女体化して母親になったよ!天使な子供たちとファンタジー世界で幸せになります 作:きさまち
帝都での暮らしは快適そのものだった。
必要な物資や施設が町の中に全て揃っていて利便性がマジ半端ない。
一度、都会の豊かさ味わってしまうと質素な生活が受け付けられなくなりそうで少々怖くもある。
それぐらい、帝都というのは経済的にも文化的にも繫栄した街だった。
皇帝であるハウザー陛下はもとより、それを支える皇后メガ様、そして国家を運営する各部署の重鎮たちが非常に優秀なのだと、街の様子をみるだけでよくわかる。
「おはよう、セリス。今からお仕事?」
「コルニクスさん。おはようございます。ふひゅ、今日も推しが尊い…これで一日頑張れる」
お隣で暮らすセリスとラキエス先輩には大変仲良くしてもらっている。
セリスは私と顔を合わす度に『ふひゅっ』とニヤケてしまうけれど、本人が幸せそうなので放っておくことにした。
軍の仕事に向かうセリスを見送り、私は玄関前を軽く掃き掃除する。
自分の持ち家ではないけど綺麗に使うに越したことはない。
常日頃から小まめな掃除を心掛けよう。
ふんふんふーん♪と、鼻歌混じりに箒を動かしていると出勤中の人たちやご近所さんも顔を見せるようになる。
「おはようございます。今日もいい天気になりそうですね」
「あ、コルニクスさん。おっふ!…お、お、お、おは、おはようごじゃいましゅ!!」
「お仕事頑張ってくださいね。いってらっしゃい」
「おっふ!頑張ります!この命が尽きるとも働いて見せます!」
「ふふ、死なない程度にしてくださいね」
前から思っていたが『おっふ』とは一体何なのだ?
私の顔を見た人が漏らす謎の言葉であるが詳細は不明だ。
まあいい、みんな朝早くからご苦労様です。
笑顔で挨拶すると皆元気に返事をしてくれるので気分がいい。
さすが帝都だ、民度が高くて気さくな人が多いんだね。
たくさんの人が家の前を行き交うので、私はその度に挨拶を繰り返した。ちょっと多いな、昨日よりも人が増えているような?
この辺に大勢の従業員を抱え込む大会社でもあるのだろうか?
そうこうしていると、隣家からラキエス先輩が眠そうな目をこすりながらひょっこり現れた。
「おはよー、ふぁ‥‥セリスはもう行っちゃたみたいだね」
「おはようございます。つい先ほど出勤されましたよ。それより先輩、なんだか眠そうですね?」
「うん、魔導協会へ提出しなくちゃいけないレポートが溜まっていてね。昨日は遅くまでそれに掛かりきりで…ふぁぁ~眠い…」
ご苦労様です。
先輩はこう見えて忙しい身だ。
それなのに私たち家族と交流する時間をキチンと捻出してくれる。
そんな先輩が私は好きです。
「朝食、うちで食べて行きますよね?」
「お願い~。セリスは私の分、作ってくれないから薄情だよね」
自分と娘たちの分も作るついでに先輩の朝ごはんも用意してしまおう。
掃き掃除も終え、欠伸をする先輩と一緒に仮の我が家へ入る。
そこで私はちょっとした疑問を尋ねてみることにした。
「先輩、勘違いならいいのですが…なんだか日を追うごとに家の前を通る人が増えている気がするのですけど?皆さんの職場はこの辺に集中していたりします?」
閑静な住宅街のはずなのに、私の家の前だけやたらと人が行き交う。
それも私が姿を見せているとき限定で多いような…
あと、男の人が多い気がする。
「そんなの下心があるからに決まってるじゃん。わざわざ遠くから来ている不届き者もいるって、セリスがぼやいてたよ」
「下心…まさか娘たちを狙って!?許しません、お母さんは許しませんよ!!」
「そりゃあ、双子ちゃんたちも目立つけどさ。キミ自身に人気あるんだよ。みんな、コルりんに声を掛けてもらいたくてここまで来てるの」
「なんで?」
「なんでって…自覚が無いのがタチ悪いなあ」
先輩曰く、私はモテているらしい。
それを聞いても『そうなんですねー』ぐらいの感想しかない。
申し訳ないが、私は旦那様以外の男性と愛を育むつもりはないのだ。
コブ付き未亡人おばさんのことは忘れて、もっといいパートナーを探した方が建設的ですぞ。私元男ですぞ!
