We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「確かにここは、竜王国とはだいぶ違うな!」
バハルス帝国に到着してから、二日が経った。
アンティリーネはバハルス帝国に到着する前、念のためカリムに、自慢して回るような真似はしないでほしいと固く念を押していた。
だが、それはまったくの無駄だった。
適当な宿屋に到着するや否や、すぐに彼の自慢が始まってしまい――アンティリーネはたちまち、その宿で最も有名な旅行者になってしまった。
「よく言うわ。私にはどこも同じに感じるけど」
アンティリーネはテーブルに適当に突っ伏し、不満げな声で彼に文句を言った。
竜王国にしろ、バハルス帝国にしろ、町中の人々に知られる羽目になったのは一体誰のせいなのか。
このまま名前や顔が知れ渡ると困る。
そんな心配を抱きながら、アンティリーネはカリムを軽く睨みつけた。
「ええい、そう言うアンティリーネ。お前だって、もうある程度は楽しんでるじゃないか! この前も自分の外見については認めてたしな!」
「そ、それは……!」
竜王国でのこと。
そして、今朝あったことまで。
通りすがりの小さな子供が、彼女を見て「綺麗なお姉ちゃんだ!」と大きな声で言った。
宿屋の中で適当に座っていれば、通りがかった若い冒険者たちが「この宿で、いや、この辺りで一番綺麗な人だ」と言いながら声をかけてきたこともあった。
──もちろん、本人が考えても、自分の外見がずば抜けていることくらいは分かっている。
しかし、だからといって道端で誰も彼もが気づくような状況は、さすがに度を越している。
法国の中で「絶死絶命」として生活していた頃とは、何もかもが違っていた。
「ど、どうしてその話が出るのよ! 認めることと! そ、それに、顔を知られることは違うじゃない!」
痛いところを突かれたアンティリーネは、慌てて反論した。
そして――その声に、宿屋の中にいた人々の視線が一斉に集まる。
もちろん、彼らは昨日に続いて今日も夫婦喧嘩をしているのだろう、程度にしか思わず、すぐにまた自分たちのことへ意識を戻した。
「クハハッ! まあ、そういうことにしておこう!」
ちらりと見える耳まで赤くなっているのを見たカリムは、彼女の反応があまりにも面白く、そして可愛らしくて、ついからかい続けた。
ああ、どうしてこんなにも可愛いのだろうか。
カリムには、アンティリーネのすべての反応がただただ可愛く見えていた。
「あー、もういいわ!」
顔が熱くなるのを感じたアンティリーネは、そのままテーブルに突っ伏して顔を隠した。
もちろん、カリムはそんな姿さえ、とても愛おしそうに見つめていた。
「うちのアンティリーネは、そんなに眠いのか?」
「違うわよ」
彼はにやにやしながら、突っ伏したアンティリーネに声をかける。
それを聞いたアンティリーネは、依然として突っ伏したまま適当に返事をした。
「ハハ! 疲れたなら部屋に入って休んでてくれ。俺はちょっと出かけてくる」
「え? どこへ?」
カリムが少し席を外すと言った瞬間、アンティリーネはひどく敏感に反応した。
顔を上げ、睨みつけるように彼を見て、鋭い声で問い返す。
突然、どこへ行くというのか。
こんなことは、今までただの一度もなかったのに。
「個人的な用事さ。心配するな。すぐ戻る」
自分を睨みつけ、今にも泣き出しそうな表情をしているアンティリーネを見ると、カリムは軽く彼女の頭を撫で、席から立ち上がった。
そして万が一の脅威に備え、彼女を部屋の中まで送っていく。
「本当よね?」
「もちろん」
アンティリーネは依然として不安そうな表情で、もう一度確認した。
そんな彼女を見て、カリムはにっこりと笑う。
お前を置いてどこかへ行ったりはしない。
だから心配するな。
そう言うように彼女をもう一度安心させてから、カリムは宿屋を出た。
────────────
「……いつ戻ってくるのかしら」
アンティリーネは宿のベッドの上で膝を抱え、カリムが戻ってくるのを待っていた。
彼がどこかへ行くと言った時、彼女は一瞬、強い恐怖に包まれた。
一ヶ月を少し超える時間だった。
それでも、彼が彼女を一人残してどこかへ行ったことは、ただの一度もなかった。
いつの間にか、彼に慣れてしまったのだろうか。
彼と共に過ごし、一緒にいる時間に慣れてしまったのだろうか。
今感じているこの感情は、寂しさなのか。
それとも、独りになったことへの恐怖なのか。
頭の中が混乱していて、よく分からなかった。
──確かに、最初はこんな感情などまったくなかった。
むしろ、どうすれば彼から逃れられるのか。
どうすれば、このあり得ないほど無鉄砲な旅を終わらせることができるのか。
どうすれば、法国へ帰れるのか。
そんなことばかり考えていた。
いつも突拍子もなく、怪しげな方法で進む道を決めるのも苛立たしかった。
名前をまともに教えてくれなかったことも苛立たしかった。
彼の些細な行動一つ一つが、気に入らなかったはずなのに。
「ちっ」
カリムと共に過ごした時間を思い出すと、アンティリーネは自分でも気づかないうちに顔が熱くなっていくのを感じた。
心臓が激しく波打つ。
彼女はゆっくりと、倒れ込むように横になった。
──認めたくなかった。
本当に嫌だった。
けれど、いつの間にか彼に慣れてしまったのは事実だった。
突拍子もない行動をすることも。
時々自分をからかってくることも。
一ヶ月前ほど、ひどく苛立つことはなくなっていた。
そして何より、彼女自身も少しずつ気兼ねなく彼に接するようになっている。
