We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「これじゃあ結局、永遠に放浪するか、バハルス帝国に居座るか、エルフの王になるしかないわね」
本格的に、そして真剣に始まった定住計画は、一週間が過ぎても結論が出なかった。
この国はこれだから嫌だ。
あの国はあれだから嫌だ。
ここは近すぎる。
あそこは名前が気に入らない。
そんな理由が次々と出てくる。
カリムもそうだが、アンティリーネもまた条件が厳しかったため、簡単には決められなかった。
このままでは、彼の言う通りこの世界全体を放浪するか、バハルス帝国のどこかにそのまま居座るか、あるいはエルフたちを根こそぎ掃討して王になるか。
その三つの中から選ばなければならなくなる。
バハルス帝国にそのまま居座ることは、アンティリーネの立場からすれば特に悪くはなかった。
しかし、法国側に見つかれば相当頭が痛くなるだろう。
この世界全体を放浪し続けるのは絶対に嫌だった。
そして、エルフの王になるのも、やはり違う。
「ふうむ」
これ以上、時間を引き延ばすわけにはいかない。
何か、特別な決断が必要だった。
どれくらいの時間が流れただろうか。
少しの緊張感が漂う中、カリムはついに定住する場所を決めた。
そして、彼の口から出た名前は、アンティリーネを驚愕させるには十分だった。
「エ・ランテルへ行こう」
「……は?」
エ・ランテル。
魔導国の首都。
彼の口からまったく予想していなかった名前が出たため、アンティリーネは慌てて聞き返した。
そうよ。
私が聞き間違えたに決まってる。
リ・エスティーゼ王国もエ・ランテルも、似たようなものじゃない。
自ら悪魔の巣窟に入っていくはずがない。
絶対に、そうに決まっている。
しかし、そんな彼女の考えは、彼の次の言葉によって無残にも打ち砕かれた。
「エ・ランテルのことだよ。魔導国の首都。あそこなら情報も得やすそうだし、何よりかなり賑わっている場所らしいから、過ごしやすそうだしな」
カリムは、まるで近所の市場へ軽く買い物に行こうと言うように。
あるいは、公園へ遊びに行こうと言うように。
真剣に悩んだにしては、あまりにも呑気な調子で言った。
その瞬間、アンティリーネの顔から血の気が引いた。
全身に悪寒が走り、血が冷たく凍りつくような感覚に襲われる。
アインズ・ウール・ゴウンと魔導国。
自分を無力なまま捕らえた怪物たちの本拠地。
彼女にとって、絶望と恐怖の同義語も同然の場所。
悪魔と怪物たちの本拠地に、自ら入っていくなど。
「嫌……! そこは、そこは駄目! 絶対に……!」
アンティリーネの声が、恐怖で細く震えた。
長い時間ではなかった。
それでも、過去の記憶が蘇り、息をすることすら苦しくなる。
あの怪物のような者たちがうようよいる本陣へ。
それも、自ら歩いて入っていくなど。
絶対に嫌だった。
アンティリーネは、そのままへたり込んでしまった。
全身が震え、極度の恐怖で呼吸も不規則になっていく。
──アンティリーネが恐怖に飲み込まれかけたその時、カリムは身をかがめた。
そして彼女を優しく、しかし断固として引き寄せ、胸に抱いた。
普段のような古狸めいた姿も、図々しさも、そこにはなかった。
「……大丈夫だ、アンティリーネ」
カリムはアンティリーネを軽く抱きしめたまま、背中をゆっくりと、とん、とん、と叩きながら、低く落ち着いた声で囁いた。
彼女の呼吸が安定するまで、何度もそれを繰り返す。
「全部大丈夫だ。俺がいるだろ? 俺がお前のそばにいる限り、あの忌々しい骸骨野郎も、その部下共も、誰一人としてお前を傷つけることはできない。約束する」
彼の声に、虚勢や根拠のない自信はなかった。
共に旅をし、一緒に過ごす中で何度も垣間見てきた、既存の常識を超越する圧倒的な力。
それに裏打ちされた、絶対の確信が込められていた。
その温かな胸と、断固とした声に触れて、アンティリーネの激しかった震えは少しずつ収まっていく。
──そう。
この男は強い。
私を容易く制圧したあのダークエルフ。
あるいは、その主である魔導王アインズ・ウール・ゴウン本人。
たとえ彼らと立ち向かうことになっても、決して押し負けない。
もしかすると、彼らすら凌駕するかもしれない力を持っている。
彼がそばにいるなら。
たとえエ・ランテルのど真ん中であろうと、再びあの恐ろしい怪物たちの巣窟へ引きずり込まれることはないだろう。
アンティリーネは彼の胸に頭を預けたまま、そう思った。
長い間、彼女を縛り付けていた恐怖。
その恐怖よりも、目の前の男に対する信頼の方が大きくなっていく。
それを感じながら、アンティリーネは彼の胸の中で静かに頷いた。
「……分かった。あなたを、信じる」
小さいが、はっきりとした声だった。
カリムと行動を共にし、暗に頼ってもいいとは思っていた。
だが、この日をもって、アンティリーネは自分のすべてをカリムに預けてもいいのだと思った。
もちろん、彼がこれまで見せてきた姿を考えれば、間違った選択をする可能性もある。
今回のように、とてつもなく危険な賭けに出ることもあるかもしれない。
それでも、カリムの決定を完全に信じ、従うことにした。
この男なら。
カリムなら。
少なくとも、あの怪物たちに負けはしないだろうから。
本人はどこかに縛られるのは嫌だと言っていた。
だが、もしかすると。
法国にも、一筋の希望くらいは与えてくれるのではないだろうか。
「落ち着いたか?」
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