「色恋沙汰は勘弁ですが、私の存在がみんなの活力になれば幸いですね」
「そうやって無駄に愛想を振りまくから魔性の女って言われるんだよ…やれやれ、今後も犠牲者は増えそうだなあ」
魔性だの犠牲者だのと人聞きが悪い、それだと私がとんでもない悪女みたいじゃないか。
普通にお母さんをしているだけなのに誠に心外である。
そろそろ娘たちが起きて来る時間だ。
うちの子たちは寝顔も可愛いが、起きたばかりの寝ぼけた表情もそれはそれは可愛いのだ。見逃すわけにはいかない。
娘二人の可愛さを全身全霊で感じ取り余すことなく味わい尽くす。
そのために私は生きていると言っても過言ではないのだよ。
よーし、美味しい朝ごはんでも用意しましょうかね。
今日も一日、良い日になりそうだ。
●
大都会帝都で暮らすに当たり、役所で娘たちの身分証を発行してもらった。前世で言うところのマイナンバーカードというヤツだ。
真新しいカード型の身分証を入手した娘たちは心なしか嬉しそうにしている。天界では魔力反応で個人を見分けるのが一般的なため、こういうアイテムは珍しいのだろう。
辺境の地を除き、帝国や共和国では身分証の所持と携帯が義務付けられている。
王国はその辺ガバガバで普及率も6割弱にとどまっていると魔女になってからようやく知った。私の故郷でも身分証持っていた奴なんてほぼいなかった気がする。
王国は新しいモノや技術を特権階級で独占する傾向にあるので、俗世に便利な道具が普及するまで他国よりもかなり時間が掛かっているように思う。
さすが、ウンコを聖女扱いする国だと感心するぜ!
実は王国出身だと言うのが恥ずかしかったりする、コルニクスです。
「ぷぷぷ…ミカの証明写真、凶悪犯の指名手配書みたい」
「真顔になってしまったのは認めますが、指名手配書は言い過ぎです!ルーこそ、口が半開きのアホ面じゃないですか?」
「これは愛嬌があるって言うんだよ」
魔導技術が発展した恩恵で、最新の身分証には持ち主の証明写真が貼付されるようになっていた。
その写真を見比べながら、娘たちが証明写真あるあるで盛り上がっている。微笑ましいなあ。
紛失したら再発行が面倒なのでなくさないようにね。
「ママも写真も見たいな」
「母さんは写真うつりも一流に決まってますよ」
我が娘たちよ、母の写真が見たいと申すか?
いいでしょう、お母さん娘のリクエストに応えちゃう。
身分証を取り出し二人に良く見えるようにかざす。
写真を見た娘たちが同時に仲良く吹き出した。
「あはははははは!ママ変な顔してる~、あははははっ!」
「ぷっ…これは…すみません。さすがに笑っ…ふふっ」
よし!イイ感じにウケた。
確かな手ごたえを感じて思わずガッツポーズする。
娘たちの笑顔が見れてお母さん大満足よ。
私の身分証の写真は何故か変顔になってしまっているのだ。
別にふざけたわけではない、撮影時にタイミング悪くクシャミがでそうになり我慢しようとして顔に妙な力が加わってしまっただけ。
顎が前に突き出て、いやらしくニヤけてしまった私の顔は、見る者を挑発しているようにも感じる。
擬音を付けるなら『アイーン』だろうか?
