女体化して母親になったよ!天使な子供たちとファンタジー世界で幸せになります 作:きさまち
娘たちの威光により忘我の極みに至った皇帝陛下。
見てはいけないモノを見てしまった私たちは複雑な心境を抱えたまま謁見の間から退出する。
出入口の大扉が閉まると同時に聞こえて来た音にミカが首を傾げた。
「人体を激しく殴打する音が聞こえますけど?」
「振り返ってはダメよ」
ただ今、皇帝陛下を正気に戻すためにメガ様が愛の治療を施している真っ最中なのだ。
仲睦まじい夫婦の邪魔をするのは野暮というもの。
あれでもメガ様はかなりの常識人だ。
皇帝陛下が崩御する一歩手前ぐらいの手加減はしてくれると思う。
「好きな人を殴り倒すのが魔族流の愛情表現なんだ。変わってるね~」
「いやいや誤解しないでよ。魔族みんながあんな風じゃないからね」
同じ魔族であるラキエス先輩が慌てて弁解する。
皇帝夫妻はかなりの特殊事例であり、一方的な殴打で愛を伝える趣味は魔族にはないらしい。
「でも先輩、腹パンされるのとか好きそうですよね?」
「別に好きじゃないが!?なんで急にドM認定したの?」
「なんとなく」
「なんとなくって…これが二児の母親とか世も末か!」
正直な感想を伝えたら先輩が怒ってしまった。
お尻ブッ叩かれる方が好みでしたか?
「キミたちのママは突然狂った発言をするなあ。くれぐれも真に受けちゃダメだよ?」
「問題ありません。全てにおいて母さんは正しいのです」
「ママの言う事は絶対だよ。これ世界の常識ね」
「くっ、手遅れだったか…」
先輩が失礼な事を言っているが、娘たちはお母さんの味方をしてくれる。本当にいい子たちだなぁ。
いちいち感極まる私を先輩がジト目で見ていた。
ふふふ、きっと可愛い娘を持つ私が羨ましいんだな。
ちょっとだけ優越感に浸った私を嫉妬に駆られた先輩は見逃さない。
「おぉ?今『先輩も早く結婚すればぁ?』とか思った?子持ちマウントか?」
「お、思ってません!」
「魔女のほとんどは生涯独身が一般的なの!普通にママになってるコルりんが異端なんだからね!あと、私はモテないわけじゃない。結婚できないんじゃなくて、結婚しないだけだからぁ!そこのところよろしく!!」
「すみません。なんかホントすみませんでした」
どうやら先輩のデリケートな部分を刺激してしまったらしい。
謝るから機嫌直してくださいよぉ。
「私は喪女じゃない喪女じゃない喪女違う魔女」
「ラキエス様、元気出してください」
「ラキぱいせん、どうしたの?頭が悪いの?」
「うわーん!双子ちゃん慰めてー!」
先輩が娘たちに抱き着いてオイオイ泣き始めた。
『おいコラ何しとんじゃ!』と言いかけたが、今だけはまあ…許してあげようかな。
先輩だって泣きたいときもあるよね。
「大丈夫ですよ先輩、昨今は先輩みたいな『うすほそ』も需要がありますから、先輩に手を出してくれる汚いオッサンも探せば見つかりますって」
「なんで汚いオッサン限定なんだよ!」
いっけね!また言葉選びを間違えたようだ。
私の悪い癖だから反省しないと、てへぺろっ!
「じゃあ、綺麗なオッサンを募集しますね」
「オッサンを条件から外せ!」
「綺麗なスライムとか、どうです?」
「せめて人類にしてよ!もうヤダ、オッサンじゃなくて若い子がいい~。高身長・高学歴・高収入のイケメンじゃないとヤダー!」
『ロリババアが贅沢言うな』と思ったけど、これを正直に伝えたら魔女戦争が勃発するので自重した。
帝都が氷漬けになる事態は勘弁してほしい。
泣いたり怒ったりしていた先輩は娘たちによしよしされて機嫌を直した。
いいなあ、後で私もやってもらおう。
「まったくもう!コルりんってば、隙あらば私をイジメるんだから。後輩の癖に生意気だぞ~」
「サーセン」
「まあいいや。皇帝陛下にも顔を見せたし、この後は私に付き合ってもらっていいかな?」
「ラジャー」
確か、先輩のお弟子さんを紹介したいという話だったな。
実はその弟子のこと、よーく知っていたりする。
まさか、こんな形で再会することになるとは…世の中何が起こるか本当にわからんね。
「私たちも一緒でいいのでしょうか?」
「全然オッケーだよ。むしろ、キミたちを見たときの反応が知りたいな」
「ぱいせんの弟子かあ、どんなオッサンなんだろうね~」
「ほら見た事か!コルりんのせいで、私がオッサンマイスターだと思われてるよ!謝って、今すぐ私と世界中のオッサンたちに謝って!」
「サーセン」
プンスコする先輩をなだめながら壮麗な宮殿を後にした。
●
帝都東街区にあるお洒落な喫茶店。
落ち着いた雰囲気の店内には緊張を隠し切れない様子の女がいた。
テーブル席に陣取った女はキョロキョロと周囲に視線をさまよわせたかと思えば、持参した手鏡で髪や服装のチェックを何度も行っている。
かれこれ一時間前からソワソワしている女の名はセリス。
帝国軍魔導兵団にて辣腕を振るう、エリート魔導士だ。
そんな彼女は今日、師匠を介して憧れの人物に会えるという希望に満ち溢れていた。
待ち合わせの時刻までもうすぐだ。はやる気持ちを抑え込みながらセリスはその時を待つ。
「服装よし、髪型よし、変なところは無いわよね。大丈夫、いつも通りクールな私でいれば何も問題ない」
私服はろくな物が無かったので、いつのもユニホームである軍服を身に着けてしまったが、これが一番キッチリして見えるのだから大丈夫なはず。
何度目かの確認を終えた頃、喫茶店に新たな来客が訪れる。
顔を上げ音のした方向に目をやれば、そこには慣れ親しんだ師匠ラキエスの姿があった。
『師匠、こっち』と声を掛けようとしたが、上手く発声できなかった。
(……え??)
