女体化して母親になったよ!天使な子供たちとファンタジー世界で幸せになります   作:きさまち

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魔法の杖

 急な下り坂もだいぶ緩やかになって来た。

 それでも私たちが乗るソリのスピードは変わらない。

 娘二人の魔法によってコントロールされたソリは減速することなく進みスムーズな走行を維持している。

 快適快適~。このまま町まで何事もなく到着できそう…

 

「2時の方向を見て下さい。何かいます」

「馬車?引っ張っているのは…鳥?」

 

 娘たちが右斜め前方を疾走する車両を発見した。

 牽引しているのは馬ではなく、二足歩行の大きな鳥だ。

 

「あれはチョ…じゃなくて、ココボ車だね」

 

 くりくりお目目とフワフワ羽毛が可愛らしい鳥型モンスター。

 その名を〖ココボ〗という。

 一応モンスターではあるのだが、人懐っこく穏やかな気性をしているので家畜として飼育されている。

 

 ココボは馬よりも優れた脚力を持ち、足場が悪い場所でも機動力が落ちない。

 雪道や砂漠も難なく走破するため運送業界で大活躍するモンスターだ。

 

 名前で大体察してくれていると思うが、見た目はファイナルなRPGに登場するマスコット的キャラクターである例の鳥と瓜二つである。

 鳴き声は『クエッ』で、好物が葉野菜なのも一緒や!

 

 ココボ車の御者席にいる男は必死の形相で手綱を握り、しきりに後ろを気にしている様子。

 見れば後方から狼型のモンスター〖スノーファング〗の群れが迫りつつある。

 

「モンスターに追われてるみたい」

「救助しますか?」

「まずは話を聞いてみよう。ソリをココボ車の横に付けてくれる?」

「わかった。鳥さんのお隣にゴー!」

 

 旅をしていると人がモンスターに襲われている場面には結構な頻度で出くわして来た。

 見て見ぬふりもできないので、なるべく助けに入るようにはしているのだが、それが私の早とちりだったことが何度かある。

 

 魔物使いがペットのモンスターと遊んでいた。

 最近共和国で流行っている映画の撮影中だった。

 若い男がメスオークに襲われているのかと思ったら、交際中の彼女が巨漢のおデブだったとか…

 どいつもこいつも紛らわしいたらありゃしない!

 

 人助けをしたつもりが逆に怒られたり、損害賠償を請求されても困るので、状況を慎重に見極めないといけない。

 あのココボ車に乗っている人もペットの散歩中か、モンスターに追われるスリルに興奮する稀な性癖の持ち主なのかもしれない。

 お楽しみ中のところを邪魔したら悪いので、まずは本人に確認してみよう。

 

 娘たちの翼から魔法による風力が発生してソリが加速する。

 速やかにココボ車の隣に横付けし、併走することに成功した。

 

「こんにちは!いいお天気ですね」

 

 まずは明るく元気に挨拶だ。

 迷った時はとりあえず、天気の話を振っておけば何とかなる。

 

「うぉっ?な、なんだアンタら…」

「通りすがりの仲良しファミリーです!」

「ファミリー?」

「そうです。初対面のあなたに、愛娘の可愛さを懇切丁寧に説明したいのですが、聞いてくれますよね?」

「待て待て!そんな場合じゃない、後ろの奴らが見えてないのか?」

 

 十数頭のスノーファングが押し寄せて来ているのは確認済みだ。

『ニンゲンゴハン』『ハラヘッタ』『マルカジリ』

 なんて事を考えていそうな獣の目がギラギラしている。

 

「ワンちゃんたちのお散歩ですか、ご苦労様です!」

「全然違うわ!モンスターに追われてんだよ!奴らは俺たちを食い殺すつもりなの!」

「実は今の状況に興奮してお楽しみ中だったり?」

「するわけないだろ!!この非常時に何を考えているんだ!?」

 

 散歩ではない、お楽しみでもない。

 導き出される結論は…

 モンスターに襲われて逃げている人だ!!

 

 なんだ、見たまんまかよ。

 つまんねぇな…おっと、今のは不謹慎だったね。

 娘たちの前だ、軽率な考えは顔にも口にも出さないよう注意。

 

「大変ですね。心中お察しします」

「他人事か!」

 

 他人事ですよ。

 でもまあ、そんなに焦らなくても大丈夫。

 私の予想では、狼たちはもうすぐいなくなるから。

 お?来たみたいだ。

 

「きゃいん!?」

「…がぎゃ!!」

 

 スノーウルフの群れから悲鳴が上がる。

 群れの更に後方から現れた何かによって、轢かれたり跳ね飛ばされ奴らの断末魔だ。

 乱入して来たのは白く巨大な球体だった。

 

「うわ!来たー!しつけぇ!」

「執念深いヤツです」

 

