に対して失礼じゃない」
もう一人の幼馴染セリスがいつの間にかやって来ていた。
軽く手を上げると彼女は柔らかな笑みを返してくれる。
セリスは田舎の農村にいる女子にしては、垢抜けていて整った顔立ちをしている美少女だ。
我が村の自慢の初恋ハンター・セリスちゃんである。
ロックがガキ大将で、セリスは女子たちのまとめ役というポジションに自然と収まった。
二人とも人を率いる才能があるんだろうな。
俺とロックとセリスの三人は年も近いので昔からよくつるんでいた。
前世の記憶が戻ってからの俺は、この二人がいつカップリングするのか、ずっとヤキモキしている。
○○しないと出られない部屋とかに閉じ込めてやりたい。
「セリス、男同士の会話に割り込むんじゃねーよ」
「別にいいでしょ。大した話でもないんだし」
「俺は真面目に将来の事をだな…」
「悪い事は言わないわ。あなたはこんな風になっちゃダメよ」
「うん、大丈夫。こんな風にはなれない」
「こんな風って…お前らなぁ」
ロックがバカな話題を振って、セリスがそれを嗜め、俺がなんとなく同調したり否定したり。
そんなとりとめのない会話をするのが好きだったりする。
時々ヒートアップしたロックとセリスがケンカするけど、それも仲が良い証拠だろう。
今日も俺たちは仲良しだった。
両親はいないが、友人にも恵まれた俺は特に寂しいと感じたこともない。
俺と俺の周りにいる人たちが平和に暮らしている。それが一番大事だ。
願わくばこの幸せがずっと続きますように。
〇
親代わりだった村長が死んだ。
元々高齢だったところに、風邪を拗らせた結果、アッサリと逝ってしまったのだ。
慕われていた村長の葬儀は村人総出で執り行われた。
俺は泣いたりはしなかった。
ただ、村長の亡骸に向け『お疲れ様』とだけ言って深い感謝の念を抱いた。
新しい村の代表は村長の弟である、叔父が継ぐことになった。
だが、この新村長が曲者だった。
ハッキリ言おう、こいつはろくでなしのクソ野郎である。
元々村の仕事を兄に丸投げして遊び惚けていた大バカだ。
初対面の印象は、無駄に年齢だけを重ねた世間知らずで我儘な老害だった。
なんでこんな奴が代表なんだよ。
世襲制ってのは良くないと思いますけどねえ!
新村長一家により、俺は早々に家から追い出された。
奴らにしてみれば俺は邪魔者以外の何物でもなかったのだ。
俺としても、あんな非常識一家と暮らすのは御免なので都合が良かった。
村長が俺のために残してくれたお金と、幼馴染たちのサポートもあり、俺は村はずれのあばら家で一人暮らしをすることになった。
家はボロいがまあいいだろう。住めば都ってヤツだ。
月日が流れた・・・
成人を迎えたロックとセリスは村を出て行ってしまった。
ロックは宣言通り冒険者になるため修行の旅へ。
『いのちをだいじに』という作戦を魂に刻み込ませてから見送った。
セリスは魔法の才能を認められ今は王都で暮らしている。
魔術師になるためエリートだらけの学院に通うのだとか、彼女なら立派な魔術師になれると思う。
俺はというと、まだ故郷の村にいた。
別に都会へ行きたいという願望もないからな。
俺は両親と村長の墓があるこの村で生きて死ぬ。
それでいいと思う。
立派になって帰って来るであろう、幼馴染を待つ楽しみもあるから十分だ。
新村長(クソ)になってから村の様子は変わってしまった。
今まで手を付けていなかった森を切り開き土地を開拓、新たな住居や商業施設も建てられた。
長閑な農村だった村の半分は、景観を損ねるような建物群が乱立して歪に見える。
豊かになったと喜ぶ人もいたが、急な開発が進む状況を受け入れられず、村を去って行く住民も増えた。
やっぱり、前の村が好きだったな。
ここで俺がどのように生計を立てているか紹介しよう。
今の俺は薬を作って販売しているのだ。
各種薬草類を仕入れ、家に構えた工房で薬効成分を抽出し、仕上げに俺の魔力を付与して。
ちちんぷいぷい~はいオッケー!
