We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
カリムとの手合わせを始めてから、アンティリーネにとって『手合わせ』というものは、スレイン法国にいた頃とは違い、特別なものにしか感じられなくなっていた。
あの頃は、ここまで楽しくなかった。
むしろ、退屈にしか感じられないことの方が多かった。
それも当然だ。
勝者は常に彼女であり、誰も相手にすらならず、勝負そのものが成立していなかったのだから。
おかげで目標もなく、自然と達成感すら失われていた。
わざと攻撃を受けてやっても、傷一つつかない。
軽く攻撃しただけでも、相手は秋の落ち葉のように倒れていく。
そんなものを、どうして手合わせと呼べるのか。
そこから得られるものなど、あるはずがなかった。
しかし、今は違う。
むしろ、完全に逆転していた。
自分の全力を尽くしても、彼には届かない。
数ヶ月が経った今でも、かろうじて一合、二合持ちこたえるのがやっとだった。
だからだろうか。
あの頃の退屈さは、楽しさへと変わった。
手合わせで負けるたびに、明らかに劣勢だと分かっていても、負けることが悔しかった。
そして、そのたびに少しずつ成長していく。
何かを得るたびに、確かな達成感があった。
──楽しんでいるな。
カリムは彼女の姿を見て、そう思った。
圧倒的な実力差があっても、死力を尽くしてぶつかってくる。
敗北を悔しがりはするが、挫折したり屈服したりはしない。
むしろ敗北から何かを学び取り、さらに高みを目指して努力している。
そういう姿が見えたからこそ、カリムはそう評価したのだ。
果たしてアンティリーネが自分と同じ境地に到達できるか。
それは分からない。
だが、確かなことが一つある。
彼女にはまだ多くのポテンシャルが残っている。
このまま右肩上がりに成長を続ければ、少なくとも自分はもちろん、魔導国の怪物たちを相手にしても防衛戦を行い、反撃で有効打を与える程度は可能になるだろう。
「あー、疲れたぁー」
カリムは、ベースキャンプのテント内でベッドに身を投げるように横たわるアンティリーネを見ながら、昨日に続いて、現在の彼女の状態を確認していた。
「どう? もう三合まで耐えられるわよ」
カリムが真剣な表情をしていると、アンティリーネはベッドに横たわったまま、悪戯っぽい顔でそう言った。
内容は、先ほどの手合わせについてだった。
少し前までは、二合すら何とか耐える程度だった。
だが今では、二合までは上手く受け流し、さらに三合まで持ちこたえられるようになっていた。
もちろん、依然として有効打は与えられていない。
それでも、もう少し頑張れば、わずかな反撃くらいは可能になるかもしれない。
そう思うと、自然と余裕が生まれていた。
「ワハハハハ! そうだ、うちのアンティリーネは偉いぞ!」
そんな彼女の得意げな表情に、カリムは真剣だった顔を緩め、豪快に笑いながら彼女を褒め称えた。
「それなら、そろそろ強度を上げないとな」
今の状態の彼女なら、このまま続ければ二ヶ月以内に十合以上を受け流し、自分に対して有効打も与えてくるだろう。
ある程度予想はしていた。
しかし、それでも思ったより速い成長速度だった。
そうなれば、こちらも少しずつリミッターを外していく必要がある。
「へえ。それ、期待しちゃうわね」
手合わせの強度を上げる。
その言葉を聞いたアンティリーネは、勝負欲が沸き上がるのを感じながら微笑んだ。
やはり、そう簡単にはいかないということか。
もちろん、だからといって諦める気などまったくない。
むしろ、さらに欲が出てきた。
戦士として、憧れた相手と対等に戦える。
それだけでも凄まじい価値があり、挑戦する意味がある。
「さあ、それじゃあ、休憩の後にもう一度手合わせ──といきたいところだが、今日はこの辺で終わりにしよう」
「え? どうして? まだ時間はあるじゃない。何か用でもあるの?」