 私たちはそれが何か知っている。

 少し前にソリの加速でぶっちぎってやったローリングベアが追いついて来たのだ。

 ヤダなぁ、ストーカーかよ。

 

 群れの半数近くを失ったスノーファングたちは、ココボ車の追跡を断念して方々へ逃げ去っていった。

 残ったのはココボ車と私たち母娘のソリと、転がる巨大熊。

 

「良かったですね。狼はいなくなりましたよ」

「全然よくねーよ!もっとヤバイのに追われとるだろうが!」

 

 確かに、狼よりあの熊の方が何倍も強いからね。

 御者がそう思ってしまうのも仕方がない。

 

「くそっ!雪原の轢殺魔・ローリングベアだとぉ!冗談じゃねぇぞ!普段はこんな場所まで下りてこないはずなのに、どうして」

「私と娘たちの魔力に反応しているんでしょうね。本当にストーカーみたい」

「アンタらのせいかぁぁぁ!!」

 

 御者の男が唾を飛ばす勢いで怒鳴って来た。

 そう言われましても、私たち母娘もあいつのストーキングには迷惑しているんだよ。

 

 モンスターの中には強い魔力を持つ者を狙って襲う個体もいる。

 魔力保持量の高い生き物を食べたモンスターは更に強くなることを理解しているらしいのだ。

 それとも、味の違いでもあるのかな?

 

 並みのモンスターは私の魔力を感知したらビビッて逃げるけど、たまにこういう熊みたいな、なりふり構わず襲い掛かってくる奴もいる。

 腕に自信があるのか?ただのアホなのか?

 どちらにせよ、私たち母娘に目を付けたのは大きな間違いだ。

 

「アンタら見るからに普通じゃないな。戦えるんだろ?」

 

 ほう…貴様、人を見る目があるではないか。

 

「私の戦闘力は53万です」

「ごじゅ?…そもそも戦闘力って何だ?」

「伝わらなかったか」

 

 適当に強者感を出してみたけど、やっぱり伝わらなかった、残念!

 娘たちも頭に『???』を浮かべて首を傾げている。

 機会があれば名作漫画のお話なども語って聞かせたい。

 

「よくわからんが、戦えるんだな?」

「まあ、それなりに」

「だったら後ろのデカブツなんとかしてくれ!連れて来たのはアンタらだろ?」

 

 連れて来たんじゃなくて、勝手について来たんだよ。

 あいつは立派なストーカー畜生です。

 

「こっちも暇じゃないんですよ。この後、麓の町で宿をとって家族でのんびりする予定が詰まっているんですから、とっても忙しいのです!」

 

 私の言い分に娘たちもウンウンと頷く。

 旅先のお宿ではゆっくり癒されたいのよね~。

 

「のんびりしてんじゃん!余裕じゃん!人助けしてからゆっくりしてもいいだろ、なあ?」

「そう言えばお腹空いた…どこかにいないかな?母娘三人お腹いっぱいにさせてくれる素敵な紳士は」チラッ

「足元見やがってコンチクショウ!わかった!飯ぐらい奢るから、マジで助けて下さいお願いします!!」

 

 必死に助けを懇願してくる男。

 揶揄うのはここら辺にして、悪い人ではなさそうだし助けてあげよう。

 

 正義を愛する魔女として、良き母親として、困っている人は見過ごせない。

 別に、ご飯に釣られたからじゃなんだからね!

 うっしっし、おねだりしてみるもんだ。

 

「二人はソリの操縦をお願い。あの熊は私がやる」

「了解しました。お気をつけて」

「ママ、頑張ってね」

 

 娘たちからエールをもらい気合十分。

 よっしゃぁ!行くぞぉオラァ!

 私は滑走するソリから舞うように身を躍らせた。

 

「なぁ!?アンタ一体何してんだー!」

 

 いきなり後ろへ飛んだ私に驚いた御者が声を上げる。

 何って熊を倒すんだよ。

 

 まずは挨拶代わりのマジカル☆ドロップキックを食らえー!

 

 こちらを引き潰そうと迫る白い球体へと両足を揃えた私の蹴りが炸裂した。

 

「げぁ!?!?」

 

 球体の奥からくぐもった声が聞こえた。

 よし、効いてる効いてる。

 

 大きく吹き飛んだ球体、その丸い体が割け熊の頭部と四肢が出現する。

 形態変化で正体を現したローリングベアは、その太い手足で地面を削りながらブレーキをかけ、飛ばされた勢いを殺して停止した。

 

 へぇ…てっきり今の一撃で終わるのかと思ったのに、意外とやる。

 こいつの危険度をちょこっと修正、B級冒険者なら苦戦する程度には強い。

 

「その身のこなし、それなりの修羅場をくぐり抜けて来たか」

「グゥゥゥ!」

 