後はコレを専用の瓶に詰めたら誰もが知る基本のお薬、俗に言うポーションの完成だ。
テッテレー!
かなり大雑把に説明したので簡単に聞こえるが、何度も試行錯誤した上に師匠の下で修業もした。
薬の作り方を教えてくれた、俺の師匠は魔女だ。
所用で街へ繰り出した俺に怪しい婆さんが声をかけて来たのが全ての始まりになる。
彼女は自分の知識を世に広めてくれる人材を探しており、俺のように適性のある奴を待っていたんだと。
自分には魔法の才はないと思っていたのだが、師匠によると内に眠る魔力はそこそこあったらしい。
『ヒャッヒャッヒャ!お前には付与魔法の適性がある。特別に弟子にしてやろう』
『あ、結構でーす』
『特別じゃぞ、とーくーべーつ!』
『ちょ、近い。いらないですって』
『付与魔法はええぞ。地味じゃが人の役に立つ魔法じゃ』
『しつこいババアだな。これ以上付きまとうなら自警団に突き出すぞ』
『残念じゃのう……薬を作って売れば金になるのに』ボソッ
『よろしくお願いします。ババア様!!』
『ばかもんがぁ!師匠と呼ばんかい!』
金になるという口車に乗った俺は師匠(ババア)に弟子入りしてその技術の学んだ。
まともな薬が作れるようになるまで時間はかかったが、今ではこれで食っているのだから弟子入りしたのは正解だったのだろう。
師匠は俺の教育を終えると、また何処かへ旅立って行った。
『常夏ビーチでアバンチュール』とか抜かしていたので、南国にでも向かったのだろう。
あんなのでも魔女なので、敵は多いんだろうな。
寿命が尽きるまで無事に逃げ切ってくれたらいいと思う。
さよならババア(師匠)熱中症にはくれぐれも注意して。
〇
俺が作る薬は体力とちょっとした傷を回復するポーション(初級)に、風邪薬や解毒薬などの基本的なものばかりだ。
危ない薬のレシピも一応教えてもらったけど、それを作れると世間に知られたら面倒なので、基本的な物しか作らないようにしている。
街の人たちには、俺のことを田舎に住むしがない薬屋だと認識し続けてもらいたい。
媚薬や精力剤なんて頼まれても作らないからね!
契約している雑貨屋や教会に作った薬を納品するのも大事な仕事だ。
嬉しい事に、俺の薬をリピートしてくれる人は多い。
大きな病院からも発注が来ることもあるが、何分一人作業なので大量生産できないから断っている。
ガッポリ儲けることはハナから期待していないので、俺はこれからも地域密着型の商売を継続しようと思う。
配達ために向かった教会で人だかりを見つけた。
なんだか知らんが、偉い人が来ているらしい。
俺には関係ないのでサッサと納品を済ませてしまおう。
納品した薬をチェックしてもらい書類にサインをもらう。
よし、これで今日の分は完了っと。
『あざーした』と礼を言って踵を返すと、そこに見慣れない女がいた。
「こちらのポーション、あなたが作ったのですか?」
「はい。そうですが、何か?」
女がたった今納品したポーション瓶を手に取りながら俺に質問して来た。
この人誰だろう?
なんか、彼女の周囲がキラキラしているように感じる。
失礼だと思ったが、その端正な顔をまじまじと見てしまった。
すっげぇ美人!こんなに綺麗な人初めて見た。
美人の後方には取り巻きらしき神官が数名控えている。
もしかして、さっき見かけた偉い人?
「色味がとても素敵です。私も調薬を嗜むのですが、ここまで綺麗な色は出せません」
「は、はあ」
色を褒められたけど、いまいちピンと来ない。
薬で重要なのはその効能だろう。
「よければ、工房を見学させてくれませんか?私、大変興味があります」
「いや、それは遠慮していただきたいです。自宅に構えた狭苦しいモノですので、あなたのようなお方をお招きするわけにはいきません」
「そう、ですか…無理を言ってごめんなさい。お仕事頑張ってくださいね」
一瞬残念そうに顔が曇ったものの、美人は万人を魅了するような笑みを浮かべその場を後にした。
取り巻きも彼女の後を追って行く。
一体何だったんだ?
