We are Always Searching Happy Goal   作:Redemptor

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We are Always Searching Happy Goal - 2

「ここ。だ」

 

コキュートスの案内に従って辿り着いた場所は、視界すら奪われるほど暗い牢獄だった。

 

「随分と悪趣味な場所だな」

 

「元々。この。エルフ。は。ここに。いた。わけでは。ない。別の。場所。に。いたの。だ」

 

「……そうか」

 

「連れて。こい」

 

コキュートスの言葉を受け、そこを守っていたアンデッドの兵士たちが牢の扉を開ける。

 

そして中から、一人のエルフ――アンティリーネを引きずり出してきた。

 

「……」

 

本来であれば正確に半分ずつ分かれていたはずの黒と白の髪は、その境界を失い、凄まじい個性を誇示するかのように乱れていた。

 

強い光を宿していたはずの瞳は、希望を失い、絶望の底へ沈んでいるように見える。

 

濃い隈と、乾いてこびりついた涙の跡。

そこに黒ずんだ血が混ざり合い、彼女の顔の大部分を汚していた。

 

「これは、ひどいな」

 

悲惨な彼女の姿を見て、男はわずかに目を細めた。

 

「この。エルフ。は。我ら。魔導国の。大切な。仲間に。武器を。向けた。者。これ。くらいの。処遇は。当然。だ」

 

「……そして、捕虜でもあったというわけだ。まあ、話がまとまった後で、これ以上文句を言っても仕方ないか」

 

コキュートスの言葉に、男もまた納得したように頷いた。

 

戦争とは、結局そういうものだからだ。

 

「……では。我々と。交わした。約束。忘れぬ。ように」

 

「それは俺の台詞だ」

 

このエルフを引き取る代わりに、この世界で静かに暮らすこと。

 

そして、魔導国、あるいはナザリックに未曾有の危機が迫った時は、傭兵として先陣に立つこと。

 

また、生涯にわたって監視を受けること。

 

最後に、魔導国、あるいはナザリックに敵対してはならず、魔導国やナザリックと敵対する国家の側につくことも禁じられる。

 

「お前。にとっては。それほど。都合の。良い。話では。ないはず。だが」

 

「都合? いや、欲しかったものは手に入れた。これ以上に良い話がどこにある? それに……余計な敵を作るのは、あまり好きじゃないんだ。誰かを助けて回るのも面倒だしな」

 

「……アインズ様の。仰る。通り。確かに。奇妙な。奴。だ」

 

「クハハハッ! 本来、狂ってでもいなきゃ生き残れないからな」

 

生涯監視される。

 

巨大な組織との協力は禁じられる。

 

必要とあらば、半ば強制的に先兵として、先陣として駆り出される。

 

やりたいことがあったとしても、好き勝手には動けない。

 

それにもかかわらず、この男はそんなことなどどうでもいいと言わんばかりだった。

 

本当に欲しかったものを手に入れた。

そう言って、むしろ喜んでいる。

 

その姿を見て、コキュートスはかつて至高の御方々が語っていた「ロリコン」という言葉の意味が、少しだけ分かったような気がした。

 

「まあ、話も終わったことだしな」

 

男は軽く身を屈めた。

 

そして、先ほどから呆然とした表情で虚空を見つめ、未だに状況を把握できずにいるアンティリーネを、そっと抱き上げた。

 

それも、いわゆるお姫様抱っこの姿勢で。

 

「……!!」

 

半日も経たないうちに、肉体だけではなく、精神までもが蝕まれていた。

 

希望のない絶望の中で、誰にも届かない祈りを捧げ続ける。

当てのない救いを願い、虚しい希望にすがり、妄想に苛まれる。

 

きっと、そうなるのだと思っていた。

 

目の前の男も、見た目だけなら普通の人間に見えた。

 

隣の異形種と何の気兼ねもなく会話している様子を見て、彼もまた、あちら側の存在なのだと思っていた。

 

──しかし、彼女はすぐに悟った。

 

自分の考えは、完全に間違っていたのだと。

 

「なっ……!」

 

なに、これ……!