バカな殿様みたいだ。
我ながら非常に腹立つ顔をしている。
最初にこの写真を見た時は撮り直しも考えたが、これは奇跡の一枚なのかもしれないと思ってそのままにしておいた。
知り合いに見せたら大抵の人は笑ってくれる、私の鉄板ネタでもある。
師匠(ババア)にも魔導通信を介して送ってみたところ『顔まで悪くしてどうする』というコメントが返って来た。
顔までってどういう意味?
お年寄りに優しすぎるという私の悪癖を心配してくれたのかな?
何だかんだで師匠は優しいなあ。
娘たちの笑いも取りながら目的地へと到着した。
やって来たのは冒険者という名の便利屋たちが集う立派な建物。
冒険者ギルド帝都支部である。
因みにギルドの本部は共和国の首都にあって、そちらの方が建物の大きさも設備の豪華さも上だったりする。
帝国は軍や官憲などの公的機関が特に優秀なこともあり、民間組織である冒険者ギルドの規模が他国に比べて縮小気味であるのだ。
扉を開けてギルド内部に入ると、たむろしていた数名の冒険者がこちらを向く。
私が軽く会釈すると、向こうも会釈を返してくれたがすぐに顔を背けられてしまう。なんだか素っ気ないけれどもう慣れてしまった。
これは私の主観になるが、帝国の冒険者は全体的に淡泊でクールな性質の人が多いように思う。仕事はキッチリこなすが、プライベートまでなれ合うつもりはないというスタンスなのかな?
これが共和国のギルドなら『女子供はお家に帰んな!』と強面の人が絡んでくるお約束イベントが発生していたはずだが、ここではそんな奴は現れない。若干の寂しさを覚えつつ私は娘たちと受付カウンターへ向かった。
「ようこそ、コルニクス様。本日はどのような御用向きでしょうか?」
「カードの更新と、新しくこの子たちの登録をお願いします」
「ギルドカードの更新と、新規のご登録ですね。そちらの御二方、身分証はお持ちでしょうか?」
「持ってるよ!はい」
「発行されたてホヤホヤです」
高級ホテルのコンシェルジュのような男性が応対してくる。
彼とは何度か顔を合わせているが、ずっとこんな感じだ。
ギルドの職員も心なしか上品な人が多いのが帝国風だね。
それよりも、娘たちを見ても何も疑問に思わないのだろうか?
10歳にも満たない外見の少女が冒険者になりたいとか言ったら、止めるなり、嘲笑するなりするだろうに。
ミカとルーから身分証を受け取ったギルド職員は同僚の女性を呼んで、照合と各種手続きを頼んでいる。
私の『アイーン』しているカードに対しては一瞬だけ口元がピクッとなるだけで表情は変わらなかった。
おのれ今回も耐え切りおったか、我慢せず吹いてもいいのよ?
「あの、すんなり登録してくれるのは大変ありがたいのですが、この子たちはどう見ても年端も行かない子供ですけど?冒険者にしていいと本気で思ってますか?普通なら止めるか怒るか呆れるかしません?」
ギルド側が何もツッコまないので自らツッコんでみた。
ボケたのに誰にも気付いてもらえなかった寂しさを感じるぜ。
何か反応をプリーズ!
「力なき子供が冒険者になりたいと仰るならば全力で止めますとも。ですが、コルニクス様が連れて来られた方が、ただの子供だとは思えません。したがって、新規登録に問題がないと我々は判断致します」
物分かりが良すぎじゃない?
確かにうちの子たちは普通とは言い難い存在だけどさ。
主に、可愛さが段違いの規格外なんだぞ。
「私に対する妙な信頼感は何なんですかね?」
「特S級の方が今更何をおっしゃるのやら、あなたはご自身の価値と影響力をもっと理解された方がいい」
なんかため息混じりにヤレヤレされてしまった。
私の価値?……大根の大量生産なら任せて下さい!