休憩の後に手合わせ。
その言葉に、アンティリーネは目を輝かせて素早く起き上がった。
だが、今日はここまでにしようという彼の言葉を聞くと、不思議そうな顔をして再び横になった。
「まあ、冒険者ランクだな。まだミスリル級だから、そろそろ次へ進む頃合いだろう」
「あ」
彼女はミスリル級への昇格に成功した後、彼との手合わせに気を取られ、冒険者ランクのことを完全に忘れていた。
「でも、依頼はあまりなかったわよ。昨日ちらっと見たけど、あまり残っていなかった気がするけど」
そうしてふと、依頼が少なかったことを思い出し、彼に言った。
「まあ、とりあえず直接行ってみないとな。その間に何か追加されてるかもしれないし」
依頼がないという言葉に、カリムは少し憂鬱な気分になった。
それでも、もしかしたらという思いから、直接行ってみることにした。
そんな彼の言葉に、アンティリーネは軽く頷く。
すべてを見たわけではない。
もし依頼があれば、それを先に片づければいい。
なければ、そのまま手合わせを続ければいい。
彼女にとって、どちらに転んでも損はなかった。
二人はベースキャンプで軽く休憩を取った後、冒険者ギルドへ向かった。
────────────
「運が良かったわね」
「ああ、そうだな」
正午を過ぎた頃。
二人は冒険者ギルドに到着し、非常に運良く、ミスリル級の依頼をいくつか先取りすることができた。
そして、凄まじい速度でそれらをすべて終わらせてしまった。
「この依頼を終えれば、いよいよ次か」
依頼を終えながら、カリムは静かに呟いた。
勝手に決めた勝負はご破算になった。
それでも、漆黒のモモンを除けば、誰にも追随を許さないほどの速度ではある。
そう考えると、それなりに慰めにはなった。
カリムが軽く微笑むと、アンティリーネもまた小さく笑った。
「うん、次ね」
手合わせほどではなかった。
それでも、誰かと共に、同じ目標を持って精進するという経験そのものが、彼女にとっては初めてだった。
だからこそ、そこには達成感と幸福感があった。
これもまた、絶死絶命だった頃には想像もできなかったことだ。
「なんだ。どうしてそんなににこにこ笑ってるんだ」
「なんでもないわよ」
ふとカリムにそう言われ、アンティリーネは少し恥ずかしくなったのか、顔をそっと背けた。
そんなに顔に出ていただろうか。
そして、彼がそれをずっと見ていたということでもある。
そう思うと、妙に恥ずかしくなり、彼女はそんな行動を取ったのだった。
「……ただ。大したことじゃないの」
アンティリーネは何かを言おうとした。
だが、先ほど感じた素直な幸福感ではなく、心の奥底で望んでいることをうっかり口にしてしまいそうになり、適当に誤魔化した。
同じ目標を持ち、一緒に過ごせるのが幸せだということ。
それだけなら、まだよかった。
だが、それとは別に。
スレイン法国の後代の神として来てほしい。
今からでも、一緒に法国へ行ってほしい。
そんな、カリムにとっては少々不愉快かもしれない言葉まで、口から出てしまうかもしれなかったからだ。
「そうか?」
適当に誤魔化す彼女の姿に、カリムは少し不思議そうな表情を浮かべた。
目と特殊な能力のおかげで、普段なら相手が何を考えているのか、ある程度は把握できる。
だが、今回は少し違った。
何かを隠していることは、ある程度分かった。
しかし、それがどんな内容なのかまでは詳しく分からない。
もちろん、だからといって気分を害したわけではなかった。
むしろ、どうすれば彼女の曇った心を慰められるのかを考えた。
「よし! それなら久しぶりに────」
「!!!!」
少し間を置いて悩んでいたカリムは、不意に身を屈めると、そのまま彼女をお姫様抱っこの形で抱き上げた。
バハルス帝国で抱き上げられて以来、久しぶりのことだった。
「な、何するのよ!」
何の予告もなく抱き上げられ、アンティリーネは非常に慌てた様子で、恥ずかしそうな声を上げた。