 

予想もしなかった接触と行動に、アンティリーネの体が硬直する。

 

今すぐにでも彼の腕を振り払い、下りたかった。

 

だが、彼の腕は鋼のように硬い。

そして、彼から流れ出る正体不明の圧倒的な気配が、彼女の抵抗する意思を容易くへし折ってしまった。

 

先ほどまで感じていた無力感が、再び全身を包み込む。

 

ただ為す術もなく、彼に抱かれているしかなかった。

 

──誰かに、こんな風に抱かれたことがあっただろうか。

 

あったとしても、それがいつのことだったのか、もう思い出せない。

 

法国の最終兵器として。

切り札として。

 

そうして生きてきた。

 

これからもそうなのだろうと。

あの忌々しい男から受け継いだ血のせいで、自分は孤独な運命の中を生きていくのだと。

 

そう思っていた。

 

「さて、それじゃあ。虫の旦那、俺はこれで」

 

「……」

 

──ここでの用は済んだ。二度とここには来たくないものだ。

 

男は彼女を腕に抱いたままゲートを開き、ナザリックの外へと出た。

 

──────────────────

 

「……どうして?」

 

外へ出た後も、アンティリーネの混乱は収まっていなかった。

 

それでも彼女は、なんとか声を絞り出す。

 

自分はどうやって、あの怪物たちの巣窟から。

あの牢獄から抜け出すことができたのか。

 

なぜ彼らは、自分をあっさりと引き渡したのか。

 

そして、この男はなぜ自分を望んだのか。

 

男は無関心そうな表情で、しかし隠しきれない興味を宿した眼差しで、彼女を腕に抱いたまま見下ろした。

 

監獄から出た時と同じ姿勢のまま、彼女を上から下まで眺めて答える。

 

「簡単だ。お前の顔とスタイルが気に入ったからだ」

 

「……は?」

 

アンティリーネは一瞬、自分の耳を疑った。

 

敗北の後、絶望に沈み、誰にも届かない祈りを捧げた彼女に返ってきたのは、あまりにも世俗的で、あまりにも呆れる理由だった。

 

自分を助けた理由が、たかが顔とスタイルだというのか。

 

──反論したかった。

 

怒りをぶつけたかった。

 

しかし、後遺症が残っているのか、声がまともに出ない。

 

自分を圧倒したダークエルフの力。

そして今、目の前の存在が放つ圧倒的な気配。

 

それらに加えて、この呆れるほど単純な答えのせいで、彼女は何も言うことができなかった。

 

ただ、信じられないものを見るように。

虚脱と困惑の入り混じった目で、男をぼんやりと見つめることしかできなかった。

 

力なき者には、選択権すらない。

 

その現実を、彼女は再び骨身に染みて思い知らされる。

 

アンティリーネは、男が歩くたびに彼の硬い胸板へ顔が触れるのを感じながら、混乱した感情に包まれていた。

 

──────────────────

 

「……あんた、正体は何なの?」

 

どれほど歩いたのだろうか。

 

ほんの少しだけ気力を取り戻したアンティリーネは、辛うじて口を開いた。

 

この状況を作り出した張本人について、最低限の情報だけでも知っておかなければならない。

 

男は彼女を見下ろし、にやりと笑った。

 

その顔には、余裕すら浮かんでいる。

 

「俺の正体は……そうだな。今は明かさないでおこう。ただ、俺もあの骸骨みたいに、ユグドラシルってゲームをやっていて、こっちに飛ばされてきた。それだけは覚えておけ」

 

「ユグドラシル……!」

 

アンティリーネは驚きを隠せなかった。

 

その名は、かつてスレイン法国に降臨した六大神にまつわる伝承にも出てくる。

 

目の前のこの男もまた、同じ世界から来た神のような存在だというのか。

 