とりあえず、娘二人は問題なく冒険者登録できるようで安心した。
しばらくすると、それぞれの身分証が返却される。
先程まで白色だった娘たちのカードが薄い緑に変色していた。
「なんか色が変わってる?腐った?」
「ナマモノじゃあるまいし、そんな訳ないでしょ」
「御二人の身分証に特殊な加工処理を施しました。本日よりギルドカードとしてご利用頂けます」
身分証がギルドカードへと進化し、各種機能がパワーアップしたぞ。
これからは身分証として使えるだけでなく、ギルドでどんな仕事を行って来たかの実績や履歴の確認、稼いだポイントなんかもこのカード一枚で照合できるようになる。
また、このギルドカードを持っていると、他国への入国手続きが簡略化されたり、提携しているお店では優先的にサービスを受けれるなど何かとお得な特典が付いて来るのだ。
冒険者は依頼内容によっては危険を伴う仕事も多いため、ちょっとぐらい優遇してやろうという運営側の気遣いが感じられる一品だ。
「ママのカードと色が違う?私もママとお揃いが良かったなあ」
「このカラーリングには何か意味があるのですか?」
「カードの色で冒険者ランクが一目でわかるようになっております。御二方は最低ランクの『D』なので薄緑色です」
「クソ雑魚認定されたぁ!」
「新人なので仕方ないとはいえ屈辱です」
まあまあ、そう言わないで。
下積み時代は誰しもが経験するものだ。
その悔しさをバネにみんなランクアップに勤しむのだよ。
下から順にざっと冒険者ランクを紹介してみると、こんな感じになる。
〖D級〗〖薄緑色〗駆け出し冒険者。
〖C級〗〖赤銅色〗一人前の冒険者。
〖B級〗〖銀色〗ベテラン冒険者。
〖A級〗〖金色〗達人と呼ばれる域に達した冒険者。
〖S級〗〖虹色〗最高位の冒険者。みんなの憧れの的。
自慢じゃないが、こう見えて私はS級である。
ええ、まあ、全然自慢している訳じゃないんだけどね!
おっと、私のキラキラした虹色のカードに見惚れちゃいましたか?
すみません、私なんかがS級ですみません。
いえいえ、特別なことは何もしていませんよ。
真面目に仕事をしていたら勝手にランクアップしていただけなんです。
はっはっは!全然、自慢じゃないんですけどねぇ!
お母さんの実力、娘たちにもバレちゃったかなあ?
べ、別に褒めて欲しいんじゃないんだからね!
「母さんのカード、黒いです」
「黒光りしてるね」
「え?ウソ?そんなわけ……うおっ!何だコレ?」
そんな!私の虹色キラキラカードが、怪しい光沢を放つ黒いカードになってしまってる!?
わーお、ガンメタリックですやん。
娘たちに『アイーン』の写真を見せたときは虹色だったはず、ということは、更新した際にギルド側がカードの色を変えてしまったのか。
どういうこと?もしかして私、S級冒険者失格ですか?
そういえば、最近モンスターをあんまり倒してないし、ダンジョンにも潜っていないような……職務怠慢でクビ!?
待ってください!私これでも結構多忙な身で、旦那様を思い出して泣いたり、子供たちに会えない寂しさで泣いたり、イイ感じの大根が収穫できた喜びで泣いたりして忙しかったんですよ。
最近は子育ても始まって母親としてやることが多いのよ!
シングルマザーは大変なんだからその辺はギルドも配慮してくれていいんじゃないの?
というか育児休暇ぐらい寄越せ!
え?ギルドにそんな制度はない?世の中クソだな。
私なりに冒険者として頑張ってギルドにいっぱい貢献して来たのに酷いよ。
この仕打ちはあァァァんまりだァァアァ~。
「コルニクス様は半年前に『特S級』冒険者に昇格なされました。それに伴いギルドカードの色も『暗灰色』に変更させていただきました」
とくえす?
