We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「──あー、さっぱりした」
カリムとアンティリーネがエ・ランテルに定住してから、三ヶ月という時間が流れていた。
二人のエ・ランテルでの日課は、単調で、そして平和なものだった。
朝は同じベッドで目を覚ます。
一緒に冒険者ギルドへ向かい、依頼があればそれをこなす。
その後は、人通りのない空き地に設置したベースキャンプで手合わせを行う。
依頼がなければ、そのままベースキャンプへ向かうこともあった。
二人の手合わせは激しくもあり、時には穏やかな雰囲気の中で進められていた。
当然、結果はいつも同じだった。
だが、単に勝敗を決めるためのものではなかったため、勝敗そのものは重要ではない。
目的はあくまで、アンティリーネの中にまだ眠っているポテンシャルを、最大限に引き出すことにあった。
だからこそ、手合わせが終わると、カリムは以前よりさらに詳細なフィードバックを行う。
そのたびに、アンティリーネは目を輝かせながら、その言葉を受け入れた。
彼の戦闘スタイルとフィードバックは、数十年の間、彼女が一度も経験したことのないものばかりだった。
興味を惹かれずにはいられない。
文字通り、彼女が知っていた既存の常識を完全に覆すものだったのだ。
だからだろうか。
アンティリーネは彼のフィードバックを聞きながら、一方でひどくもどかしい気持ちも抱いていた。
カリムにもっと早く出会えていたら。
もし、幼い頃にカリムに出会えていたら。
少し危険な発想だが、もし自分がまともな家庭で生まれ育ち、その家庭にカリムのような父親がいたなら。
もしそうであったなら、今はどんな結果を迎えていただろうか。
魔導国のダークエルフを相手に、敗北ではなく、互角の結果を出せていただろうか。
──そんな姿がどうしても想像できず、アンティリーネは雑念を振り払うように軽く首を振った。
すでに過ぎ去った過去だ。
しがみついたところで、何も変わらない。
妄想は理想ではない。
行き過ぎれば、最後には破滅へ向かうしかないのだから。
今の状況に。
かろうじて取り戻した幼い頃の欠片に満足しながら、アンティリーネはシャワーを終えると、先に横になっていたカリムの隣へ、身を投げるように横たわった。
手合わせが終わる。
その後は講義を装ったフィードバックを受ける。
それさえ終われば、ベースキャンプで休むか、そのまま家へ帰って休息を取る。
そして、その日の手合わせの内容や、フィードバックの内容を思い返す。
それが、いつの間にか二人の日常になっていた。
「何をそんなにへらへら笑ってるんだ、アンティリーネ」
身を投げるようにベッドへ横たわったアンティリーネが、どこか緩んだ表情で笑っていると、カリムもまた小さく微笑みながらそう言った。
「ふふっ。ついに、あなたの攻撃にある程度耐えられるようになったから、誇らしくて笑みが出ちゃうのよ」
微笑みながら言う彼に向かって、アンティリーネは誇らしげな声で答えた。
確かに、アンティリーネは今や、カリムの攻撃を七合まで受け流せるようになっていた。
もちろん、カリムはまだアイテムにすら満たない、一般的で平凡な剣を使っている。
それでも前に言った通り、少しずつ本気を込め始めていた。
カリムはそんな彼女の姿に軽く笑い、優しく抱き寄せる。
「いやあ、うちのアンティリーネはすごいな」
「ふふっ」
非常に誇らしげな表情と声で笑う彼女を見て、カリムは大いに褒めた。
アンティリーネは彼の体温を感じながら、勝利の微笑みを浮かべる。
続ければ。
このまま進み続ければ。
彼に反撃を加え、有効打を与えることもできるかもしれない。
途方もなく遠くに感じられていた目標が、いつしか現実のものとして近づいてきていた。
「それなら、お前のためにプレゼントをやらなきゃいけないな」
カリムはアンティリーネを抱いたまま、彼女にプレゼントをあげようと言った。
『プレゼント』という言葉に、アンティリーネは素早く体を向け、妙に輝く眼差しでカリムの目を見つめる。
「プレゼント?」
「ああ、プレゼントさ」
アンティリーネが目を輝かせて言うと、カリムはそんな彼女を見て軽く頭を撫で、妙な悪戯っぽさを含んだ声で答えた。
「へえ、楽しみだわ」
少しだけ悪戯っぽい響きはあった。
だが、それでもこれまで彼がくれたプレゼントは、どれも凄まじいアイテムだったり、実用的なものばかりだった。
だから今回もそうだろう。
アンティリーネはそう考えた。
もしアイテムなら、今回はどんな凄いものをくれるのだろうか。
アイテムではないなら、何だろう。
服。
装飾品。
期待に胸が弾んだ。
「ハハッ! まあ、期待しててくれ」
すっかり期待している彼女の姿に、カリムは豪快に笑いながらそう言った。
必ず気に入るはずだ。
がっかりするはずがない。
そういう種類のプレゼントだ。
期待以上のすごいものだ。
そんな自信ありげな彼の姿を見て、アンティリーネは軽く微笑みながら目を閉じた。
そして、ゆっくりと彼の腕の中へ入り込み、幸福感に浸っていった。
────────────
『期待する』。
それは、ある出来事が起こることを望んだり、予想したりすることを意味する。
普通は肯定的な意味で使われる。
だが反対に、否定的な場合に使われることもある。
もちろん、後者として使われることは極めて稀だ。
一般的に、「期待している」「楽しみだ」といった言葉は、前者の意味で使われるものなのだから。
そして────それは、アンティリーネもまた同じだった。
プレゼント?