幸い、周囲に誰もいなかったからよかったものの、同じ冒険者やエ・ランテルの住民に見られていたら、かなり気まずい状況になっていただろう。
「何って、慰めてるんだろ」
彼女をお姫様抱っこしたカリムは、彼女の目を見つめながら、あの時とは違う少し真剣な表情で言った。
その姿に、アンティリーネは顔を赤らめ、そのまま彼の胸元に顔を埋める。
そして、少し小さな声でもごもごと呟いた。
「慰めてるなんて」
少し不平を言うような口調だった。
それでも内心では確かに慰められており、アンティリーネは心が落ち着いていくのを感じた。
──それでも、いつかは伝えなければならないだろう。
同時に、アンティリーネは自分の願いを必ず彼に伝えると決めた。
いつかは、スレイン法国へ一緒に行ってほしいと。
法国の後代の神として、君臨してほしいと。
彼がどこかに縛られることを嫌い、今のように自由に生きることを好んでいると分かってはいる。
それでも、いつかは伝えなければならない。
たとえ彼に嫌われることになっても。
関係がこじれ、最悪の場合、互いに別れることになったとしても。
心が落ち着くのと同時に、複雑な思いが胸の片隅に浮かび上がる。
アンティリーネは表情や感情を悟られないよう、さらにカリムの胸の中へ顔を埋めた。
──そうして彼の腕の中で、安心感と揺らぎを同時に抱えながら、二人は冒険者ギルドへ向かった。
────────────
「ふむ。これが、オリハルコン級か」
カリムとアンティリーネは、家よりも先に冒険者ギルドへ向かった。
当然、カリムはエ・ランテルに入る前に、アンティリーネを腕の中から下ろしていた。
そして二人は、受付嬢からオリハルコン級のプレートを受け取った。
予想外に少し時間はかかった。
それでも、これで最高位まであと一歩を残すのみとなった。
「達成もしたことだし。今日は久しぶりに喉を潤さなきゃな」
「潤す? 何を? ────あ」
達成したという喜びはあった。
だが、まだ最終到達ではなかったため、大きな歓喜というほどではない。
プレートだけを受け取ると、二人はすぐに外へ出た。
そしてカリムは、久しぶりにこれまで控えていた酒を楽しみに行くと宣言した。
アンティリーネは当然、最初は意味が分からないという表情を浮かべた。
だが、すぐにその意味を悟り、少し目を細めて彼を見た。
「まあ、それでも最近はたくさん手伝ってくれたから、大目に見てあげる。その代わり、私も一緒に行くわよ」
瞬間的に、バハルス帝国での出来事が脳裏をよぎった。
だが、あの時以来、彼はそこまで深酒をしていない。
実際、最近は手合わせに付き合ってくれたり、アイテムを贈ってくれたりもしていた。
だから、アンティリーネは今回だけは許可を出すことにした。
「一緒に? おお、それいいな」
一緒に行くというアンティリーネの言葉に、カリムはにこにこと笑った。
そして、その次に彼女が発した言葉に、非常に豪快に笑うことになる。
「どうせ、バハルス帝国とは違って、ここには飲み友達がいないじゃない。あなたが寂しくないようにってことよ」
──まったく予想外の直球だった。
そしてアンティリーネは、何でもないような表情で、その直球を彼に投げ込んだのだった。
彼女の言う通り、ここエ・ランテルで店の主人たちや冒険者ギルドの受付嬢とは良好な関係を築いている。
しかし、飲み友達はバハルス帝国とは違い、まだ一人もいなかった。
彼女の言葉に、カリムは反論できなかった。
だから、豪快に笑うしかなかった。
本当に、手に負えない絶世の美女だな。
直球を食らったにもかかわらず、むしろカリムは気分が良くなった。
そして彼女と共に、エ・ランテルで最も賑わう場所へと向かった。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
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