We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「……招かれざる客は帰った。そろそろ出てきたらどうだ?」
「……お気づきでしたか」
白金の竜王が去った直後、カリムは近くに潜んでいた魔導国の者へ向かって声をかけた。
すでにすべてお見通しだと言わんばかりの、面倒くさそうな声だった。
「まったく。異世界の奴らはどいつもこいつも、なんでこう陰気な奴ばかりなんだよ」
「……私はアインズ様と共にこの世界へ転移してまいりましたが」
「ん? ああ、そうだったな。こほん。それで、ここには何の用だ?」
密かに一本取ってやったつもりでいたカリムは、デミウルゴスの言葉に少し慌てて咳払いをした。
「念のため、参ったまでです」
──常に監視される立場だった。
そして、ナザリックは常に監視する立場だった。
それは、アンティリーネを救い出す際に交わした約束の一つであり、ナザリックを出たその瞬間から常に意識していたことでもあった。
あまりにも強烈な一日だったから。
そして、もしかすると最大の願いを叶えた日だったからこそ、忘れたくても忘れられなかった。
「誰とも手を組まない。俺はちゃんと覚えてるぞ? さっき来た招かれざる客も含めてな」
「それならば幸いです」
「……それじゃあ、帰れ。そろそろ彼女が目を覚ます時間だからな。万が一にもお前を見たら、せっかくの綺麗な顔がまた台無しになっちまう」
用件は済んだ。
そう判断したカリムは、デミウルゴスへ脅迫まがいの言葉を投げかけた。
するとデミウルゴスは軽く頷き、隣に控えていたシャルティアと共にゲートを開き、ナザリックへと去っていく。
その際、デミウルゴスはもう一つだけ確認を入れた。
「ああ、最後に。以前にも申し上げました通り、これは私の個人的な欲求ではございますが……そちらの件も、どうぞよろしくお願いいたします。では、これにて」
「……食えない奴だ」
ゲートが徐々に閉じていく中、カリムは少し気分を害したように低く呟いた。
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「よお、アンティリーネ。もう起きろ。行くぞ」
「……もう少し寝ていたいんだけど」
深い夜の闇と、静かな夜明けが過ぎ去った。
太陽がほとんど昇り切った、少し遅めの朝。
出発するため、カリムはアンティリーネを起こしに来た。
もちろん、アンティリーネは朝になった時点ですでに目を覚ましていた。
ただ、ベッドから起き上がるのが面倒で、そのまま横になっていただけである。
「なんだ。もう起きてたんじゃないか」
呼んでも眠そうな声で返事をするだけだったため、カリムはテントの中へ入ってきた。
その姿を見て、アンティリーネは布団で全身を隠したまま、ゆっくりと起き上がる。
「まったく。美人は寝坊助だとは言うが」
カリムはくすくすと笑いながら、彼女を眺めた。
当然、アンティリーネはそんな彼に少し不満を覚えていた。
「ふん。今起きようとしてたところよ」
こんな格好でいれば、さらにからかわれるのは目に見えている。
本当はもう少し横になっていたかったが、彼女は仕方なくベッドから立ち上がった。
彼女が起き上がると、カリムは密かに残念そうな顔をした。
もっと寝ていてもいいのに。
そう思いながら外へ出て、彼女が準備を終えるまで待つことにした。
「……準備できたわ」
少しして、アンティリーネは着替えを済ませて外へ出てきた。
その姿を見たカリムは、いつものように力強く言った。
「よし、行くか! バルス帝国だか何だかってところへ!」
「……バハルスよ」
──わざとやっているのか、それとも本当に名前を覚えられないのか。
今となっては、いちいち訂正するのも疲れた。
今回もアンティリーネは、気の抜けた声で適当に答えた。
どうせ毎回教えても、次の日になればまたああなるのだから。
「確かに、地図があると楽だな。ここさえ越えれば良さそうだ」
竜王国を出る前に地図を手に入れてからは、カリムはもう以前のような奇行を繰り広げることはなくなった。
その事実に、アンティリーネは内心とても喜んでいた。
一方で、カリムはひどく残念がっていた。
こんなに美しい絶世の美女と一緒に旅をしているという宣伝が、あまりできなくなったとか何とか。
それを聞いたアンティリーネは、今度ばかりは感情を込めて、カリムの脇腹を力いっぱい殴りつけた。
だが、カリムはさも当然であるかのように豪快に笑うだけだった。
「クハハッ! もうすっかり元気だな!」
「……ちっ」
アンティリーネは、彼を一発蹴り飛ばし、殴ってやりたいという願いを叶えた。
しかし、どういうわけか、そうすればするほど自分が損をしているような気分になった。