そう言えばセリスもそんなことを言っていた気がする。
半年前と言えば、クソ村長の尻に大根をパイルバンカーしていた頃か…
あの時から今の今まで、いろいろバタバタしていたのでランクが上がっていたことに気が付いてなかったわ。
冒険者ランクって、S級が最高じゃなかったの?
S級で到達限界だと思っていたので、まさかその上があるなんて気にした事もなかった。
なんで私がその特S級にとやらになったのか?
私からもっと上に昇格させろと、無茶を言った事は一度もないのだけれど?
そこのところ説明よろしくお願いします。
ギルド職員に詳しく聞いてみたところ、私がこれまで冒険者として積み上げた実績が高く評価され、更には不定期に行われる人気投票の各部門で一位を総なめにした結果を鑑みて、特S級への昇格が妥当だと判断されたという事だった。
しかも、先に特S級として君臨していた4人の人物が私を満場一致で推薦したらしい。イカれたメンバーに巻き込んでくれやがったのはどこのどいつだと思って名前を確認したら……4人全員知っている人だった。
そのうちのひとりが師匠のバルダーナだったので、ババア特有の陰険な悪意を感じたね。
今頃『うへぁ…』となっている私を想像して笑っているに違いない。
おのれババア!あんまり意地悪すると、もう肩もみしてあげないからね!
〖特S級〗〖暗灰色〗人の形をした天災。
特S級の説明に納得できない。
私は母親として頑張っているだけの魔女です。
師匠はまあ、とんでもないチートババアだったけどさあ。
あんなのと一緒にされても困る。
「史上5人目の特S級冒険者となられたこと、ギルド職員一同お祝い申し上げます」
「あ、はい。ありがとうございます」
よくわからないがお祝いされた。
素直に喜べないというか、これまで以上に重責を背負わされそうでプレッシャー感じるわ。
もしかしなくても、帝都支部に所属している冒険者が素っ気ないのは特S級になった私を怖がっているの?
師匠たちのせいで、善良で人畜無害な私が誤解されてゆく…泣けるぜ。
「誤解されているのはコルニクス様の方ですよ。皆あなたを大いに尊敬し憧憬の念を抱いているだけなのです。私も平静を装っておりますが、現在進行形でぶっ倒れそうなぐらいドキがムネムネして…おっふ」
ドキがムネムネて…心臓発作だったら怖いので病院を受診してほしい。
今気付いたけど、職員も冒険者たちもこっちをチラチラしながら聞き耳を立てている。私と目が合うと赤くなってサッと目を逸らし『おっふ』という例の言葉を呟いている。
だから『おっふ』て何だよ?
怖がられていたり、嫌われていないのは嬉しいけど、みんながセリスみたいなったらちょっと面倒臭い。
偉そうにする気も、現人神として祭り上げられるつもりも毛頭ないので普通に接してほしいのにな。
特S級冒険者か…私には荷が重い称号だけど、なってしまったからにはウダウダ言っても仕方がない。
私はこれまで通り地道にコツコツやらせてもらおう。
戦争するから最前線で戦えとか言われたら、即行で冒険者引退してやるからな。
「母さんの有能っぷりが世間に認められたのですね。あまりに当然すぎて別に驚きませんが」
「ママはやっぱりすごい!私もすぐに追いつくからね」
私のことはいいから、娘たちが冒険者になったことを喜ぼう。
冒険者になる道をおススメしたのは、私の思い付きによるものだったりする。
娘たちに様々なことを経験させて学ばせてあげたい、それには冒険者になるのが一番手っ取り早いと思ったからだ。
一緒にダンジョンへ潜って冒険してみたいという私の願望も十二分にふくまれているけどね。