「いや、ちょっと待って。あの骸骨みたいにって……まさか」

 

「ああ。あの骸骨もユグドラシルをやっていて、こっちに来たらしいな」

 

──魔導王が、六大神と同じ世界から来た。

 

その事実に、アンティリーネは目眩にも似た感覚を覚えた。

 

この男も。

六大神も。

魔導王も。

 

ユグドラシルから来た者たちは、皆これほどまでに圧倒的な力を持っているというのか。

 

彼女は小さく息を吐いた。

 

「それなら、あのダークエルフの異常な強さも、ある程度は理解できるわね」

 

口ではそう言ったものの、アンティリーネの胸には未だに苦いものが残っていた。

 

「……ちょっと待って。魔導王がユグドラシルから来たのなら、あのダークエルフはもちろん、あそこにいた連中も全員ユグドラシルから来たってことじゃないの?」

 

「うーん。まあ、そうなるだろうな」

 

その時、アンティリーネはふと違和感を覚えた。

 

魔導王がそこから来たのなら、魔導王の配下たちもまた、同じ場所に由来する存在のはずだ。

 

──それなら、この男はどうやって、あんな怪物の巣窟で、傷一つ負わずに彼らと交渉したというのか。

 

そして、どうやって自分を助け出したというのか。

 

理解できない。

 

まさか、本当は仲間同士で、示し合わせているのではないか。

 

そうだ。

こんなに簡単に、あの者たちの手から逃れられるはずがない。

 

そんな都合のいいことが、この世にあるはずが――

 

「今、変なこと考えてるみたいだが、俺はあいつらの仲間じゃない。何か別の企みがあるわけでもない。……いや、俺なりの目的はあるから、そこは違うか。とにかく」

 

「……何?」

 

──仲間ではない?

 

あんな絶望から、こんなに簡単に抜け出せるというの?

 

「あー、説明すると少し面倒なんだが。まあ、実力行使は当然した。したとも。奴らの攻撃を防いで、その勢いで交渉まで持ち込んだ。それだけだ」

 

魔導王の手から逃れたにもかかわらず、未だに疑いを捨てきれない彼女を見て、男はやや大げさに肩をすくめた。

 

「まあ、ある程度は運も良かった。もし奴らがそのまま攻撃を続けていたら、交渉もクソもなかっただろうさ」

 

──彼の言う通りだった。

 

三人の一撃を同時に防いだ。

それだけでも驚くべきことだ。

 

しかし、もし次の攻撃が続いていたら。

 

そこに残りの者たちまで加わっていたら。

 

結果は火を見るより明らかだっただろう。

 

彼はその場で死んでいたはずだし、彼女は今も監獄の中にいたはずだ。

 

「……そう」

 

口調は軽い。

だが、どこか暗い表情でそう語る彼を見て、アンティリーネは短く答えた。

 

もちろん、この男の言葉をすべて信じたわけではない。

 

自分を助けてくれたとはいえ、まだ魔導国の領土を抜けたわけではない。

何より、自分はこの男と今日初めて会ったばかりなのだ。

 

命を救われたからといって、突然乱入してきたこの男を完全に信用することなどできなかった。

 

「……じゃあ、これからどこへ行くつもり? あんた、寝泊まりする場所はあるの?」

 

そこでアンティリーネは、ようやく現実的な問題に気づいた。

 

とにかく、監獄からは抜け出せた。

そこまではいい。

 

しかし今、この男はどこか当てもなく、何の計画もなく歩いているように見える。

 

あれほど堂々と自分を連れ出したのだから、当然、拠点くらいはあるものだと思っていた。

 

だが、男の答えは彼女の予想を完全に裏切った。

 

彼はあまりにも当然のように。

いや、むしろ堂々と胸を張って答えた。

 

「いや、ないぞ!」

 

「……は?」

 

あまりにも堂々とした男の言葉に、アンティリーネは言葉を失ってしまった。

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