ホモビにでただけで異象ハンターにされる男 作:ニコラス―NICORUTH―
「 オレたちはそいつを、"公道の魔物"と呼んでいる。何処からともなく現れて、車を木っ端微塵に粉砕する、走り屋の天敵だ。 」
かくして店主は田所に、異象らしきモノの起こす現象について語り始めた。
元々ヘテロシティでは、こういった公道のレースも文化として取り入れられ、一種のエンターテインメントとなっているのは周知の事実だ。このミゲル区にも、そんなレースのチームがいる。
数週間前、ニューヘリオス市で異象"スパイラ"によるレベルⅶの災害が起こって少し経った日、彼ら、チーム子午線と彼らに挑戦した走り屋たちがいつも通りに車を走らせスピードを競い合っている時に、それは起きた。
何処からか飛んできた青いなにかによって、レースに参加していたENFORCERが爆散したのだ。
なにが起こったのかその場にいた全員が理解できないうちに、次々にそのなにかは発射され、最終的にはレースにでた車両8台のうち、半数が破壊されてしまった。
幸い各車両の運転手に重傷を負ったものはいれど、死人はでなかったが、一歩間違えていれば、間違いなく誰か彼岸を渡っていたことだろう。
そうしてこの異常事態に、当然のことながら異象管理局を頼ることになるのだが、
彼らを以てしても解決には至れなかった。
痕跡そのものはあれど、肝心の異象が影も形も見当たらなかったからだ。
「 "申し訳ないが、現状はどうしようもない。"E.T.Dがでてこの言葉が出たときは、もう絶望するしかなかった。
連中は手がかりらしいものを掴めず、結局捜査は打ち切られちまったしな。 」
「 E.T.Dの何番小隊すかね? 」
「 そこまでは分からねぇが、ヘラヘラした銀髪野郎だった。 」
走り屋の男の口からよく知る人物らしき者について言及される。そうか、あいつがでてダメなのかと改めてことの重大さを思い知らされる。
しかし、ここでやはり奇妙な点がある。
E.T.Dが出張るほどの異象災害ならば、彼らの暮らしには支障は出なかったのだろうか。
なによりやっぱり怪我人がでるくらいならば、治安局も動くだろうことは目に見えて明らかであるが。
「 交通規制っていうのは? 」
「 その時点では特になかった。ここらは商業区で一応人通りが多いからな。変に制限してしまえば、経済にも市民の生活にもそれなりに影響が出ちまう。かけたくてもかけれなかったわけだ。
最低限監視カメラは設けられたんだが、その後以降、今しがたやっていたレースの時まで"ヤツ"の被害は、文字通り影も形もなかったんだよ。 」
「 うーん、とすればレースにそいつを惹き寄せるなにかの要因があるのか?壊されなかった車って車種はどれすかね? 」
「 ナナキュウに、Liger2台、そしてGriffinだ。 」
「 ナナキュウってST79か? 」
「 それ以外になにがある。それとLigerってのは、ヘリックスの車だ。その雑誌にも載ってる。ヘテロシティ内じゃ流通量が極端に少ないから見たことがないって奴もいるが、あの会社の車は、一度乗れば病みつきになる。そんな車なんだと。
まぁ、比較的大衆向けなアレはオレにとっての車の条件は満たしてないがな。 」
「 なんすか、それ? 」
「 4WD+ハイパワー。これに合わなきゃ車にあらずだ。 」
「 4WD曲がんねぇってそれ一番・・・ 」
「 兎に角だ。そいつらは無闇矢鱈に撃ちまくってくる魔物の襲撃からなんとか逃げ切れたんだが、共通点が一つだけある。 」
「 ハンドリング性能がセクシー、高い!すかね? 」
「 ほう、よくわかったな。 」
「 Griffinはそれに定評があるってそれ一番言われてるから。
昔付き合ってた奴がよ、Volanteの方だったけど乗ってたの覚えてんぜ。
ナナキュウもハンドリングがよく馴染むとかってどっかで言われてた。」
Griffinという車は、レガリアの技術の結晶と名高いが、同時に田所にとっては、淡い青春の象徴のような車だった。
あのワインレッドの車体と、風を切る感覚が、未だにはっきりと感じられる。
彼女はどうしているだろうか。そう思うが、店長はそんなことも知らずに話を続け、田所は一瞬飛びかけた意識が、現実に戻されたのを感じた。
「 そうか。それでその魔物は、トップと3位に躍り出てたLigerを特に狙っているようだったらしい。
ドライバーの証言じゃ、暗闇の中から視線を感じたのと同時に赤いレーザーポイントみたいなのが充てられてたらしい。
明らかに、狙い撃ちされてたんだと。 」
「 ふーん、それで今回ぶっ壊されたのは? 」
「 同じくヘリックスの、WOLF。だよな? 」
「 ええ、剛が乗ってたのは、それです。
80万ファンスくらいの奴。ハンドリングはLigerほど軽くなかったから、躱しきれなかったみたいで。 」
「 その間、子午線のレースの間に出てこなかったんだよな?その時の車は? 」
「 ええ。その時のは、豆腐屋のナナキュウ含めて、シンエツの車です。 」
「 豆腐屋。あぁ、あそこのか。 」
「 この間の峠には、また別の異象がでてきてたんだがな、その時にも、"魔物"はでてこなかった。
てっきり何処かまた他所の公道にでも移ったかとみんな思って忘れかけてた矢先に、今回の事件だ。
ここでもレースには、ヘリックスの車がいた。
偶然にしちゃ出来すぎている。 」
「 これでさっきの話と合わせると、その魔物って異象らしきものは、ヘリックス社の車を狙うってことすかね?