ああ、プレゼントさ。
へえ、楽しみだわ。
ハハッ! まあ、期待しててくれ。
ちょうど前日の夜に交わした会話。
この会話でアンティリーネは、間違いなく前者の意味で言ったのだ。
すでに彼からは、凄まじいアイテムや服、そして装飾品まで贈られていた。
今回も同じだろう。
そう思っていた。
アイテムなら、『死の舞踏』や『海神ジャックショー』以上のものだろうか。
服なら、今回はどんな服を用意したのだろうか。
装飾品なら、今首にかけているネックレスより良いものだろうか。
腕につけているブレスレットよりも良いものだろうか。
──間違いなく、そう考えていたのに。
「……こ、これ、何よ! あ、あんた……正気なの!? こんなもの、どうやって着ろっていうのよ!」
悪戯っぽい笑みのせいで、少し疑わしくはあった。
それでも、今までプレゼントで本気でふざけたことは一度もなかったため、アンティリーネは大いに期待していた。
そして、その期待はあっという間に打ち砕かれた。
それは、服と言うにはあまりにも大胆すぎる服だった。
腕や脚の部分だけを見れば、比較的まともに見える。
だが、肝心の胴体部分はまったくそうではなかった。
本来なら布で隠すべきところを、最低限の小さなパーツだけで成立させようとしている。
そういう、あまりにも攻めた衣装だった。
「こ、これはまた何なのよ!」
さらに、右腕側に添えられていた黒いハート型の小さなパーツを見て、アンティリーネは二重に驚くしかなかった。
最初は、それが正確に何なのか分からなかった。
だが、やがてそれがこの衣装と一揃いのものであり、身につけた時に使うものなのだと理解して、彼女は愕然とした表情を浮かべる。
「ハハッ! どうだ、素敵な服だろ?」
もちろん、カリムは彼女がそんな反応を見せようが気にする様子もなく、にやにやしながら言うだけだった。
まるで、自分では最高のプレゼントを贈ったつもりらしい。
その姿に、アンティリーネは顔を真っ赤にし、恥ずかしさと怒りが混じった声で言った。
「素敵だなんて! 期待してたのに! 何よこれ! 完全に変態の服じゃない!」
「おいおい。アンティリーネ、お前によく似合いそうだと思って、俺が熟考を重ねて選んだ服なんだけど」
「はぁ!?」
こんなデザインの服を、熟考して選んだだって?
平然と、しかしにやにや笑いながら言う彼を見て、アンティリーネは数ヶ月前、よく行っていた服屋で服を選んでいた彼の姿を思い出した。
まさか、あの時の店で選んだ服だったのだろうか。
いや、あの時見たものとは少し違うようにも見える。
いつの間に、こんなものを買ったのか。
アンティリーネは、少しだけ彼に初めて出会った頃の感情を思い出した。
ああ、そうだ。
元々、こういう人だったわね。
「黙って今すぐ片づけなさい!」
カリムはアンティリーネの剣幕に勝てず、結局その破廉恥な服を、クローゼットの一番奥深くへ適当に放り込むことになった。
「おいおい。本当に似合うはずなのにな」
「似合うわけないでしょ!」
もちろん、カリムは彼女の剣幕にも、残念そうに、そして名残惜しそうな表情で言った。
──そして、ごく当然のことながら、アンティリーネはそんな彼の姿を見て、全身全霊で背中を叩くのだった。
────そうして、朝の単なる騒動で終わるかと思われた。
だが、人間の好奇心とは抑えがたいものだと、誰が言ったのだったか。
翌日。
カリムが冒険者ギルドから緊急の用事で呼ばれ、外出した隙に。
アンティリーネは、決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまった。
「……こんな服が、一体どこをどう見たら私によく似合うって言うのよ?」
アンティリーネはぶつぶつ文句を言いながらも、妙な好奇心と恥ずかしさが混じった表情でクローゼットを開けた。
そして、一番奥深くに適当に突っ込まれていたその服を取り出す。
「逆バニーガール?」
あの時は顔が熱くなりすぎて、この大胆すぎる服をまともに見ることすらできなかった。
当然、この服の名前も知らなかった。
今はカリムが外出している。
そのため、比較的余裕があった。
逆バニーガール。
まったく初めて聞く、いかにも変態的な服装らしい奇妙な名前だった。
「うーん」
一緒に暮らしているのはカリム。
そして、そのカリムは外出している。
つまり、現在家の中には自分一人しかいない。
その考えに行き着くと、アンティリーネは素早く部屋の扉を閉めた。