「ああ、聖女さま…本日も大変麗しい////」
「聖女?今のが?」
聖女というのは魔女と同じく、人並み外れた魔力を持ち強力な魔法を行使できる存在のことだ。
両者の違いは、教会や国家に属しているか否かだ。
前世で言うならば聖女は公務員であり、魔女はフリーランスということになる。
聖女は国民に慕われており、政治的発言力すら持つという。
逆に魔女は人々から敬遠され、懸賞金までかけられて狙われる始末。
だったら聖女になればいいじゃない?と思うだろう。
実際に魔女から聖女へと鞍替えした実例もある。
しかし、それでも魔女であり続けようとする者は多い。
魔女を選ぶ者は、公的な身分や人民の賞賛より、己の研鑽と魔術の探求を追い求める。
魔女とは恐ろしくも気高く、そして自由な存在…アウトローやね。
「ご存知ないのですか!?あの方こそ【祝福の聖女】リリアナ様ですよ」
「リリアナ様…か…」
美人だったなぁ、可愛かったなぁ。
俺は彼女の顔を思い浮かべ、なんだか温かい気持ちになった。
彼女に出会えてラッキーだなんて、そんな風に思ってしまったのだ。
後にして思えば、これが全ての間違いだった。
あの女は最初から、俺を・・・
〇
最近仕事が楽しい。
薬を作る量を増やし新たな納品先も新規開拓できた。
それもこれも全部、聖女・リリアナ様のおかげである。
彼女は俺の薬を甚く気に入り、街の各所に宣伝してくれたのだ。
聖女がお勧めする薬を作ったとして、俺の評判はうなぎ登り。
先日は、俺と師匠が考案した新薬のレシピも医療メーカーに認められた。
大規模な生産工場を作り、品質を落とさず大量生産する計画も持ち上がっている。
そこまでの大事にするつもりはなかったのだが・・・
安価な薬が広く普及することは、今まで薬を買えなかった人の手にも行き渡ることに繋がる。
そうリリアナ様に提案されたので、俺はこのプロジェクトに参加する事に決めた。
売上金の一部は慈善事業に使ってくれるよう、リリアナ様に進言した。
驚きながらも嬉しそうに顔を綻ばせるリリアナ様はとても可愛らしかった。
俺の薬が人々の傷や病を癒し、稼いだ資金はリリアナ様や困っている人の役に立つ。
まさに幸せの好循環!こんなに嬉しい事は無い。
諸々の準備を終え、後は生産ラインを稼働させる一歩手前まで来た。
最初は文句を言っていた新村長も、工場のある村が潤うと理解してからは俺にペコペコするようになった。
ざまぁwww
今俺にイイ流れが来ている、とにかく順風満帆だ。
この時の俺は自分でも気付かない内に、調子に乗っていた。
だから、足元を救われた。
勝って兜の緒を締めよとは、よく言ったものだ。
慢心駄目絶対!!
・・・・・・・・・・・
俺はリリアナ様と食事を共にしていた。
初めて会って以来、彼女とはすごく懇意にさせてもらっている。
仕事の相談をしたり、互いの愚痴を言い合ったり、どうでもいい世間話に興じたり。
こんな風に親しくなれるとは思わなかった。
「どうかしましたか?」
「いえ、あの、リリアナ様が今日もキラキラしてるな~と思って///」
「何ですかそれwほら、早く食べないと冷めちゃいますよ?」
「は、はい。いただきます」
今の時刻は星空の見える夜。
まさかリリアナ様からディナーに誘われるとは、夢みたいだ。
しかも、食事をしている場所が貴族御用達の高級ホテルのダイニングだぞ。
ガチガチに緊張してしまうのも仕方ないというもの。
うわ~夜景綺麗~とか思う間もなく、俺は慣れないナイフとフォークを動かす。
「お口に合いますか?」
「正直言って、味がよくわかりません」
「味覚障害?」
「緊張しているんです。その、女性とこのような場所で食事するのが、初めてなもので」
「まあ!フフ、それは光栄です」
あ゛あ~リリアナ様かわええんじゃぁ~。
鮮やかに色づいた桃色の髪、慈愛を湛えた金色の瞳はどこまでも美しい。
絶世の美女というのは彼女の事を指すのだと思う。
それでいて、時折見せるいたずらっ子ような表情が可愛すぎてどうにかなりそうだ。