二人には仕事をこなしながら、いろんな経験を積んでほしいと思う。
感謝されて嬉しい事もあれば、手酷い失敗して悔しい思いをする事もあるだろう。
その全てが、娘たちの成長に繋がる糧となる。
先輩冒険者として、そして一人の母親として、二人の新人を見守らせてもらおう。
「よっしゃー!さっそく依頼を受けるぞ。超大型魔獣ぶっ殺して一気にランクアップだ!」
「私はダンジョンへ行ってみたいです。階層主と呼ばれる魔獣がどれほどのものか、ぶっ殺して確認します」
うんうん、元気でよろしい。
何かをぶっ殺したいのはよくわかったよ。
しかし、ここで二人に残念なお知らせがあります。
「D級冒険者には魔獣討伐の依頼は回って来ないのよ」
「うそーん、D級なめられすぎ」
「おまけにダンジョン探索の許可も出ない」
「ガッカリです」
D級は非戦闘系の依頼しか受諾できない決まりになっている。
そしてダンジョンへ入る事ができるのはC級になってからだ。
この決まりを無視して勝手な行動をすると、依頼達成の報酬はもらえないばかりか、規約違反者としてギルドからペナルティを受けるハメになる。
まずは簡単な仕事をバリバリこなして自身の有用性を証明してみせろということだ。
「結局、D級はどんな仕事をするの?」
「魔石や薬草の採取、荷運び、迷子のペット捜索、家事代行、交通整理、飲食店の接客係……見事に雑用ばかりです」
「えぇ…やる気下がる~」
掲示板に張り出された、D級向けの依頼表を見て娘たちがガックリと肩を落とした。
二人とも戦闘には自信があったが、戦う必要のない仕事はほぼ未経験だ。力で強引に解決できない事柄は彼女たちにとって億劫なのだろう。
「確かに雑用が多いけど、どれも必要とされる仕事だからね」
「それは理解していますが、戦闘以外となると自信がありません」
「地味なのヤダ!つまんない!ママみたいにいっぱい戦っていっぱい殺したい!」
「その言い方だとお母さん、超ヤバい人みたいに聞こえるわ」
私はいつも戦っている訳ではないし、ましてや大量殺人者でもない。
殉教団の奴らは人の形をしたゴミなので、アレは人殺しではなくボランティアで清掃活動をしているだけです。
ノーカン!ノーカン!ノーカン!
「何事も経験よ。とりあえず、実際にいくつか依頼を受けてみましょう。ほら、元気出して」
「母さんの言う通りですね。やってみなくてはわかりません」
「戦っちゃダメなのか…そっちの方が難易度高い気がするよ」
気落ちした娘たちの頭を撫でながら、私は諭すように告げる。
あなたたちならきっと大丈夫、だってお母さんの娘だもの。
天国のお父さんもきっと応援してくれているからね。
私もね、地味で大変な仕事をたくさん経験したよ。
それこそ冒険者になりたての頃は浮気調査や借金の取り立てなんかもやった。少々アングラな仕事の方が面白かったと記憶している。
「まずはC級を目指して頑張ろう。ランクアップしたら一緒にダンジョンに行こうね」
「俄然やる気が出て来ました。水商売でも何でもやってやりますよ」
「男の人とデートして金を巻き上げればいいんだよね?私にできるかなあ?」
「ダメ絶対!そういうのお母さんは許しませんよ!!」
娘たちは可愛い、可愛すぎるぐらいに本気で可愛い。
そんな娘たちが、キャバ嬢やレンタル彼女のような真似をすれば世界中からロリコンどもが大挙して押し寄せることは目に見えている。
勘違いで本気になった野郎が逆上して娘に手を上げようものなら、私は何をしでかすかわからないぞ。とりあえず大根をズドンッと一発お見舞いしてやる。ぶっさしたらぁよ!!
