ホモビにでただけで異象ハンターにされる男 作:ニコラス―NICORUTH―
人間同士でもいがみ合ったり、蔑んだりするのに、まったく違うものと共存なんてできるんすかねぇ?
田所がケツピン亭でラーメンを啜っていたのと同じ頃。
人々がいつものように行き交う街並みの中に、異質なものが一つ。
動物のラッコに一昔前のドラム缶テレビが被さったようで、画面にはそのままラッコの顔が映っている。
「 タギギド、タギ・・・ 」
この異骸の名前はタギド。今現在悪い意味で有名な異象である。骨董品屋エイボンの整備士としてこのヘテロシティに身を置いている彼であるが、最近は腑に落ちないことばかりであった。
「 フッ・・・ 」 「 キッショ⋯ 」
道行けば、ほぼ必ずといっていいほど、どこかから聴こえる嘲笑の声。自分がなにをしようが、どこに行こうが、その声は付き纏う。
「 タギタギタギィ!タギギドタギ!? 」
タギドは苛立っていた。謂れのない蔑みに。
見ず知らずの人間たちにそんなことを言われる筋合いはこの異骸にはない。
がしかしその理由を、彼は知らないわけではなかった。
Aiタギド。いうまでもなくこれが彼の苦悩の根源だ。
最近の人間の技術の発展は目覚ましいものがあった。
異象関連のそれに限らずとも、インターネットの、俗に言うIT関連の技術、特に人工知能がその最たるものだ。
本物の人間のように仕事をし、人の代わりに作業を機械的に行う。動画だって勿論作れる。字面だけみればすごく便利そうではあるが、物好きとはいつの時代にも沸くものだ。
この人工知能を、他人、いや異骸への壮大な誹謗中傷の為に使うものが現れた。きっかけは一つの動画。
内容は、自分がエイボンでの上司にあたる執事に・・・あぁ、これ以上は触れないでおこう。
兎にも角にもそれがAiタギドの始まりだった。タギド自身、そんな動画を作られるきっかけに覚えがなく、いったいどこの誰がなにを思って、そんなものを作ったのかなど、わからない。
分かることといえばアップロード者の彼への感情はろくでもないものであろうことと、現在投稿者が増えに増えて、その勢いが、自身の日常をも脅かしかけていることだ。
自身の身内の中にも、Aiタギドを観始めたものが現れ始めたのだ。
エイボンは家族のようにタギドを受け入れてくれていたが、こうして自身を嗤う側につくのも時間の問題、なのかもしれない。
管理局は、なにもしてくれない。チラリと店長が話しているのを聴いたが、Aiは異象ではないので管轄外であるそうだ。
なんのための市民登録だったのか。
タギドのストレスは、増えるばかりだった。
そうやって腐っていると、施しすらも、時として嘲りと受け取られてしまうものなのだろう。
「 ポテトあげる! 」
細長いきつね色の物体が差し出され、タギドはその方面を見た。
同じ色合いの、犬がトマトを被ったような異形。
その可愛らしい異象、名はポテモンという。
道行く人にポテトを恵んでくれるという、心優しく有難い友好的な異象だ。
その姿は心なしかタギドよりも愛嬌に満ちていた。
今回も、うだつの上がらないこの哀れなラッコもどきに、余人と同じように自分のかけられる慈悲を与えようとしている。
しかし、そんなお節介というのは、ときとして煩わしく、そしてときとしてその好意すらも疑わしくなるものだ。
今のタギドは、まさにそうだった。
なにもかもが気に入らない。
ネットでは玩具にされ、現実ではそれを知ってか知らずか嘲られる。管理局は当てにならない。
そんな中で、自分にポテトをだと?
・・・馬鹿にしているのか?お前などこの揚げ物と等価値、或いはそれ以下の存在なのだと。
「 タギギタギ!! 」
振り払われた手。
無惨に道路に転がるポテト。
民衆の目は、このラッコテレビに向けられる。
「 えっ? 」
突然のことに、動揺を隠せないポテモン。
ポテトを捨てられるのは同族間ではよくあることであるが、こんなあからさまに敵意を向けられたのは、初めてのことだ。
そして、人々はそんなポテモンの思いやりからの行動を踏みにじったタギドへのバッシングを始めた。
「 ふざけんなタギド! 」
「 タギド◯ね 」
「 リアルタギドクソすぎだろ! 」
「 ポテモンに謝れよ! 」
「 謝れ 」
「謝れ」
「 謝れ 」
口々に繰り出される罵倒に、タギドも構わず反発した。
さっき誰かの口からリアルタギドとでた。ということは、やはりこの中にAiタギドを見ているものがいるのだ。
作っているかどうかは分からないが、自分を見せ物の材料にして、嗤っている。
そんな連中が混じっている以上、タギドにとっては、この民衆たちは敵だった。
実際に、スマホを取り出して、自分を撮影しているものもいる。
「 タギギギド? 」
「 タギギギギギギド!? 」
「 タギギタギギギド!タギタギタギド!!
タギドタギギドィ!! 」
多くの者には意味など分からない。
唯一彼の主張がわかるであろう鑑定士も、この場にいない。
だが、タギドは叫ばざるを得なかった。
"こんな自分を笑い物にして面白いか?"と。
「 やっぱり本物もタギタギ言うんだ。 」
「 にしてもガキすぎんだろこいつ。 」
「 本当だよ。リアルがクソだからって八つ当たりするのはカスだろ。 」
「 これマジ?上半身も下半身もキモすぎんだろ・・・ 」
「 タギド、水中ブリッジ三時間だ。 」
ヘテロシティは、人間と異象の共存する街。
この場での落ち度はタギドにあるのは確かだが、それでもこのAiタギドという虚構を交えて非難する住民の姿は、あまりに異常だった。
「 MURはん、あの人集り・・・ 」
「 本当に目と鼻の先みたいだな。 」
「 どいつもコイツも、"タギドへの批判"ばっかだな。こりゃ鬱憤溜まってんなぁおい。だいたいなにかを叩き台にできれば、どうだってよかったんだろ。
人間ってのは、自分の価値観に合わないものを排斥したがるからなぁ。所詮サルゥだってはっきりわかんだね。 」
「 それをどうにかするのが異象ハンターの仕事ダルルォ?今も昔もな。 」
「 しょうがねぇなぁ。じゃあ、あいつの面目を立たしてやるか。 」
毎日が異常、想像以上!