なにより彼女はその心がとても綺麗だ。
俺のような田舎の平民にも分け隔てなく接してくれる。
いつも民のことを考え、平和のために祈りを捧げる彼女はまさに聖女の鏡だ。
そんなリリアナ様を俺は・・・
思いついた邪な考えを振り払う。
何を血迷っているんだ俺は、彼女にちょっと優しくされたからと言って勘違いするな。
特別になりたいなどと思うな。
俺はこれからも平穏に生きて、彼女の役に立てればいい。
それでいいのだ。
まさか彼女も俺のことを・・・
なんて、中坊レベルの勘違いを心の中で握りつぶした。
ほんのちょっとだけ、胸が痛んだ。
ディナーを頂きながら、リリアナ様との会話を楽しんだ。
彼女はいつも俺に質問を投げかける。
俺はなるべく誠実に嘘偽りなく返答する。
「ところで話は変わりますが、結婚願望とかってあります?」
「ブーッッッ!!」
「キャッ!?大丈夫ですか?」
ヤベェ吹いた。
だって聖女様の口から結婚願望とかいう単語が出たのだから。
謝罪しながら、呼吸を整える。
粗相をした俺をよそに給仕がテキパキとテーブルの上を片付けていく。
さすがプロだな。
吹き出した物が聖女様に飛び散っていないようで安心した。
「結婚って…いきなりなんですか?」
「いや、私もあなたも適齢期だと思って、ちょっとした興味で聞いてみたくなったんです」
「俺は……出会いがありませんから」
「ほうほう、良縁があれば結婚してもいいと」
リリアナ様は嬉しそうに頷いている。
何がそんなに楽しいのだろうか?
「子供は好きですか?」
「これまだ続くんですか?」
「子供は好きですか?」
「あ、これ無限ループするヤツだ」
「子供を産んでみたいですか?」
「質問の内容変わってる!?」
何だコレ、俺は今何の審査を受けているんだ。
「あのですねぇ…俺は男なので産めませんよ」
「ほうほう、チャンスがあれが産んでみたいと」
「そんなこと言ってませんけど!?!?」
産めるわけあるかーい!!
常識的に考えて無理に決まってるだろ。
今日のリリアナ様、なんだか変だ。
妙に浮ついていると言うか、テンションが高い。
さっきワインを飲んでいたから、酔ってしまったのかもしれない。
「貴重なご意見ありがとうございました。参考にさせていただきます」
何のだよ?
デザートを食べ終え、そろそろこの食事会もお開きになる。
恋人同士ならプロポーズとかをする最後のチャンスなわけだが、生憎と俺とリリアナ様はそういう関係ではない。
言うならば、俺とリリアナ様は盟友だ。
彼女とならこれからも切磋琢磨していけると信じている。
「最後に乾杯しましょうか?」
「いえ、俺は下戸なので」
「ほんのちょっとだけですから付き合ってください。度数の低いモノを用意させましたのから、ね?」
上目遣いにお願いされたら断れない。
給仕がグラスに注いでくれた赤い液体を俺は飲むことにした。
ふむ、香りは悪くない。
少量だしこれぐらいなら問題ないだろう。
「聖女様と人々の幸せを願って」
「あなたのこれからを祝福して」
互いのグラスを近づける。
金色の瞳が真っ直ぐに俺を見ていた。
「「乾杯!!」」
グラスの中身を一気に飲み干す。
飲んだ直後から体の中がポカポカしてくる。
そして急激な眠気に襲われた。
いや、ちょっと待て・・・
いくらなんでも、これは、ダメだ・・・
こんな所で寝たら・・・リリアナ・・・さまに・・・
意識が遠のいていく、俺の体は椅子に座っていることもままならず、テーブルクロスを巻き込んで床に倒れ伏した。
割れる食器類の音に混じり、リリアナ様の声が聞こえる。
微かな呟きだったはずのそれを、俺の耳が拾い上げる。
「
どういう意味だろう?
人生を楽しめってことだろうか?
リリアナ様の真意はわからなかったが、その言葉に嫌なものを感じてしまった。
そこで俺の意識は途切れる。
目が覚めた時、何が待っているのかも知らず。
俺は呑気に眠りこけた。
これが我が人生最大の不覚である。