間違いがあってからでは遅いので、娘たちの仕事は保護者である私が吟味することにする。
幸いにも、私が危惧したような依頼をギルドに持ち込むようなアホはいなかった。
もし、娘たち自身で依頼を選ぶようになっても怪しげな内容のものは避けるよう厳命しておこう。ギルド職員にもそれとなく二人を見てくれるようお願いしておくか。
「わからない事や、心配事があればすぐにお母さんに相談するのよ。いいわね?」
「はい。一刻も早く母さんに追いつけるよう努力します」
「よーし!頑張るぞぉー!いっぱい稼いでいっぱい殺そうっと」
こうして娘たちは冒険者としてデビューしたのであった。
二人とも無理せず頑張ってね。
焦らなくてもいいから、ゆっくり着実に成長していってほしい。
冒険者ランクなんて実はどうでもいい、娘たちの心身が健やかに育ってくれるのなら、それだけで私は幸せなのだから。
●
冒険者としての本格的な仕事は明日から始めることにした。
書類申請を終えて、ギルドを立ち去ろうとしたところで職員から呼び止められる。
特S級になった記念として、私の写真を撮影したいとのことだ。
この写真は来月から特S級冒険者の簡単な説明文と共に、各ギルドに展示されるようになるらしい。
恥ずかしいけど、これもギルドに所属している一員としての責務なので快く応じることにした。
師匠や他の特S級たちも既に撮影を終えていると言われたなら、私だけ断る訳にもいかないからね。あの師匠がよく許可したな…というか、神出鬼没な師匠を発見できる奴がいたことにビックリだわ。
「いい顔ですね。そのままで、では撮影しまーす。はいチーズ」
「(よし、今度こそ!)」
娘たちが見守る中、私の写真撮影が行われた。
緊張して顔が強張る私に娘たちが『笑顔笑顔!』とアドバイスをくれたので何とか笑ってみる。
イエーイ!ピース、ピース!こんな感じでどう?
ポーズや表情を変えて何度か撮り直し、最終的にダブルピースを決めてニッコリ笑う私の顔が採用された。
娘たちもギルドの職員さんも、たまたま居合わせた冒険者たちも絶賛してくれたので、ちょっと照れた。
機会があれば、他の特S級の写真も見てみたい。
特に師匠のは気になる。
ババアのふてぶてしさがうまく表現されている写真だといいね。
「あー、楽しかった。ママもすっごくいい顔していたね」
「ええ。感情豊かな母さんの魅力がこれでもかと溢れていました」
「もう、二人ともやめてー。お母さん、結構恥ずかしかったんだからね」
ギルドから帰る道中、
娘たちは撮影中の私が面白かったらしく、その話で盛り上がっていた。
何回も失敗したから、私としては恥ずかしいやら申し訳ないやらで羞恥の極みだったのだけど、娘たちが楽しめたのたら良かった。
「不採用になった写真をいくつかもらって来ました。特にこの『ガンギマリ母さん』が私の一押しです!」
「私も同じのもらったよ!『アヘ顔ダブルピースするママ』バカバカしくて可愛いの、バカワイイの!」
おい待てや。
二人ともなんでその写真を持っている?
最低最悪の写真を娘に渡すようなバカがいるとはギルドの質も地に落ちたなコラぁ。
ギルド職員たちには後ほど、大根でお話を聞かないといけないようだ。
それよりも『アヘ顔ダブルピース』の写真は絶対に処分せねば!
ちょっと表情筋が引きつっただけなのに、なんでそうなるねん!と叫ばずにはいられないほど酷い写真だった。
他の失敗作と一緒にまとめて処分すると言っていたのに、よりにもよって娘たちに横流しするとは許せん!
「なんでそんな写真持ってるの!今すぐそれをこっちに寄越しなさい、早く!」
「嫌です。これは私の宝物にします」
「永久保存決定!一万年と二千年たっても遺しちゃう~」
「嘘でしょ!?ここに来て反抗期だと…」
ふざけた写真を大事そうに抱え、私から距離をとる娘たち。
そんな特級呪物みたいな写真今すぐ捨てなさい!
一万二千年も遺すほど価値ないから、負の遺産にも程があるから!