むしろ、相手を喜ばせているだけのような気さえする。
「変態みたい」
殴られても飄々とし、豪快に笑ってばかりいるカリムの姿に、アンティリーネは少し呆れたように言った。
──いくらなんでも、女にこんな風に殴られて喜ぶ男がいるなんて。
本当に、変態じゃない。
一体これのどこを見て「ご褒美」だと言うのか、理解できなかった。
「ん? 俺は誰にでもこうするわけじゃないぞ?」
変態という言葉を聞いたカリムは、相変わらずの笑顔でそう言った。
もちろん、気を悪くしたわけでも、プライドを傷つけられたわけでもない。
ただ、はっきりさせておくべきことがあっただけだ。
「アンティリーネ。お前だから、そうなるんだ」
「……ふん。また口ばっかり」
彼が突然真剣な表情でじっと見つめながら言ったものだから、アンティリーネは一瞬だけ胸が跳ねた。
だが、その後の内容が相変わらず実のないものだと気づくと、むっとした表情で適当に返した。
もし今の表情を見られれば、この前のようにまたからかわれるのは目に見えていたからだ。
「本当だってば」
「まあ、信じてはあげるわ」
それでも、彼女は内心では少し気分が良かった。
最初は彼の態度にも、称賛にもまったく慣れなかった。
だが、およそ一ヶ月ほど彼と共に旅をして、少しは慣れてきた気がする。
──だからといって、彼への疑いが完全になくなったわけではない。
疑わしい部分は、まだある。
それでも、自分に向けられる想いは常に一貫していた。
そして称賛もまた、本心からのものだと感じられた。
「……ところで、一体いつまでこんな旅を続けるつもり? もう腰を落ち着けてもいいんじゃない?」
魔導国の監獄から彼に救い出された後に始まった旅は、すでに一ヶ月を超えていた。
それなのに、彼はまだ旅を続けている。
終わる気配は、まるで見えなかった。
「ん? まだ竜王国しか行ってないじゃないか。見て回る場所はたくさんあるぜ! まあ、評議国には行かないけどな」
「……何よ、それ」
まだ行く場所はたくさんあるという彼の言葉に、アンティリーネは不満げな声を漏らした。
そして、評議国には行かないという言葉に少し疑問を抱く。
行くなら、全部行けばいいのに。
一体何なのか。
「いや、まあ、そこも行こうとは思ったんだけどな。うーん。あそこはちょっと、あれだからな。クハハ!」
適当に言葉を濁すカリムの姿に、アンティリーネは少し不思議に思った。
短い間に、評議国に関する情報を手に入れたのだろうか。
それとも、バハルス帝国の時のように、名前が生意気だ、といった呆れた理由なのだろうか。
今回も、その意図は分からなかった。
どうせまた、呆れるような理由なのだろう。
そう考えたアンティリーネは、今聞いた言葉を適当に聞き流した。
「……まあ、とりあえずバハルス帝国で少し考えてみるか」
「バハルス帝国で? なんで?」
少し意外な言葉だった。
口では気に食わないだの、名前が気に入らないだのと言っていた人間が、突然バハルス帝国で考えるなどと言い出したのだ。
聞き間違いかと思い、アンティリーネは確認するように問い返した。
「あくまで、聞いた情報と俺の勘だけどな。この世界に関する情報が一番集まりそうだからだ。そのためだよ」
「へえ」
久しぶりにカリムがまともなことを言った。
そう思ったアンティリーネは、自分でも気づかないうちに小さく微笑んでいた。
そして当然、カリムはそれを見逃さなかった。
「おっ、今。俺を見て笑っただろ! ハハ!」
カリムは天真爛漫な表情を浮かべ、心から嬉しそうな声で言った。
それを聞いた瞬間、アンティリーネの顔がみるみる赤く染まっていく。
彼女は慌てて素早く顔を逸らした。
「……ふん、違うわよ! 笑ってないわ!」
「違わないって! 俺ははっきり見たぞ! いやあ、ちらっと見えてる耳まで赤くなってるぜ!」
カリムがしつこくからかってくるため、アンティリーネはさらに慌てて、違うと言い張り続けた。
だが、すでに赤くなった顔は、彼の言葉が事実であることを何よりも雄弁に証明していた。
彼女は認めたくなかった。
けれど、自分でも気づかないうちに、少しずつ彼を認めつつある。
疑いもまた、少しずつ消え去りつつある。
そのことに気づいたアンティリーネは、顔を赤くしたまま俯いた。
その日、初めて。
カリムは彼女の頭を撫でた。
──誰かに、こうして撫でられるのはいつ以来だろうか。
久しぶりに懐かしい感覚を覚えながら、二人はしばらく無言で歩いた。
今日は、普段より一日がずっと長くなりそうな予感がした。
そうして、彼らはバハルス帝国に到着した。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。