『転生したら白虎だった件 〜三上を守るため最強になった俺は、白氷竜に見初められ世界の均衡を壊す〜』 作:Hiro
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# ■第3章 護衛という本能
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空気が変わった瞬間、それは“敵意”ではなかった。
もっと原始的なもの。
捕食者が獲物を見つけたときの沈黙。
あるいは――世界が異物を排除しようとする意思。
森の奥で、何かが“こちらを見た”。
見た、という表現すら正確ではない。
存在そのものを認識された。
「……来るぞ」
リムルの声は、いつになく低い。
だがその隣で、ハクは動かない。
ただ静かに立っている。
白い毛並みが風に揺れた瞬間、周囲の魔力がわずかに歪む。
エイルが告げる。
『高位魔物接近。分類:捕食型上位個体』
「名前は」
『未確定』
「そうか」
それだけで十分だった。
森が割れる。
音ではない。
“空間が避ける”。
そこに現れたのは巨大な影だった。
四足獣。
だが、ただの獣ではない。
魔力の塊が肉体を模している。
目がこちらを捉えた瞬間、空気が震えた。
リムルが息を呑む。
「おいおい……冗談だろ……」
だがハクは、もう見ていない。
正確には、“見えているが、評価が終わっている”。
エイルが静かに補足する。
『戦力評価:リムル単体では危険域』
「俺はどうだ」
一瞬の沈黙。
そして――
『単体評価:過剰戦力』
「そうか」
それだけ。
獣が吠える。
大地が揺れる。
空気が裂ける。
その瞬間だった。
リムルが叫ぶ。
「来るぞハク!!」
しかし――
もう遅い。
獣が踏み込む。
その速度は、音を置き去りにする。
だが。
それでも。
ハクは一歩も動かない。
代わりに――世界が動いた。
獣の爪が振り下ろされる直前。
“そこにはもう誰もいない”。
いや違う。
獣の攻撃が“通らない位置”に、すでに世界そのものが修正されていた。
「……え?」
リムルの声が漏れる。
獣が困惑する。
攻撃は確実だった。
避けられていない。
しかし、当たらない。
エイルが淡々と告げる。
『因果補正完了』
『攻撃結果:無効化』
ハクは静かに言う。
「遅い」
その一言。
それだけで十分だった。
次の瞬間。
獣の動きが“止まる”。
止まったのではない。
時間が切り取られたように、動作の連続性が失われている。
リムルが震える。
「……なに今の」
ハクは答えない。
代わりに、視線を獣へ向ける。
エイルが解析する。
『対象内部構造解析完了』
『弱点:中枢核』
「そこか」
一歩。
それだけで距離が消える。
リムルが叫ぶ。
「いや待て、今の一歩おかしいだろ!!」
だがハクはもうそこにいる。
獣の胸元。
そこに、白い指先が触れる。
“軽く触れただけ”。
それだけ。
――なのに。
獣の身体が崩壊し始める。
内側から“構造そのもの”が崩れる。
抵抗ではない。
破壊でもない。
定義の上書き。
エイルが静かに言う。
『存在定義の解除を確認』
『対象消滅』
森が静かになる。
あまりにも簡単すぎる終わり。
リムルが呆然とする。
「……え? 終わり?」
ハクは手を下ろす。
「終わりだ」
「いや、今の絶対“戦闘”って言わないやつだろ」
「そうか?」
「そうかじゃねぇよ!!」
少しだけ沈黙。
だが、その空気はすぐに変わる。
リムルが視線を逸らす。
「お前さ……俺いらなくね?」
その言葉。
冗談のようでいて、少しだけ本音。
ハクは即答する。
「必要だ」
リムルが固まる。
「即答かよ」
「お前がいないと意味がない」
さらに固まる。
エイルが静かに補足する。
『対象リムル=テンペスト:精神安定因子として重要度極大』
「お前も余計なこと言うな!!」
リムルが叫ぶ。
だが、その声はどこか震えていない。
むしろ、少しだけ安心している。
森が静かに戻っていく。
風が吹く。
何もなかったかのように。
だが、そこに立つ二つの存在だけが、確実に“異質”だった。
リムルが小さく息を吐く。
「……なぁ、ハク」
「なんだ」
「お前、それ……護衛のレベルじゃないからな」
少し間。
ハクは答える。
「そうかもしれない」
「否定しろよ普通」
だが、その言葉はどこか優しかった。
リムルは空を見上げる。
「まぁ……いいか」
小さく笑う。
「お前がいるなら、なんとかなる気もするし」
その言葉に、ハクは何も言わない。
ただ静かに立つ。
護衛。
その言葉の意味を、彼はまだ正しく理解していない。
だが一つだけ確かなことがある。
――守るべきものは、すでに目の前にある。
それだけで、十分だった。
エイルが静かに言う。
『護衛行動の継続を推奨』
ハクは短く答える。
「了解した」