彼が妙なことを言うたびに尻を蹴ったり。
人に見られると恥ずかしいことをすれば、拳で静かに脇腹を叩いたり。
「こんな感情、初めてね」
もし、万が一。
自分がまともな家庭で育ち、平凡な人々のように過ごし、平凡に友人を作ることができていたなら。
どうだっただろうか。
漆黒聖典の「絶死絶命」ではなく、法国の平凡な市民である「アンティリーネ」だったなら。
どうだっただろうか。
過ぎ去った時間は戻らないと言う。
それでも、もし戻れるのなら。
「────!!?」
そうして、自分の過去への後悔と、今抱いている感情について考えていた時だった。
廊下から、怪しい足音が聞こえてきた。
人間のものではないような。
妙に異質で、軋むような音。
同時に、冷たさと恐怖がじわじわと這い上がってくる感覚がした。
まさか。
違うわよね。
お願いだから、そんなことは。
アンティリーネは目をぎゅっと閉じ、布団を頭の先まで引き上げた。
魔導国が、独りでいる自分を捕まえに来たのではないことを祈りながら。
「よお、アンティリーネ! 大人しく……なんだ、寝てるのか?」
「……ええ、寝てるわ」
「クハハ! 寝てないじゃないか!」
極度の恐怖のせいで、アンティリーネはまともに考えることができなくなっていた。
あの足音も、絶対に奴らだ。
そう思っていた。
だが幸いにも、足音の主はカリムだった。
カリムの声を聞いた瞬間、彼女の心は少しずつ解けていく。
少し泣き出しそうな声で、アンティリーネは答えた。
「ん? なんだ、悪夢でも見たのか?」
「……ううん、寝てない」
依然として沈んだ声で彼女が答えると、カリムはベッドに腰を下ろした。
そして、彼女が握りしめていた布団をそっと掴み、静かに下ろす。
少し赤くなった耳。
瞳からわずかにこぼれ、頬まで流れ落ちた涙。
それを見たカリムは少し迷った後、手で彼女の頬を伝う涙を拭った。
「ハハ、ごめんな。次からは一緒に動くからさ」
「……本当よね?」
カリムが謝ると同時に、これからはどんな秘密があっても一緒に動くと言った瞬間。
アンティリーネは素早く上体を起こし、彼の腕を掴んだ。
一緒に動くという言葉も朗報だった。
だが、それ以上に、「これからはどんな秘密も隠さない」という彼の言葉に大きく反応したのだ。
名前と出自以外に、彼が自分に教えてくれたものはほとんどなかった。
だからこそ、今の言葉は彼女にとって非常に興味をそそるものだった。
「もちろん」
アンティリーネがものすごく興味ありげな反応を見せると、カリムはにっこりと笑い、彼女の頭を撫でた。
「あ、そうだ。実はさっきどこへ行ってきたかと言うと────」
「うん?」
カリムは虚空へ手を伸ばし、自身のインベントリから一振りの剣を取り出した。
不吉でありながら、どこか神聖な気配を漂わせる剣。
赤黒い光を帯びた、少し奇怪な形をした剣だった。
「これは?」
その剣を見た瞬間、アンティリーネは自分でも気づかないうちに目を輝かせた。
長い時間が経ったわけではない。
それでも、一ヶ月を少し超える間、戦士として武器を持つことも、戦うこともなかった。
だからこそ、体が少しうずいていたのだ。
つまり、彼女が興味を持つのは当然のことだった。
「この辺りに、鍛冶屋があったんだよ。俺が元々持っていた武器に、それと……持っていた原石、つまり材料だな。それを合成してくれって頼んだのさ!」
「鍛冶屋? そんなところあったっけ?」
──もちろん、嘘だった。
皮肉なことに、旅を提案したのはカリムだった。
だが、村や都市の様子については、宿屋と飲食店を除けば適当にしか見ていなかった。
一方で、アンティリーネはその村の様子を、できるだけ几帳面に把握しようとしていた。
彼女にとっては、生まれて初めて世界の多彩な姿と直接向き合う経験だったからだ。
そのため、彼女は到着したこの町に鍛冶屋がないことくらいは把握していた。
「え? あ、ああ。すごく小さいのがあったんだよ。ハハ!」
適当に誤魔化す彼の言葉に、アンティリーネは一応疑いの目を向けた。
それでも、初めて彼がくれる贈り物だったため、ありがたい気持ちで受け取った。
「うん、ありがとう。ところで、これの名前は何?」
本来の持ち主はカリムだ。
だから当然、名前くらいはあるはずだった。
もし今回も適当に取り繕ったら、彼女は贈られた剣の柄で彼を叩こうと思っていた。
「死の舞踏! どうだ、名前に負けず劣らず素敵だろ?」
「死の……舞踏?」
「この剣を持つ者は、相手がどれほど強力な攻撃を放ってきても、そのダメージを軽減できる。そして、ダメージを与えてきた相手にこの剣で重傷以上の傷を負わせれば、一定量の生命力を吸い上げることができる」
本来の自分の武器であったカロンの導きよりは、多少劣る性能だった。
それでも、初めて贈られるものとしては、かなり破格だった。
──このような意味のある贈り物を受け取ったのは、いつ以来だろうか。
もはや、記憶にもなかった。
ハーフエルフとして、自分の血統を否定したことは確かにあった。
けれど、この瞬間だけは違った。
ハーフエルフであったからこそ。
一般的な人間よりも長い寿命と若さを保つことができたからこそ。
とてつもない幸運が伴ったとはいえ、結局、このような日が訪れたのだ。
アンティリーネは何も言わず、ただ贈られた剣と鞘を見つめた。
それは初めて、自身の血統を認める瞬間だった。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。