そして、しばらく迷った末、その逆バニーガールに袖を通してみた。
それから、鏡の前に立つ。
「……うん。悔しいけど、似合ってはいるわね」
とんでもなく大胆で、破廉恥な服ではあった。
だが、カリムの言葉通り、確かに自分に合っているような気はした。
アンティリーネは小柄で、全体的に細身だった。
大きく主張するような派手さはない。
だが、その身体は決して弱々しくはなかった。
細い肩。
しなやかな腕。
余分なもののない腰回り。
軽く立っているだけでも分かる、戦士として鍛えられた体幹。
一見すれば華奢に見えるのに、その内側には『絶死絶命』として積み上げてきた圧倒的な密度が宿っている。
派手な起伏で見せる体ではない。
むしろ、控えめで整った線。
細身の中に隠された鋭さ。
小柄な体格と、そこからは想像できないほどの強さ。
その落差こそが、アンティリーネという存在を際立たせていた。
そして、この服はその特徴を妙にはっきりと浮かび上がらせていた。
普段の服では隠れていた輪郭が、鏡の中でいつもより明確に見える。
だからこそ、恥ずかしい。
けれど同時に、鏡の中の自分は思ったより悪くなかった。
いや、腹立たしいことに、かなり似合っていた。
「……あいつ、本当にこういうところだけは目がいいのよね」
アンティリーネは小さく呟いた。
普段の自分なら絶対に選ばない。
外で着ることなど、なおさらあり得ない。
それでも、鏡に映る姿には、不思議な説得力があった。
『絶死絶命』として生きてきた鋭さ。
アンティリーネとして取り戻しつつある柔らかさ。
その二つが、奇妙な形で同居しているように見えた。
少し恥ずかしい。
けれど、同時に不思議な満足感もあった。
アンティリーネはしばらくの間、鏡の前で向きを変えたり、姿勢を変えたりしながら、その服を眺めていた。
前から見れば、普段より少し大人びて見える。
横を向けば、細身ながらも鍛えられた身体の線がはっきり分かる。
背を向ければ、華奢な体格の奥に、戦士として積み重ねてきた年月が確かに宿っていることが分かった。
それは、ただ守られるだけの女の姿ではない。
細く、軽く、華奢に見える。
それなのに、その内側には神人としての力が眠っている。
そんなアンティリーネという存在そのものを、妙に強調してしまう服だった。
もちろん、別の意味ですごい服であることに変わりはない。
外を歩くことは絶対にできないだろう。
そう思うと、どこか残念なような、安心したような、妙な気分になった。
「────」
どれくらいの時間が経っただろうか。
鏡の前でずっと確認していたアンティリーネは、背後から感じられる妙に馴染みのある視線に、ゆっくりと首を向けた。
「いやあ、やっぱり俺の眼力は正確だった! よく似合ってるよ!」
いつの間にか家に帰ってきたカリムが、彼女の小さなファッションショーを直に見ながら、明るく笑っていた。
その声に、アンティリーネの肩がびくりと跳ねる。
カリムの視線は、いやらしさというよりも、自分の予想が的中したことへの満足に近かった。
小柄で華奢。
けれど、決して弱々しくはない。
細身の身体の内側には、神人としての圧倒的な力と、日々の手合わせでさらに研ぎ澄まされつつある戦士の芯がある。
その危ういほど繊細な外見と、内側に秘めた強さの落差。
そして、普段は無造作な服装の下に隠れている、無駄のない整った身体の線。
それこそが、カリムには何よりアンティリーネらしく見えた。
「うん。やっぱり、お前にはこういう細身のラインが出る服が似合うな」
「なっ……!」
アンティリーネは顔を真っ赤にした。
褒められているのは分かる。
分かるのだが、今の格好でそんなことを真顔で言われると、どう反応すればいいのか分からなかった。
それに、彼の言い方が妙に的確なのも腹立たしかった。
自分の体格が小柄で細身なこと。
それでいて、ただ華奢なだけではないこと。
彼は普段の手合わせの中で、きっと誰よりも正確に理解している。
そう思うと、余計に恥ずかしくなった。
アンティリーネは悲鳴を上げ、慌てて身を隠そうとした。
だが、すでにカリムは彼女の姿をしっかり見てしまった後だった。
「出てって!」
当然、アンティリーネは慌ててカリムを部屋から追い出した。
カリムは少し名残惜しそうな顔をしながらも、大人しく部屋の外へ追い出されるのだった。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。