 腹の底に響くような唸り声を上げ威嚇して来る熊。

 ゆうに私の5倍以上はあろうかという巨体は迫力があって強そう。

 経験上、もっと大きくてヤバいのを相手したこともあるので、この程度どうということもない。

 

 怯え3割、敵愾心7割といったところか。

 ドロップキックを食らったことで、こちらをかなり警戒している熊。

 狩りの得物ではなく、全力で倒すべき敵として私への認識を改めたらしい。

 

 逃げてもいいよ。

 そう思いながら悠然と熊の前に立つ。

 熊は私を睨みつけたまま動かない。覚悟はとうに決まっているとでも言いたげだ。

 逃げないか、わかった戦おう。

 

 素手でも十分だが、冥途の土産に私が愛用する武器を見せてあげる。

 娘たちにも披露したかったので、丁度良かった。

 さあ出番だぞ!私のメインウェポン。

 

 魔法で小さくして腰にマウントしていた武器を空中へ放り投げる。

 勢いよく投げられた黒い棒状の物体はみるみるうちに巨大化し、本来の姿を取り戻す。

 回転しながら落下して来たそれを、私はノールックで掴み取り肩に担いだ。

 

「これが私の魔法の杖」

 

 魔女だからね。

 魔法の杖の一本ぐらい持ってますとも。

 

 それは 杖と言うには あまりにも大きすぎた

 大きく ぶ厚く 重く そして 大雑把すぎた

 それは 正に 鉄塊だった

 

 鉄塊じゃねーよ。杖だよ、魔法の杖!

 ちょっとでかくて、禍々しい巨大な刃が付いているだけの杖です。

 

「母さんも斧を使うんですね!私と趣味が一緒です」

「すげぇ!でっけぇ!かっけぇぇ!」

 

 ソリを停めて観戦モードに入った娘たちが私の杖を斧と誤解している。

 いくら見た目がゲッタートマホークでも、これは魔法の杖なのよ。

 前の持ち主がそう言っていたのだから間違いない。

 

 魔法の杖を出して準備万端。

 私と熊、互いの視線が交差した瞬間、戦いの火ぶたが切られた。

 

 巨体に似合わない速度で突進する熊は、自身の最も得意とする戦法を選んだ。

 体を丸め球状になり、走り出した勢いのまま高速回転。

 これまで数多の得物を仕留めて来た、攻防一体必勝の技。

 ちっぽけな人間などいとも簡単に轢き潰してしまう。

 そのはずだった。

 

「はい、お終い」

 

 担いだ杖をただ前方に振り下ろす。

 それだけであっけなく勝負が着いた。

 回転していた巨大な球体は何の抵抗も無く、真っ二つに両断された。

 二つに分かたれた球はバランスを失い、積雪の中へ崩れ落ちる。

 

 地元民から轢殺魔と呼ばれ恐れられたモンスター『ローリングベア』はこうして退治されたのだった。

 

「ママの完全勝利!秒殺だったね」

「当然です。あの程度の畜生に母さんが後れを取るはずがありません」

「むふふ、少しはカッコイイところを見せられたかな?」

「母さんは何をやっても素敵です」

「ママ最高!」

 

 駆け寄って来た娘たちが勝利を祝ってくれる。

 へへ、照れるけど嬉しいね。

 

「その斧は相当な業物だとお見受けします。」

「一応、杖なんだけど…もう何でもいいか」

「自慢の装甲も無意味だった熊さん、真っ二つになっちゃった」

「素材になりそうな部位を剥ぎ取るから、ちょっと待ってね」

 

 こいつの外皮は防具の素材として高値で売れるはず、しっかりと回収しておこう。

 汚れるから二人は離れていてね。

 

 手伝いを申し出た二人に見学だけしているように言って、回収作業を手早く行う。

 一人旅が長いと、こういった作業も慣れたものだ。

 娘たちは二つになった熊の断面を至近距離で観察したり、私の杖を持ち上げたりして楽しそうだった。

 

 地面を掘り素材を回収し終えた熊の亡骸を埋葬する。

 迷惑な敵だったけど、一応手を合わせて冥福を祈っておく。

 つい手を合わせちゃうことで、ここぞとばかりに前世の記憶がある人アピール!

 南無南無~。

 娘たちも私の真似をして合掌してくれた。

 

「アンタら…マジで何者なんだ?」

 

 後ろから声をかけて来たのは、ココボ車の御者をしていた男だった。

 ありゃ?まだいたんだ。

 てっきり、もう町まで逃げ帰ったと思っていたのに、私たちが心配で残っていたらしい。 

 律儀な男に、熊を秒殺する瞬間を目撃されてしまったようだ。

 

 何者か、だって?

 それについての返答は決まっている。

 

「通りすがりの仲良しファミリーです!」

 

 ご飯奢ってくれる約束、忘れてないですよね?




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