んでもそれだとさっきいっちゃん最初にでたENFORCERは、シンエツの車だけども? 」
「 そのENFORCERは2位で一番先頭のLigerを追い抜こうとしていた時に、魔物からの攻撃を喰らったんだ。
破壊された中にも、やはりヘリックス製が1台混じっていたが、他2台も概ね同じだ。巻き添えを食ったような感じで、撃ち落とされていった。
お前の考えで恐らく間違いない。 」
「 店長、このヘリックスってなにか謂れのある会社なんすかね? 」
「 それがなにかしたか? 」
「 こあまり知られてもいないと思うんだけども、異象ってぇ、人の思念とかからも影響して発生したりしなかったりするんすよ。
ヘリックスの製品が狙われる理由として、会社の方になにか厄ネタかなにかがあって、それが関係してるんじゃないかな( 名推理 )、と思ったんだよ。 」
「 ううむ、オレも詳しくは知らないが、確かその昔に兵器開発を行なっていたとかなんとかと聞いたことがある。
といっても、これは業界じゃ珍しくもなんともないが。 」
「 兵器開発?如何にもですね?
多分そこが臭い(確信)と思うんですがそれは? 」
「 それ以上のことは、オレたちにもわからん。
三日後にまたレースがある。その時もヘリックスの車がでる。だよな? 」
「 ああ。BISONだったと思う。 」
「 バイソンかぁ。オフロードには適してるが公道の走りにあまり向いてねぇ車だ。
奴からすれば飛んで火に入る夏の虫、良い的だろ。
狙わない手はないだろう。それまでに、頼む。」
「 ん、おかのした( アビドス生 ) 」
こうしてラーメン屋を後にする田所の後ろ姿を二人は見送った。
「 おい、あいつは25,000でいいといってくれたが、その倍額は用意しておけ。 」
「 なんでだ?そんなにあのどこの馬の骨ともつかない胡散臭い男が信用できるのか? 」
「 信用も糞もないだろう。あの厄介者の駆除を引きうけてくれるだけ有難いんだ。立派な公務員どもですらあの始末なんだぞ?それにな、お前も薄々気づいてるだろうが、指定された額に、奴の危険度が見合っちゃいない。 」
「 管理局の一軍部隊が出張ってもどうにもならなかったからか? 」
「 それもあるが、それ以上に奴自身の性質がヤバさを引き立てている。
少し話は変わるがお前、クマがでて被害を被った時にどうする? 」
「 そりゃ、業者を雇うだろ。 」
「 だよな。一般にはそうした猛獣の類がでた時には、ハンターに始末を依頼する。異象の時と同じだ。
クマやイノシシは林や茂みに身を潜めるが、所詮は獣の知恵だ。多くは罠なんかで身動きを止められたりして鉛弾を喰らい、肉と金になる。
奴らは知恵比べで、ほぼ確実といっていいほど知能に特化して進化した人間に敵わない。
だが、異象は違う。アレは明らかに、自分で姿を隠している。環境に身を委ねちゃいない。
見えねぇってのは厄介だし、それだけが芸のヤツにも思えない。レガリアの二輪の10分の一の額でやらせていい相手じゃない。 」
「 あの田所ってのは、人の思念とかから影響されるって言ってたよな? 」
「 オレたちも丁度そんなケースを知っている。あのナナキュウも、明らかに人間並の知能を持っているように思えた。それに豆腐屋から聞いたがアレは、走り屋の情念がカタチになったような代物だったらしい。そして今回も前回も、被害に遭ったのは、曰くのある企業ヘリックスの車だ。 」
「 でも、あの会社の車は、事故はあれど性能や完成度自体で不備はなかったろう?他所でもそれなりに人気もある。 」
「 そうだ。だがな、オレたちが知ってるのはあくまで"自動車メーカーとしてのヘリックス"だ。
そして異象のことを考えた上で、思うんだが。 」
「 なにをだよ。 」
「 兵器メーカーとしてのヘリックスは、一体どんなだったんだろうな。 」
Liger→レクサスorスバルWRX BISON→ジープ系
WOLF→シビック
のイメージ。