カリムの胸に抱かれていたアンティリーネの震えは、完全に治まっていた。
それを感じたカリムは、ゆっくりと彼女の頭を撫でる。
「うん」
優しく温かな手つきを感じながら、アンティリーネはゆっくりと顔を上げた。
そして、しっかりと彼の目を見つめる。
憂いを帯びた眼差しのまま。
今回もまた、何かに惹かれるように、ゆっくりと距離を縮めた。
前回よりは短い時間だった。
けれど、今の方がより強い安心感を覚えた。
──もちろん、すぐに恥ずかしそうに顔を少し赤らめ、再びうつむいて彼の胸にもたれかかったが。
「なんだよ、その反応は」
アンティリーネが恋に落ちた少女のような姿を見せると、カリムは軽く笑った。
毎回感じることだが、あの時と比べると本当に大きく変わった。
毎日が新しく、新鮮だった。
「知らなくていい」
その言葉を聞いたアンティリーネは、彼の胸元で少し震えながらも、はっきりと答えた。
──その姿に、カリムはドーパミンが爆発するような感覚を覚えた。
ある時から、彼女は自分を頼るようになった。
胸に抱かれる回数も増えた。
そうなるのも無理はなかった。
これほど美しく、強い異性が自分を頼ってくれる。
彼にとって、ドーパミンが爆発しない方がおかしい状況だった。
もう少しだけ。
いや、一生このままでいたい。
このまま時間が止まってくれればいいのに。
──もちろん、ずっとこのままでいるわけにはいかない。
自分にはやるべきこともあった。
ずっとこうしていては、他のことが何もできない。
名残惜しかった。
本当に名残惜しかったが、カリムはゆっくりと彼女を立たせた。
「ありがとう」
完全に落ち着いたアンティリーネは、彼に支えられながら立ち上がった。
前回のように、見せたくない醜態を晒してしまったことは恥ずかしかった。
それでも、それだけカリムに対する信頼と、カリムが自分を想ってくれている気持ちを、確かに知ることができた。
「これくらい、大したことじゃないさ」
彼女が感謝を伝えると、カリムはこれくらい何でもないというように肩をすくめた。
「さあ、それじゃあ、そろそろ出発しようか」
血色が完全に戻った彼女を見て、カリムはバハルス帝国との別れを告げることにした。
約三週間。
予想よりは早くここを去ることになったが、それでも竜王国にいた時よりは長く留まった。
そして、得るものがほとんどなかった竜王国とは違い、ここでは大切なことに気づくことができた。
重要なものも得られた。
いつになるかは分からない。
だが、家族を作り、家族で旅行に来てもいいと思えた。
──もう少しいたかった。
もちろん、ここ、バハルス帝国にもっといてもよかった。
まだ首都には行けていない。
見どころも、まだまだ残っていたのだから。
それでも、約束は約束だ。
純粋に自分の欲望と衝動から始まったこの旅を、今は終わらせなければならない。
他に理由はない。
彼女が望んでいるからだ。
そう考えながら、カリムはアンティリーネの手を優しく握った。
そして、これまで世話になった宿屋の扉を開けて外へ出る。
扉が閉まる音が、無計画に始まった、純粋な衝動による強引な旅の終わりを告げていた。
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「なんか、不便ね」
「そりゃ当然だろ」
バハルス帝国の国境を越えた、その日の夜。
国境を越えるや否や、アンティリーネは少し後悔した。
いくらテントが高級だと言っても、一般的な宿屋よりは不便だった。
「もう少し、いてもよかったかもね」
なぜか名残惜しさを感じて、アンティリーネは心にもないことを言った。
もちろん、カリムはその言葉を真に受けた。
「じゃあ、また戻るか?」
「……それは違うわね」
国境を越えるや否や、どこか空気が読めないような発言をするものだから、アンティリーネは少し呆れたような表情で言った。
この男は、外に出さえすればこうなるのかしら。
バハルス帝国や竜王国にいた時は、最高に快適だったのに。
分かっていても、本当に捉えどころのない人だった。
「ハハ! つまらない冗談を言ってみただけさ」
カリムはそんな彼女を見て、少し照れくさそうに笑いながら言った。
口では冗談だと言ったものの、アンティリーネがこれといった反応を示さなかったため、妙に恥ずかしくなったのだ。
そして国境を越える前、彼女と約束していたことを思い出し、言葉を続けた。
「あ、もうバハルス帝国から少し距離も離れたことだし、そろそろやってみようか」
「え? 何を?」
あまりにも唐突だった。
バハルス帝国から離れたことと、何かをやってみようという言葉。
一瞬、アンティリーネは妙なことを考えているのかと思った。
だが、もう一度ゆっくり考えてみると、以前に手合わせを頼んだことを思い出した。
「あ。うん」
その考えに至った瞬間、彼女は自分でも気づかないうちに、少し浮き立つような気分になった。
ついに。
とても久しぶりに、実力を見せることができる。
久しぶりに、戦士としての血が騒ぐような感覚だった。
もちろん、相手が相手なだけに、自分は相手にもならないだろう。
それでも構わなかった。
覚悟はできているのだから。
「すぐ開始! ──と言いたいところだが、もう遅いからな。とりあえず、明日の朝飯を食べてからにしよう」
「うん。そうね」
早く明日が来てほしい。
時間が早く進んでほしい。
明日すぐにやろうという彼の言葉に、彼女は胸を高鳴らせながら眠りについた。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。