師匠に続いて入店して来た人物を見た瞬間、息が詰まった。
(懐かしい?…そんなはずない、のに…)
胸の内にあふれ出した郷愁の念。
その理由も分からずセリスは瞬きを繰り返す。
初めて見る女、とても美しい女、知らない女の…はずだ。
誰?あなたは一体誰?
え?ウソ?こっち来る!
師匠と一緒にこっちに向かって来るんですけど!?
ハッ!として我に返ったセリスは慌てて立ち上がり、テーブルに膝を強打した。
くっ、痛みは邪魔だ!どけぇー!
セリスは気合で痛いのを我慢して、何事もなかったかのように振舞う。
師匠が『何やってんの?』と訝しんで来たが無視だ。
「お待たせー。ふっふっふ、頼れる師匠がご所望の人物を連れて来てあげたよ。存分に感謝したまえ」
無い胸を張って偉そうにする師匠、彼女をよくやったと褒めるのは後回しにする。
そんなことより、今は目の前のとてつもない人物を優先したい。
「はじめまして、私が【夢幻の魔女・コルニクス】です」
「……ひゅっ」
口から声にならない声が漏れた。
コルニクス!
私のような三流魔導士など足元にも及ばない実力を持つ魔女。
数多くの異名を持ち、たった数年で世界最強ランキングの上位陣に名を連ねた本物。本物の怪物。
初めて彼女の存在を知った時から強烈に憧れた。
自由気ままに多大な功績と戦果を積み上げ、それが何でもないことのように振る舞い世界中を放浪する、天才にして天災のような人。
その彼女が、夢幻の魔女が今、私の目の前に…
何なのこの人?
本当に何なの?
何してくれちゃってるの?
(想像していた何百倍もカワイィィィーーー!!!!)
美人だとは散々噂で聞いていた。
頭の中で勝手にスタイル抜群の色っぽい美女を想像していた。
いい意味で想像を裏切られた。
艶やかな長い銀髪に綺麗な青い瞳。
きめ細かい色白の肌に、細くしなやかなボディライン。
身長は私より少し低いか。
美人だ。文句なしの美人だ。
しかし、それだけではなかった。
いざこうして本人に会ってみると、何というか…
メチャクチャ可愛らしい人だった。
仕草とか雰囲気とか存在感とか何から何まで、すっごく可憐だ。
もうただ立っているだけでカワイイのは何なのよ?
若っ!何歳か知らないけど、物凄く若く見える。
うちの師匠ほどではないが高等学校に在籍中だと言われても違和感のない見た目をしている。
私もかなり若く見える方だが、彼女と比べたらただのおばさんでしかない。いっそクソババアと罵って頂きたい!
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
女としても魔導士としても敗けてる!完敗してる!
だ、駄目だ、勝てぬ!私では絶対に勝てぬ!!
ふひゅー!もういいや。
敗けて悔いなしと言うか最初から勝負にすらなってないよ。
ふひゅひゅひゅひゅ、ホントマジでメッチャ可愛い。
これが同じ人類か?いや、あなたが神か?
神だな。神ですね。神ィィィーー!
コルニクス様万歳!!
ばんざーい!バンザーイ!バンザーイ!
結論、私の脳内でコルニクス様を称えるお祭りが開催された。
現実世界では僅か0.5秒の出来事である。
「待って、無理、しんどい、尊い、死ぬ」
「ちょっと、何言ってんの?ちゃんと自己紹介しなよ」
「大丈夫ですか?何か体調が優れないとか?」
神が私の顔を心配そうに覗き込んだ。
殺す気か?可愛さと尊さの暴力で殺される!!