未来人がこれを見たら『昔の人って頭悪いんだな』としか思わねーよ。
「ミカ、ルー、お母さん恥ずかしくて死ぬわよ?」
「死んじゃダメ!でも、写真は渡さないもん」
「この写真を心の支えにして生きて行きます」
アホか!そんな呪物で心を支えるな!
くそぉ!認めたくは無かったが、二人とも旦那様のおバカなところが遺伝しているみたいだ。
私?私の劣勢遺伝子は受け継がれていないと思うよ。
二人が妙な言動をするのは旦那様の個性あふれるDNAによるところが大きい。
ごく普通のTSメス堕ち魔女である私には、娘たちの考えがたまにわからなくなる。
奇妙な緊張感のなか膠着状態が続く、泣いても叱っても娘たちは写真を手放そうとしない。
なにがそんなに気に入ったの?
母親のアヘ顔見るのがそんなに楽しいの?
私は悲しいよ。
仕方ない、こうなったら実力行使だ。
私が覚悟を決めて一歩踏み出すと、娘たちも身構える。
絶対に写真は渡さないという覚悟を感じる。
初めての母娘ゲンカ、それがまさか私のアヘ顔ダブルピース写真が発端で起きるとは…本当にどうしてこうなった?
二人が強いのはよーく知ってるよ。
だがしかし、あなたたちの隙を作るなんてこと、お母さんには造作もないんだからね。
さあ、刮目しなさい。
我が娘たちよ【夢幻の魔女】の力、その目に焼き付けるがいい!
下顎をぐっと前に突き出し片腕を曲げて、顎の前に構える。
目を少し見開いて斜め上を見るような表情を作り、私は魔法の言葉を口にした。
「アイーン」
「「ブフォッッ!?!?」」
しゃあ!隙だらけじゃー!!
盛大に吹き出した娘たちへと瞬間的に距離を詰め写真を奪い取ることに成功した。
こんなものがあるから争いが起きるんだ!
奪い取った写真はすぐさま破り捨ててやりたかったけど、破片のひとつでも残って復元されてはかなわないので、鞄の奥底へと丸めて放り込んでおく。あとで完膚なきまでに消滅させてやろう。
「ひどいよママ!返して、アヘ顔写真返してよォ~」
「くっ、不覚を取りました。まさかあのような方法で崩されるとは」
ダメでーす。これは没収したから返さないよ。
二人とも変な写真のことは忘れてね。お母さんからのお願い!
「ぐすん、ママのメモリアルコレクション第一弾が…」
「今回は諦めましょう。しかし第二弾では更なるレアな母さんの記録写真を必ずや…」
ヤダ!娘たちが不安になる発言をしてる。
メモリアルコレクションってなんやねん?
第二弾なんて絶対に認めませんからね!
それにしても予想以上に『アイーン』は効果てきめんだったな。
さすが伝説のコメディアンの一発芸だぜ。
「二人とも『アイーン』そんなに気に入ったんだ。ふふ、可愛い」
「別に気に入ってないもん!もうあんなので笑ったりしないんだから」
「右に同じです。何度も同じ技が通用すると思わないでください」
「えー、本当かな?私の『アイーン』見たらまた吹き出しちゃんうんじゃないのぉ?」
「笑わないったら笑わない!よく考えたらそんなに面白くないし」
「ですね。二度も見てしまった今では耐性もできているので平気です」
ふーん、そうなんだ。
もう『アイーン』しても笑ってくれないんだ。
そうか、そうか…
「わかったよ。もうやらないから機嫌直してね。さあ、買い物でもしに行こうか?」
「やった。お菓子買ってほしいなあ」
「私は書店に寄りたいです」
「よし、じゃあ行こっか…」
「……」
「……」
「……」
「アイーン」
「「ブフォッッ!?!?」」
あれれぇー?効かないんじゃなかったのぉ?
『アイーン』はまだまだ全然有効だった。
またしても吹き出してしまった娘たちが、顔を真っ赤にしながらポカポカ殴って来て超可愛かったです。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
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