ひょわっ!ち、近い、目キレイ、顔ちっちゃ!
なんかめっちゃいい匂いもするんだけどぉ!!
オイオイオイオイ、私死んだわ。
「待って、無理、ビジュが良すぎてしんどい、しんどい無理」
「セリス、本当に恥ずかしいからやめて。ごめんね、コルりん。この子ってばキミの会えた嬉しさで脳みそがショートしたみたいだ」
「顔が良い。匂いも好き。存在が罪。生きててくれてありがとう」
「あははは、これは重症ですね」
神が、私ごときに微笑んで下さったぞ!
ありがたや~ありがたや~。
「今の見た?ねえ今の見た??」
「ちょ、何で私の首を絞めるの!?」
「先輩…公共の場で首絞めプレイは、さすがに引きます」
「私がやらしてるわけじゃない!ぐぇ…コル、りん……タスケ…テ」
勢い余って絶壁(師匠)の首を絞めてしまった。
うっ血した絶壁の顔を見た神が『それ以上はいけない!』と仰ったので私は手を放した。
いけないいけない、神の御前ではしゃぎ過ぎたか。
「なんかヤバそうな人だね」
「ラキエス様を絞殺しかけましたよ。かなりの実力者だと推定します」
ひょ?なんかちっこいのがいるーー!?
コルニクス様の神々しさに目が眩み、今の今まで気が付かなかったが、小さくてドチャクソ可愛い女の子が二人、すぐ傍まで来ていた。
金髪のよく似た顔立ちの女の子、もしかして双子か?
それにしてもどえらい可愛さ、このレベルの美少女は帝国中探しても見つからないと思う。
今でも十二分だが、大きくなればその美貌は天下無双にすらなりえるであろう。
そう、例えば、コルニクス様のよう…に…???
待って、なんかこの二人、コルニクス様に似ていないか?
ち、小さいコルニクス様……ハァハァ。
「私の娘です。双子なんですよ」
……………ぽぇ?
今、何と言いましたか?
「ミカエリアスです。よろしくお願いします」
「ルシフェルトだよ。変なお姉さん」
娘…双子の娘だと…
つまり、コルニクス様は既にどこの馬の骨ともわからない野郎と子作りしていたのか!?
クソッ、どこのどいつだ羨ましい!
なんで私は男に生まれなかったんだド畜生!!
「ちょっと待って、情報量が多すぎて脳が追いつかない」
「コルりんは魔女で二人の娘を産んだママなの、OK?」
「OKじゃないわ!」
チアノーゼから復活した師匠がニヤニヤしながら私の反応を楽しんでいる。
この絶壁め、知っていて黙っていやがったな。
本当に性格が悪い、コルニクス様の爪の垢を煎じて飲め!
いや、私が先に飲む!!
それにしても双子のビジュアルがとんでもねぇな!
母娘三人揃うともっとヤベェよ!
今すぐユニット組んでアイドルデビューしろよ。してくれたら一生応援しますから!
あびゃ~顔面レベルが限界突破している母娘が眩しすぎる!
眼福眼福~…もうこれで終わってもいい…
「供給が多すぎて窒息する。溺れる。無理~」
私はヘナヘナとその場に座り込むしかなかった。
推しからの供給過多に腰が抜けてしまったのだ。
「これタダで見ていいクオリティじゃない。お金払わせて」
「コラコラ、財布を出すのやめないか」
止めてくれるな師匠。
『推しへの課金は生きるための必要経費』が私のモットーなのだ。
コルニクス様のグッズとかあったら全財産投げ打ってでも買う。
「やれやれ。この恥ずかしい子が私の弟子のセリスだよ。今日はかなり様子がおかしいけど、普段は割と優秀な魔導士なんだ。悪い奴じゃないのは保証するから、よかったら仲良くしてあげて」
師匠、もっと私を売り込んで下さいよ。
そんな営業トークでコルニクス様が仲良くしてくれるはずないでしょーが。
「セリスさんのことは前から存じていますよ。魔導兵団、第七小隊の隊長【氷の女帝】は有名ですもの」
「なん…ですと…」
嘘だろ…こんなことが、あり得るのか?
コルニクス様が私をのことを知っておられた、だと!?
推しからの認識、嬉しすぎるぅぅ!
嬉しいけど、それ以上に恥ずかしいー!
氷の女帝ってなんやねん。
私なんか氷のオバサンで十分やろがい!
「お会いできるのを楽しみにしていました。セリスさん、本日はよろしくお願いしますね」
「あ……(尊死)」
コルニクス様の尊い微笑みを正面からモロに食らい、今度こそ私は意識を手放した。
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